世界が注目する“HARAJUKU CORE”ガールズメタルバンド「花冷え。」インタビュー後編 日本のカルチャーをミックスした「カオス」な音楽

花冷え。
2015年結成のガールズメタルバンド。ユキナ(Vo.)、マツリ(Gt.&Vo.)、ヘッツ(Ba.&Cho.)、チカ(Dr.)の4人組。激しいメタルロックのサウンドに、日本のサブカルチャーや価値観を詰め込んだ歌詞やビジュアルで注目を集める。元々は中学・高校の同級生であるユキナ、マツリ、ヘッツを含む4人で活動開始したが、ドラマーのメンバーチェンジにより23年5月にチカが加入。同年7月、ソニーミュージックレーベルズ エピックレコードジャパンからメジャーデビューを果たし、デビューアルバム『来世は偉人!』を発表する。海外ツアーやフェス出演、ワンマンライヴなどを精力的にこなす。24年1月19日には新曲「O・TA・KUラブリー伝説」をリリース。
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日本から世界に進出したバンドは数あれど、世界でも売れるバンドの共通点は“日本らしさ”をふんだんに盛り込んでいることではないだろうか。今、“HARAJUKU CORE”という新ジャンルを確立し、欧米を中心にメタルキッズ達から熱狂的な支持を得る日本のガールズバンドがいる。ユキナ(Vo.)、マツリ(Gt.&Vo.)、ヘッツ(Ba.&Cho.)、チカ(Dr.)の4人組による「花冷え。」だ。

今や飛ぶ鳥を落とす勢いの花冷え。のユキナとマツリにインタビュー。前編では、バンド結成までの経緯や高校時代に通ったライヴハウスでのエピソード、スタイル確立までの試行錯誤を語ってもらったが、後編では海外ツアー中のエピソードや新曲「O・TA・KUラブリー伝説」に込めた想い、今後の意気込みなどを聞いた。

前編はこちら

“HARAJUKU CORE”の名付け親は海外ファン

——花冷え。はあっという間に海外での活動があたりまえの状況になってきていますけど、海外へ行きたいという気持ちは以前からあったんですか。

ユキナ:いやー、それが頭になかったんですよ。

マツリ:そこまで考えられていなかった、っていうのが近いかもしれないですね。だから今回も、「行けんだ!?」みたいな(笑)。「海外の人にも刺さるんだ!?」って。

ユキナ:歌詞も日本語ばかりなので。今回の海外ツアーでも日本語の歌詞なのにみんな歌ってくれるんですよね。

マツリ:しかもみんな上手いんだよね(笑)。

——「海外に行けるんだ!」ってなったのもここ1年ぐらいの話ですもんね。

ユキナ:そうですね。コロナ禍でだいぶ活動が制限されていた頃、「我甘党」という曲のMVのコメント欄にかなり英語が増えて、「海外に行けたらいいけど、どうやって行くんだろう?」っていう気持ちではずっといたんですけど。

マツリ:海外のチャートに入る機会が増えたのも「我甘党」の頃だったと思います。「この国はどの辺にあるんだ……?」みたいなところまで自分達の曲が広がっているのをその時に実感しました。

——花冷え。の音楽を“HARAJUKU CORE”と名付けたのは海外のファンだそうで。

マツリ:お客さんがコメントで「これは新しいジャンルだ! “HARAJUKU CORE”だ!」って名付けてくれて、「めっちゃぴったりじゃん!」と思っていろいろな場面で拝借してます(笑)。

ユキナ:花冷え。って人に説明するのが難しいバンドだから、そのコメントを見た時に「これだ!」ってなったよね。

マツリ:なったね。海外では全部メタルになってしまうから、“HARAJUKU CORE”っていいワードだなと思いました。

——その頃は自分達の音楽を「メタル」のひと言でくくられることに違和感があったんですか。

マツリ:いや、私達の音楽の場合、メタルだと思って聴くと「あれ!?」ってなると思うんですよ(笑)。だから、新しいことをやっているっていうことだけでも伝われば興味を持ってもらえるだろうし、新しいメタルのスタイルとしてこういうのもあるんだって思ってもらえたら嬉しかったので、メタルでくくられるのが嫌っていうよりもカオスなことをやってるのが伝わってほしいっていう感じでしたね。

——そして、そこから紆余曲折を経てメジャーデビューを果たし、去年初めてワンマンライヴと東名阪ツアーを行いました。

ユキナ:ワンマンはやるタイミングを失い続けて、「やるならバンとやろう!」って思いながら去年まで一度もできなくて。

マツリ:ワンマンは温め過ぎたんだよね。「やるならこのタイミング!」「いや、ここだ!」って先延ばしにしているうちにメジャーデビューが決まって、いいタイミングだからっていうことで結成8周年で初めてやりました。

ライヴ三昧の海外ツアー

——そして、ワンマンやメジャーデビューの感慨に浸る間もなく、いきなり大規模な海外ツアーへ。しかも、想像以上にたくさんのお客さんがやってくるという。

ユキナ:今思うとびっくりだよね。

マツリ:本当に! 「待ってたよ」感が本当にすごかったんですよ。みんな、すごく温かかったし、今思うとライヴ中はすごく不思議な感覚でした。初めて行く国ばっかりな状況でライヴをして、たくさんの人が来てくれて、「すごいことをしてるな」って。

ユキナ:今、日本に帰ってきてから振り返ると、本当にすごい時間だったなってしみじみ思います。行く前はけっこう構えてしまっていたんですよね。英語ができないから英語の勉強もしてて、「どうやって英語で想いを伝えたらいいんだろう……?」とか一生懸命考えてたんですけど、いざ現地でライヴをやってみたら「言葉が通じなくても伝わるものがあるんだな」と思いました。

——ユキナさんは英会話教室に通ってましたよね。

ユキナ:通っていました、泣きながら(笑)。

——通った意味はありました?

ユキナ:……ここは「すごくあった」って言いたいところなんですけど(笑)、言葉以上にパッションが大事だなと思いました。

——結局、現場でのやりとりなんですね。

ユキナ:もちろん、流ちょうに英語が話せるようになったらもっと世界は広がるし、また違ったステージにも上がれると思うんですけど。

マツリ:意外と伝わるんだよね。リハーサルとか普段の会話でも、みんなこっちが伝えたいことをくみ取ってくれたり、どこの国の人も温かいなと思いました。

——でも、リハでの音づくりなんてすごくシビアだろうから、ちゃんと意志の疎通ができないと大変じゃないですか?

マツリ:そうですね。だから、知ってるワードを駆使して、身振り手振りで「ここの音はカットしたい」とか伝えて。意外と伝わったよね?

ユキナ:うん。ヨーロッパはヨーロッパ在住のPAさんにお願いして一緒にツアーを回ってもらったんですけど、すごいノリノリでやってくれました。

マツリ:曲をすごく聴き込んできてくれて、リハでも「この曲のここの部分を調整したいからもう1回やってくれ」とか言ってくれたり本当に熱心で、そのおかげで4公演目くらいにはバンドの音がまとまったんですよ。ヨーロッパはすごくいいPAさんに出会えましたね。

——アメリカツアーはどうでした?

マツリ:アメリカは公演数がヨーロッパよりも多くて。

ユキナ:毎日のスケジュールも、寝る、起きる、リハ、ライヴの繰り返しで。

マツリ:だから、途中から自分がどこにいるのかちゃんと確認しないとわからなくなっちゃって。しかも、バンド史上初めて6日連続でライヴをやったんですよ。

——しかも海外で。

マツリ:その上、どの会場もすごく暑くて、エアコンが効いてるはずなのにライヴが始まるとなぜかサウナみたいになっちゃって。

ユキナ:そのおかげで暑さ耐性ついたよね(笑)。

マツリ:どれだけ暑くてもライヴできる自信がある(笑)。

ユキナ:もう、空気がなさ過ぎて意識が吹っ飛びそうになった。

マツリ:そういう意味では、メンバー全員、ライヴ中に何かアクシデントが起こっても焦らないようにはなったかもしれない。

——そうやって海外で経験を積んだことは曲づくりに影響を与えていますか。

マツリ:とても与えていますね。メジャーデビューアルバム『来世は偉人!』は自分の中ではコンセプトアルバムという感じでピコピコ感とかキラキラ感を全曲多めにしたし、それも花冷え。の軸の1つとして今後も続けるんですけど、そういうしっかりした軸をもう2つとか3つぐらい欲しいなと思っていたんですよ。そんな中で、海外に行ってみて、「こういうジャンルを混ぜてみたらおもしろそうだな」とか、「テンポが速い曲が多過ぎるからもっと落としてみるか」とか、「チューニングを変えてみようかな」とか、次のアルバムに向けたアイデアがポンポン出てきて、そのたびにメモしていました。

ユキナ:メンバーでも話し合ったしね。

マツリ:そう、この間のツアーでは「こういうことをやりたい」っていう私の考えを伝えて、メンバーがやりたいことも聞いて、次のアルバムにどういう曲を入れるかという4人の意見をまとめたので、それに沿ってこれから制作が始まります。

——世界を回る中で新たな武器の素材を集めて、それをもって次の作品へと向かうんですね。

マツリ:ツアー中にホテルでつくった曲もあるので、それもまた違った感じに聞こえるんじゃないかと思います。

ユキナ:対バン相手からの影響もすごくありましたね。アメリカはドロップアウト・キングとフォックス・レイクと一緒に回るターンと、ギャラクティック・エンパイアと回るターンがあったんですが、同じバンドとずっと一緒にツアーを回ることは初めてだったので、めっちゃ楽しかったです。

マツリ:めっちゃ楽しかったよね。

ユキナ:一緒にいるうちにどんどんグルーヴが高まって、最後はすごく寂しくて。

マツリ:めっちゃ寂しかったけど、みんなカッコよくて、「これが最後なわけないじゃん。またすぐ会えるよ」って言ってくれたんですよ。

ユキナ:私はもうボロボロ泣いて(笑)。「この人達がいたから駆け抜けられた」って。

マツリ:バンドと別れたあと、ゴリッゴリのハードコアを聴きながら隣でユキナがめっちゃ泣いてて、「シュールだな」と思いました(笑)。

ユキナ:彼等のライヴを観ることで毎日気合が入っていたんですよ。

マツリ:どのバンドもラストの私達までつなげるためにライヴをしてくれているのがすごく伝わってきたので、最後はけっこうグッと来ましたね。

ユキナ:いつか日本にも呼びたいですね。

マツリ:それは絶対にやろうと思っています。日本のキッズとかバンド好きなお客さんにも絶対刺さると思うから。

ついに堂々と“オタク”を掲げた花冷え。

——今回リリースされる新曲「O・TA・KUラブリー伝説」はツアー中につくった曲ですか?

マツリ:海外へ行く直前につくった曲なんですけど、ピコピコ系の曲はこれで少しの間お休みにしようと思っています。なので、これまでに出したピコピコ系の曲以上にやりたい放題やりました。新しいところでいうと、AIの音声が入っていたりしてちょっと2.5次元を狙った曲になっています。

——英語のナレーションの部分ですか? 全然気付かなかった。

マツリ:そうです。AIの音声に喋らせて、途中からユキナの声をかぶせることで2.5次元ぽくなるっていう、ちょっと最新感がある曲になっています。

ユキナ:私的には、今回のツアーを経て「日本のカルチャーってこんなにウケてるんだ!」と思って。もちろん、情報としては知っていたけど、どこの国に行ってもみんなが「日本のアニメのこれが好き」「ポケモンが好き」って直接言ってくれるのがすごく嬉しくて。それでこのようなテーマの歌詞にしました。

——これまでの曲にもちりばめられていたけど、ついに堂々とオタクを掲げたという。

マツリ:オタクのことしか語られていない歌詞ですね。

——「セーラームーン」的なものも感じました。

マツリ:メンバーみんなそういうアニメが好きだったりするので、キラキラ感は入れました。

ユキナ:これまでとはちょっと違った、花冷え。にしかできない曲になったと思います。

——オタクを掲げられるバンドってなかなかいないですからね。そこも花冷え。の他のバンドとは違う特徴というか。ほかのバンドにも「実はアニメが好きで」という人はいるんでしょうけど、それを自分達の音楽にまでストレートに反映させることってなかなかできないと思うんですよ。だけど、花冷え。はそうじゃなくて、自分達の中にあるもの、生き様をすべて見せていくというパンク魂もある。そういう意味で「O・TA・KUラブリー伝説」はすがすがしいんですよね。

ユキナ:確かにすがすがしいですね(笑)。ストレートにありのままを提示したというか。

マツリ:そうだね。「自分達もオタクだから自信を持ってオタクについて語ってもいいだろう!」と(笑)。

ユキナ:そして、「世界にはこんなにオタクがいるんだ、実際に見てきたぞ!」と(笑)。

マツリ:そういうところがおもしろいんじゃないかと思いますね。オタクの人が聴けば「うん、わかる!」ってなると思うし、オタクじゃない人もこれを聴いて「オタクってなんかいいな」って思ってくれたら嬉しいですね。

——そんな想いが込められていたとは。

マツリ:今やオタクというのはライトなものになっている気がするんです。「電車で隣に座っているきれいなお姉さんもどうせオタクだからな!」っていう世の中になってきているから、今は堂々とオタクだって言っていい世の中なんだよっていうことが伝わったらいいなと思います。

ユキナ:「ラブリー」って英語で「すてき」っていう意味もあるじゃないですか。だから、「オタクってすてきやん」みたいな。

マツリ:「オタクでいるのは全然恥じることじゃないよ」っていうことをオタク本人から言えればなと(笑)。

——では、2024年はどんな1年にしたいですか。

ユキナ:2023年は世界中で吸収するものがたくさんあったので、それを2024年にフル活用して大放出したいですね。それはライヴにせよ、曲にせよ。あと、日本もツアーでしっかり回って、海外でもフェスがあるので、たくさん活動していきたいと思います。

マツリ:楽曲面に関しても、2023年はピコピコ感やキラキラ感を特に意識して制作していましたが、2024年はまた新たな花冷え。の一面を見せたいと思っているので、そういう部分がチラッと出てくるんじゃないかなと。

——最後に1つ聞かせてください。日本のアーティストの海外進出についてこれまでは、バンドなら先にちゃんと国内を回ってから世界へ行くべきだとか、海外のマーケットを狙うなら英詞の曲を出さなきゃいけない、みたいことを長年にわたって言われ続けてきたと思うんですけど、花冷え。はそういった“常識”をすべてぶち壊したと思うんです。皆さんのような立場から、これから世界に出ていきたいバンドにアドバイスというか、今の時代ならではの世界進出のやり方について何か言えることはありますか。

ユキナ:国によって見れる見れないはあるかもしれないですけど、YouTubeやSNSを通じてこんなに自分達の音楽は広がるんだと思ったし、それがあったからこそ日本語にもかかわらず私達の曲を歌ってくれたり、初めて行く国でも熱狂してくれたと思うので、音楽だけじゃなく、視覚に訴えかけるようなSNSの使い方も大事かなと思います。

マツリ:歌詞にあまり英語がない私達が海外へツアーに行った時に、ライヴで散々遊びまくって満足して帰ってくれるお客さんがたくさんいたから、もっと前から海外に行ってみてもよかったのかもって思ったんですよね。今思うと、私達は必要以上にビビってたなって。海外でライヴを組むとなると、交通費とかいろいろ経費がかかったりしてそう簡単にはいかないから無責任なことは言えないですが、少しでもバンド的に行きたい気持ちがあるなら行ってもいいと思いますね。

たとえ海外で知られていなくても、ヨーロッパやアメリカにはフラッとライヴハウスに遊びに行く文化があるし、タクシーでもはやりの曲だけじゃなくて、運転手さんの趣味でマイナーだけど超カッコいい曲が流れていたりして、音楽を日常的に聴いている人がすごく多いと思ったんですよ。だから、自分達から動いて見つけてもらいに行くのもアリだなってすごく思います。

Photography Hamanaka Yoshitake

■花冷え。「O・TA・KUラブリー伝説」配信先

■花冷え。メジャーデビューアルバム『来世は偉人!』特設サイト

author:

阿刀“DA”大志

1975年東京都生まれ。米テネシー州で4年半の大学生活を送っていた頃、北米ツアーにやってきたHi-STANDARDのメンバーと出会ったことが縁で1999年にPIZZA OF DEATH RECORDSに入社。現在はフリーランスとしてBRAHMAN/OAU/the LOW-ATUSのPRや、音楽ライターとして活動中。 Twitter:@DA_chang

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