映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介する。
今回、登場するのはファースト写真集『Pitter-Patter(ピターパター)』(青幻舎)を出版したばかりの俳優・八木莉可子。同著は256ページの大ボリュームで、撮影はプライベートでも親交のある写真家の石田真澄が担当。17歳から20歳になり、今に至るまでの約3年半にわたって撮影したかけがえのない記録となっている。八木は2016年『ポカリスエット』のCMで注目を集め、今年公開予定のNetflixオリジナルシリーズ『First Love 初恋』への出演が話題になるなど、ますます活躍が期待される若手俳優だ。そんな彼女が俳優をする上で影響を受けた映画を2本紹介する。
![八木莉可子](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/019%E6%9C%AC.jpg)
理想の人間像はトム・ホランドが演じるピーター・パーカー
![八木莉可子](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/001%E6%9C%AC-scaled.jpg)
![八木莉可子](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/004%E6%9C%AC-scaled.jpg)
『スパイダーマン・ホームカミング』を見た時に、トム・ホランドさんが演じるピーター・パーカー/スパイダーマンが、自分の中にある理想の人間像にぴったりハマりました。それをきっかけにシリーズの全作品を見返しました。作品としては『アメイジング・スパイダーマン』が一番好きですが、スパイダーマンという人物像は、どの俳優さんが演じても全部好きです。スパイダーマンは悪役をバーン!とやっつけるヒーローと違って、悪役の悪い部分は正すけれど、ボコボコに打ちのめさずに、救ったりもするんです。みんなの小さな困りごとも解決してあげて、ユーモアも持っていて。あんなスーパーヒーローにはなれないにしても、誰かの役に立てる人間に私もなりたい。ユートピア的な思想っぽくて、これを言うのはすごく恥ずかしいんですけど、人を幸せにできる人、ちょっとでも人をプラスにできる人間でありたいという理想があります。俳優というお仕事を通して、見てくださる方に少しでも幸せになってもらいたいと思っているので、スパイダーマンには大きな影響を受けています。
![『スパイダーマン・ホームカミング』場面写真 トム・ホランドが演じるピーター・パーカ
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![『スパイダーマン・ホームカミング』場面写真
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人を幸せにする為にも自分も楽しんで仕事をしたいと思っています。でも、自分は理想とする人間像に向かって真剣にお仕事をしているけれど、周りと比べると生ぬるいのかな……と悩んでしまうこともありました。高校の頃は学業優先で、平日は学校、土日でお仕事をさせてもらっていたんです。将来の自分にとって、高校生活で得られる経験が絶対に必要になると思ったので。今でもその選択が間違っていたとは思わないけれど、仕事のために上京して芸能活動がしやすい高校に編入した子や、通信制で頑張っている子の話を聞くと、自分がいいとこ取りをしているように思えてしまって……。高校を卒業してからは、大学の授業との両立もしやすくなり、お仕事の幅も広がって、いろんな人と接する機会が増えました。いろんな人の話を聞くにつれて、この世界でやっていくには、もっと野心や負けず嫌いな気持ちが必要なのかなと悩み始めてしまいました。私のお仕事に対してのモチベーションは、自分が楽しんで、誰かを喜ばせて楽しませること。モチベーションは人によりけりだとわかってはいるんですけど、自分もまだまだ経験不足なので、それだけだと成長できないのかな、でもなんか違うんじゃないかなと今でも悩み中です。
![『スパイダーマン:ホームカミング』
デジタル配信中
ブルーレイ&DVDセット ¥5,217/4K ULTRA HD&ブルーレイセット ¥7,480
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/%E3%80%90JK%E5%86%99%E3%80%91BD%E3%80%80%E3%82%B9%E3%83%91%E3%82%A4%E3%83%80%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%EF%BC%9A%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0%E3%82%AB%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0-811x1024.jpg)
『スパイダーマン:ホームカミング』
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揺れ動いている時期に撮影した写真集『Pitter-Patter』
![写真集『Pitter-Patter』の表紙](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/pppr_cover.png)
17歳から20歳はそういうことでわりとずっと悩んでいる時期でした。悩んでいること自体が嫌で、「なんでこんなことで悩んでいるんだろう」とまた悩んでずーっと気持ちがグチャグチャで。そんな私を写真家の石田真澄さんが日常的に撮ってくれた写真が、20歳になったタイミングで写真集『Pitter-Patter』にまとまりました。アートディレクターの方がいわゆる「盛れてない」、なんならちょっとブサイクな写真をたくさん選んでいて、私はいいんですけど本当に大丈夫かなって思ってました(笑)。でも自分としては、素の自分ばかりのこの写真集を通して自分を客観的に見ることができた気がします。まだ答えが見つかったわけではないけれど、悩んでいることも成長の一歩になるかなと、悩んでいる自分を肯定できるようにはなりました。タイトルは石田さんの案です。私が走っているときの足音のイメージの他に、雨音の意味もあるらしくて。私は晴れが好きなので最初はちょっと嫌だなあと思ったんですけど、自分が悩んでいる時期を切り取ってもらった写真集なので、「(人生も)ずっと晴れているわけじゃないから、タイトルが雨に由来していてもいいんじゃないかな」と石田さんに言ってもらえて、すごく腑に落ちました。
![写真集『Pitter-Patter』から Photography Masumi Ishida](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/3_pppr.jpg)
![写真集『Pitter-Patter』から Photography Masumi Ishida](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/5_pppr.jpg)
![写真集『Pitter-Patter』から Photography Masumi Ishida](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/9_pppr.jpg)
![写真集『Pitter-Patter』から Photography Masumi Ishida](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/13_pppr.jpg)
![写真集『Pitter-Patter』から Photography Masumi Ishida](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/4_pppr.jpg)
![写真集『Pitter-Patter』から Photography Masumi Ishida](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/18_pppr.jpg)
自信がない時に観たくなる『ハウルの動く城』
![八木莉可子](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/014%E6%9C%AC-scaled.jpg)
高校時代は撮影現場にちょこちょこ通うくらいだったんですけど、『HOMESTAY』(AmazonPrimeで配信中)で初めて長期間の現場を体験して、いわゆる“壁”にぶつかりました。この作品をきっかけにいろいろ考えるようになったと思います。その後、すぐに『First Love 初恋』(Netflixで2022年全世界配信予定)の現場に入って、それもめっちゃ悩みました。作品自体も難しい部分がありましたし、春夏秋冬のシーンを撮るので撮影期間が長かった分、仕事に向き合うことも多くて。満島ひかりさんと同じ人物を演じさせてもらうというプレッシャーもありましたし、現場でどうふるまっていいのか、どう演じたらいいのかわからないことだらけでグチャグチャでした。私は何かうまくいかないことがあると、自分にベクトルが向いて、自分を責めてしまいがちで。それがいい方に向けばいいんですけど、引きずってしまうとしんどくて、仕事にも悪い影響が出てしまう。そういう時に『ハウルの動く城』を観ると、自分を愛していいんだよ、自分を認めてもいいんだよ、と言われている気がして、力をもらえます。ジブリ作品では『風の谷のナウシカ』が一番好きだったんですけど、何かのタイミングで『ハウルの動く城』を見返したら、すごく深いお話だったことに気が付きました。これは、自分を受容してあげることや自己愛について描いている作品なんだなって。ソフィがおばあちゃんになる時は、自分に自信がなくなるった時なんですよね。小さい頃に観た時は、そこに気付いていませんでした。でも、改めて見返したたら、ハウルに褒められても「私なんて」と卑下しておばあちゃんに戻るソフィが刺さりました。「自分と同じだなー」って。だから、壁にぶつかった時や、自分を認められなくなってしまった時に、自分の自己肯定感を保つために『ハウル〜』を観ます。自分がソフィだなと思ったら、自分の中にハウルを宿らせて、自分を褒めてもらうようにしています。家にいる時はDVDで観ます。長期ロケにはシネマコミックを持っていって読んだり、サントラを聴いたりして、『ハウル〜』の世界観に入り込んで自信を取り戻します。
![『ハウルの動く城』の場面写真 ソフィ(左)とハウル(右) © 2004 Studio Ghibli・NDDMT](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/howl005.jpg)
![『ハウルの動く城』 © 2004 Studio Ghibli・NDDMT](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/howl008.jpg)
![『ハウルの動く城』 © 2004 Studio Ghibli・NDDMT](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/howl039.jpg)
![『ハウルの動く城』 © 2004 Studio Ghibli・NDDMT](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/howl046.jpg)
お芝居が好きな俳優さんは、エディ・レッドメインさん。役に近づく作業をする上で、頑張っている自分に浸っちゃいけないと思うんです。エディさんは、ベクトルが自分ではなく役に向いていて、お芝居から役に対するリスペクトが滲み出ているので好きです。特に好きな作品は『博士と彼女のセオリー』です。満島ひかりさんは尊敬させていただいています。『First Love 初恋』で同じ人物を演じるにあたり、役への向き合い方など、いろいろ教えていただきました。松たか子さんもすごく好きです。『大豆田とわ子と三人の元夫』がめちゃめちゃ好きでハマりました。満島さんと共演されている「カルテット」も大好きです。松さんの演じる役を別の方が演じたら、全然違うことになりそうな気がしていて。それは、松さんの人間性が役に出ているからですし、松さんにキラキラしたものがあるから役がキラキラするんだろうなって思います。
![八木莉可子](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/008%E6%9C%AC-scaled.jpg)
![八木莉可子](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/006%E6%9C%AC-scaled.jpg)
お芝居は、ただただ楽しいです。学生時代は学級委員や生徒会長に立候補するタイプで、演説などで注目を集めるのが純粋に好きでした。人と繋がって何かをすることも楽しいですし、自分にとって喜びです。自分がつらくても、一緒にいる人との一体感があれば乗り越えられるんです。私は多分、愛情深いタイプなんだと思います。すぐに人を好きになっちゃうし。だから、初めての現場で知らない人が多いと、愛情のやり場がなくてちょっとつらく感じてしまうんですけど、少しずつ自分の愛を伝えて、居心地がよくなる環境づくりをするようにしています。それが良いお芝居に繋がって、観る人に楽しんでもらえる作品になればいいなと思うので。これからもお芝居をメインに頑張っていきたいです。でも、お芝居だけに限定せずに、いろんなことに挑戦しながら、自分も楽しみながら、誰かを楽しませることのできる人間になりたいです。
![写真集『Pitter-Patter』(初回限定特装版)](https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2022/07/pppr_cover-1024x696.png)
■写真集『Pitter-Patter』(初回限定特装版)
著者:八木莉可子
写真:石田真澄
アートディレクション:前田晃伸
判型:A5変形/上製本
ページ数:256ページ
部数:3000部限定
価格:¥4,400
※本書は限定3000部の特別仕様
※特製しおり付
https://www.special.seigensha.com/pitter-patter
Instagram:@pitapata_rikako_official
Photography Mikako Kozai
Text Takako Sunaga