写真家の寺沢美遊が巡る6日間の韓国・ソウル カメラでとらえたリアルな景色【前編】

DJや嫁入りランドのメンバーとして知られているフォトグラファーの寺沢美遊が、2年半ぶりに韓国・ソウルを旅した。6日間にわたって、新沙(シンサ)や梨泰院(イテウォン)などに足を運び、現地の“今”を自身のカメラでとらえた。

10月27日

「息ができる!」。仁川(インチョン)国際空港に到着する時、私の心の第一声はいつもこうだ。2年半ぶりのソウル。マスク越しの湿った空気は、東京との差を感じられなかった。コロナウイルスという得体のしれない疫病が、ある意味で世界を1つにしたが、人が理想とする1つとは程遠い1つになった。その前は、インターネットが世界を1つにしたと思われたが、気晴らしにすらならなかった。私はまずバラバラになりたい。バラバラになるために旅に出る。

免税店では、「シュウ ウエムラ」のオイルクレンジング(トラベルキット)を必ず購入する。高校生の頃に使っていた「エルメス」の香水を見つけてしまい、エモエモな気分をまといながら搭乗。現地の友達への手土産に、「治一郎」 のバームクーへンを選んだことが若干気がかりになっていた。間違いなくおいしいのだが、業界人的な“間違いなくおいしいやつ”を旅に持ち込むなんてさ。ノイズキャンセルヘッドホンはいつからか使わなくなり、音はすべて景色として楽しめるようになった。しかしまさか飛行機の轟音までアリになるとは。

チェックインして一息ついたところで新沙へ移動し、脂肪溶解注射とフィラー注入。「永野芽郁ちゃんの唇にしてください!」と懇願し、横顔のコンプレックスがほぼ解消した。芽郁ちゃんには程遠いものの満足のいく結果に。脂肪溶解注射は副作用で頻尿になるとのことだったが、クリニックを出て早々、本当にその通りになった。トイレが日本のように気軽に借りられないこの街では地獄の副作用である。待ち合わせの時間まで散歩でもと思っていたが、どうしても我慢できずスタバに入り、適当な飲み物を注文。ようやくトイレに向かうと、そこには清掃中の看板が。飲みたくもないライムソーダを目の前に、尿意が追い討ちをかける。なんとか用を足したところで鍵っ子さんから連絡がきて、ライムソーダを一気に飲み干した。

鍵っ子さんと合流し、ユッケ冷麺を食べることに。1食目から想像の斜め上をいくおいしさの食い物にありつく。「うまい、うまい」と言いながらユッケをかみ、甘辛いタレが絡んだ冷麺をすする。アートブックフェア「UE14」に参加するため韓国に来ている鍵っ子さんは、昨年リリースした「Broken Diary」の韓国語翻訳をしていただいたり、メンタルヘルスに関する話題も気軽に話せるので、いつもとても助かっている。積もる話もあり、楽しい時間。私は、笑うとフィラーが移動してしまうので時々ほっぺたの上の方を手で押さえなければならない。それがいちいちおもしろくてまた笑ってしまう。

10月28日

コンビニのCUでヨーグルトと、何だか乳酸菌が強そうな飲料を購入。朝は乳酸菌を口に入れるのが日課になっている。ホテルに戻りジムで軽くラン。ここはもともと会社か何かの居抜きなのか? 応接間のような空間にトレーニングマシンがずらりと並んでいる。欧米人が1人ストイックにトレーニングしている中、私はマヂカルラブリーのANN(オールナイトニッポン)を聴きながら黙々と、フガフガと笑いながら走る。

カルグクスがどうしても食べたくなり、近くの店を調べる。カルグクスは、2018年に人生で初めて韓国に来た日の1食目だった。DJ DJ機器氏と明洞(ミョンドン)で合流し、おなかの弱い機器に合わせて、からいものをさけて食べたカルグクスは絶品だった。そしてこの店のカルグクスも優しくて真摯な味だ。休憩時間直前に入店してしまったせいで、オモニ達に小言を言われているが構わない。調子に乗ってマンドゥまで注文してしまった。オモニの不機嫌はピークに達し「こんくらいのサイズだけど? 本当に食えんの?」と何度も確認される。薄皮に包まれたマンドゥは、野菜と肉のバランスが完璧で味のバケモノのようだった。オモニが目の前で椅子を並べて寝始める。会計時、カードが使えるか尋ねると、オモニに「はあ? 使えるに決まってるでしょ、今時カードが使えない店なんてあるのかね? ナメてんの?」(だいぶ意訳)と返される。味は確かです。

「UE14」へ。下渓(ハゲ)駅というおもしろい名前の駅まで北上する。東京でいえば清瀬駅くらいの位置にあり、集合住宅が並び、その公園の中にある北ソウル美術館が会場だ。入場規制のため列に並んでいると、出展しているmimoidの別所や山田くん、鍵っ子さんとすれ違う。これからVCRのスタジオに行くと言って興奮しているのが伝わってきた。mimoidとVCRは同世代で、気鋭のアニメーションスタジオで活動しており、私は分野に疎いながらも嬉しく思った。大学時代からの友達である別所の奮闘ぶりにはいつも刺激を受ける。

「UE14」での制限時間は20分。ネイルの予約をしたせいで、18時に漢南(ハンナム)に行かなくてはならない。20分間の買い物は、長年の勘を試すゲームのようだった。ネイルって本当に不思議だ。意味がないもの。てかもうすっかり夜だ!遊びに行かなきゃ。

Le MakeupのいいりくんとSalamandaのYetsubyがDJしているというので、3年ぶりにCakeshopへ。到着して、The internatiiionalのSolやMondayさん、Somaに会う。Yetsubyとは昨年のContactで会えなかったので念願の初対面。Somaとも3年ぶりだろうか。みんなで何度も抱き合い、大はしゃぎ。Somaは日本語がペラペラだったけど、この3年間ですっかりヘタになっていて、それがまたおかしくていとおしい。Cakeshopでは、いいりくんがGoku Greenの曲をプレイしていた。韓国で聴く日本のラップが好きだ。いいムードだった。

梨泰院でPeachとHaaiがプレイしているというので移動。ハロウィンの週末ということでとにかく人が多い。すると群衆の中にLicaxxxが。もともとソウルであったブッキングが急遽キャンセルになり、せっかくなので、とプライベートで来ていた。ちょうどPeachを見てきたところと言っていたが、折り返して一緒にベニューへ。Haaiのプレイが始まったところだった。ハードさを求めるローカル達の熱量を、ヨーロッパのハードさで応戦していた。やはり風土とムードを察知できるDJはすごいな。風土とムードは言葉も似ているし。

Licaxxx達とRingへ移動。Cakeshopといい、この3年間でクラブの音が格段に良くなっている。Cakeshopなんて“わら半紙みたいな音”だと思っていたけど、粗雑さを残しつつも音の質が上がっている。Ringも音がとてもクリアな箱だった。デジタル音源中心となると「まぁこういう音になるよね」、なんて思いつつ。Licaxxxがジントニックをおごってくれた。そこそこ疲れてきて離脱。梨泰院の路上に出ると大量の人で溢れかえっている、そしてタクシーが全く来ない…30分ほど困り果てたところで、1人のドライバーが声を掛けてきた。言われるがままに乗ると、彼は友達に会いに行くのでこれから弘大(ホンデ)に行くとのこと。とにかく移動したかった私は、それでもいいと賭けに出て乗ることにした。彼は在韓のサウスアフリカンで、Lil UziやDrakeをかけながら熱唱している。「アマピアノかけてよ」とリクエストすると急にテンションが下がってしまった。不思議なドライブとアマピアノの奇妙な中低域が、ここがどこなのかもうろうとさせる。弘大で降り、もうろうとしたまま電車を乗り継ぎ、もうろうとしたままホテルにたどり着く。

Text & Photos: Miyu Terasawa

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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