オカモトレイジとececが語る「YAGI」を起点としたユースの覚醒 連載「越境するクラブカルチャー」Vol.1

オカモトレイジとececが語る「YAGI」を起点としたユースの覚醒 連載「越境するクラブカルチャー」vol.1

「クラブ」というワードは、そもそも団結を意味する英語が由来らしい。まさにクラブカルチャーがその意味を示していたのが、どんなパーティでもアーティストのパフォーマンスでもなく、約3年前に始まった世界的なパンデミックの時だった。感染予防対策で一時存続の危機に直面したクラブカルチャーのコミュニティは今までにないほど一致団結し、前例のない問題に立ち向かい、ようやく元の景色を取り戻しつつある。とはいえ、渋谷からは思い出のベニューがいくつかなくなるなど悲しい出来事も起きたが、国内外の大型フェスからアンダーグラウンドのパーティまでライヴストリーミングが行われるようになったり、国内のローカルシーンに注目が集まったりとパンデミックを経て新たな音楽体験と絆がそこかしこに生まれ始めた。そんな2023年現在、再出発した大都市のナイトライフを牽引する若者たちはどのような可能性を信じ歩みを進めているのだろうか。ベニュー、アーティスト、パーティといったクラブカルチャーの変遷を当事者の口からリアルに記す本連載、記念すべき初回はオカモトズのドラマー・オカモトレイジが登場。自身が仕掛け人のエキシビジョン「YAGI」が主催するパーティについてececと共に語り合ってもらった。アート、ファッション、音楽など多方面のカルチャーを巻き込みながら、ポップではなくアゲにユニークさを追求する彼らのパーティシーンとは?

「YAGI」のアゲなクリエイティビティと成功体験

――最近の「YAGI」はどんなパーティを開催していましたか?

オカモトレイジ:渋谷の「Studio Freedom」「不眠遊戯ライオン」「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」の3日間連続パーティを駆け抜けてきたところ。ちょうど今OKAMOTO’Sの全国ツアー中だね。

――3日連続パーティするのは相当なエネルギーを使いそう…。クラブ、DJバー、ファッションビルとそれぞれ異なる色持った現場を3日間駆け抜けた中で、どの日が1番面白かったですか?

オカモトレイジ:どの日も面白かったなー。「Studio Freedom」ではシークレットゲストでポーター・ロビンソンが出演したし、翌日のライオンは韓国のチーム バランサと一緒にやったパーティでDJソウルスケープやキングマックらといった大御所が来ていたからすごい盛り上がった。ずっと人でパンパン(笑)。最終日の「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」はパーティというよりかポップアップイベントみたいな雰囲気だったけれど、ececちゃんのアパレルをジェームス・ジェビアが買ってくれたという展開もあった。

――クラブとは違うドラマが生まれた瞬間ですね。「YAGI」がダンスフロアに限らず多彩なカルチャーシーンでアプローチを重ねてきたからこその出来事だと思います。

オカモトレイジ:「YAGI」のパーティはラインアップもいいところを注目しているし盛り上がる日もあるけど、百発百中で全部が上手くいってるわけじゃないんだよね。だけどありがたいことに周りから誘ってもらえることがあって嬉しい。

――今まで行ったことがある「YAGI」は、いつもフロアが爆発的に盛り上がっていた印象だったので意外でした。パーティ以外にもエキシビジョンやアパレルとのコラボレーションなど今や多方面で注目を集めていますが、どういった経緯でパーティを始めたんですか?

オカモトレイジ:パーティをやるようになったのは「YAGI」が始まって1〜2年くらい経ってから。まず「YAGI」はクルーでも集団でもなくて、俺とGiorgio Blaise Givvnが2人でやっているアートエキシビジョンなんだよね。遡ること約10年前、俺らに加えて広島から上京してきたDJのショウゲンの3人で「GLUE」というパーティをやっていたんだけど、そこで今の「YAGI」みたいにいろんなシーンを巻き込んで、アパレルブランドとのコラボが実現できるということを学んだかな。キャンディタウンやシミラボ、Licaxxx、クリエイティブドラッグストアのBIMらも出演した「GLUE」では、「ナイキ」や「ステューシー」とコラボTシャツを出すこともあって。当時20代前半だった自分たちでもちゃんとコミュニケーションを取れば意外と企業やブランドを巻き込んでいけるんだって実感したのは大きな成功体験だったと思う。アートエキシビジョンを始めたきっかけはユースクエイクの初回ポップアップイベント。ひとつの空間の中にアーティストごとに区切った展示ブースを見て、テーマで空間を統一するんじゃなくそれぞれの個性を大事にするやり方にも影響を受けた。自分の周りにもアートやアパレル、写真とかいろんな面白いことをやっているやつがいっぱいいたから、そういうクリエイターを集めてエキシビジョンをやってみたいと思って「YAGI」を始めたよ。

――これまでの「YAGI」の活動で印象的だったイベントや出来事はありますか?

オカモトレイジ:クラブイベントじゃないけど、24時間限定のレイヴ的なポップアップをファーストエキシビジョンとしてやったことかな。18時から翌日の18時までポップアップを開催したんだけど、オープンしてすぐの時間帯は行列ができるくらい人が集まったし、その列に並びたくない人はちょっと遊んだり飲んだりしてから顔を出してくれて。終電後に飲み会の二軒目的なノリで来る人、朝方のパーティ明けの帰りにやってくる人もいれば地方から深夜バスで足を運んでくれたり、学校や会社に行く前に寄ってくれたりと、どの時間帯も人が途切れることがなくて大変だったけど、24時間やってみる意義はあるなって思えた。その1年後、コラージュ作家ヤビク・エンリケ・ユウジの個展のアフターパーティを代官山の「Saloon」でやったのが最初のちゃんとした「YAGI」としてのクラブイベント。彼との出会いも「YAGI」のエキシビジョンだったし、そこからポップアップやパーティでもなんでもやってこう!ってなっていったね。

――なるほど。もともとエキシビジョンから始まったからこそ「YAGI」にはさまざまなカルチャーシーンを巻き込んでフックアップしていくスタイルが根付いているんですね。対談相手のececさんとの出会いもYAGIがきっかけだったんでしょうか?

ecec:僕はまだ上京して2年目なんですが、初めて「YAGI」に行ったのは地元・福岡でのポップアップで超緊張しました。実はその前からレイジくんとはやりとりしていて、服も作ってみたいし音楽もやってみたいと悩んでいた時期にInstagramのDMで相談に乗ってもらっていたんです。昔からいろんなことにチャレンジしたいと思っていたんですが、「YAGI」のマルチな活動を知ってレイジくんに長文のDMを送ってみたら返事がきて。それでやるしかねーって燃え上がりました。

オカモトレイジ:高校生っぽいお悩み相談だったなー(笑)。実家暮らしなら何でもできるんだから、しょうもないこと気にしないで今のうちにチャレンジしとけ!って思ったよ。「レイジくんに言われて服作り始めました!」って福岡のポップアップでTシャツを持ってきてくれたのをよく覚えているし、進学受験前日なのにフットサルしに来てくれたりもしたよね。現役高校生の身体的ポテンシャルはとにかくすごくて、ececが東京で一発目にカマしていたのはDJやパーティじゃなくてフットサルだったという。その流れで周りの友達を紹介して上京後も交流するようになった。ececとは年齢が12歳差あるけど、世代が違うからこそ話していてもノスタルジックなことが一切なくて、むしろ社会の捉え方が違うライバルみたいな存在でもある。最近だとececとDJの出演数を競ったこともあったね。

ecec:今までは「YAGI」のパーティやレイジくんに誘ってもらうことが多くて、ただDJができる学生って感じだったんですけど、最近は他のパーティからも声がかかることが増えたのもあり、やっとプレイヤーとしての戦力が身についてきた気がします。

オカモトレイジ:去年、渋谷の「Contact」が閉店する前に「YAGI」とジュン・イナガワの「MAD MAGIC ORCHESTRA」で一緒にやったパーティでDJしていたececは相当ブチかましていたな。「Contact」の中でも1番狭いフロアでDJしていたのに、たくさんのお客さんが踊っていて、ライターの火が付かないくらい盛り上がっていた。

――たしかジェフ・ミルズが「Contact」で来日公演した時も同じような現象が起きていましたが、メインフロアでなくサブフロアでそこまで盛り上がった夜はかなり貴重ですね。近頃ececさんがプレイヤーとしての心境の変化が生まれてきたのはレイジさんからも見て取れますか?

オカモトレイジ:ececちゃんは出会った頃から本当に変わったよね。特にアメリカに行ってから覚醒したと思う。

ecec:ジュン・イナガワくんがLAでポップアップイベントをする際に誘われて、友達と1カ月間共同生活をしたんです。今まで家族と海外旅行をしたことはあったけど、自ら旅費を払って友達と海外に行くのはこれが初めてで、見るもの全てが新鮮でしたね。コンテナで囲われた工場地帯のシークレットレイヴにも参加しました。

――大人になって初めての海外旅行でレイヴイベントに行くのは最高ですね。初めてのレイヴはいかがでしたか?

ecec:一般的にはチャラいというか敷居はそんなに高くないパーティだったけど、とある電話番号に連絡したら開催前日に住所が送られてくるような昔ながらのレイヴスタイルでした。DJもちゃんとしているし、お客さんもガチで踊りに来ているタイプが多くて、もはやチャラさすらも最高でしたね。

オカモトレイジ:俺も同じレイヴイベントに後日遊びに行ったけど、スリリングではなくともふらっとクラブに遊びに行くのとはちょっと違うレイヴならではのムードはあった。本気で音楽を楽しみに来ている人たちしかいない感じ。

ecec:そのレイヴでDJしたり、バックステージ裏のコンテナの中にあるVIP専用のバーカウンターに案内されたりしたのもいい思い出。このLA旅行も然り、高校生の頃自分で作った服を友達のクラブイベントで手売りしたり、上京してDJするようになったりと今の自分はクラブカルチャーやパーティで形成されているなと思いましたね。

――ececさんにとってはクラブやパーティに遊びに行く、というわけではなく最早クラビングがライフスタイルのひとつになっている感じなんですね。レイジさんにとってもクラビングやパーティーはかなり身近なものですか?

オカモトレイジ:身近どころか父親がガチガチのレイヴァーだから、生まれた頃からレイヴイベントに行っているような人生(笑)。といっても本気すぎて派手さはない山小屋でやるようなイベントで、村八分の山口富士夫さんとかがライヴしていたような場所だったね。そういった景色は今もよく覚えているけど、物心がついて自分から遊びに行くようになったのはヒップホップのパーティだった。やっぱりオカモトズの活動やキャンディタウンが同級生だったこともあって、高校生の頃にはデイイベントを自らやるようになっていたからね。

「『YAGI』はみんながグレるきっかけになったらいい」―― 音楽の解像度を上げる入り口としてのパーティ

――筋金入りのクラバー…!「YAGI」にはお二人のようにクラブがライフスタイルの一部になっているお客さんも遊びに来てますが、クラブに行くこと自体が一大イベントであるかのようなお客さんも魅了してる印象です。以前、自分が「YAGI」に行った際にこのパーティのためにオシャレして音楽を聴きに来たファッショナブルですてきな若者たちを多く見かけ、クラビングの入口として機能しているとも考えさせられました。

オカモトレイジ:俺もあの光景がめちゃくちゃ嬉しいんだよね。「YAGI」ってそういうお客さんに向けてパーティメイクしたいから。ライトな遊び方もできるけどYokai Jakiみたいにコアなアクトも見れちゃうカオスなバランスを考えているし、みんながグレるきっかけになったらいいよね(笑)。

――グレるきっかけ…(笑)。でも、普段クラブに行かないような人も「YAGI」のパーティに遊びに来ることでクラブカルチャーに一歩足を踏み入れるようになったら嬉しいですよね。そこから音楽やクリエイティブな活動や出会いが新たに生まれそう。

オカモトレイジ:そうそう、俺は若者にDJを始めさせるのも好きなんだよね。他にやりたいことがあったり、自分のポリシーを持っていたり。DJをやらない人はその気持ちを尊重するけど、ただ音楽が好きで遊びに来ているようなキャリアが白紙の状態の人だったら、DJをやってみた方が音楽の聴き方も広がるし、もっと楽しめるようになるはず。この曲自体はそんなに好きじゃないけど、あの曲と繋げたら面白そう!みたいな。ずっとDJを続けなくてもいいし、1回やってみて興味を持ったら続けてみるのがいいと思う。

ecec:僕も「YAGI」のパーティでDJするようになってから音楽の楽しみ方が変わりました。昔、スケーターの友達とのイベントとかで放送係的なDJをやったことはあったけど、ちゃんとしたクラブで回したのは「YAGI」が初めて。今までただ音楽として聴いていた曲でもDJを始めてからはそれぞれの音自体まで楽しめるくらい音楽に対する解像度が上がったような気がする。

オカモトレイジ:解像度を上げるならプレイヤーになるのが1番手っ取り早い。DJやラップ、ギターを始めてみるとか何でもいいから、プレイヤーという選択肢を選ぶだけで音楽に対する姿勢は変わってくる。俺はそういうきっかけをececちゃんだけに与えたわけじゃないんだけど、いろんな人を誘っても体力が持たなかったりペースについて来れなかったりもするし、年齢的にも若い子に対して厚かましくないかなってたまに考えちゃうことも。でも彼は途中でリタイアする様子なんか全然なくて、それどころか積極的にカマそうとするからこっちも負けてられないなって気持ちになれるんだよね。だからececちゃんにはどこまでも羽ばたいていってほしいんだ。

ecec:嬉しいっす。上京してすぐの頃、今まで自分の取り柄はポジティブすぎるくらいの人間だったのに、学業と遊びの両立すら大変で人生で初めて落ち込む時期があったんですよ。その当時は何もかも退屈だったけど、とにかく面白いことを企んだり何かを頑張ったりとスポーツ根性的にやり続けるしかないと思って行動するようになったら、また前向きになれました。そこからはもう順風満帆。

――SNSでのDMをはじめに、「YAGI」と出合いDJで活躍するようになり、さらにLA旅行までとececさんは現在進行形でどこまでも羽ばたいてますね。そのチャンスを掴み取ってきたのは運や才能だけに限らず、お互い好きなカルチャーや物事に本気で向き合うバイタリティと人一倍の行動力を持っているところが共通していると感じました。そんなお二人にとってのパーティアンセムを1曲紹介してもらえませんか?

ecec:エンヤの「Only Time」かな、人生が覚醒した時の思い出の1曲なんです。

ー意外なチョイス…!この曲がクラブやパーティで流れている様子が全然想像つかないです。

オカモトレイジ:ececちゃんの前のDJがどんな曲をかけていようともお構いなしに毎回この曲でDJ始めるんだよね。例えるならバンドのライヴ前に流れるSEみたいな感じ。エンヤが流れていると彼のDJが始まったなってお客さんも気づいて、フロアに集まり始めたりする。俺は常に何かを変えたいから毎回同じ曲をかけることはあんまりしないけど、お決まりのセットがあるってのもそれはそれで新鮮なスタイル。

――ここで王道なダンスミュージックではなく意表を突いてくるあたり、「YAGI」っぽくて面白いです。近年ではハイパーポップの流行を筆頭に、特定の音楽ジャンルにとらわれずクロスオーバーするスタイルが次世代のシーンやプレイヤーの中で定着してきましたが、流行のサイクルは早く、すでに次のフェーズに入ろうしています。「YAGI」が予想するクロスオーバーの先はどんな未来でしょうか。

オカモトレイジ:完全にロックの波が来ている。ロックDJとかじゃなくて周波数帯域的にミッドにアプローチするモノラルな感じやヴィンテージなロックサウンドを楽しむみたいな。

ecec:最近二人でゾンビーズがかっこいいって盛り上がっていましたしね。

オカモトレイジ:今までロックを通ってきていない若者が初めてゾンビーズを聴く感覚ってノスタルジックじゃなく、本当に新しいものとして捉えているわけじゃん。それって60年代のリリース当時に若者が熱狂した感覚と近いから面白いよね。今のクラブシーンにロックを担う次なる存在はまだいないかもだけど、S亜TOH やナレッジみたいなロック好きの若手アーティストがどんどん活躍しているように、新しいロックの時代はやってきているはず。

Photography Omega
Editorial Assistant Emiri Komiya

author:

yukinoise

1996年東京出身、OL兼フリーライター。インターネットとアンダーグラウンドを拠点に音楽をはじめとしたエッジなカルチャーシーンについて執筆、トークショーへの出演など広く細く活動中。

この記事を共有