チュートリアル徳井義実が短編映画を制作 監督から出演まで“1人5役”をこなすクリエイティブ秘話

チュートリアルの徳井義実が、「別府短編映画制作プロジェクト」第5弾に、短編映画『喝采は聞こえない』で参加した。監督、脚本、撮影、編集、出演の1人5役のフル稼働。2024年の上映に向けて鋭意編集作業中の徳井に時間をもらい、作品や活動、仕事への向き合い方について聞いた。

――『喝采は聞こえない』を監督することになった経緯から教えてください。

徳井義実(以下、徳井):15〜16年前に「YOSHIMOTO DIRECTOR’S 100 〜100人が映画撮りました〜」で、『nijiko』という短編を監督したんです。「別府短編映画制作プロジェクト」の知り合いのスタッフが、それをすごく好きだったみたいで、声をかけてくれました。YOUTUBE「徳井Video」をやり始めてちょっとたった頃で、動画を作るのが好きやったから、映画というよりは動画を撮るテンションでよかったら、という感じでしたね。いつか動画か小説か何かにしたいなと思っていたお話が僕の頭にあったので、それを形にできるかなとも思って。

――「劇団で伸び悩んでいる女優が、人生のターニングポイントを迎える」ストーリーとのことですが、どのように思いついたんですか?

徳井:2年くらい前に家の近所を普通に歩いてて、ふとお葬式を見たか、お葬式のことを思ったか、したんですよ。その時に、「死んだ人ってお葬式の主役なんやな。圧倒的な」と思って。参列者が観客って考えると、なんとなくストーリーが思い浮かんだんです。

――監督、脚本、撮影、編集、出演をされたそうですが、どの作業が一番楽しかったですか?

徳井:楽しいのはやっぱり編集……でも撮影も楽しかったですね。大人の文化祭みたいで。チームで1つのものを作るというのはすごく楽しい。編集も、撮れたものを持って帰って、いい感じに並べるとか、色味をいじるとか、音を付けるとか、そういうのもおもしろいですね。

――徳井さんは1人でコツコツ作業をするのが好きなタイプだと思っていたので、チームで動く映画の現場が楽しいというのはちょっと意外でした。

徳井:映画はさすがに1人じゃできないんで、必要に駆られてやってるだけで。基本的には、大人数ででっかいものを作っていこうとはあんまり思ってないかもしれないです。30代とか40代前半ぐらいまでは、いろんな人に思いを伝えて動いてもらったり、いろんな人の力を借りたりしないといけないなって思ってましたね。そもそもがそんなに社交性がない人間なんで、20代の頃とかほんまに全部1人でやってたから、それではいかんなと。東京に出てきて、お仕事の規模とかも大きくなっていくにつれて、やっぱ人を巻き込んでやらなあかんなっていう意識を持つのが40代前半までで。番組にしても、スタッフさんとコミュニケーションを取るとか、共同作業をしているという意識をちゃんと持つというか。もうそれは散々やったから、こっから先の人生は閉ざしていこうという心境です(笑)。無理して広げず、1人でやったほうがいいと思ったら1人でやる。映画みたいに、みんなの力が必要なものをやることになったら、みんなと作る。

――メディアの違いはありますよね。YOUTUBEは1人でも作れるけれど、テレビ番組は1人では作れない。徳井さんの中で今、テレビはどういう位置づけにありますか?

徳井:うーん、テレビを作る人達に自分が必要とされているかどうかっていうところで、以前は必要とされなあかんし、テレビにも出ていかなあかんっていう気持ちでやってましたけど、今は「必要とされるのであれば、全力でやります」って感じですね。もうちょっと自分の仕事にわがままになっていいのかなというか。テレビって誰かのためにやってる要素がかなり多くて。僕なんかは特に、「番組を成立させよう」とか「スタッフさんの意図をくもう」とか、そういう意識がすごく強かったので。今は、もうちょっと自分のやりたいようにやらしてもらおうかなっていうところですね。

――「場の空気を意識する」というところで、映画監督として現場を動かす時に、どんなことを意識しましたか?

徳井:現場がせかせかしないように、嫌な感じにならないように。みんなが楽しくできるようにってことを、一番に考えてますね。あまりにも疲れてる人がいたら休憩取ったらいいし。とにかく、エンタメを作ってるんやから、みんなが楽しいほうが絶対にいい。終わってから、1人残らず「楽しかったね」って言えたほうがいいと思うんで。それは目指してやってます。

――チームに自分の考えを伝えるのって大変ですよね?

徳井:めちゃくちゃ難しいですよね。今回の映画でもそうですけど、それ以前に芸人としてのライヴとか番組内の企画、コント番組のコントとかで僕が考えた台本をやりましょうという時も、「こんな伝わらんか!?」っていうことがめちゃくちゃありました。人には100言っても10ぐらいしか伝わらへんっていうのを大前提にずっとやってますね。せやから伝えたあとも注意して見ているとか、それをもっと伝わるようにするためにはどうしたらいいのかっていうのも考えながらやってます。もうちょっと若い時は、「伝わらんでも俺がわかってるから、最後は俺が引き取っていつか完成すればいいや」みたいなところもあったんですけど、それはちょっと無責任やなって最近思ってきて。人に伝える作業から逃げてはいけないなって思うようになってます。

制作者としての新たな自分。「発信したいものを発信する」

――YOUTUBE「徳井Video」は監督、撮影、出演、編集と、すべて自分1人でやっているそうですが、その自分にしっくりくる肩書はありますか?

徳井:えー? 何やろう? 

――YOUTUBER?

徳井:YOUTUBERという言い方もよくわかんないんすけどね(笑)。なんなんやろなあ。制作者とか?

――しっくりきました。他の人に例えるのはあまり良くないかもしれないけれど、徳井さんのYOUTUBEを見ていて、ちょっと板尾創路さんを思い出しました。何もせずに黙ってカメラの前にいられる自信というか、肝の座り方に(笑)。

徳井:(笑)。別に笑いを取りに行こうとかしてないので。芸人がやってるYOUTUBEっていうことでもないような気がするし、僕も別に芸人としてではなく、1人のおっさんとしてやってるんで。ただ、構成やテンポ感はある程度考えてますね。映像に音を付ける作業がすごく好きなので、わりと手を掛けてます。

――自分が作った映像に対する、世間の反応を気にされますか?

徳井:YOUTUBEのコメントは全部見ます。もちろん批判的な反応もありますけど、全然気にならないですね(笑)。もしも再生回数を稼ごうとか、世間のニーズに合わせていく作業をしていたら、批判的な言葉が来たら「あ、これ違うんや」とショックを受けると思うんです。せやけど、僕は自分が発信したいものを発信しているだけなので、批判的な反応があったとしても「あ、そうですか。とはいえ別に僕変えません」なので(笑)。反応は気になりますけどね。「楽しんでくれてんねや」とか、「そんなふうに受けとるんや」とか。

――自分が発信したいものを発信して批判された場合、自分が否定されている気持ちになってしまう人もいると思います。「自分、愛されてない!」とショックを受けてしまうように。

徳井:そもそも愛されてると思ってないし、「愛されてないと嫌だ!」とか全くないんですよね。自分がその時に出したいものを出してるだけやから、「違う」「おもんない」と言われても、変えようとは全く思わないんで。すごくシンプルです。反応は反応。「こういう反応なんや」というだけ。

――逆に、再生回数が良くて、「これが受けるんだ!」と思っても、そっちに寄せない?

徳井:あんまりしないですかね。「これはわりと人気あるんやな」と思ったら、シリーズじゃないけどちょこちょこやってみるとかはありますけど、それで「味しめた感」が出るのも嫌やし(笑)。人気企画みたいなものに頼ってしまうと、瞬間風速は上がるけど持続しないチャンネルになってしまうかもしれないですし。僕は、粛々と出していくっていうスタイルです。

――YOUTUBEを始めてから、ファン層に変化はありますか?

徳井:男の人がすごく増えました。「YOUTUBE見てます」って言ってくれたり、ポップアップストアに来てくれたりする人も男の人がめちゃくちゃ多いですね。

――徳井さんはなんというか、フォームが崩れないですね(笑)。

徳井:そうですねえ。あんまり人に褒められても嬉しくもないし、否定されても悲しくもないんで。もう全然。なんでこんなやつになってしまったのか(笑)。

――どういう時にテンションが上がりますか?

徳井:「なんかめちゃくちゃいいのできた」とか、「今日よかった」とか、「あの時あんなんよう出たな」とか、自分で自分を褒める時しか嬉しくないですね。

「芸人」という立場における意識の変化

――今、徳井さんが「芸人」をどういうものと考えているのかが気になります。

徳井:そうですねえ……。そもそも芸人なんてものは、座敷に呼ばれて「とりあえず何かやれ」と言われてやって、なんとなく笑ってくれたらええかぐらいのやつらなので。芸人はこうじゃないといけないとか、芸人たるものみたいなとか、そういうふうに考えるのはなんか違うなと思うんで。なんとなく誰かを楽しませていればいいのかなっていう感じですね。

――徳井さん自身、「芸人」という意識はどれくらいあるんですか?

徳井:芸人として、というところでいうと、ネタをやってる時だけでいいのかなって思ってきてます。そもそもバラエティ番組に出ている時の自分が芸人なのかと言われたら、ちょっとわからない。僕は、芸人がテレビに出ている時は、テレビタレントなんじゃないかなと思うんです。それでも個人個人で違いはあって。自分がしゃべる番がきたらとりあえず笑いに向かっていくというか、笑いを目的としたことしか言わない人もいる。でも僕は、さっきも言ったようにわりと現場の空気を読んでしまうんで、どっちかっていうと、テレビに出てる自分はわりとテレビタレントやったのかなっていう気もするんです。今は、お笑い芸人としての欲求を満たすのは、ネタをやってる時だけでいいんやないかなっていう心境ですかね。

――2024年には監督作品『喝采は聞こえない』が公開されます。どんな方に見ていただきたい、どんなことを感じてほしいというのはありますか?

徳井:最初に話を作り出した頃の意図とは変わってしまったというか。人生って、切り替えたり諦めたりしないといけない時があると思うんです。でも、今までやってきたことを諦めるのも、切り替えて新しい方向に進むのも、今までのことが無駄だったのかなとか考えてしまうと結構つらいじゃないですか。そこで、切り替えを楽しむのも、不安はあるやろうけど希望を持って新しい生活に飛び込むのもいいんじゃないかなと、作っていくうちに、そういうところに着地したんですよね。誰しも1回ぐらいそういう分岐点みたいなのが人生で来ると思うんで、そんな時にふと思い出してくれるような映画になればいいですね。

――今の徳井さんだからそうなったのかなと感じました。では最後に、これからやりたいことや、計画していることを教えてください。

徳井:動画はこれからも撮りたいですね。今回の映画を撮る前から、短編動画みたいなものは撮りたいなとは思っていたので。YOUTUBEチャンネルも、今はキャンプの動画、ご飯を作る動画が軸になっているんですけど、もう1個ぐらい何か違うテイストの軸がほしいなと考え中です。それがドラマっぽいものなのか、何なのかはわからないですけど。あと、「徳井video」のキャンプイベントを6月にやって、10月(※10月14、15日に開催)に第2回をやるんですけど、それを移動遊園地みたいにしていきたいなと思ってるんですよね。高校の時の夢が、遊園地のオーナーだったんです。

――そうなんですか!

徳井:高1の時に、初めてまともに付き合った女の子とクリスマスに遊園地にデートに行って。最寄りのモノレール駅で、「帰ろっか」言うてたら、遊園地のイルミネーションがキラキラしてて、その子がうっとりとした表情で遊園地を見てたんですよ。そん時に高1の僕は「よし遊園地を作ろう」と思って、ずっとそういう思いがあったけど、もちろん遊園地なんて作れへんし。電鉄会社に入るのもオリエンタルランドに入るのも無理やなと。でも、キャンプのイベントやったら、移動サーカスみたいな空気感の遊園地ができるんやないか、あの頃に思い描いた夢がかなうかもしれないと思って、6月のイベントに大道芸人さんとか呼んでみたんです。静かなキャンプっていうよりは、夜も遅くまで騒げて、お酒飲んでワイワイやれるキャンプイベントです。それを大きくしていきたい。スポンサーさんもたくさん募って、そのお金を演出費に全部ぶち込んで、移動遊園地のメリーゴーランドとかをレンタルして置きたいなあと。花火も上げたいですね。

Photography Miyu Terasawa
Edit Nana Takeuchi

author:

須永貴子

ライター。映画、ドラマ、お笑いなどエンタメジャンルをメインに、インタビューや作品レビューを執筆。『キネマ旬報』の星取表レビューで修行中。仕事以外で好きなものは食、酒、旅、犬。Twitter: @sunagatakako

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