注目のロック・デュオ、ノヴァ・ツインズが投げかける社会へのメッセージ 「私達を見て、『やろうと思えばなんだってできるんだ』って感じてもらえたら嬉しい」

ノヴァ・ツインズ(Nova Twins)
2014年にロンドンで結成されたロック・デュオ。メンバーはエイミー・ラヴ(Amy Love)(Vo / G)とジョージア・サウス(Georgia South)(B)で、2人は子どもの頃からの友達。2020年、ジェイソン・アーロン・バトラー(Jason Aalon Butler)のレーベル、「333 Wreckords Crew」からデビュー・アルバム『Who Are the Girls?』をリリース。また、ブリング・ミー・ザ・ホライゾン(Bring Me The Horizon)とコラボレーションし、ツアーも実施。2022年6月には、セカンド・アルバム『Supernova』をMarshall Recordsよりリリース。
https://novatwins.co.uk

今のイギリスで注目を浴びているのは「ギター・バンド」だけではない。グライムとパンクが融合したヘヴィなサウンドでロック・シーンを沸かせているのがエイミー・ラヴ(Amy Love)とジョージア・サウス(Georgia South)によるデュオ、ノヴァ・ツインズ(Nova Twins)だ。これまでに2枚のアルバムを発表し、昨年リリースの最新作『Supernova』はマーキュリー・プライズの候補に選ばれるなど高い評価を獲得。ウルフ・アリスやリトル・シムズのサポート・アクトを務めて頭角を現す中、ブリング・ミー・ザ・ホライズンのプロジェクト作『Post Human: Survival Horror』に参加し話題になったことも記憶に新しい。錚々たるアーティストが名を連ねたギャング・オブ・フォーのトリビュート盤『The Problem Of Leisure: A Celebration Of Andy Gill & Gang Of Four』ではマッシヴ・アタックの3Dとも共演を果たし、彼女達への注目はジャンルを超えて広がりを見せている。

「あなたがまだ知らない最高のバンド」。デビューして間もない彼女達をツアーに抜擢したトム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、プロフェッツ・オブ・レイジ)はそう賛辞を寄せた。しかし彼女達への賛辞の理由は、その生演奏にこだわったサウンドや音楽性だけが理由ではないだろう。ともにミックスである彼女達は、白人社会や音楽業界における有色人種の女性としての葛藤をストレートに歌い、その力強いメッセージ性はノヴァ・ツインズというグループを貫くアイデンティティの大きな中心になっている。また彼女達は「Voices for the Unheard」というプラットフォームを立ち上げ、英国黒人音楽賞「MOBO」に働きかけるなど、自分達と同じ立場や境遇のアーティストの支援にも積極的に関わっている。「ルックスは買えるけど、遺伝子は変えられない/私はストレート・トーカー(※歯に衣着せぬ人)、言いたいことははっきり言え」(「Cleopatra」)――。この夏「サマーソニック」で初来日を飾った彼女達に、その活動を支えるルーツやバックグラウンドについて話してもらった。

ノヴァ・ツインズのルーツ

——先ほどお2人のSNSを拝見したら、サマーソニックで共演したBABYMETALと一緒に撮った写真がアップされていて。

ジョージア・サウス(以下、ジョージア):大好きなんです。ライヴはとてもエネルギーに満ちていて、演出やパフォーマンスも壮大で素晴らしかった。だから会えて嬉しかったし、本当に素敵な体験でした。

エイミー・ラヴ(以下、エイミー):ブリング・ミー・ザ・ホライゾンを通じて彼女達のことを知りました。私達が参加した彼等のEP(『Post Human: Survival Horror』)に彼女達も参加していて。彼女達のライヴを観たのは今回が初めてで、それで実際に会うことができたんです。

——ノヴァ・ツインズのサウンドは、パンクやガレージ・ロック、メタル、グライム、ダブステップなどさまざまなジャンルをシームレスに融合させたものです。そうしたスタイルはどのようにして生まれたのでしょうか。

ジョージア:私達にとってはごく自然なことだったと思います。最初に作ったのはベースとヴォーカルだけでできたもので、だから私達のサウンドの基本はリフが効いていて(riffy)、エレクトロニックなスタイルを土台にパンキッシュな叫び声のようなヴォーカルを乗せたものでした。そしてそれを時間をかけて成長させて、進化させてきました。ロック、R&B、グライム、ポップ、ジャズなどさまざまな音楽から影響を受けてはいますが、私達としては自分達が気持ちいいと感じることをやっているだけなんです。

エイミー:ジョージアが言う通り、それはつまり私達の友情と経験が組み合わさったものなんだと思う。私達が育った場所や家族、ライフスタイルなどすべてが私達の音楽には反映されています。

——その上で、お2人が影響を受けたり、自分達を音楽の世界に導いてくれたアーティストを挙げるとするなら誰になりますか。

ジョージア:ビヨンセやミッシー・エリオット、デスティニーズ・チャイルドのような1990年代のR&Bから、ザ・プロディジー、ニューヨーク・ドールズのようなバンド、それにスティーヴィー・ワンダーやメロディ・ガルドーも大好き。だから嫌いなジャンルというのがないんです。私達は常にオープンでありたいし、いろんな音楽が好きなんです。

エイミー:それと間違いなく、私達の両親。私達の母——彼女達はとても強い女性なんです。だから彼女達は私達にとって大きなお手本でした。それとジョージアの父親はジャズ・ミュージシャンだから、私達に楽器を弾かせてくれたり、いつもインスパイアしてくれました。彼はいつも「練習しなさい」って言ってましたね(笑)。

——お2人は音楽が身近にあふれた環境で育ったと聞きました。小さい頃からいろいろなアートやカルチャーに触れる機会があったのでしょうか。

ジョージア:家では誰かしらが音楽を聴いたり、楽器をいじったりしているような感じでした。エイミーが私達の家族と一緒に住んでいた時は、いつもジャムったり、ライヴをやって家に帰ってきてからもそれについて話したりして。だから常に音楽があったし、みんな音楽が大好きでしたね。

エイミー:それとカルチャーということでいうと、私達は2人ともミックスで。私はイランとナイジェリア、ジョージアはジャマイカとオーストラリアにルーツがあって、私はエセックスの出身、ジョージアはロンドン南東部出身で、お互いにイギリス人という(笑)。だからカルチャー的にもいろいろなものが混じり合っている。逆に言うと、何かを選ぶ必要がなかったというか、あらゆるものに触れることができる環境だったので、その影響は私達の音楽に表れていると思います。

——一方、特にエイミーさんは白人が多い地域に育ったこともあって、小さい頃は自身を投影したり感情移入できるロールモデルを見つけることが難しかった、と聞きました。そうした中で、音楽を聴いて「これは私のための歌だ、私のことを歌った曲だ」と思わせてくれたアーティストは誰でしたか。

エイミー:私にとっては間違いなくデスティニーズ・チャイルドがそうでした。彼女達を初めて見た時、「わあ、なんて強そうな女性なんだろう」って。姉妹のような結束感があって、女性のパワーがたくさん詰まっているけれど、女性の自立した強さが感じられて。それは私が若い頃に憧れていたイメージそのもので、そう見られたいと思っていました。特にビヨンセは私達にとって特別なロールモデルでした。

ジョージア:“ID”なんてどうでもいいんです。だって、どれもみんな全く違うものだから。私達の中ではいろいろなものがミックスされて1つになっていて、だから特定のジャンルの音楽に惹かれるということもなかった。それが私達が出会った理由なんです。だから一緒にバンドを始めたんです。

——ちなみに、ジョージアさんはグライムMCのノヴェリストと同級生だったことがあるとか?

ジョージア:ああ(笑)。もう長い間会っていませんが、学校で一緒に過ごした時期がありましたね。

——エイミーさんはロンドンの音楽学校で学ばれたそうですね。

エイミー:自分で音楽を始めたばかりの頃で、漠然とアーティストになりたいと思い描いていたんですけど、ただ『パフォーマンス』というものをよく理解していなくて。だからそれを学びに行こうとしたんだと思います。若い時って、自分が求めているものが何なのかわからないことがありますよね。音楽をやりたいのはわかっているけど、それをどう表現したらいいのかわからなかった――それを仕事にする方法も。そんな私に学校は自分自身を見つける時間をくれました。それと多くの友達と出会うことができて、だからどちらかというと、社会的な側面で得るものが多かったかもしれない。ロックやガーリッシュでパンクな音楽を発見して、友達にオススメのレコードを教えてもらったりしてね。

音楽とファッション、ヴィジュアルの関係

——お2人は音楽活動と並行して、ファッションブランドとコラボレーションしたり、また自分達の衣装のデザインを手掛けたりもしていますよね。音楽とファッション、ヴィジュアルの関係についてはどんなポリシーや哲学を持っていますか。

ジョージア:“音楽が先にある”ことですね。自分達で服をカスタマイズし始めたのも、自分達の音楽を感じられるような服が着たいと思ったからで。それで裁縫を始めて、ミュージック・ビデオやステージで着る服を自分達で作り始めました。私達はそれを“Bad Stitches”と呼んでいるんです。というのも、私達は縫い方を学んでいる途中だったから(笑)。いつか「Bad Stitches」というブランドを発表して、みんなに着てもらいたい。今はその準備の最終段階なんです。

エイミー:私達の服は私達の音楽のように“聞こえる”。だから、音楽に合わせると服はこんなふうに見えるんです(笑)。バンドを始めた頃は、よく2人でショッピングに出かけていろいろなものを見てたんです。でも、心に響くものは何もなくて、それにどれも高価なものばかりで。それで、だったら自分達で作ったほうがいいって思ったんです。最初はあまり上手くなかったけど(笑)、ミシンの使い方を学んで、ミシンを使うようになったらだんだんといい感じになりましたね。

——好きなファッションのテイストはありますか。

ジョージア:原宿系ファッションが大好きです。全部欲しくなる(笑)。あと1990年代のスポーツ・カルチャーが大好きで、さっき挙げたヒップホップやR&Bともカルチャー的に繋がりがあるように思います。でも同時にパンクみたいなものも大好きで、だから私達のファッションは音楽と同じで全てが組み合わさったものなんだと思う。

エイミー:私達は絵を描くのが好きで、ミュージック・ビデオではセットにペイントしたり自分達でデザインも手掛けています。手を使うことや、創造的でアートな活動を楽しむのが好きなんです。

「音楽業界をもっとインクルーシヴな場所にしたかった」

——一方でお2人は、音楽業界における自分達と同じような境遇——有色人種(POC)のアーティストやイギリス国内の黒人女性をサポートする活動にも力を入れています。

エイミー:私達は混血の女性で、ロック・ミュージックをやっていて……でも私達がバンドを始めた時、誰も理解してくれなかったんです。ロックは白人がやるものみたいな風潮があって。私達はまだ若かったし、無知で世間知らずでした。どうしたらいいのかわからなかった。でも、それが私達の目を開かせたんです。彼等の認識を変えたいって。音楽業界をもっとインクルーシヴな場所にしたかった。だって、それって誰にでもできることなんですよね。あなたがどこから来たかなんてことは、あなたができることとできないことを決定したり区別したりするものではない。

——ええ。

エイミー:そして今、本当に素晴らしいと思うのは、音楽をやる女性がとても増えていること、それも世界中から集まってきていることです。イギリスでは女性のエンパワーメントが進んでいて、その一部になれてとても誇りに思っています。特に若い世代の人達には多くの選択肢がある。私達のようなスタイルの音楽をやりたいと思わない人もいるかもしれないけど(笑)、でも私達を見て「ああ、やろうと思えばなんだってできるんだ」って感じてもらえたら嬉しい。私達が若かった頃は難しかったけど、ただデスティニーズ・チャイルドのような存在がいたからこそ、私達もそう思えたんです。彼女達は私達とどこか似ているように感じられたから。

——お2人は有色人種のオルタナティヴ・アーティストを支援する「Voices for the Unheard」というプラットフォームも立ち上げられていますが、もし今の音楽業界の何かを変えることができるとしたら、何を変えたいですか。

ジョージア:ゲートキーパーはもっとリスクをとるべきだと思う。なぜなら、誰もがメインストリームに供給されるものに従っていて安全策をとっているから。もし彼等がアンダーグラウンドに目を向けて、そこで活動するアーティストに——よくできた誰かのカーボンコピーのような人達に与えるのと同じだけのチャンスを与えるようになったら、もっと面白くなると思うんです。だから早くそうなってほしい。

エイミー:音楽業界にとって大事なのは、自分の意見を恐れず、アーティストに対して公平で正当な評価を提供することだと思います。というのも、中には印税の分け前を正しく得られなかったりするケースがあり、しかもその多くはインディペンデントのアーティストで、彼等はメジャー・レーベルとは異なる状況に置かれているからです。友達の中には、自分達がやりたい音楽をやらせてもらえなかったり、アートを手放さなければならなくなるという深刻な問題を抱えているアーティストもいます。だから何より、より多くのアーティストが自分らしくいられるように音楽業界は後押ししてほしいんです。

——ちなみに、「Thelma and Louise」という曲がありますが、あれは映画の『テルマ&ルイーズ』にインスパイアされて?

ジョージア:そう。あの映画を観て、主人公の2人の絆と友情に感動したんです。生きるか死ぬかみたいな状況の中、最後まで一緒にいる2人の姿は本当に素晴らしかった。それに共感して、あの曲を書いたんです。

Photography Tameki Oshiro

author:

天井潤之介

ライター。雑誌やウェブで音楽にまつわる文章を書いています。 Twitter:@junnosukeamai

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