2023年の私的「ベストミュージック」 音楽家・渋谷慶一郎が選ぶアルバム5選

長引くコロナ禍の収束を感じながら幕開けした2023年。揺り戻しから、街は以前の活気を取り戻したようだった。一方で、続く紛争や事件、流行り廃り、AIとNI……多くのトピックを巻き込みながら、日常の感覚にあらゆる変化をもたらした。 そんな2023年に生まれたたくさんの素晴らしい作品群から、ベスト・アルバムを音楽家・渋谷慶一郎が紹介する。

渋谷慶一郎
東京藝術大学作曲科卒業。作品は先鋭的な電子音楽作品からピアノソロ 、オペラ、映画音楽、サウンド・インスタレーションまで多岐にわたり、東京・パリを拠点に活動を行う。2012年に初音ミク主演による人間不在のボーカロイド・オペラ『THE END』を発表、ヨーロッパを中心に世界中で巡回。2018年にはAIを搭載した人型アンドロイドがオーケストラを指揮しながら歌うアンドロイド・オペラ®︎『Scary Beauty』を発表、日本、ヨーロッパ、中東圏で発表。2021年は新国立劇場の委嘱新制作にてオペラ作品『Super Angels スーパーエンジェル』を世界初演。2022年にはドバイ万博にてアンドロイドと仏教音楽・声明、現地のオーケストラのコラボレーションによるアンドロイド・オペラ®︎『MIRROR』を発表。2023年6月にはパリ シャトレ座にて70分の完全版となる同作を初演、現地メディアでも大きく取り上げられ成功を収めた。10月には金沢21世紀美術館でアンドロイド2台による新作対話劇『IDEA』を発表。
また数多くの映画音楽も手掛けており、2020年に映画「ミッドナイトスワン」の音楽を担当。本作で第75回毎日映画コンクール音楽賞、第30回日本映画批評家大賞、映画音楽賞を受賞した。2022年にはGUCCIのショートフィルム「KAGUYA BY GUCCI」の音楽を作曲、アンドロイドと自身も映像の中で共演している。
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年間ベストというとあまりにも広大で忘れている可能性が高いから、最近聴いているものから何枚か選びました。
アンビエントと現代音楽と……みたいなジャンル横断的な意図はなく、あくまで耳の快楽で選んだ5枚です。

Caterina Barbieri『Myuthafoo』

もの凄く音が良いアルバムで今年よく聴きました。モジュラーなのにループが希薄で人工とも自然とも言えない好みです。共通の友達もいて今年ヴェネチアで初めて会ったんだけど非常に良い感じの人でした。

Laurel Halo『Atlas』

最近よく聴いてるけど傑作だと思う。特に1曲目が凄く好き。こういう有機とも無機とも言えない新しいアンビエント、ドローンのような時間、空間を刻まないスタイルにリアリティを感じる昨今です。

Pierre Boulez「Messagesquisse」

たまたま聴いたブーレーズの1970年代の曲なんだけど今聴くと非常に新鮮というか。ソロチェロとチェロ6人というチェロずくめの編成でカッコいい曲だと思います。全然知らない曲だったけど何度も聴いてますね、気がつくと。

Model/Acteiz『Dogsbody』

僕がリスボン映画祭でコンサートをしたときに、たまたま最近友達になったDove Armitageが近くでライブをやってて、観に行ったら対バンで出てたバンドでライブが凄く良かったのです。色んなジャンル、コンテクストの引用が多いのに小難しくならないで演奏も上手くてすっかりファンになりました。

高橋悠治『KAGAHI Orchestral Works Yuji Takahashi』

少し前にオペラシティの小ホールで何回かやっていた悠治さんの作品展の記録だと思うけど、今年になってアルバムになってるのを知った。僕が行ったときに演奏されていた『Faint Light』という曲が良くて、また聴きたいなあと思っていたからこうして収録されていて嬉しい。他の曲も含めて貴重な記録だと思います。

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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