俳優・伊藤万理華の演者としての強い想い 「作る側の熱量を受けて、同じ想いで作品を一緒に生み出したい」

伊藤万理華(いとう・まりか)
1996年生まれ、大阪府出身。2011~17年、乃木坂46一期生メンバーとして活動。現在は俳優としてドラマ・映画・舞台に出演する一方、PARCO展「伊藤万理華の脳内博覧会」(2017)、「HOMESICK」(2020)、「MARIKA ITO LIKE A EXHIBITION LIKEA」(2022)を開催するなど、クリエイターとしての才能を発揮。主な出演作品に舞台『宝飾時計』、2021年に地上波連続ドラマ初主演を務めた『お耳に合いましたら。』(TX)、『日常の絶景』(TX)、映画『そばかす』(2022 / 玉田真也監督)、映画『もっと超越した所へ。』(2022 / 山岸聖太監督)など。初主演映画『サマーフィルムにのって』(2021 / 松本壮史監督)ではTAMA映画賞にて最優秀新進女優賞を受賞、第31回日本映画批評家大賞にて新人女優賞を受賞。
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初主演映画『サマーフィルムにのって』(2021 / 松本壮史監督)でTAMA映画賞の最優秀新進女優賞を、第31回日本映画批評家大賞で新人女優賞を受賞するなど、俳優としての存在感が高まる伊藤万理華。一方で映画やドラマ、舞台といった俳優業だけではなく、自身で個展を開催するなどクリエイターとしての一面を持つ。

最新作『女優は泣かない』では、スキャンダルで女優の仕事を失った蓮佛美沙子演じる主人公・梨枝の密着ドキュメンタリー撮影に渋々挑むドラマ部志望の若手ディレクター・咲を演じる。普段は「撮られる側」の伊藤が、本作で「撮る側」を演じて感じた「作り手」への想いを聞いた。

やりたいことを見つける

——台本を初めて読んだ時、どのような印象を受けましたか?

伊藤万理華(以下、伊藤):掛け合いの部分がすごく面白いと思いました。今回演じたADの瀬野咲は、若くて経験不足だから制御されていることに対し反抗心を持っていて、過去の自分とも重なる部分があるなと思いながら台本を読みました。

——「制御されていることに対しての反抗心」というのは、伊藤さんにとってはどのようなものだったんでしょうか?

伊藤:自分の好きなものや、目指すものがまだ曖昧な段階でグループに加入しアイドルになったので、グループを卒業してからいろいろ模索しました。その頃には、梨枝のように「自分はこんなもんじゃない」と焦りを感じたり、本当はこういったことがやりたいのにできない、それをするためにやらないといけないことがあるけれどどうしたらいいんだろうという思いとの狭間で、葛藤がありました。ただ、私の場合は個展(「伊藤万理華の脳内博覧会」、2017年)をやることで乗り越えてきました。

——何を目指すのかを明確にする前は大変でしたか?

伊藤:グループを卒業する直前の時期に、パルコさんから「何かやりませんか」と声をかけていただいて。そこで初めて自由にやりたいことができたし、改めてやりたいことが明確になりました。その時に、いろんな人の力を借りて、コラボすることによって乗り越えられました。

——声がかかるということは、それまでに何かやりたいという気持ちがにじみ出ていたのかもしれないですね。

伊藤:逆になんで声をかけてもらえたんだろう、なんで私の気持ちを知ってるんだろうと不思議で。ただ、その頃もデザイン誌で連載のお仕事をしていて、クリエイターさんのアトリエを訪問して対談したりと、作り手の方に近いところのお仕事もいただいていました。ただ、その頃はそれ以上のものはありませんでした。もちろん、ゼロから何かを生み出している作り手の方の話を間近で聞いていると、気持ちは自然と変わっていたところはあったのかもしれません。そんな卒業の手前の時期に偶然、声をかけていただいたというか……。

「ものづくりにはずっと寄り添っていきたい」

——今回、映画の中では、実際のカメラを持って映像を撮られていたそうですね。

伊藤:実際にカメラをまわしていたら、エンドロールで初めて撮影として名前も載せていただいて。監督からは「もしかしたら映画の中で実際に使うかもしれないから」と言われていたんですけど、大スクリーンで自分が撮影したものが流れるかもしれないと思うとけっこう緊張して。カメラの画角とか撮り方を意識しながら、夢中で撮っていました。

——お芝居をしながら撮るということで大変さを感じることはありましたか?

伊藤:演じながら撮影をしなければという意識はありませんでした。自分がカメラをまわしているというよりも、咲というADが撮影している感覚だったので。

——作ることに興味があって、カメラを持ったら、何か映像作品を撮ってみたいという思いが生まれたりすることもありそうですね。

伊藤:今は映像や写真を撮るとしても、思い出を撮っているという感じです。だから咲のように、いいものを撮るという意識でカメラを触ったことはなかったから、今回がそういう意味では初めてのことでした。ただ、本作の取材の中でもありがたいことに「いずれ映画を撮るんじゃないですか」と聞いていただけるようになりました。

——何か表現したいことがありそうだなと思うから、期待して言っている人が多いのかもしれないですね。

伊藤:そう言っていただけるのはうれしいです。自分が撮るかどうかはわからないですけど、ものづくりにはずっと寄り添っていきたいと思っているので、映画に限らず続けていきたいと思っていますし、ゆくゆくはそういう企画を自分でゼロから始められるようになりたいです。

現場でのコミュニケーション

——「撮ること」と「撮られること」の違いに関してはいかがでしたか?

伊藤:撮られること・演じることを目指してきたので、演じるほうがやりやすいです。撮る側のことは、すべて理解できるかというとなかなか難しいし。ただ、演じる時はどんな職業でも、その人の持っている情熱を理解すれば近づけると思っています。

——今回の映画では、演じる側である園⽥梨枝(蓮佛美沙子)が、ADの咲と最初はぶつかったりしながらも、徐々に近づいていく内容でしたが、そういう感覚を経験したことはありますか?

伊藤:そういうことは、みなさん経験したことがあるんじゃないでしょうか。人とわかりあうまでどこかでぶつかることもあるだろうし、自分の思いをお互いにぶつけあうことは作品を作る上で必要なことだと思います。誰かと一緒にものを作るということは人とのコミュニケーションなので、今回のように女優とADという関係性に限らずどこにでもあることだと思うし、演じていても理解できることだと。そういう感情を作品の中で演じられてうれしかったです。

——いろんな現場でも、そうやって伝えるってことは大事にしてきたんでしょうか?

伊藤:バトルをするということではなく、自分がどういう思いで取り組んでいるのか、それを伝えることも仕事だと思っています。作る側の熱量を受けて、同じ想いでものを一緒に生み出せたらいいなと思っていますし、そういう制作過程にずっと憧れていました。

——今回の映画に関してはいかがでしたか?

伊藤:この作品に合流したのが少し遅かったので、最初のうちは密なコミュニケーションをとるのは難しいのかなと思っていたのですが、有働監督との波長も合いましたし、疑問があった時にはすぐに伝えられる環境でした。

——蓮佛さんとの共演はいかがでしたか?

伊藤:以前から、いろんなお仕事を拝見していたので、最初は緊張しましたが、撮影の最後に蓮佛さんから「咲をやってくれてよかった」と言っていただけて、「これがすべてだな」と報われた気持ちになりました。お互いに梨枝と咲という役として向き合えたし、蓮佛さんには私を咲として受け止めてもらう包容力を感じました。

——伊藤さんが、俳優という仕事として、スタッフの方達と、お互いに理解しあってお仕事ができた、と感じた作品としてきっかけになったものはありますか?

伊藤:今演じているような役をいただけているのは、やっぱり『サマーフィルムにのって』という作品があったからだと思いますし、自分の転機になった作品です。そのあとから「作る」という楽しさを追求するような役、例えばドラマ『お耳に合いましたら。』の高村美園など、そういう役を演じる機会が増えてきました。自分では気付かなかったけれど、自分が大切にしてきたことが役として投影された瞬間がそこだったんだなと。この仕事を続けてきてよかったなと思いました。

——私も『お耳に合いましたら。』を毎週楽しみに見ていました。こうした、好きなことに情熱を傾ける役は、今の伊藤さんとぴったり合っていてすごくいいと思うんですが、それ以外にやってみたい役はありますか?

伊藤:今までは、作ることと演じることを分けて考えていましたが、最近はそれを分ける感覚が少なくなってきていて、チームの一員として「作る」ということに関わっていれば、どんな役にも同じ気持ちで向き合えるという段階に入ってきたのかなと思っています。だから、もっと役の幅を広げていけたらいいなと思っているところです。

——最後に。『女優は泣かない』の中で気に入っているところを教えてください。

伊藤:作り手の葛藤や演者との向き合い方など、監督の思いが投影されまくっているところです。それは撮る側だけに投影されているわけでもなく、蓮佛さんが演じた梨枝にも表れていると思います。そんないろんな登場人物の感情のぶつかりあいややりとりが、ちゃんと面白く描かれていて、最後に心がギュっとなるような部分もあって、お気に入りです。

Photography Mikako Kozai(L MANAGEMENT)
Stylist Miri Wada
Hair & Makeup Yuka Toyama
シャツ¥94,600/baziszt(Diptrics 03-5464-8736)、スカート¥71,500/VOLTAGE CONTROL FILTER(Sakas PR)、ネックレス¥18,500/Marland Backus、シューズ¥29,700/ALM.

■『女優は泣かない』
2023年12月1日から「ヒューマントラスト シネマ渋谷」ほか全国順次公開
出演:蓮佛美沙子 伊藤万理華
上川周作 三倉茉奈 吉田仁人 ⻘木ラブ 幸田尚子
福山翔大 緋田康人 浜野謙太 宮崎美子 升毅
監督・脚本:有働佳史
制作プロダクション:有働映像制作室 
制作協力・配給:マグネタイズ
主題歌:在日ファンク「注意 feat.橋本絵莉子」
2023年 / 日本 / 117 分 / カラー
©2023「女優は泣かない」製作委員会
https://joyuwanakanai.com

author:

西森路代

1972年、愛媛県生まれ。 ライター。 大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。 派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。 Twitter:@mijiyooon

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