霜降り明星・粗品がアニメ『青のオーケストラ』の曲を制作 芸人とアーティストが交差する創造の領域

芸人でありながら、楽曲制作を手掛けるアーティストとしても活躍する霜降り明星の粗品。4月9日に放送がスタートしたアニメ『青のオーケストラ』(NHK Eテレ)ではエンディング曲「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」を手掛け、アニメが公開されるやいなやSNSで話題に。芸人とアーティスト、二面性を持つ粗品に、曲の制作秘話や音楽への情熱、異なる領域での創作活動について聞いた。音楽とお笑い、それぞれが交差する彼の創造の源泉を探っていこう。

ブルーハーツやホルモンのタブ譜を、小説のように読んだ、中高時代

──粗品さんが音楽と触れ合うようになったきっかけを教えてください。

粗品:音楽を始めたのは2歳からですかね。最初は親の影響でピアノを習っていて、音楽と触れ合う時間が多かった。中学生からは自分でやりたい音楽が出てきて、ギターを始めました。もちろん友達と遊ぶこともありましたが、みんなが部活に熱中している間、僕はお笑いか音楽に打ち込んでいましたね。高校に入ると、DTM(デスクトップ・ミュージック)をやっている友達がいたので、自分も触り始めて、曲を作るようになっていきました。当時はパソコンに触れるのも好きでしたし、無料のソフトが多かったので、スムーズに始められましたね。

──当時はニコニコ動画等で、作曲する人や『歌ってみた』を上げる人が多かったですよね。

粗品:そういう時代でしたね。時代もあいまって、作曲するのは楽しかったです。

──作曲する上で影響を受けたアーティストや音楽はありますか?

粗品:それこそボカロ系やアニソンといったインターネットで聴いた音楽はずっと聞いていますね。今でもオーイシマサヨシさんや、田淵智也さん、ヒャダインさん、ヒゲドライバーさん、玉屋2060%さんは特に好きです。あとは、ブルーハーツとマキシマム・ザ・ホルモンは小中高生の時に死ぬほど聴いて影響を受けていますね。バンドスコアを買って、小説みたいに全部読んでいました。

──粗品さんが発表している曲はボカロ寄りのものが多い印象なので、ブルーハーツやマキシマム・ザ・ホルモンといった激しい音楽は意外でした。ご自身の音楽とどのようにリンクしているのでしょうか?

粗品:やっぱりシンプルなコード進行ですかね。僕の曲は今の音楽みたいに複雑で、エモいコードはあまり使わなくて、パワーコードゴリ押しみたいなものを作ることが多いんですよね。それは間違いなくブルーハーツやマキシマム・ザ・ホルモンに影響を受けたと思います。

夕さりのカノン feat.『ユイカ』」誕生秘話とその背後にある思い

──今回長年の創作活動が実って、NHKのEテレアニメ『青のオーケストラ』にて、エンディング曲「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」を手掛けることになった粗品さんですが、まず原作の印象を教えてください。

粗品:実はこの話が来る前から『青のオーケストラ』の漫画を読んでいて。音楽にまつわるストーリーもすごいですが、なにより人間模様がおもしろいと思っていたんですよね。天才ソロバイオリンニストがオーケストラに溶け込んでいく様子や、読みながら「意外とヘビーな一面があるやん!」とか思っていて、キャラクターの設定や振る舞いが興味深い作品だなと思っていました。

──なるほど。以前から読んでいた作品のアニメ化で、ご自身にエンディング曲の制作の話が来た時はどう感じましたか?

粗品:いやー、もう嬉しかったですね。自分のキャリアの薄さとかを考えると、ほんまに大抜擢だと思うんで、よく僕に任してくれたなというか。本当にいろんな方が関わっていて、NHKやアニメ原作サイド、ユニバーサルミュージック等、いろんな方に感謝しかないですね。

──粗品さんが手掛けた曲「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」はどのような行程で作られたのでしょうか?

粗品:せっかく僕を抜擢してくださったので、いつも作っているわがままな曲というよりは、ある程度、求められているものを作りたいということで、曲を作る前に打ち合わせをさせていただいて、イメージを膨らませていきました。青春っぽい感じで、夕方の帰り道っぽいのが合っているなと思い、そこから大量にパターンを作っていったんですよね。それをアレンジャーのsyudouさんに送って、選んでもらいました。

──最終的にはカノンをモチーフにした曲になったんですね。

粗品:僕から syudou さんにまずデモを送る時に、バイオリン初心者の方も開放弦だけで演奏することができるように、A,E,D,G(バイオリンの開放弦の音階)から3コードだけで作ってみたデモを渡したんですよ。そこから syudou さんも含め皆さんと話し合った際に、カノンのフレーズを入れてみるといいのでは?と発想が膨らんでいきました。

──『青のオーケストラ』を観て、バイオリンを始めたいと思ったので、とにかく開放弦を弾けばベースの音が鳴るわけですね。

粗品:そうですね。ただ、コード進行的にそのコードだけで1曲を作るのってめっちゃ難しいんですよ。起伏を持たせるためには他のコードも使いたくなってしまって。でもそこを我慢して、なんとか順番を入れ替えてsyudouさんに送りました。

──限られたコード進行の中でも、シンプルだけど、ちょっと複雑な感じに仕上がっていますよね。

粗品:syudouさんとやりとりを重ねて、すぐに今の完成形に近いものを作ってくださって、「うわーすげえ。こんな曲になったんや」って新鮮に聴けました。ユイカさんのボーカルや NHK 交響楽団のストリングス等、本当にいろんな方に協力していただいて完成した曲ですね。

お笑いと音楽。それぞれの創作活動に共通するこだわり

──粗品さんには、芸人とアーティストという2つの面がありますが、それぞれ共通する部分はありますか?

粗品:そうだな〜なんやろな〜。やっぱり「見たことがないことをしたい」っていう気持ちですかね。見たことがないものっておもろいし、引きつけられるじゃないですか。だからアイディアとか仕掛けとか、今までになかったものを生み出すことを意識しています。ただ、音楽で聴いたことがないものを作るのは難しいので、せめて“見たことがない”音楽を作りたいなと。例えば、猿にピアノを弾いてもらうとか、そういうアイディアを実現していきたいですね。

──確かにそれは“見たことがない”音楽ですね(笑)。

粗品:あとはハングリー精神っていうんですかね。それはお笑いと音楽、共通しているかもしれないです。結構尖っているって言われるかもしれないですが、僕は自分の中で頑固な軸があるタイプなので、それを曲げられないんです。「あいつより俺の方がおもろい」とか「俺の方が真剣に音楽と向き合っているわ」とか、そういう思いが強いんですよ。たまに他の芸人が片手間に曲を作っていると、「なんやねん!」みたいな(笑)。こっちは自分で作詞作曲して、編曲して、レコーディングして、ミックスして、マスタリングして、そういう過程を踏みながらいろんな人と真剣に作っているのにって思うんです。だから僕は音楽業界に失礼にならないためにも、お笑いの合間に音楽をやるのではなく、芸人の仕事を減らしてでも、真剣にやりたいんですよね。

──なるほど。ただ粗品さんというと、テレビにも出て、YouTubeも毎日更新されて、とてもお忙しいと思うんですが、どのように音楽の時間を作っているんですか?

粗品:そこは本当に芸人の時間を削っていて、深夜1人で机に向かって音楽を作っています。昔はM-1グランプリを取ることだけを考えて、お笑いしかやらない時期があったんですよ。でもいざM-1グランプリを取って、1つの目標をクリアした時に、「自分ってなんなんやろな」「自分の人生で何してる時が楽しいんやろうな」と考えたら、創作活動だったんですよね。自分がものを作って評価されることは、いっぱいご飯を食べるとか、よく寝るとかそういうことよりも欲求として上にあることに気付いて。深夜に1人で音楽を作っている時やネタを考えている時は本当に楽しいですし、それを評価してもらえることはなによりも気持ちいい。だから今はお笑いの時間を削ってでも、音楽の創作をするようにしていますね。

──お話を聞いていると、創作活動を楽しんでいらっしゃるのが伝わりますし、なによりストイックな性格なのかなと。

粗品:1個こうするって決めたらもう貫くタイプかもしれないです。僕、やりたいことがめっちゃあるんですよね。でも例えば、音楽を作りたいという時に、毎日曲を出すのって物理的にも、予算的にも難しいじゃないですか。1ヵ月に1曲出したとしても、僕の親が60歳で死んでいることを考えると、あと30年で、そうすると360ヵ月になるので360曲。そうなってくると、やりたいことを選ばなあかんわけですよ。さっきも話しましたが、今は見たことがない音楽を真剣に作りたくて、そうなると、より一層ハードルが上がります。今後はそこを打破して、いろんな人が感動する曲を作っていきたいですね。

──最後にこれから「夕さりのカノン feat.『ユイカ』」を聴いた方や、『青のオーケストラ』のアニメを観た方、読者の方に向けてメッセージをお願いします。

粗品:今回の曲が自分1人で作ったものではないのは強調したいですね。原作やアニメを見ていただいたらわかると思うんですが、ずっと1人でバイオリンを弾いてきた主人公・青野一がオーケストラとしてチームでやっていく過程があります。僕も今回の曲「夕さりのカノン」を作る時に、編曲していただき、歌っていただき、演奏していただき、ミックスしていただき、マスタリングしていただき……。まさに主人公のような気持ちで、これこそオーケストラやと思っています。真剣に音楽と向き合ってできた曲なので、ぜひ聴いてみてください。

Photos Miyu Terasawa
Edit Nana Takeuchi

author:

高山諒

クリエイティブユニット、株式会社inori代表。編集者・ライター。学生時代からアルバイトでカルチャー誌に携わり、その後、コンテンツ企画会社・ヒャクマンボルトに在籍。独立後、現在はWEBメディアやカルチャー誌を中心に、企画からインタビューまで行う。

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