サンダーキャットが語る「MF DOOMとの絆」から「ベジータ的ユーモア」、そして「ゲーム音楽からの影響」

サンダーキャット(Thundercat)
ベーシスト、ソングライター、音楽プロデューサー。1984年10月19日生まれ。アメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルス出身。超絶技巧のベースプレイとスイートな歌声、そして奇抜なファッションや底抜けに明るいキャラクターで数多くの音楽ファンを虜にしている。サンダーキャット名義でのソロ活動のほか、フライング・ロータスやケンドリック・ラマー、トラヴィス・スコット、ゴリラズ、故マック・ミラーらの作品にも参加。2022年はレッド・ホット・チリ・ペッパーズのワールドツアーにサポートアクトとして抜擢されたことも話題となった。またアニメやゲームなど、日本のカルチャーに精通していることでも知られる。ジャズ/ヒップホップ/ファンク/AOR/LAビートを軽快かつチャーミングに横断していく表現力は圧巻の一言。
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サンダーキャット(Thundercat)のインタビューには、たくさんの友人の話が出てくる。盟友フライング・ロータスはもちろん、子ども時代のオタク仲間、聖歌隊時代の友達、デザイナー、ネイリスト、ケンドリック・ラマー、ドミ & JD ベック、そして惜しまれつつ世を去った仮面のヒップホッパー、MF DOOM。彼はあらゆる出会いの中で、自らのポジションを考えつつ、テクニックとユーモアを磨く。その成熟する姿はまるで、彼が愛する『ドラゴンボール』のベジータのようではないか!?アニメーションやゲーム音楽とサンダーキャットとの繋がりについて聞いた今回のインタビュー。彼は、ソニック・ザ・ヘッジホッグとMF DOOMの大きなネックレスを首からぶら下げて現れた。

——MF DOOMのネックレス、すごくいいですね。

サンダーキャット:いいだろ。これにはストーリーがあるんだ。MF DOOMが亡くなる直前に、フライング・ロータスと一緒に彼と仕事する機会があってね、彼が住んでいたロンドンに会いに行ったんだ。

マッドリブがMF DOOMに僕のことを話してくれたらしくて、彼は僕がエリカ・バドゥと仕事をしていることを知っていて。僕も彼とはコネクションを持ちたかったからね。

——MF DOOMとの仕事は「Lunch Break」ですね。クールな曲です。

サンダーキャット:彼は素晴らしかった! 誰も知らないような音楽をたくさん聴かせてくれて、僕がフライング・ロータスと作っている曲を聴いてくれた。彼とはおかしなくらいとても気があって。彼は僕が着けているジュエリーに興味を持って、いっぱい質問をしてきたよ。

——亡くなったのはつらい出来事でしたね。

サンダーキャット:MF DOOMはハンチョロ(Han Cholo)というLA在住のデザイナーとコラボレーションして、スペシャルなリングを作っていて。彼が亡くなる前、僕との仕事の支払いをどうするか相談を受けたんだけど、僕が「お金なんていいから」って言ったら、じゃあ代わりに、ってことで自分が持っている鋳造の型からリングとネックレスを作って僕に贈ってくれたんだ。でも、残念ながらリングは盗まれちゃったんだよね。

——それは悲しい……。

サンダーキャット:ネックレスは持ってるんだけどね。それは小さいネックレスで、今首からかけてるのは別の物。彼のマスクを作っている人とも友達になって、僕らはメモリアルになにか作りたいという話をした。今つけているマスク型のネックレスを一緒に作ったんだ。ガーネットが入った、オリジナルのネックレスだ。すごく重たいんだ(笑)。でも鍛えてるから大丈夫(笑)。

——(笑)。

サンダーキャット:MF DOOMは、リリシストとしてもプロデューサーとしても本当に優れた人だった。彼の人間性も大好きだった。僕がネックレスを首から下げていると、みんな注目するんだよね。そこで今みたいに思い出を語るから、彼の記憶をいつも身に着けているって感じがするんだ。

——記憶を身に着けている。すごく素敵な話ですね。

サンダーキャット:僕が持っている中で2番目に好きなネックレスだね。1番はこのソニック(笑)。

——ソニック(・ザ・ヘッジホッグ)はずっと好きなキャラクター?

サンダーキャット:そうだね、ソニックは大好きだ。今はマリオが1番だけど(笑)。このソニックのネックレスは僕のために作ってくれたもので、ゲームの『SONIC R』で使われている「Can You Feel the Sunshine」の歌詞が刻んであるんだ。

——『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は観ましたか?

サンダーキャット:まだ観られてないんだ。とても忙しい時期だったからね。今僕はLAに住んでいるんだけど、シアターに行くとソールドアウトで入れなかったりするんだよね。

——すごい人気ですよね。

サンダーキャット:ほんとにビッグな人気だ。でも、そろそろ誰も観てないと思うから、僕が観る時は劇場を独り占めできるといいな(笑)。

——アメリカの批評家には子どもっぽいって批判している人もいるけど、そんなことないですよ!

サンダーキャット:そもそもマリオは子どものためのものじゃないか(笑)。そんなの批判にならないよ。

ベジータ的ユーモア

——あなたのドラゴンボール好きは有名だけど、あなたは以前、孫悟空よりベジータに共感するって語っていましたよね。

サンダーキャット:そうだね。

——あなたには、どこかベジータ的なところがあるんじゃないかなと思うんだ。

サンダーキャット:わかる!  悟空はフライング・ロータスだろ?(笑)。

——そう! あるいはケンドリック・ラマー。

サンダーキャット:ケンドリックは『超ドラゴンボール』に出てくる孫悟飯ビーストだ(笑)。

——あなたの曲にはユーモアがあると思う。

サンダーキャット:その通り。

——「Dragonball Durag」は、恋人に愛を懇願する歌だけど、何度も「俺のドゥーラグ(頭に巻き付ける布のかぶり物)似合ってる?」と聞くじゃないですか?  すごく可笑しいですよね。

サンダーキャット:ははは! そう、ラブソングに見せかけて、実はひどい歌なんだ(笑)。

——そうしたユーモアは意識している?

サンダーキャット:自然に出てくるものだと思う。いろんなものが面白い、笑えるって感じるタイプなんだ。シリアスなものに限っておかしかったりするだろ? それが自然と出てくるなら、無理に抑える必要はないよね。

——「Friend zone」の、「俺はモータルコンバットやりたいから、どっか行ってくんないかな」と歌った後にケンドリック・ラマーの「Bitch don’t kill my vibe」を引用するとこなんか、爆笑してしまいました。

サンダーキャット:笑えるよね! あれ、引用しちゃって大丈夫かなと心配だったんだけど、ケンドリックも笑ってくれたよ。

——あなたのそういうユーモア、私は「ベジータ的」だと思うんですよね。

サンダーキャット:わかる。彼はプライドが高いのに、悟空みたいなすごい奴の前では常に謙虚にならざるをえない。「今イケてる!」と思っている時には、誰も見ていない(笑)。

——そういう体験を積んでるからか、彼は次第に客観的な視点を持つ、優しいキャラクターになっていく。

サンダーキャット:僕の中にも、もう1つの視点が常にあるんだ。言いたいことが、そのまま伝わるとは限らない。僕はそういうハードな経験をたくさんしてきた。だから、何かを言おうとする時、何かを表現する時には、いくつかの視点を常に持っているんだと思う。

ゲーム音楽からの影響

——あなたの音楽自体とても多義的ですよね。そもそも、あなたはスーサイダルテンデーシーズとエリカ・バドゥのベーシストとしてキャリアをスタートしているから、ハードコア・パンクとネオ・ソウルの両方に関わっている。

サンダーキャット:そうだね。

——今のあなたの音楽には、ジャズやヒップホップのグルーブもあるけど、同時にゲーム音楽的な直線性も感じられる。常に遠い音楽のミックスをしているように思えます。

サンダーキャット:子どもの頃から色々な音楽を聴いて育ったんだ。ジャズもゲーム音楽も大好きだった。あと、僕はシンプルなものに色を加えていくのが好きなんだ。マリオだって、最初のテーマ曲は今も使われていて、それがどんどんアレンジの変化で色を変えていってる。僕はそれが面白いと思う。やっぱり音の色合いなんだよ。

——ゲーム音楽はもともとすごいシンプルですよね。

サンダーキャット:1980年代から90年代初期のゲーム音楽は素晴らしいよね。下村陽子のカプコンでの仕事とか、僕は大好きだ。あれだけ限られた素材で、最大限のことをやってのけた。そこに子どもの頃の僕は興味を持ったんだと思う。今のゲーム音楽はリッチになって幅が拡がった。もちろん今も優れたものはあるけど、僕はやっぱり、限定された素材で創作していた頃のゲーム音楽の特異性に惹かれるんだよね。

——あなたの音楽にはYMOの雰囲気も感じるんですけど、それはゲーム音楽を通してなんじゃないかな。ゲーム音楽にはYMOの影響が絶大だから。例えばドラゴンボールの『超(スーパー)武闘伝』というゲームソフトで、ほとんど「ライディーン」そのままみたいな曲が使われていたりします。

サンダーキャット:その曲は知っているよ(笑)。でも、あれだけビッグなアーティストだからね。僕も含め、どこかで影響を受けちゃうんじゃないかな。YMOや坂本龍一も、シンプルな中に複雑な要素を秘めているよね。

——あなたは以前ドラゴンボールを「成熟した作品」と語っていましたよね。どこに成熟したものを感じますか。というのは、日本人にとって『ドラゴンボール』は少年のための作品、成熟する前に見る作品という印象が強くて。その違いが面白いと思ったんです。

サンダーキャット:たぶんアメリカ人にとって、『ドラゴンボール』は暴力的なんだよ。だから子どものものとは思われていない。『ドラゴンボールZ』や『NARUTO』は、アメリカでは暴力的なシーンを編集で切って放送している。僕はそんな必要ないと思うけどね。

——なるほど。子どもが見るものは暴力的であってはいけない。

サンダーキャット:おかしいことに、アメリカで一番売れてるカートゥーンは、結局日本のものなんだ。『呪術廻戦』、『NARUTO』、『ドラゴンボールZ』……。そうしたアニメは変に編集が入ってる。僕は1990年代から『新世紀エヴァンゲリオン』を観ているけど、あれはカルト的なパワーがあるよね。そういう作品にも編集はかけられるけど、オリジナルの生々しさが失われちゃう。

——そうだったんですね。

サンダーキャット:でも、アメリカの大人向けカートゥーンやコミックはもともとめっちゃ暴力的だからね! 暴力的なコミックに影響を受けている僕のことだから、アメリカ人の一般的意見じゃないよ(笑)。僕はクレイジーだから信用しちゃいけない。

——『ドラゴンボール』のアニメーションには、修行のシーンがあります。でもアメリカのスーパーヒーローは、最初からスーパーヒーローですよね。

サンダーキャット:バットマンもアイアンマンも金持ちだからね(笑)。彼ら自身の身体能力は、ただの人間だしね。

——ドラゴンボールにおける「修行して強くなる」過程が、アフリカン・アメリカンの境遇と重なるんじゃないかという話を聞いたことがあります。どう思いますか?

サンダーキャット:確かに、可能性としてはあると思う。ストラグル、闘争や葛藤ってのはアフリカン・アメリカンのコミュニティにとって大事な要素だからね。ヒーロー・コンプレックスという言葉もあるくらいでさ。やっぱり社会から認められていない境遇があるから、日本のアニメーションのトライする姿勢に共感するところはある。

——シンパシーを覚えるんですね。

サンダーキャット:でもわからないな。子どもの頃はただアニメに夢中だった。『ドラゴンボール』が好きな友達にはメキシカンもアジアンもいた。でも、教室では少数派だったね。僕らは人種を問わず、ただ「オタク」だったんだ(笑)。その「オタク」達が、成長して今はお金を稼ぐ立場にいる。そういう奴等は惜しみなく欲しいものに金を使う。だから余計にアニメが流行る(笑)。

——(笑)。

サンダーキャット:あの頃の友達と、「誰も俺らの趣味わかってくれなかったよな?」って話はよくするよ。僕達、日本で売ってる『ドラゴンボール』のカードダスが欲しかったけど、アメリカでは売ってなかった。だから、ネットでがんばって拾った写真を自分達でコピーして、ファイリングしてたよ。それをみんなで回して見てたんだ。「今日はお前が持ってていいけど、明日は俺が持ってくよ」って具合にさ。ファイルを見ながら、一生懸命自分達で勝手にストーリーを作ったりして楽しんでたんだよ。

——まさにゲーム音楽みたいな話ですね! 素材が限られているからクリエイティブになってた。

サンダーキャット:そう。自分達だけで頑張らなきゃいけなかったんだ。

ケヴィン・パーカーとのコラボ

——あなたの最新曲「No More Lies」での、テーム・インパラのケヴィン・パーカーとのコラボレーションはどのような経緯で生まれたんですか?

サンダーキャット:僕は最初のアルバムの頃から、ケヴィンとはずっと一緒にやってみたかったんだ。グラミーの時に会ってるんだけど、酔っ払ってて覚えてないんだよね(笑)。彼にアプローチしたら、「前に会ったよね?」と聞かれたよ(笑)。それで向こうも一緒にやりたいと言ってくれた。実際に会って曲作りをしたけど、楽しかったよ。パズルがはまるみたいにうまくことが運んだんだ。

——あなたとケヴィンは少し声が似てますよね。あなたの囁くような歌声は、黒人のミュージシャンでは特殊なんじゃないかな。

サンダーキャット:子どもの時に教会の聖歌隊で歌ってたんだよね。それに、歌と楽器でヤマハスクールにも通ってたから、歌うこと自体には抵抗なかった。レコーディングにコーラスで参加しているのも、子どもの頃からの友達だ。

——そうだったんですね。

サンダーキャット:レコードやライブで歌うのに慣れてくのには時間がかかったけどね。友達に「お前の声好きじゃない」と言われて落ち込んだり(笑)。でも、僕にとって憧れのプレイヤーはみんな歌ってた。トニー・ウィリアムス、ジョージ・デューク、フランク・ザッパ。ジャコ(パストリアス)ですら歌ってる。トニー・ウィリアムスがアリなら俺もできると言い聞かせてた。あいつの声、ほんとクレイジーなんだもん(笑)これがアリなら自分もできるなと思った。

——あなたのベースはパーカッシブだから、柔らかい声はきれいなコントラストを描いていると思います。

サンダーキャット:昔から僕はテナーだった。高い声も力が入るから、この歌い方が向いてるんだよね。普段の声はディープなんだけどね。地声で歌うとスリップノットみたいになるよ(笑)。

——それも聴きたいです(笑)。

サンダーキャット:すげぇハードになるよ!

——今日持っているスカルのバッグは、「プロスペクティブフロー(Prospective Flow)」とのコラボですよね。彼らとはどのようなつながりがあったの?

サンダーキャット:彼らは日本からLAに来てるよね。知り合う前から買って着ていたんだ。すごく着ててフィットするんだよ。ドミ & JD ベックが最初に知り合って、僕を紹介してくれたんだ。

——そんなつながりが。

サンダーキャット:コラボレーションを始めたのは最近のことなんだけど、もう長く友達だよ。すごくいい連中だし。

——あなたのジュエリーやネイル、それにヘアスタイルはどこかフェミニンなところがあると思います。意識していますか?

サンダーキャット:前も同じような質問を受けたんだよね。「内包している女性性」を指摘されたんだけど、自分ではピンときていないんだ。エリック・ベネイとツアーしたせいかな(笑)。彼のセクシーさに女性性を刺激されたのかもしれない(笑)。実際は、男性性・女性性というより、形や色が好きってだけだな。直感、フィーリングがすべてだよ。

——今日のネイルも素敵ですよね。

サンダーキャット:LAの友人のネイリストにやってもらったんだ。彼女は優れたアーティスト。こんなの彼女にしちゃシンプルなほうだよ。

——あなたの話を伺っていると、いろいろな人の名前が出てきます。他人とのつながりによって自分が成り立っているという感覚が、あなたの言葉や身振りから伝わってきました。最近「ブレインフィーダー」に入った長谷川白紙のことは知ってる?

サンダーキャット:もちろん。新曲も聴いたよ。素晴らしい曲だし、ビデオも素敵だった。エクレティックなサウンドで、「ブレインフィーダー」にふさわしいよね。一度会ってるんだよね。でも酔ってて覚えてないんだ(笑)。また彼に会いたいよ。

Photography Takuroh Toyama

author:

伏見瞬

東京生まれ。批評家/ライター。音楽をはじめ、表現文化全般に関する執筆を行いながら、旅行誌を擬態する批評誌『LOCUST』の編集長を務める。11月に『LOCUST』最新号vol.4が発売予定。主な執筆記事に「スピッツはなぜ「誰からも愛される」のか 〜「分裂」と「絶望」の表現者」(現代ビジネス)、「The 1975『Notes On A Conditional Form』に潜む〈エモ=アンビエント〉というコンセプト」(Mikiki)など。 https://twitter.com/shunnnn002

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