柴田聡子にとっての“弾き語り” そして新曲「雑感」で見出した新境地

シンガーソングライターの柴田聡子が、ライヴ映像作品『柴田聡子のひとりぼっち’20 in 大手町三井ホール』を今年10月にリリースした。彼女の真骨頂といえるギター弾き語りスタイルで、初期の曲やレア曲、最新曲まで27曲を歌いまくった、現時点での集大成というべき重要作だ。思えば彼女の2020年とは、全国ツアーがコロナ禍で延期になってしまったため自宅からの配信ライヴを行ったり、その後のリアルな有観客ツアーや今回の大手町三井ホール公演など、“弾き語り”に特化したような1年だった。これを機に、彼女にとっての弾き語りということを中心に、新曲「雑感」や今後の展開も含めて話を聞いた。

──2020年の柴田さんは、結果的にですけど弾き語りのライヴが多くて、小編成のアコースティック・サウンドだったEP『スロー・イン』も含めて、弾き語りに回帰していた印象があったんですよね。

柴田聡子(以下、柴田):回帰したっていうよりは、弾き語りはもうずっとある、常にやっていることという感じなんですよね。アルバムこそバンド・サウンドが多くなっていましたけど、ライヴだと弾き語りがすごく多いんで。だから特に“今は弾き語りのモード”ってわけでもなかったです。ただ、5thアルバム『がんばれ!メロディー』(2019年)でがっつりバンド・サウンドをやったので、『スロー・イン』はちょっと小編成で作りたいなと思って、そういう心境は確かにあったかなと思います。

──アルバムでいえばバンド・サウンドが3枚続いていたわけで、そうなると飽きてきちゃうとか違うことがやりたくなるとか、あると思いますか。

柴田:飽きるっていうよりは、いっぱいやるとちょっと違う観点が自分にできてくる感じはあります。バンド・サウンドを持ちつつ、違うことも考えられるようになってくる感じがしていて。やり切った! とも全然思いませんし。それは時期とか、自分の私生活とか、全部合わさって、きっといろんな志向になるのかなっていう気がしますね。

──そもそも弾き語りって、柴田さんにとってどういうものだと思いますか。

柴田:弾き語りは、一番簡単にできるから始めたことで、それが大きいんですよね。まわりに友達がそんなにいなくて、一緒にやってくれるような仲間もまだいない時に、自分がやりたいなって思うことを、手っ取り早くかなえてくれたっていうか。ああギター1本で歌うことができるんだな、っていうところから始めたので。ほんとに始まりは“あったから”くらいの感じで、“やってみてから考えた”っていうものだと思うんで。でも今はちょっと違ってきていると思うんですけど、今は、なんですかね、なんだろう。

──例えば新曲の「雑感」は、リリースした音源はバンド・サウンドですけど、MVとして弾き語りの映像をアップしていますよね。あれは意地みたいなものを感じたりしましたけど。

柴田:意地というよりは、逆かもしれないですね。弾き語りだと、アレンジはかなり限定されてしまうから、ギター1本で私のやれることしかできないという思いがあって。でも曲自体がダイレクトに伝わるってあると思うし。あとギター1本で1人で歌っている姿って、おもしろいなって思うから。

そういうことが、私もやっていてやりがいがあるんですよね。1本でどこまでがんばって伝えられるかな、みたいなところが。そういうところで弾き語りを捉えてはいるんで。だからMVを出したのは、意地ではないですけど、どっちがいいとかじゃなく、同じ曲のいいところとか、推したいところとかを、伝えられたらいいな、って思って。

──じゃあ「雑感」をライヴで弾き語りでやる時と、バンドでリリースする時との違いってなんだと思いますか。リリース音源が完成形みたいな感じですか。

柴田:それはどっちも完成形だと思っていて。弾き語りだと、どうしてもバンド・サウンドと比べると少し足りない感じがすると思うんですけど、足りてる方が完成形とか理想形かというと、そうではなくて別物って感じですよね。

──『基礎からの柴田聡子』で山本精一さんが「柴田さんの歌は弾き語りが一番」って書かれていましたけど、個人的にもそう思っていて、1人だけでやるということ、その空間を自分だけの表現で満たしていくということが、最も合っていると思うんですよね。

柴田:それはあると思います。1人だけってけっこうすごい図ですよね。なにやってんだろって。不思議な図だよなっていうのはあります。音楽を楽しむとかとちょっと違いますよね。だからバンドとも比べられないし。

「自分の中にあるものをちゃんとやる」という思い

──今回の映像作品『柴田聡子のひとりぼっち’20 in 大手町三井ホール』はまさに全編1人だけなわけですけど、映像面でギターのアップだったり横からのショットだったり引いた画面だったり、すごく工夫して単調にならないようにしていますよね。

柴田:私も最初は大丈夫かなと思っていたんですけど、全然大丈夫でしたね。映像も驚異の7カメだったので、映像の人もこれはヤバいぞって思って、いける限りのアングルをいくしかない、ってちゃんと考えてくださっていて。照明もすごくバリエーションをつけてくれたし、そういう変化が付くように、最初からしてくれていたようで。これはもう皆様のおかげとしか言いようがないですね。

──アコースティック・ギターとエレキ・ギターを使い分けていますけど、これも単調にならないように、ということですか。

柴田:曲によって、アコギだとフォーク過ぎるなとか、そういうのを考えるようになって、変化を付けたくて、曲によって変えようかなって思うようになったんです。

──今じゃあまりやらないファースト・アルバムの曲とかレア曲とか、かなり幅広くやっていますよね。この時点での総決算みたいな感じがすごくしますけど、そういう気持ちがあったんですか。

柴田:そうですね。ツアーの前にやった“インターネットひとりぼっち”(自宅からの配信ライヴ)の影響が大きくて、(無料なので)見たい人は全部見られるタイプだったので、飽きさせずにやりたいな、楽しんでもらいたいなって思って。

これまであまりやっていなかったけど、今のセットリストに入れても、案外いい曲がありそうだなって。ちょっとスキルも上がってて、“あれ、歌えるようになってる!”とか。あの時って、コロナでつらい時期でもありましたよね。(2020年10〜11月の)ツアーもきつかったし。お客さんもやっぱみんな緊張していたし。絶対に気をつけるぞ! みたいな感じで。みんなが大変な時にやったので。それが自然と、総決算ムードというか、自分の中にあるものを自分もちゃんとやる、みたいな気持ちがあったのかもしれないし、そういう時期だったから、また新しい方に行くために、振り返ったようなところもあったのかもしれないです。

「歌って自由だから、かなりのことが許容されていることにも気付いた」

──この映像作品の最後に新曲として「雑感」が入っていて、今年10月に配信リリースもされたわけですけど、この曲は基本的に繰り返していく曲ですよね。

柴田:私は繰り返しから作っていくことが多くて、繰り返していくうちにメロディーを付けていったりするので。繰り返しを多めに採用して、歌として聴きやすいというか、体に入っていきやすいようにしたいなって思いましたね。

──繰り返しなんですけど変化もあって、Aメロ→Bメロ→Aメロ→Bメロときて、そこでCメロ→Dメロが入ってきて、最後にまたAメロに戻るじゃないですか。完全な繰り返しにしないで、CとDメロを入れたのはどうしてですか。

柴田:最初のABABまではけっこうハードな感じなんですよね。歌詞もハードで、コード進行もハードめだと思うんですけど、1回ちょっと救いが欲しいなと思って(笑)。ハード&タフっていうのが今回のテーマで、そういう曲にしようと思っていたけど、やっぱ人間そうばっかではいられない。自然を見に行くとか、海を見に行くとか、花を見に行くとか、ちょっと嬉しくなるような瞬間って、いつの時にもあるんで。常にハードでタフっていう状態はあんまりないなと思って。そういうのを入れておこうかって。

──確かにハード&タフという感じがすごくするんですけど、歌詞でネガティヴというか毒づいているというか、意地の悪さみたいな部分が出ていますよね。「あなたなんかにはきっと一生わかるはずない夢です」「私には私しかわからないことがあるんです」とか、人間関係における悪態というような。

柴田:歳を取っていくと、そういうモードってどんどんいらなくなるじゃないですか。持っていたとしても、人と付き合っていくうちに、いいところでもないなっていうか、あると全然うまくいかないみたいな。そこは別にしておけるようになるじゃないですか。毎日を過ごしていく上ではいらないな、っていうところ。

でも私は歳を取って、それが自然なんじゃないかとか、そういうところが自分なんじゃないかとか、分かってきて。逆に、ダメだな自分って思っていたりすればするほど出てくるっていうか。それが歳を取ってくると、そんなこと言ってられなくなるんですよね(笑)。自分ってダメって思っていることすらできなくなってくるんだなーって。「そこがイヤだなって思いつつ、そういうこともあるよね」って思ってやっている時は逆に隠してたから、歌にもそんなに出てこなかったと思うんですけど。最近はようやくダメだな自分っていう部分も受け入れられたんですよね。

──自分の中で整合性が取れたということですか。

柴田:そう。“そこはイヤだな”じゃなくて、“あるな”って思った瞬間に、自由自在に出せるっていうか。歌ってすごく自由だと思うから、そんなに嫌悪感を出すのは良くないと思うんですけど、それ以外ならば、すごくちゃんと考えていれば、かなりのことが許容されていることにも気付いたんですよね。むしろそこは積極的に検討していかないと失われていくなっていう気もしますし、見え方がつまらなくなってくるっていう気もしますし。だから、なんとなく勘が働くようになったのかな。

──それでそういう部分を抑えないようになったわけですか。

柴田:そうですね。特段悪いこととして、隠し通して生きていかなければいけないことだ、っていう感じではなくなってきた気はします。だから今回は、いつもは使うのをためらう言葉も、ちょっと使ってみよう、って感じですかね。

──メロディーが繰り返されることで中毒性がありますし、演奏もクールでありつつ熱を帯びている感じがしますし、全体としてすごく新鮮なんですよね。柴田さんの次の段階を示す曲とも思えますし。

柴田:そういう曲かもしれません。構成もポップスのことを考えたりしたし。構成は最近すごくよく考えるようになって、昔は自然とやっていたんで、珍しい構成になっていたりしたような気もするんですけど。大ヒット曲の構成ってけっこう決まっていたりするし、それを聴きつつ、構成に気をつけるなんていうのは、このところ始まったことかもしれません。サビらしいサビが作れないのが悩みなんですけど。

──2021年10月16日の日本橋三井ホールでの弾き語りライヴでは、新曲もかなりやっていましたよね。ニュー・アルバムも近いんじゃないかと思うんですが。

柴田:もう絶賛制作中で、そろそろ見えそうな感じはあります。ようやく自分の中で、できそう! って感じになりましたね。今までは、作ろうって感じはあったんですけど、全然できないわって思っていたのが、だんだんと、できそうだなって思ってきた感じ。バンド・サウンドは、『がんばれ!メロディー』の時よりもう少し整理が付いているかもしれないです。私の(メンバーへの)お願いの仕方もちょっと変わってきたので。『がんばれ!メロディー』の時は写真とか見せて、大喜利みたいな感じだったんですよね。でも今回はデモを作って渡したりとか、ほんとに音のイメージを共有するようになってきたので、ちょっと方針が定まっている感じがします。

柴田聡子(しばた・さとこ)
1986年北海道札幌市生まれ。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。大学時代の恩師の一言をきっかけに、2010年から都内を中心に活動を始める。2012年6月1stアルバム『しばたさとこ島』をリリース。2014年6月に2ndアルバム『いじわる全集』を、2015年9月に山本精一プロデュースによる3rdアルバム『柴田聡子』を発売。2016年6月、初の詩集『さばーく』を発売し、同年第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。2017年5月に4thアルバム『愛の休日』を、2019年3月に5thアルバム『がんばれ!メロディー』をリリース。2020年7月、EP『スロー・インをリリース。10月には延期となっていた「柴田聡子のひとりぼっち’20」の振替公演を開催(札幌公演のみ再延期)。2021年10月には「柴田聡子のひとりぼっち’20」千秋楽、大手町三井ホール公演がブルーレイ映像作品として発売された。
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Twitter:@sbttttt
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YouTube:https://www.youtube.com/channel/UClJXO9c8uqJhIl3yZRlCT2g

Photography Rie Amano

author:

小山守

1965年、東京都出身。フリーの音楽ライター。『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『TOKYO FM+』などで、インディー系ロック、エクスペリメンタル・ポップ、ガール・ポップ、アイドルなどを中心とした文章を執筆中。ライヴや配信の現場感覚を重視しつつ、ジャンル、国籍、年齢に関係なく、新しい驚きをもたらしてくれる音楽を常に探しています。阪神タイガースと競馬と猫をこよなく愛しています。 https://twitter.com/mamoru_koyama/

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