連載「クリエイターのマスターピース・コレクション」Vol.10 漫画家・大橋裕之の“CDウォークマン”

大橋裕之
愛知県蒲郡市出身。2005年から自費出版で活動を開始。代表作に『シティライツ』『夏の手』『音楽』『ゾッキ』等がある。また、「音楽」はアニメ映画化、「ゾッキ」は実写映画化された。

ギャグ漫画のようにクスッと笑える場面があるかと思えば、いつの間にか哀愁漂う展開になっていたりする、不思議な漫画作品を数々描き上げてきた漫画家の大橋裕之。愛用品を紹介してもらう本企画に持ってきてくれたのは仕事場で愛用しているというCDウォークマン。このウォークマンを使ってどんな時に、どんな音楽を聴いているのか、創作への影響など、ざっくばらんに話を聞いた。

「音楽は、ぱっと選んで、ぱっと聴きたい」

──愛用品について教えてください。

大橋裕之(以下、大橋):CDウォークマンです。

──いつ頃、手に入れたんですか?

大橋:10年以上前だったと思います。当時、電車でバイトに通ってて、iPodはすでに持ってたけど、曲を保存するのが面倒くさくて。それで、その日に聴きたいCDを持って行けるほうがいいなと思って買ったんです。音楽は、ぱっと選んで、ぱっと聴きたい。で、これは2台目。最初に買ったのはすぐに壊れてしまって。

──この機種を選んだ理由は?

大橋:CDはいちばん馴染みのあるメディアだし、手頃だったんだと思います。それにソニー製だし。

──ソニーが好きなんですか?

大橋:……嫌いじゃない。

──今も使ってるんですか?

大橋:はい。もっぱら机の上にあって、今日、一緒に持ってきたスピーカーでいつも聴いてます。何年か前にミニコンポが壊れちゃって、いまこれしかなくて。スピーカーはダイソーで、たぶん300円くらいで買いました。意外と音が良くて嬉しかった。

──ヘッドホンでなくスピーカーで聴く理由ってあります?

大橋:なんだろうな……。なんか、耳に悪そうじゃないですか、ずっとヘッドホンつけてると。それでスピーカー買ってみようと思って。そしたら音がクリアで。だいたい、ぼくは移動中に音楽を聴くことがあまりない。ですから携帯用じゃなくて、普通の据置きCDプレイヤーみたいに使ってます。

「CDは段ボール箱に大量に入れてて、その日に聞くのを机の上に持っていく感じ」

──どういう音楽を聴いてますか?

大橋:何枚か持ってきました。いわゆるサブスクにないものが多いですね。

──趣味がバラバラですね。

大橋:バラバラです。

──今もCDをまめに買うほうですか?

大橋:いや、中古で買うくらいです。たまに新品。最近、8センチシングルCDのDJを知り合いとやってて、8センチを大量に買ったりしますね。1枚10円とか、場合によってはそれ以下で売ってることもあって、買うこと自体が楽しいというか、100枚買っても1000円くらいだったりしますからね。

──仕事中に聴く曲はちゃんと選ぶんですか?

大橋:なんとなくですね。家にCDラックがないんで、段ボール箱に大量に入れてて、その日に聴くのを、「あ、これもこれも」と選んで、机の上に持っていく感じです。で、仕事中はずっと音楽聴いてます。ただ、ネタを考える時は聴けないですね。単純に手を動かす時だけ聴いてます。

──段ボール箱、どれくらいあるんですか?

大橋:1つ2つじゃ済みませんね。実家にもあるんで。でも、何千枚もはいかないと思いますよ。

──聴いてる音楽が仕事に影響することはありますか?

大橋:あるのかもしれないけど感じたことないですね。たぶんネタには詞の内容とかの影響はあるかもしれないけど、作画に関してはないと思いますよ。ただ、気分がよくなりたいと思って聴いてるんで、何かしらの影響はあるかも。

──オーディオは好きですか?

大橋:興味はあるんですけど、詳しくなくて。前はコンポを使ってたんですけど、さっき言ったように壊れちゃって。アナログレコードもコンポにつないで聴いてたんで、最近は聴けなくなって。だからプレイヤーとアンプを買おうとは思ってるんですけど、まだ調べてない。でも、いまはレコード聴けないのに買っちゃったりして。

──自分で楽器を演奏したりもするんですか?

大橋:遊び程度には。高校の時くらいから遊びでバンドをやってて、楽器は適当になんでもやってましたが、主にドラムでしたね、ちゃんと叩けませんが。今はバンドはやってないけど、1人でスタジオに入って叩きたいなと思うことはあります。ただ、1人で入るのが怖くて。勝手がわからないんで。

──バンドではライヴもやってたんですか?

大橋:地元(愛知県蒲郡市)に住んでた時は1回だけですね。町のお祭りというかフェスみたいなものに出ました。30分くらい持ち時間があって。

──演奏した曲はオリジナルですか、カバーですか?

大橋:オリジナルというか、即興ですね。見に来た友達に怒られました。

──大橋さんの漫画『音楽』は実体験に近い?

大橋:あぁ、そこはちょっとそうですね。で、東京に出てきて、漫画家の先輩・長尾謙一郎さん達とバンドを組んで、何度かライヴもしました。10回もやってないけど。吉祥寺とか下北沢、池袋、渋谷とかで。長尾さんはギターで、曲もつくってて。僕はドラムでした。

──そのバンドは長く続いたんですか?

大橋:3~4年は続いたかなあ。いちおうCDも出しました。Les ANARCHO(レ アナーコ)というバンド名です。

──先ほどDJの話がありましたが、それは人前でやってるんですか? 仲間うちのパーティとかじゃなくて。

大橋:あぁ、どっちとも言えるような……。まあ、ゆるい感じでやってます。ぼく、曲と曲をうまくつなげたりできないんで、ただただ流してるだけですけど。でも選曲するのが楽しくて。

──どんな曲を選ぶんですか?

大橋:もともと好きで(8センチCDを)取ってあったカーネーションとかもいいんですけど、イベントでは小室ファミリーとかビーイング系とかもかけてますね。大好きなんで。

──CDはプラスチックケースを外してビニールに入れ替える派なんですね。

大橋:部屋が狭い時に「まずいっ!」ってことになって、大量にビニールを買って入れ替えました。

──まめですね。

大橋:途中で諦めました。

──カーネーションのどのあたりに惹かれます?

大橋:18、19歳くらいの時に知ったんですけど、全部よかった。曲も歌詞も音も。来年1月のライヴは久しぶりに行こうと思ってます。

──レコードがまた注目されてますけど、幼い頃、レコードは身近にありました?

大橋:43歳なんで、ぎりぎりレコードはありましたね。でも、カセットテープを買ってました、録音されたやつ。初めて買ったカセットは、とんねるずのアルバムでした。で、その後、小学3年か4年の時に初めてCDを買ったのを覚えてます。BAKUってバンドの『ぞうきん』というシングルCDです。アルバムだとユニコーンの『ケダモノの嵐』と『服部』でした。

──おじいさんの写真がジャケットの。

大橋:はい。そっちは『服部』です。

──当時の小学生にとって、CDアルバムは高価ですよね。

大橋:ええ、ですからアルバムはお年玉で買いました。でも、CDを買う前はもっぱらカセットでした。録音されたもの以外にも、友達からダビングしてもらったりとか。その頃にもCDはあったと思うんですけどね。そしたら、いつの間にかCDが普及して。よくレンタルしてましたね。

──今回、愛用品として何を選ぼうか迷いましたか?

大橋:筆ペンか、CDウォークマンにするか迷いましたね。筆ペンだとあたりまえ過ぎるかなと思って。筆ペンの細いほうはけっこう硬くて、いつも使ってますね。

──ものにこだわりはあるほうですか?

大橋:薄いほうだと思うんですが、割りと何でも取っておくほうですね。ものが捨てられなくて。小学校の時のものとか、地元のもうなくなっちゃったスーパーの袋とか、いろんなものが実家に大量に残ってます。いや、スーパーの袋は取っておこうとしたというより、奇跡的に残ってて、ある時、たまたま発見して「わっ!」と思って。ヤオハンっていうんですけど、その袋を人に見せるとすごく感謝されたりするんですよ。

──じゃあ、CDやレコードも処分できない?

大橋:あまりできませんね。ただ、聴いてみて、よほどつまんなかったとか、今後聴く見込みがなさそうなのは売ることもありますね。

──意識的にコレクションしてるものはありますか?

大橋:古いものが割と好きで、老舗の喫茶店のマッチとかコースター、店名の入った割り箸の袋とか取ってたりしますね。何の目的もないんですけど。それにちゃんと保存してるわけじゃなくて、適当に取ってるだけですけどね。

──見返すことはありますか?

大橋:ないです。

──つまり、愛でる対象というわけではない?

大橋:ふとした時に目に入ると楽しいですよ。

■大橋裕之の漫画「音楽」が舞台化。多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科の2023年度卒業制作として上演される。
日程:2024年01月13、14日
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
住所:東京都豊島区西池袋1-8-1
時間:14:00~/19:00~(13日)、11:30~/15:30~(14日)
公式サイト:https://www.sdd.tamabi.ac.jp/ongaku7th

Photograph Shin Hamada
Text Takashi Shinkawa
Edit Kei Kimura(Mo-Green)
Cooperation cafe & bar Roji

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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