菊池良 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/菊池良/ Wed, 28 Feb 2024 02:55:56 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 菊池良 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/菊池良/ 32 32 連載ショートストーリー:菊池良「きみはユメを見ている」第7夜  https://tokion.jp/2024/02/28/you-are-looking-at-a-dream-7/ Wed, 28 Feb 2024 09:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=225584 作家・ライターの菊池良による「ユメ落ち」をテーマとしたショートストーリー。現代版『夢十夜』とでも言うべき掌編の第7夜、時間の合わない時計が並ぶ不思議な時計屋に入った「きみ」を待つものとは。

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連載ショートストーリー:菊池良「きみはユメを見ている」第7夜 

 きみはこんなユメを見た。

 使い古された大きな手提げ袋が通りの端に放置されていた。忘れものにも見えるし、最初からそこへあったかのようにも見える。だれも拾うものはいない。だれも関心を持たなくなってすぐに風景と一体化した。視界に入っても、だれも認識しなくなった。そういうものだ。それは黒い塊で、表面はつやつやとしていて弾力もありそうだった。雨が降ると水滴を弾いて雫が光っていた。それで、たまに放し飼いの猫が鼻を近づけて様子をうかがうだけだった。

 しかし、日に日に黒い塊はすこしずつ大きくなっているようにも思えた。やがて手提げ袋におさまらないほどぱんぱんになっていった。しかし、だれも気に止めなかった。一度風景と同化してしまったら、もう違いを察知することはできない。

 じゃあ、だれがそんなことに気づいたのか? 手提げ袋が置かれた往来のすぐ目のまえに時計屋があった。その店主だ。その時計屋はめったに人が訪れず、店主はひまをもてあそんで、よく目のまえの通りを眺めていた。そうして、言語化できない哲学的思索に耽っていた。

 その時計屋で売っている時計はどれも時間が合っていなかった。そのうえ、時間の合わせ方もわからなかった。時間を合わせる機能がついてなかったのだ。間違った時間を刻んでいる時計はいいほうで、針が止まっているものや逆に動いているもの、針さえないものもあった。そこは時計じゃない時計を売る店だった。壁には「時間がわかるかたは教えてください」という張り紙が貼られていた。

 店主は何ものかが手提げ袋を置いていった瞬間を見た気がしていた。しかし、それが実際の記憶なのか、手提げ袋を眺めているうちに作られた偽の記憶なのかわからない。

 店主はついに手提げ袋を間近に見ようと往来に出た。なにかに引き付けられるように通りへ出た。それは朝だったのか、夜だったのか、それともその境目か。店主がゆっくりと指を伸ばし、震える指のさきで黒いかたまりに触れる。その瞬間、糸が切れたかのように、なにかが弾けた。すると、黒いかたまりは風船のようにゆっくりと浮上していく。やがて、それは空に浮かび、雲のように漂った。

 休暇で訪れた岬の展望台で、きみはカメラを首から下げていた。連れてきていた犬をゲージから出すと、嬉しそうにあたりを走り回っている。とっさにカメラを向けてシャッターを切る。見晴らしのいい景色が背景にくるよう画角を調整しながら。走っている犬を捉えるのは難しいが、くすぐったいような喜びが背中を走り、きみは確信する。ああ、この瞬間が幸せに間違いなく、いつか噛みしめるように思い出すときがくるはずと。それは休暇の終わりが近づいて自宅に戻ったときかもしれないし、20年後かもしれない。

 背景になにやらノイズのようなものが映る。空の一部が塗りつぶされたかのように真っ黒となっている。きみがファインダーから顔を離すと、それが黒いかたまりだということがわかる。

 きみはカメラを向ける。再びファインダーを覗き、黒いかたまりに向けてシャッターを切る。この光景をだれかに伝えなきゃいけないような気がして。

 そのとき、きみはユメから目覚める。最高の朝がやってくる。いままでにない最高の朝が。

Illustration Midori Nakajima

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連載ショートストーリー:菊池良「きみはユメを見ている」第6夜  https://tokion.jp/2023/11/30/you-are-looking-at-a-dream-6/ Thu, 30 Nov 2023 10:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=217753 作家・ライターの菊池良による「ユメ落ち」をテーマとしたショートストーリー。現代版『夢十夜』とでも言うべき掌編の第6夜、懐かしさを覚える劇場の中で出会った画家と哲学者は、「きみ」をどこへ導いてくれるのか――。

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Illustration Midori Nakajima

  きみはこんなユメを見た。

 照明がずっとついたままなことに、違和感を覚えた。きみは劇場にいて、座席のあいだを縫うように歩いている。設備が古く、すこし埃っぽい。だけど、なんだか懐かしい劇場だ。
 きみは自分が座る席を探している。服のポケットというポケットに手をつっこむが、チケットが見当たらない。舞台はもうはじまっているから、急いで座ったほうがいい。観客席を見回すと、ニ割ほどしか埋まっていない。きみを見かねた客が席から身を乗り出して話しかけてくる。
「さっきからうろちょろしているね」
「席を探しているんです」
 話しかけてきたのは、燕尾服を着た男だ。その顔を見て、きみははっとする。ある有名な日本画家だったからだ。和服を着た彼の肖像写真を見たことがある。燕尾服はめずらしい。
「適当に座りなさい。ガラガラだよ」
「だけど……」
 客席にはひとつずつ言葉が振ってある。おそらくチケットで指定してあるはずだ。画家が座っている席は、「ぬ – 相対」とプレートに書かれている。意味もなく、指でなぞってみる。
 きみは画家の横に立ちながら、舞台に目をやる。演目のようなものがつづいていた。舞台のうえには回転扉が設置してあって、ゆっくりと回っている。
 ときおり、その回転扉を通って人物が現れる。彼や彼女らは年齢も服装もばらばらで、共通しているところはない。たまにぼそっとなにかを言う人がいて、そのたびに客席はわっと盛り上がり、拍手が起こることもある。
 きみは舞台を見ながら首をかしげる。なにも面白くはない。退屈でしょうがない。画家がもう一度こちらを向き、問いかけてくる。
「なんでだと思う?」
「どういうことでしょう」
 聞き返すと、画家は舞台を指さす。
「だれも客席から舞台にあがらないのはなんでだろう」
「それは……」
「もしも向こう側にいったら、どうなるのかな?」
 きみはうなずくと、舞台へと近づいていく。一歩進むごとに、自分に向けられる視線が増えていくことに気がつく。たくさんの瞳がきみにまとわりつく。それはくすぐったくて、ときには痒い。手で払いのけようとしても、すぐに舞い戻ってくる。
 舞台のそばまでやってくると、客席とを隔てているものがあることに気がつく。透明でやわらかい膜が張ってあって、触るとぐにゃりと歪んで吸いついてくる。ぐっと手に力を入れて押し込んでいくと、ゆっくりと身体が舞台のなかに入っていく。耳のあたりでぱちぱちと火花のようなものが弾ける。全身を舞台に押し込んでいく。
 そして、きみは回転扉を通って、向こう側へと行く。
 そこは床が板張りになっている部屋で、老いた哲学者が机に向かっている。ペンをこつこつと鳴らしながら、ずっと紙になにかを書いている。頭上からぽたぽたとなにかが降ってきていて、指で触れるとインクの粒であることがわかる。しかし、触った瞬間、きみの体温でじゅっと蒸発する。
 哲学者がきみに気がついて、顔をあげる。
「待っていたよ」と微笑む。「さぁ、読んで」
 そう言って、きみに紙を渡す。しかし、きみは首を横に振り、紙を読まない。ばっと火が燃え上がり、紙を焼き切ってしまう。
「きれいだ」
 きみは消えゆく青白い炎を見つめながらささやいた。

 そのとき、きみはユメから目覚める。最高の朝がやってくる。いままでにない最高の朝が。

Illustration Midori Nakajima

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連載ショートストーリー:菊池良「きみはユメを見ている」第5夜  https://tokion.jp/2023/09/22/you-are-looking-at-a-dream-5/ Fri, 22 Sep 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=208764 作家・ライターの菊池良による「ユメ落ち」をテーマとしたショートストーリー。現代版『夢十夜』とでも言うべき掌編の第5夜、どこへ行くのかもわからない列車の中で「きみ」はある男と出会い、そして——。

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Illustration Midori Nakajima

 きみはこんなユメを見た。

 きみは列車に乗っている。列車は線路のうえを走っていて、車両は小刻みに揺れつづけている。この列車がどこへ向かっていくのかはわからない。アナウンスはなにもない。

 窓の向こうは暗くてなにも見えない。光らしい光はない。トンネルのなかを走っているのではないかと錯覚してしまうほどだ。じっと見ていると、闇に飲み込まれそうな気分になってくる。これ以上見るのは、よしておこう。

 きみは車両から車両へと移動している。列車の進行方向に向かって、歩きつづけている。なぜそうしているのかはわからない。先頭車両を目指しているわけではない。しかし、歩かなきゃいけないことだけはわかっている。

 だれかが追ってきているのか──いや、そうではない気がする。

 きみは連結部のドアを開けて、となりの車両へと足を踏み入れる。向かい合わせの座席が並んでいる。なんてことのない車両だ。乗客はだれもいない。いや、ひとりだけ”いる”。

 男が背広にネクタイをしめ、ハットも被っている。年齢は四〇代半ばほどか。足もとには革製のトランクケースが置いてある。

 男は窓のそとをじっと見ている。奇妙に感じるのはまったく視線を動かさず、まばたきをしないからだ。まるで陶器のように、男はじっとそこに”いる”。

 きみはちらりと男に視線を流しながら、その横を通り過ぎていく。そのとき、男が低い声でつぶやく。

「ほんとうは?」

 その瞬間、ある記憶がフラッシュバックする。

 階段だ。階段がある。その階段を、だれかがこつこつと歩いている。

 男が降りてきて、女がのぼっていく。すれ違う瞬間、ふたりは立ち止まり、すこしだけ顔を相手のほうに向ける。男女の唇が動く。なにかことばを交わしている。だが、なにを言っているのかはわからない。ほんの数秒だけことばを発しあうと、男と女は何ごともなかったかのように歩きだす。もう二度とふたりは会わないことを予感させる。

 しかし、それがほんとうの記憶なのか、なにかで見た映像なのか、きみには定かではない。

 つぎの瞬間、きみの身体が浮き上がり、壁に叩きつけられる。全身に鋭い痛みが走り、割れた窓ガラスが降りかかってくる。耳の奥が痛くて、なにも聞こえない。

 なんとか立ち上がって状況を確認する。どうやら列車が事故を起こしたようだ。きみは痛みをこらえながら座席を足場にして、頭上の窓から外へと這い出る。

 列車は横転していて、線路から外れて力尽きたように倒れている。窓という窓から、乗客が外へ出ようと身体を必死に持ち上げている。どこにこれだけの乗客がいたのだろうかと、きみは驚く。

 すでに外へ出た乗客は、呆然と立ち尽くすものや抱きしめ合うもので溢れている。車両にいた男のすがたは見つからない。

 きみは乗客たちに背を向けて、線路沿いに歩きはじめる。

「そのさきは、なにもありませんよ」

 うしろから声をかけられるが、きみは気にせず進んでいく。

 そのとき、きみはユメから目覚める。最高の朝がやってくる。いままでにない最高の朝が。

Illustration Midori Nakajima

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連載ショートストーリー:菊池良「きみはユメを見ている」第4夜  https://tokion.jp/2023/07/20/you-are-looking-at-a-dream-4/ Thu, 20 Jul 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=199504 作家・ライターの菊池良による「ユメ落ち」をテーマとしたショートストーリー。現代版『夢十夜』とでも言うべき掌編の第4 夜、ある部屋で「きみ」は不思議な出来事に遭遇する——。

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 きみはこんなユメを見た。

 きみは部屋の掃除をしている。

 床のうえにチョコレートの破片がまるでガラスのように散らばっていて、きみはそれをひとつひとつ器用に拾っていく。床にはあちこち本が積んであって、『縛られたプロメテウス』『失楽園』『人体の構造について』といった書名が目に入ってくる。

 壁には大きな両開きの窓があって、片側だけ開いていて、風が吹き込んでくる。その風によって赤いカーテンが舞い、窓際のつくえに置いてある地球儀がくるくるとまわっている。地球儀は古いからか表面がかすれてしまっていて、地形や国名を読むことはできない。しかし、そのすがたを見ると、きみは世界の位置関係がわかった気がして、とても安心する。

 外からはときおり遠雷が響いてくる。雨は降っていない。窓に近づいてよく外を見るとそれは雷鳴ではない。不死鳥の鳴き声だ。そばには鳥類学者がいて、耳をおさえながら観察記録をつけている。

 ひとが出入りできるドアはひとつしかない。そのドアを開けると、そこには森林が広がっている。窓から見える景色と違う。そばの道を馬車が通っていく。御者はきみをちらりとも見ない。いや、きみのすがたが見えていないのだ。どうやらこのドアは過去へつながっている。この森は100年か200年まえに、この家ができる前に存在した森なのだ。だから、御者からはきみが見えない。やがてこの森が切り開かれてこの家ができる。きみはそっとドアを閉じる。

 部屋の中央には手術台があって、そのうえにはフランケンシュタインが寝ている。静かに寝息をたてながら、気持ちよさそうに眠っている。きみはずっと気になっていたが、あえて見ないようにしていた。はっきりと認識した瞬間、それが目覚めて襲いかかってくるんじゃないかと思ったからだ。しかし、それは杞憂だった。怪物は微動だにしない。

 きみは「この部屋の持ち主はだれなのだろう?」と考える。「この寝ているフランケンシュタインなのだろうか」と。しかし、フランケンシュタインをつくった人間がいるはずだ。

 きみははっとひらめく。さきほど拾ったチョコレートをこのフランケンシュタインに食べさせれば、この怪物が目覚めるのではないだろうか。だが、それをたしかめる勇気はない。集めたチョコレートの破片を、きみは窓辺のテーブルに置く。だが、置いてすぐにチョコレートは風に乗って舞っていく。きみはその行きさきを目で追うが、すぐばらばらに散らばって見えなくなってしまう。

 怪物はまだ寝ている。

 きみはフランケンシュタインを起こさないようにして、そっとドアを開けて部屋を出ていく。きみは窓辺にあった地球儀を抱きしめている。ドアの向こうの森は、さっきよりもさらに鬱蒼としていて、馬車が進める通りもない。

 そのとき、きみはユメから目覚める。最高の朝がやってくる。いままでにない最高の朝が。

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連載ショートストーリー:菊池良「きみはユメを見ている」第2夜  https://tokion.jp/2023/02/25/you-are-looking-at-a-dream-2/ Sat, 25 Feb 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=167759 作家・ライターの菊池良による「ユメ落ち」をテーマとしたショートストーリー。純文学への豊潤な知識と深い愛をもとにさまざま執筆活動を行う著者が贈る、現代版『夢十夜』とでも言うべき新感覚の掌編をとくとご堪能あれ。

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Illustration Midori Nakajima

 きみはこんなユメを見た。

 呼び鈴が鳴ったことに気づいて、きみは玄関まで行く。しかし、ドアを開けると、そこにはだれもいない。まだ明け方で、外はだいぶ薄暗い。冷たい風が刺すように吹いてくる。

 きみは呼び鈴を押した相手を探さなきゃいけないような気がしてくる。

 ハンガーにかかっているお気に入りのコートを羽織り、買ったばかりのスニーカーに足を通すと、きみは勢いよく外に飛び出す。しかし、通りには人影がまったくない。街灯もついている。いや、それどころかいくつかの街灯は倒れていて、あたりに破片が散らばっている。

 道路のあちこちはひび割れていて、すき間から草は背丈以上に伸びていて、風で静かに揺れている。

 ふと足もとを見ると、新品だったスニーカーはあちこちが擦り切れていて、色もくすんでいる。あんなに着心地のよかったコートはぼろ布になっている。

 ふと建物の壁を見ると、スプレーの塗料で真っ黒いねずみが描かれている。しかし、それは書きかけで、ねずみの足もとが書かれていない。地面にはスプレー缶が無造作に転がっている。

 きみはキオスクがあるのを見つける。しかし、店のなかにはだれもいない。きみはコートのポケットをまさぐって硬貨を取り出すと、店頭に置いてキャンディの袋を手にとる。きみはそのまま持ち去ることが気持ち悪かったのだ。

 なぜそのキャンディを選んだのかは、きみはわからない。

 そのとき、きみは視界のなかに、四本脚のなにかが入ってきたことに気づく。イヌなんじゃないかと思う。もしイヌだったら、外に出てから初めて出会う生物だ。四本脚に近づく。きみはがっかりする。それはイヌではなく、イスだった。同じ四本脚だったので間違えたのだ。

 空がすこしずつ明るみ、太陽がのぼってくる。それにつれて、身体がだんだん軽くなってくる。いや、どんどん頭上に引っ張られていく。足が地面を離れ、身体が宙を浮く。太陽に引っ張られているのだ。

 見渡すかぎり、どこまでも廃墟がつづいている。どこからも生物の営みを感じない。きみは必死に目を凝らす。そのとき、宙に浮いている存在をもうひとり感じる。

 視界のはるかさきにもうひとりいる。きみと同じように太陽に引っ張られ、宙を浮いている。それは幼きこどもだ。

 きみは幼きこどもが呼び鈴を押したのだと直感する。身体をひねって幼きこどもに近づく。幼きこどももきみに近づいてくる。太陽に引っ張られながら、きみは幼きこどもと手を取り合う。手のひらから体温を感じる。生きているのだ。幼きこどもの目を見つめると、たしかにうるんで、光が反射している。

 きみはポケットからキャンディを取りだす。そして、幼きこどもに手渡す。ふたりでキャンディを口に入れる。きみは思い出す。それはきみが幼いころに好きだったキャンディだ。

 やがてふたりは大気圏を抜けて、宇宙を漂い出す。このままどこへ行くのだろうと考える。たどりつくさきでは、ひと足さきにほかの生物たちが身体を休めているのではないだろうか。幼きこどもの瞳を見つめながら、きみはそんなことを考える。

 そのとき、きみはユメから目覚める。最高の朝がやってくる。いままでにない最高の朝が。

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.06:アートディレクター/グラフィックアーティスト・伊波英里 https://tokion.jp/2022/10/26/monogatari-and-monodukuri-vol6/ Wed, 26 Oct 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=151932 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第6回のゲストはアートディレクター/グラフィックアーティスト・伊波英里。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第6回のゲストはアートディレクター/グラフィックアーティスト・伊波英里さんです。

伊波さんは東京を拠点とするアートディレクター/グラフィックアーティスト。グラフィックデザインに軸足を置きつつ、映像やプロダクト、空間演出など、様々なメディア・領域で多岐にわたりご活動されています。

伊波さんがデザイン、アートディレクションを担当した2020年「ふと、ギフト。パルコ」キャンペーン(クライアント:パルコ)

そんな伊波さんが挙げたのはつぎの3作品でした。

・ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』(岩波書店)

・楳図かずお『わたしは真悟』(小学館)

・ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯』(講談社)

さて、この3作品にはどんな”ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

デザインや言葉選び、哲学性に惹かれた、ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』

──1冊めはミヒャエル・エンデの『はてしない物語』です。児童文学のなかでも特に評価が高い作品です。エンデの作品は、ほかに『モモ』も有名ですね。この本にはいつ出会われたのでしょうか?

伊波英里(以下、伊波):たぶん映画(1984年に『ネバーエンディング・ストーリー』のタイトルで公開)が先ですね。映画を見て、図書館で小学生のときに借りて。最初は挫折したんですよ。児童文学としてはわりと長編じゃないですか。

だけどやっぱり気になって、もう一回チャレンジして読んだ記憶がありますね。小学校3、4年生ぐらいだったと思います。

──さきに映画を見てから、原作を知ったんですね。

伊波:劇中で主人公のバスチアンが読む本の名前が「はてしない物語」。原作があるって知らなくて、図書館でたまたま見つけて、ほんとうに本が存在するんだって驚いて借りました。

──原作は二重構造になっていて、バスチアンが読む「はてしない物語」という本を、読者は本のなかでいっしょに読むという構成になっています。

伊波:面白いですよね。主人公に起きる出来事を追体験するような構造ですよね。

本を読むことでしか得られない感覚があることが、読んでみて初めてわかりました。

──バスチアンは学校の物置で「はてしない物語」を読むんですけど、どこで読んでいたかって覚えていたりしますか。

伊波:図書館で借りて、家で読んでいたと思いますね。ひとりで……。ちょうどバスチアンと同じぐらいの年齢で。

最初のページで文字が反転されていたり(冒頭、古本屋の名前が鏡文字になっている)、こどものときは謎解きをするような気持ちで読んでいました。

──こういう仕掛けって、うれしいですよね。

伊波:うれしいですよね。

ほかにも、文字は二色刷りにされていて、現実世界とファンタジーの世界が色で認識できたり、急にフォントが変わったりと想像力をかきたてられました。

──ページのデザインが凝っていて、急にフォントが変わったり、二色刷りになっていたり、縁取りがあったりと読者をわくわくさせる工夫が詰まっています。

伊波:あとこどもながらに、翻訳の面白さも印象に残っていますね。

『ネバーエンディング・ストーリー』だとすんなり頭に入ってくるんですけど、『はてしない物語』って言われると、趣があるというか。「終わらない」じゃなくて「はてしない」なのかって。

おとなになって改めて読むと、女王さまを「幼ごころの君」って翻訳するところがすごく秀逸だなぁって思って。

そういう言葉選びは今もぐっときます。

あと、「虚無」が襲ってくるっていう場面があるじゃないですか。それがすごく怖くて。自分に危害を与えるような分かりやすい悪役じゃなくて概念ってところが。

──ちょっと哲学的でもありますよね。

伊波:そうですよね。精神的な死を連想させて怖かったです。

ファンタジーのような「きれい」なものの中に混在している「闇や怖さ」に惹きつけられたのかもしれません。

──そう言われると、児童文学は「怖い」が重要な要素としてある気がします。

伊波:同じミヒャエル・エンデの『モモ』の「時間どろぼう」も怖かったですね。。

あとは江戸川乱歩の「少年探偵団シリーズ」も読んでいましたね。表紙がホラー映画のポスターのようで怖いけど、装幀が魅力的で気になって読んでいました。

密度の高い絵と怖くも美しいストーリーが最高な、楳図かずお『わたしは真悟』

──楳図かずおさんの『わたしは真悟』。いま伊波さんが言った「怖くてきれい」は楳図さんの作品にも当てはまる気がします。こちらはいつごろ出会ったんでしょうか。

伊波:楳図さんの作品は、高校を卒業して美術学校に入ったぐらいのときに初めて読んだんです。『わたしは真悟』や『14歳』、『漂流教室』も。

『わたしは真悟』は私の中ではラブストーリーとして捉えていて、一番好きなラブストーリーなんです。描写やストーリーは怖いんですけど、悟と真鈴の考え方や行動が一点の曇りもなくてなんて美しいんだろうって思うんです。

──胸に突き刺さる表現がたくさん出てきますよね。

伊波:扉絵が特に素晴らしいです。ひとつの絵画として完成しているなって。

ストーリーと直接は関係ない絵なんですが、ページをめくっているとそういう扉絵がいきなり挟まれるのがすごく衝撃的で。

他にもドット絵のコマがページ全面で描かれていたり。『わたしは真悟』はビジュアルブックとしても捉えていて、何度読んでもしびれます。

(ふたりともしばらく『わたしは真悟』の絵を鑑賞する)

──絵も、せりふも、どれもかっこいいです。

楳図さんはたぶん子どもの時の気持ちをきれいに保ったままおとなになることができた稀有な方なんだろうなって思うんです。それゆえに描ける表現がたくさんあって。

例えば「あとにアイだけが残った」(作品の後編に出てくるせりふ)とかは心の純度が高くないと避けてしまうと思うんですよね。

──すごくピュアですよね。

伊波:そうですよね。嘘がないからまっすぐだけど直視できる。すごくドキドキします。

あと、機械が人格を持つってまるでAI(人工知能)じゃないですか。『her/世界でひとつの彼女』(2013年公開のSF映画。監督・脚本はスパイク・ジョーンズ)って映画も好きなんですが、AIを題材とした物語としてすごく早いなって。

──ネット社会を先取りしたような描写もあります。いま改めて読むと、とても示唆的な漫画ですね。

ものづくりへの真摯な姿勢に勇気づけられる、ボブ・トマス『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯』

──こちらの本はウォルト・ディズニーの評伝です。

伊波:この本はおとなになってから読みました。わたしのクリエイティブはディズニー作品やディズニーランドの影響がすごく大きくて、選んだ1冊です。

──この本はウォルト・ディズニーの生涯を書いたものです。

伊波:自分がクリエイティブの仕事をするようになってから特に勉強になるというか、勇気づけられた本ですね。

映画やディズニーランドを作り上げるまでに、けっこうなトライ・アンド・エラーをしていますよね。今では考えられないくらいこんなにお金で苦労していたんだとか。

本にロイ・ディズニー(ウォルトの兄。弟とともに会社を創業し、経営面から支えた)が出てきますけど、東京ディズニーランドにも銅像があるんですよ。それがけっこう控えめな場所にあって。

こどものころからウォルトと一緒に会社経営をしていたっていうのはなんとなく知っていたんですけど、この本を読んで初めてロイ・ディズニーの貢献度がすごくわかって。

ウォルトがイマジネーションを優先するあまり、周りを見ずに突っ走ってしまいそうになる時に、彼が軌道修正していたことを知って。彼がいなかったら今のように商業的に成功していなかっただろうと思います。

特にわたしが勇気づけられるのは、ウォルトはいいものを作りたいっていう欲求に対して迷いがなくて、時間もお金も惜しみなく投資するところや、常にアップデートし続けるところです。

──予算に対して倍以上の制作費をかけるなど、驚くところがたくさんあります。

伊波:大体の人が『白雪姫』のエンディングって、王子様が白雪姫にキスをして目覚めると認識していると思うんです。でも、原作のグリム童話では違う目覚め方なんですよね。

それぐらいディズニー作品が原作を超えて浸透している証拠だと思います。

言語も住んでいる国も違うのに、共通言語のように同じ作品を見ている。さらに歴史も積まれていて、おじいちゃん、おばあちゃんからこどもまで知っているエンターテインメントって他にないと思います。

──本を読んで、ひとりでも多くの人を楽しませたいっていう情熱を感じました。

伊波:そうですよね。ディズニーランドを建設する予算を作るために、いち早くテレビに参入していたり。当時はまだ映画とテレビが対立していて、映画会社はテレビに参入することを良しとしなかったのにもかかわらず、ディズニーはみんなに知ってもらうためにはテレビが一番効果的だと確信を持って進出していくという。メディアの使いかたも感度が高いですよね。

この本の中でウォルトは「僕自身はもうディズニーじゃない。昔はディズニーだったけど。いまは、ディズニーという名前は、長いあいだに僕らが大衆の心の中に育ててきたものを指しているんだ」と言っています。自身の仕事に対してアーティスト個人の範疇を超えた俯瞰した視点を持っていて驚かされました。

──ちなみにディズニーランドには行かれるんですか?

伊波:何度も行っています。むしろディズニーランドから好きになりました。

ディズニーランドはタイポグラフィや装飾、ショーウィンドウ、衣装や建築物など、普通なら気にも留めないような微細な箇所まで丁寧に作り込まれているのですが、こうしたディテールの積み重ねがあの空間の臨場感やリアリティを作り出しているんだと思います。

制作や仕事の場面で、観る側をあなどらないその姿勢を見習っています。

──本のなかにも、アニメーションっぽい雰囲気を残した建築をどうつくるか試行錯誤する場面があります。

伊波:ディズニーランドって「夢がかなう場所」というキャッチコピーがあるんですが、一見きれいすぎることばじゃないですか。きれいなことばだからこそ、言うのはなかなか勇気がいることだと思うんですけど、この本を読むと夢をかなえるための泥臭さがわかるというか、実際にウォルト自身ががむしゃらに行動して夢をかなえているから説得力があるんです。

この本を読んだうえでディズニーランドに行くと、より感慨深いものがありますね。

──伊波さんのクリエイティブに感じるファンタジーな部分が、なぜそうなっているのかわかった気がします。

伊波英里

伊波英里
創形美術学校卒業後、ニューヨーク滞在を経て、2010年よりアートディレクター/グラフィックアーティストとしての活動を開始。 グラフィックデザインに軸足を置きつつ、映像やプロダクト、空間演出など、表現媒体を問わず多岐に渡り活動している。
オフィシャルサイト:https://www.eriinami.com/
Twitter:@eriinami
Instagram:@eri_inami

Photography Kousuke Matsuki

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.05:イラストレーター/アーティスト・JUN OSON https://tokion.jp/2022/09/08/monogatari-and-monodukuri-vol5/ Thu, 08 Sep 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=143261 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第5回のゲストはイラストレーター/アーティストのJUN OSON。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第5回のゲストはイラストレーター、アーティストのJUN OSONさんです。

JUNさんは鎌倉在住のイラストレーター/アーティスト。さまざまなカルチャーへの愛や人・社会への鋭いまなざしが感じられる、ポップかつニヒル&シュールな作風を特徴としています。近年ではロンドンや香港での個展開催、ドバイやパリでのグループ展の参加など、国境を超えて活動の場を広げています。

そんなJUNさんが挙げたのは次の3作品でした。

・村上龍『限りなく透明に近いブルー』(講談社)
・横山裕一『ニュー土木』(イースト・プレス)
・三輪滋『たいようのきゅうでん』(復刊ドットコム)

さて、この3作品にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

小説についての固定観念を破壊してくれた、村上龍『限りなく透明に近いブルー』

──村上龍さんのデビュー作である『限りなく透明に近いブルー』。こちら何歳の時に出会ったのでしょうか?

JUN OSON(以下、JUN):確か20歳ぐらいですね。小説の主人公のリュウもそれぐらいですよね。当時大学生だったんですが、同級生から「村上龍って知っている?」って言われて、「名前は聞いたことあるけど、読んだことはないなぁ」って。「『限りなく透明に近いブルー』ってすごいよ。ぶっ飛んでいるよ」って言われて、じゃあ読んでみようかと思って買いました。

──『限りなく透明に近いブルー』は芥川賞も受賞した純文学作品ですが、純文学はけっこう読まれていたんですか?

JUN:小学生の時に教科書で夏目漱石とかを読むじゃないですか。そういうのを読んで、きらいではなかったですね。

ただ、小学校、中学校とそんなに本を読む子どもではなくて。ほんと久しぶりに読んだ感じですね。ちゃんと自分から読んだ小説っていうのは。

──読んでみた第一印象は覚えていますか。

JUN:ぶっ飛んでいるなって。小説でセックス、ドラッグ、ロックンロールが描かれるなんて想像もしてなかったですよね。

小説のイメージって、崇高な美しい物語であるっていうか。その固定観念が壊されました。こんな自由なんだって。価値観が思いきり壊されたって意味ですごく衝撃的でしたね。

──登場人物達と年齢が近い時期に読んだってことで、共感は覚えましたか。

JUN:うーん、単純にかっこいいって思いましたね。作品のロックンロールな雰囲気や退廃的な感じが刺さったんですよね。

まぁ、でも若者ってそうじゃないですか。誰しも自分のやりたいことがわからず、ちゃんとした大人になれるかわからずにモヤモヤしている時に、それを発散させてくれるものがあると刺さりますよね。そういう意味では共感していたのかな。

──先ほど固定観念が壊されたって言いましたが、『限りなく透明に近いブルー』には破壊力がありますよね。

JUN:逆に言うと、破壊力のみといいますか。たぶん村上龍さんもとにかく破壊するってことで書いたんだと思うんですけど。それを感じたんですよね。

──村上龍さんがこの作品を発表したのは24歳ですね。武蔵野美術大学を中退しています。作品にも美術や音楽の影響があると論じられました。JUNさんは大学生の時は絵を描かれていたんですか?

JUN:いえ、僕はもともと絵は描いてなかったんです。デザイナーになりたかったんですよね。大学のデザイン科に通っていて、村上龍を勧めてくれたのもデザイン科の友達でしたね。

同じぐらいの年齢でも、僕はそういう学生じゃなかったですし、主人公は米軍基地の近くに住んでいるじゃないですか。だから、僕にとっては非現実的というか、アメリカの小説を読んでいるみたいな雰囲気を感じ【ナド?】ましたね。

──村上さんの他の作品はそこから読んだんですか。

JUN:小説を7、8冊、あとエッセイも読みましたね。

僕はその時個室ビデオで働いていたんですよ。友達から「めっちゃ楽だからやらない?」って紹介されて「行く行く」って。

で、たぶんそういう選択をすることにも影響を受けていたと思うんですよね。人と違う選択をするっていうか。

そこは本当に暇で、受け付けをする以外は何していてもよくて、本を持ち込んでかなり読んでいましたね。『愛と幻想のファシズム』や『69 sixty nine』、『昭和歌謡大全集』とか。

どれもぶっ飛んでいて、ただの物語じゃないですよね。ひと癖ある感じが読んでいておもしろいなって。

映画でいうと、クエンティン・タランティーノの作品みたいな。

──いろいろカルチャーの引用もあって。セリフもカッコよくて。

JUN:そうですよね。セリフの言い回しもかっこいいんですよね。

最近は映画とかを見ることのほうが多かったんですけど、さっき久しぶりに『限りなく透明に近いブルー』のあらすじを読んだら、また小説を読みたいなぁって思いましたね。

やっぱり言葉って、思考がばっと広がるじゃないですか。言葉で言われると、想像力が広がりますよね。

実は小説を読んでいた時期に、一度「小説家になろう」と思ったこともあります。一ヵ月ぐらいだけでしたが。

破綻せずにイカれている「ネオ漫画」、横山裕一『ニュー土木』

──横山裕一さんの『ニュー土木』。こちらの本は2004年2月に出ています。

JUN:僕は1979年生まれで25歳ぐらいの時に上京しているんですけど、ちょうどその時ぐらいに買いましたね。

横山さんのマンガは確か『Casa BRUTUS』に載っているのを見たことがあって。読んでみると、相当変だなって。これも今までのマンガの価値観をひっくり返されましたね。「マンガだよな?」みたいな。

──横山さんの作品は「ネオ漫画」とも呼ばれています。セリフが少なく、擬音を多用した作風が持ち味ですね。

JUN:僕はそんなに実はマンガは通ってなくて。一応小中学生の時は週刊少年ジャンプで『ドラゴンボール』とかそういうのは読んでいたんですけど。コミックスもあまり集めたことがなくて。

一般的なマンガの絵にそんなにハマらなくて。

ただ、『ガロ』系は好きだったんです。つげ義春さんとか。

──クセが強いといいますか。

JUN:そうですね。クセが強くて、でもおもしろいっていう。内容はあるようなないような感じなんですけど、一応話にはなっている。こんなこと考える人なんて他にはいないだろうなっていう。マンガならではの表現でありながら、普通のマンガではないみたいな。

横山さんのマンガもその延長で好きになった感じですね。

──横山さんの作品はキャラクター造形も独特ですよね。

JUN:それも影響を受けていますね。横山さんのマンガって変なキャラクターがいっぱい出てくるじゃないですか。しかも、そのキャラクターがドレスアップするだけで終わったりしますからね。度肝を抜かれました。

──それにどの作品もセリフがほとんどありません。

JUN:そうなんですよね。セリフがあっても、変なセリフなんですよね。「見ろ、山だ」って。どういう世界で誰が言っているのかもよくわからないですよね。「山だ」って、どの立場の人間が言っているのか。

その割には起こっていることは、この世界の中では秩序だっているんですよね。

──何かあるんだけど、その背景は全然わからない。

JUN:そうですよね。

横山さんのマンガも、『限りなく透明に近いブルー』もそうなんですけど、すでにあるものをぶっ壊しているところに衝撃がありますよね。なかなかそれってやろうと思ってもできないじゃないですか。

ただのデタラメじゃなくて、ぶっ飛んでいるけど本当にギリギリでマンガや小説として成立しているっていう。

やろうと思えばもっとめちゃくちゃにできるんでしょうけど、それってもう「おもしろい」とは別のものになってしまうので。

──確かに横山さんのマンガって一見めちゃくちゃですけど、破綻はしていないですよね。

JUN:そこですよね。破綻せずにイカれている、みたいな。

──村上さんも横山さんも、ある種別ジャンルから来たっていう共通点があるかもしれません。村上さんはもともと美大に通っていて、横山さんはファインアートの分野からマンガを描くようになりました。

JUN:確かに。外にいるほうが全体像を見やすいっていうのはあるのかもしれませんね。

子どもの頃に強烈な印象を残した、三輪滋『たいようのきゅうでん』

──こちらの『たいようのきゅうでん』。これは子どもの頃に読んだ?

JUN:そうですね。うちはたぶん絵本って豊富にあったほうじゃなかったような気はするんですけど。

それでも子どもの頃に読んでもらったり読んだりしている中で、なぜかめちゃくちゃ心に残りましたね。その理由はわからないんですけどね。

──他にあった絵本で覚えているものはありますか。

JUN:いや、全くと言っていいほど記憶にないんですよね。『ぐりとぐら』を読んだ記憶はあるんですけど、家にあったかどうかは定かじゃないですね。この『たいようのきゅうでん』は確実に家にあった記憶があるんですよね。

──この絵本は森の中で宮殿を見つけた旅人が、中に入ると天井が開いて太陽が帰ってくるという内容です。夜になると太陽は宮殿に帰ってきて、ごはんを食べたりお風呂に入ったりするというわけですね。 JUN:物語的には絵本の中では想定の範囲内だと思うんですけど。でも、子どもなりに太陽の家があるっていうのが衝撃的で。

──太陽が家に帰ってきてお風呂に入ったり、料理をしたりっていうのがシュールですよね。

子どもながらに太陽って家に入れるのかな~って。

それと太陽の顔が少しだけ怖いんですよね。子どもの頃に読んでいて、それも引っかかるポイントで。

──全体の色合いが太陽だからか、熱帯っぽい感じといいますか。

JUN:今小さい子どもがいるんで、絵本を読んだりするんですけど、物語的にはよほど変って感じではないんですけどね。

バランスですよね。話のおかしさと絵の色合いと、ほんのちょっとの怖さというか。

──ほんの少しずつ普通の絵本からズレている気がしますね。

JUN:昔こういう絵本を読んだっていうのをミクシィに書いたら、「私も読みました」っていう反応があって。

そしたら復刊ドットコムっていうサイトで復刊をリクエストできるって知って、それでリクエストを出してまた手に入れたっていう感じですね。

──三輪さんはデザイン制作会社に勤務したあと、小説で「文學界新人賞」を受賞しています。『たいようのきゅうでん』を描いたのはその後ですね。これもある意味で「ジャンルの越境」なのかもしれません。

JUN:そういう人の作品に引かれるのかもしれないですね。基本的に何かをぶっ壊して、変なものを見せられる人のほうが、僕は好きですね。

──今回挙げていただいた3作品とも、破壊しているんだけど、破綻はしていないところがポイントなのかもしれません。

JUN OSON(ジュン・オソン)

JUN OSON(ジュン・オソン)
鎌倉在住のイラストレーターでアーティスト。ニヒルでポップな作風が特徴。近年はイギリスやフランス、スペイン、ドバイ、香港、北京などでのショーやアートピースのリリースなど、世界で活動中。



オフィシャルサイト:https://junoson.com
Instagram:@junoson

Photography Kazuo Yoshida

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.03:企画デザイン会社・2時(楢﨑友里、田中桃子) https://tokion.jp/2022/06/21/monogatari-and-monodukuri-vol3/ Tue, 21 Jun 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=124361 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第3回のゲストは企画デザイン会社・2時の楢﨑友里と田中桃子。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『タイム・スリップ芥川賞』(ダイヤモンド社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第3回のゲストは企画デザイン会社・2時の楢﨑友里さん、田中桃子さんのお2人です。

左から:2時の楢﨑友里、田中桃子
左から:2時の楢﨑友里、田中桃子

2時は、フェリシモで7年間にわたりユーモア雑貨の商品企画に携わってきた楢﨑友里さんと田中桃子さんが2020年に設立した企画デザイン会社です。世の中を楽しくするモノやコトを生み出すことを活動の指針として、犬が「勝訴」の判決をくわえて走っている写真がSNSでも大いに話題となった犬用おもちゃ「勝訴マスコット」(2021年、バンダイ)や、ファスナー上を「P」の文字の形をしたスライダーが移動する「動く点Pポーチ」(2021年、Creco)など、時計の2時の方角「ななめ上」の発想からユニークなプロダクトを企画担当として社会に送り出しています。

そんなお2人が挙げたのは次の3冊でした。

・穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社)

・トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮社)

・バカリズム『架空OL日記』(小学館)

さて、この3冊にはどんな“ものづくりとものがたり”があるのでしょうか?

(『本当はちがうんだ日記』『ゼロからトースターを作ってみた結果』は楢﨑さん、『架空OL日記』は田中さんが挙げました)

「こんな考え方もあるのか」と気付かせてくれる、穂村弘『本当はちがうんだ日記』

穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社)。歌人・穂村弘のエッセイ集。日常で起こるさまざまな出来事の中で、自意識が強すぎるがゆえに悩む姿をおもしろおかしく綴っていく。
穂村弘『本当はちがうんだ日記』(集英社)。歌人・穂村弘のエッセイ集。日常で起こるさまざまな出来事の中で、自意識が強すぎるがゆえに悩む姿をおもしろおかしく綴っていく。

──歌人の穂村弘さんのエッセイ『本当はちがうんだ日記』。こちらはいつ頃読まれたんですか?

楢﨑友里(以下、楢﨑):社会人になってからだと思います。大学の時までは、小説はすごく読んでいたんですけど、エッセイはあまり興味がなくて。ほとんど読んだことがなかったんです。

でも、たしかたまたま人に「穂村さん、おもしろいよ」と教えてもらって、それで1冊読もうかと思ったのが始まりです。

──『本当はちがうんだ日記』がその1冊め?

楢﨑:そうです。

──この本はだいたいどれも4ページほどで終わるエッセイです。基本的に穂村さんの日常を描いていて、どれもくすっと笑えますよね。

楢﨑:すごく読み心地は軽いんですが、それぞれオチもちゃんとあって、切り口がすごくおもしろいと思いました。どのエッセイも短いんですが、どれも味つけが濃いというか。

日常の切り取り方がすごく秀逸で、「ああ、こんな考え方があったんだ」って。

しかも、読者に警戒心を与えない、穂村さんのちょっとダメな部分を出して日常を切り取っている感じが絶妙で。この本を読んでから、穂村さんのエッセイをたくさん読んだほどハマった1冊です。

──オチのつけ方が毎回すごいですよね。ぼくはあだ名のエピソードが好きで。自分は人生で一度もあだ名をつけられたことがない、っていうエッセイなんですけど、急に別の話になってオチがつくっていう。楢﨑さんは特にこのエピソードが印象に残ったっていうのはありますか?

楢﨑:『本当はちがうんだ日記』に載っているものだったら、まず最初に出てくるエスプレッソの話ですね。書き出しからもう心を掴まれちゃって。私はエスプレッソが好きだって言いながら、苦くて飲めたものじゃないっていう始まりで。

穂村さんのエッセイの特徴だと思うんですが、エッセイの中で何も起きていないじゃないですか。スタバに行ってもグランデが頼めないとか、エスプレッソが苦くて飲めないとか。

事件は何も起きていないし、ドラマチックなことはほとんどない日常の出来事なんですよね。例えばネットオークションをしているだけなのに、なんでここまでおもしろく書けるのだろうかって。すごく日常を楽しむ力がある方だなと思いました。

エスプレッソの話も、エスプレッソを飲んだだけなのに、こんな何ページも書けるのかというのがまず衝撃でした。すごくそのくだりは印象に残っています。

──自意識って言っていいのかわからないですけど、内面の逡巡や、ほんとうは背伸びしたいけど恥ずかしいみたいな部分が、すごく共感して読めますよね。こういう本を読むと、文体が頭の中に移っちゃって、日常をそういう目線で過ごすようになりませんか?

楢﨑:めちゃくちゃわかります。そういう意味でクリエイティブな部分でも影響を受けた1冊でもあります。

私達が作るものは日常的に使うものなので、発想において、いかに毎日の生活の中で空想するかというところがあります。「今目の前にあるコップがどんなコップだったらおもしろいだろう」とか。「クッションがどんな形だったらおもしろいだろう」とか。

そういうイマジナリーな部分がかなり必要で、毎日を楽しい目線で見ていくみたいなのは重要なんです。かなり穂村さんの本には影響を受けているんじゃないかなと思います。

──確かにこのエッセイって空想で、日常の中で「こう思われたらどうしよう」と考えをめぐらすだけだったりしますよね。日常をどう見るか、という本ですね。この目線で日々をすごしていると、いろんな発想が出てきそうですね。

ものづくりの過程で起きているさまざまなことを意識できるようになる、トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』

トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮社)。トースターをゼロから作ろうと思い立った著者が鉱山などをまわって原材料を集めるところから始めるノンフィクション。
トーマス・トウェイツ『ゼロからトースターを作ってみた結果』(新潮社)。トースターをゼロから作ろうと思い立った著者が鉱山などをまわって原材料を集めるところから始めるノンフィクション。

──『本当はちがうんだ日記』が何も起きてないとしたら、2冊目のこの本はすごく行動する本です。

楢﨑:そうですよね、とんでもない行動力です。この本を読んだのも社会人になってからで、何で読んだのかきっかけは思い出せないんですけど、ほんとうに興味を持ってたまたま読んだという感じです。

──2012年に出版されているので、ちょうど10年前ですね。この本はトースターを個人で一から作るっていう。それも本当に一からですよね。

楢﨑:内容的にもすごくワクワクしておもしろいっていうのはもちろんなんですけど、やっぱり私達はものづくりをしている立場で、ぜんぶ自分達の手でつくるのではなくて、かなり分業しているんです。

プランナーが考えたものを、日本のメーカーや海外の工場でたくさんの分業を経て完成させます。ただ、それを意識する機会って少なくて、自分達が考えたものがある日サンプルになって完成した状態で見られるわけです。この本を読むと、その過程で何が起きているのかをすごく意識できるんです。

私達みたいなものづくりをしている人は、絶対に読んだほうがいいんじゃないかなと思います。

──無茶なチャレンジをおもしろおかしく書いてある本ですが、1つの製品が出来上がるまでにどれだけの工程があるかを知ることができる本にもなっています。

楢﨑:途中からずるもし始めるんですよ。最初は産業革命以前の道具を使わないってルールだったのに、鉄鉱石を溶かすために、電子レンジを使い出すとか。そのへんのバランスもシビアじゃなさすぎるのが最後まで読めるポイントかなと思います。

──取りかかってみたはいいけれど、さすがに個人じゃ溶鉱炉を作れないっていう部分ですよね。でも、どうにか達成しようと電子レンジが出てくる。

楢﨑:そうなんです。すごいチャレンジ精神で、思いついたことをちゃんと実行する力というか、それを最後までもっていて発表したり、1冊にまとめる力みたいなものもすごい。「言うは易く行うは難し」を実際にやってみたところがすごいですよね。

──トースターっていうところもいいですよね。日常で使うものってところが。

楢﨑:そうですよね。「パンが飛び出す仕組みってどうなっているんだろう?」「どうやって焼いているんだろう?」と気になる部分ですよね。

──できあがったトースターが表紙になっていて、そのインパクトもすごいです。

楢﨑:この本を読むと、ふと生活の中で身の回りのものを見た時に、ちょっとゾッとするというか。「あれもこれも、こうやってできているのかな?」って。ものすごく分業された世界で住んでいるんだなってことがわかる内容かなと思います。

ものづくりの仕事をしていたら、100均ってすごく怖いんですよ。こんな便利なものが100円で売られているのかって。それもたくさんの分業でできているのかと思うと、もうほんとうに倒れそうになりますね。

──著者のトーマス・トウェイツさんはもう1冊『人間をお休みしてヤギになってみた結果』(新潮社)という本を出しています。こちらもタイトルどおり、人間からヤギになってみようと著者が悪戦苦闘する内容です。

日常を楽しくするための視点を教えてくれる、バカリズム『架空OL日記』

バカリズム『架空OL日記』(小学館)。お笑い芸人のバカリズムがOLになりきって書いた日記をまとめたもの。架空の職場での同僚とのやりとりを中心に展開していく。ドラマ化、映画もされた。
バカリズム『架空OL日記』(小学館)。お笑い芸人のバカリズムがOLになりきって書いた日記をまとめたもの。架空の職場での同僚とのやりとりを中心に展開していく。ドラマ化、映画もされた。

──3冊目はバカリズムさんの『架空OL日記』。1冊目、2冊目はエッセイ、ノンフィクションときましたが、田中さん、これはどう紹介したらいいでしょうか?

田中桃子(以下、田中):なんといったらいいんでしょうね。もともとはブログで書いていたものが書籍化されたみたいです。

7、8年ぐらい前に、そうとは知らずにたまたま本を見かけて、「この“バカリズム“って芸人のバカリズムさんかな」と思って手にとったのがきっかけです。あのバカリズムさんが本を出しているんだって。

──バカリズムさんがOLになりきって日記を書くというすごく不思議な本です。読んでみて、どんな印象でしたか?

田中:ぜんぶ嘘の出来事なんだっていう驚きがやっぱり一番にありました。書いてあることに違和感もあまりなくて、「わかるわかる」みたいな内容がけっこう多くて。

さきほどの穂村さんの本とも通じると思うんですが、ものの見方で日常はいくらでも楽しくできるんだなって思った作品です。こんなふうにものごとを見られたら楽しいよなぁって。

──ほんとうに誰にでも起こり得ることを、ちょっとの言い回しとかで、楽しい出来事にしていますよね。

田中:そうですよね。残業したりとか、帰りに化粧品売り場に行ったりとか、デパ地下に寄るとか、休日はゲームしてとか。そういうほんとうに何気ない日常を切り取っていますよね。

──ストーリーがないのがいいのかもしれないですね。バカリズムさんの書き方も、すごく抑制が効いていて。

田中:日記なので1つの話がすごく短いんですけど、短い中にもちゃんとオチがついていて。最後の一文がすごく秀逸だったりとか。

──妄想なので展開はいくらでもできるはずなのに、日常のちょっとしたおもしろさを膨らませている感じがすごくうまいですよね。特に印象に残っているエピソードはありますか?

田中:日記にタイトルがついていると思うんですけど。そのタイトルだけ聞いたら「どういう話なんだろう?」ってなるのが好きですね。

例えば「グラデーション」。どういう話かというと、同僚達とおしゃべりしていると、いつの間にか上司とかの愚痴になっていくっていう。それがきれいなグラデーションだったという話。

「マウンド」という話も好きです。前歯の差し歯が取れちゃった同僚がいて、それを隠すために手をあてるしぐさが、マウンドにいる高校野球の選手みたいだっていう。

──この本を読んで、何か日常に影響ってありましたか?

田中:私も楢﨑さんも、日常の中での空想や設定をつけるのが好きなんです。例えば楢﨑さんが平安時代からきた人の設定にしたりして、遊んだりしています。それはごっこ遊びみたいなものですね。

──それは穂村さんの話の時にも出てきた「日常を楽しむ視点」に通じそうですね。

田中:そうですね。私達2人で歩いていても道の看板とか、おおしろいお店の名前とか、そういうのをすごく探しちゃうんです。それでそこから空想を広げていくことが多いですね。

根底にあるのは「ふだん使っているものがどうしたら楽しくなるのか」という視点

2時が企画を担当したユニークなプロダクトたち。上段(左から):「犬用勝訴マスコット」(バンダイ、2021)、「動く点Pポーチ」(creo、2021)、「キャベツウニのエコバッグ」(2022)|中段(左から):「Cookieを有効にするクッキー型」(2021)、「ハムスターモナカ」(青木光悦堂、2021)、「マンドラゴラが叫ぶ防犯ブザー」(2021)|下段(左から):「羊の毛刈りぬいぐるみ」(六甲山牧場、2021)、「RTといいねが現れるグラス」(Twitter Japan、2021)、「ビッグクッション」(PUI PUI モルカー、2021)
2時が企画を担当したユニークなプロダクトたち。上段(左から):「犬用勝訴マスコット」(バンダイ、2021)、「動く点Pポーチ」(creo、2021)、「キャベツウニのエコバッグ」(2022)|中段(左から):「Cookieを有効にするクッキー型」(2021)、「ハムスターモナカ」(青木光悦堂、2021)、「マンドラゴラが叫ぶ防犯ブザー」(2021)|下段(左から):「羊の毛刈りぬいぐるみ」(六甲山牧場、2021)、「RTといいねが現れるグラス」(Twitter Japan、2021)、「ビッグクッション」(PUI PUI モルカー、2021)

──そういえば、2時さんのプロダクトはどれも日用品を楽しくするという視点のものが多いですね。けっこう大喜利っぽかったり。

田中:そうですね、ふだん使っているものがどうしたら楽しくなるのかなっていう視点で考えています。

楢﨑:大喜利でいえば、「勝訴」って書かれた犬用のおもちゃ。あれがあるクイズ番組で取り上げられていて、「勝訴」の部分が「?」になっていて、それを当てるという問題になっていたんです。で、いろんな人が答えていたんですが、芸人の方だけ正解できたんですよ。なので、大喜利っぽい発想なんだなって。

──大喜利もそうですし、さきほどのごっこ遊びもそうですが、考えること自体を楽しんでいる感じが伝わってきます。

楢﨑:そうですね。考えること自体がすごく好きですね。さっきも言ったイマジナリーな遊びの中に、「イマジナリー商品」みたいな枠があって、それを取り出してツイッターに投稿したりとか、販売したりしているという感じがあります。

──今後やっていきたいことはありますか?

楢﨑:すごく会社を大きくしたいとか、そういう願望はないんです。楽しくおもしろいプロダクトを作って、それが結果的にたくさんの人を笑わせたり、和ませたりして、口角を上げてもらえたらそれで十分かなと思っています。

田中:「おもしろい会社といったら2時だよね」と言ってもらえるような会社にしていきたいなあって思っています。

──プロダクトに限らず、何かいろいろプロデュースとかで、アイデアを注ぐとか、そういう感じのものも見てみたいです。

楢﨑:やってみたいなと空想したことがあるのは、カフェですね。メニューが普通じゃなかったり、カフェラテのラテアートがすごく変だったりとか。

何かできることがあったら、いろんな分野に挑戦してみたいですね。

株式会社2時
楢﨑友里と田中桃子からなる企画デザイン会社。2人とも株式会社フェリシモで7年間ユーモア雑貨の商品企画に携わり、企画とデザインのスキルを学び、2020年に株式会社2時を設立。バズる商品企画を得意とし、細部までこだわり愛情を持って商品を作り上げている。
オフィシャルwebサイト:https://2-niji.com/
Twitter:@niji_2oclock

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連載「ものがたりとものづくり」 vol.01:「オルガグースキャンドル」主宰・平塚梨沙 https://tokion.jp/2022/01/14/monogatari-and-monodukuri-vol1/ Fri, 14 Jan 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=88387 作家・ライターの菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、小説やエッセイなどからの影響について対話を行う連載企画。第1回のゲストは「オルガグースキャンドル」主宰・平塚梨沙。

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「ものづくり」の背景には、どのような「ものがたり」があるのだろうか? 本連載では、『もし文豪がカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社)、『めぞん文豪』(少年画報社)の作者である菊池良が、各界のクリエイターをゲストに迎え、そのクリエイションにおける小説やエッセイなど言葉からの影響について、対話から解き明かしていく。第1回のゲストは、独自のキャラクターをモチーフとしたハンドメイドのキャンドルブランド「オルガグースキャンドル(OLGA-goosecandle-)」を主宰する平塚梨沙。

「オルガグースキャンドル」の裏側にある3冊の本とは

「オルガグースキャンドル」 は「ガチョウ女の作る儀式道具」をテーマに、ハンドメイドでつくられたキャンドルを展開しています。日本だけではなくカナダ、イギリス、ニュージーランドなどでも販売されています。

古き良きカートゥーンのテイストを思わせ、火を点けることがもったいなくなります。このキャンドルをつくる人の裏側には、いったいどんな「ものがたり」あるいは「ことば」が流れているのでしょうか。

平塚さんに「印象に残っている本を3冊あげてほしい」とリクエストすると、次の3冊をあげてくれました。

・吉行理恵『男嫌い』(新潮社)
・岡潔・著、森田真生・編『数学する人生』(新潮社)
・九鬼周造『「いき」の構造』(岩波書店)

自分の「栄養剤」である、吉行理恵『男嫌い』

──著者の吉行理恵は詩人・小説家で、1981年に『小さな貴婦人』で芥川賞も受賞しています。余談ですが、兄が吉行淳之介で同じく芥川賞を取っています。父が作家の吉行エイスケ、母が吉行あぐりで、「あぐり」というドラマにもなりました。吉行理恵は詩人としてキャリアをスタートして小説も書くようになり、『男嫌い』も「詩的発想」による「詩人・吉行理恵」にしか書けない小説と評価されています。猫が好きで、『小さな貴婦人』にも『男嫌い』にも猫が出てきます。

平塚梨沙(以下、平塚):『男嫌い』はこの3冊の中で一番初めに読みました。8年前ぐらいに古本屋さんで買いました。ジャケ買いですね。

──『男嫌い』は葉祥明さんという画家が表紙をやっていますね。草原に教会のような建物があって、空には月が出ています。

平塚:吉行さんの『小さな貴婦人』も持っているんですけど、それも同じかたの絵でした。私は「合わせ技」が好きで。

──「合わせ技」ですか? 教会(のような建物)と月のような?

平塚:いえ、絵全体の柔らかい雰囲気と、『男嫌い』というタイトルの鋭い感じの「合わせ技」ですね。それで、本を読んでみたら、劣等感のある女性がメインの登場人物なんですけど、くさくさしていると同時に、纏う空気が美しいんですよね。

──この小説では灰色の猫と暮らす北田冴という作家が中心に出てきます。正確には北田冴が書いた同じ名前の人物が主人公の『寂しい狂い猫』という小説が挿入されて、それを読んでいる「私」がいる、という二重構造になっている。

平塚:この本は他の2冊とはちょっと違う理由で選んでいます。単純な言いかただと、読んでいてとても癒やされるんです。

たぶん私もけっこうひねくれていて、でも世界の美しさなどは素直に愛せるというか…少し自分と重ねてしまうところがあります。猫も好きですし。

書かれていることが、すごく静かで美しい雰囲気だなあと思って。読んでいて「こうありたいぜ」と思ったんです。何かきっとつくる時にも、根底には影響しているのかな。自分の栄養剤のような感じですね。

──生き方のスタイルなんですかね。

平塚:ああ、そうだと思います。

──この本は物語の構造が、すごく特徴的でおもしろいですよね。『寂しい狂い猫』という小説を読んでいる人達がいて、その中で『寂しい狂い猫』の本編が丸々挿入されるっていう仕掛けになっています。

平塚:確かにそういった工夫も惹かれた要因かもしれません。そういう遊び心はすごく好きです。

──選んでいただいた他の2冊についても聞かせてください。

世界の見方の美しさに惹かれる、岡潔・著、森田真生・編『数学する人生』

──著者の岡潔は1901年生まれの数学者。1930年代初頭にフランスへ留学し、帰国したあとは自宅にこもって研究を続け、随筆家としても活躍しました。

平塚:この本は3年ぐらい前に読みました。数学を通した世界の見えかたの話だったのがおもしろかったです。数学に意外と物語性があるってところが。学生の時は数学が苦手だったんですが、岡さんの文章を学生の時に知っていたらもうちょっと得意になれた気がします。数式はまだ好きだったんですが、楽しさがあるとしたら解ける快感のみでしたから。

──ある種、哲学的な内容ですよね。情緒について論じるために、俳句を引用しています。

平塚:「最終講義」が特に好きですね。まだ理解しきってはいないんですけど、何回も読んで、体得していきたいなぁと思っています。他は岡さんの生涯の話だから、こっちからすると案外数学って感じじゃないですよね。

──これも生き方のスタイル的なところがありますね。人里離れたところで、メディアからも距離をとって、日々研究をするような生活には、僕も憧れます。この写真(本の冒頭にある岡潔が布団に寝転がりながら原稿を書いている写真)、かっこいいですよね。

平塚:ああ、かっこいいですよね!

──布団に寝転がって、原稿書いているのかな。

平塚:この本を読んで、岡さんの世界の見方がすごく美しいぞと。仏教の印象も変わったし、この先生のおかげで。自分の世界に留まらず、美意識がとても高い人だったんだなと感じました。

「あいだ」の感覚に共感する、九鬼周造『「いき」の構造』

──この2つの本(『数学する人生』と『「いき」の構造』)には意外な共通点があるなと思いました。九鬼周造は『「いき」の構造』を1920年代、フランス留学中に書いています。岡潔は入れ替わるように1929年にフランスに留学しています。どちらも西洋を体験することで、翻って日本について考えを進めているように感じます。平塚さんは『「いき」の構造』が今日あげた3冊の中では、一番最近読んだ本なんですよね?

平塚:そうですね。この本はSNSで紹介している人がいて、それを見ておもしろそうだと思い買いました。

私は「A」と「B」のあいだみたいなのが好きなんです。合わせ技とかもそうなのかもしれないですけど、「A」と「B」のあいだにある関係性を説明する感じのものが好きで。

『「いき」の構造』はわかりやすくて、「意気地(いきじ)」と「媚態」と「諦め」の3つだよっていう。さらには図形もあったじゃないですか。図形によってその3つの関係性が示されているところがすごくたまらなくて。

もちろん「いき」っていうもの自体に魅力も感じていますが、感覚的なものを言語化し、規則性を発見しているところに感動しました。

──『「いき」の構造』では、「いき」とは何かを例示していくことで定義していきます。特に冒頭の「いき」には英語で対応する言葉がないってところがおもしろいですね。「いき」はChic”ではない、とか。

フランス語のうちに「いき」に該当するものを見出すことができるであろうか。第一に問題となるのはChicという言葉である。この語は英語にもドイツ語にもそのまま借用されていて、日本ではしばしば「いき」と訳される。(中略)この語の現在有する意味はいかなる意味をもっているかというに、決して「いき」ほど限定されたものではない。

(九鬼周造『「いき」の構造』岩波書店、16ページ)

平塚:私が作っているキャンドルにも名前がついているんですが、日本語名と英語名を直訳にしていないんです。「お調子者ボビー」を「PEANUTS(BOBBY)」にしていたりとか。もちろん直訳のものもあるんですけどね。

それと1つひとつにマジック・メッセージもついているんです。「もっとなかよし」とか「関係にスパイスを」とか。

キャンドルの「ことば」はどこからくるのか

──小説を読む時って、頭に絵が浮かんでいますか。

平塚:浮かんでいると思います。

──それってこういうタッチ(OLGA GOOSE CANDLEのキャンドル)の絵のような感じなんでしょうか。

平塚:というよりは現実世界の情景に近い気がします。だけどいろいろな箇所でヒントになることはあり、結果的にデザインにつながることはあります。

──僕はカートゥーンが好きなんです。ポパイやベティ・ブープといったフライシャー兄弟の作品が好きで。そういうアニメって、物理法則を無視しているというか、現代人のロジックじゃないんですよね。壁にぶつかってキャラクターの形の穴ができるとか。トンカチでぺしゃんこになるとか。そういったカートゥーンは見ますか?

平塚:ディズニーは小さい頃、親が流していたから見ていましたね。それよりもアメリカの古い雑貨の影響を受けています。そういうものの仲間になるようなものを作りたいって思って作っているので、参考にすることはいっぱいあります。たぶん、彼らがカートゥーンから影響を受けていて、そこから私も影響を受けているのかもしれないですね。

──先ほどキャンドルごとにマジック・メッセージがついているって言っていました。「もっとなかよし」とか「関係にスパイスを」とか。では、それぞれストーリーは浮かんでいるんですか。

平塚:そこまであえて決めないようにしています。ピーナッツには「ボビー」って名前をつけたんですけど、基本はつけないようにしていて。あくまでもクロックとか。どうしてかというと、実際の魔術で使われる蝋燭はあくまでも「人型」「猫型」とあくまでも種類だからです。それに倣っているということ、そして、決めないことでの広がりを期待しているからです。

ただ「オルガグースキャンドル」で短編集を作ったことがあって、その中ではいろんな動きをしています。でも、こっちの話とこっちの話で全然違う性格になっていたりします。そういった掴めそうで掴めない、だけど気付くとそばにいるような、そんな存在を目指しています。

──キャンドルを見ていると、勝手に考えたくなりますね。

平塚:それはすごく嬉しいです。

──そのキャンドルごとのことばって、どこから降ってくるのでしょうか。

平塚:うーん、私は中学受験をしていて、その時国語の試験でことわざの問題が出たんです。慣用句やことわざの知識問題です。それは勉強すれば確実に点をとれるので、すごく暗記していました。たぶんその蓄積があるのだと思います。ことわざの言い回しだったりが影響していると思います。

「あなたのネジを緩ませる」だったり、「舌が二枚に三枚に四枚に…」とか。これは二枚舌をもじったんだと思います。あと基本的にあんまり真面目なのはつけないようにしています。なんかニヤニヤしている感じの言葉をつけるようにしているんですよ。表情もそうですけど。

──ことわざというのはすごく意外です。

平塚:『真・女神転生』っていうゲームはやっていましたか?

──いえ、やっていません。

平塚:そのゲームでは悪魔に出会って仲間にできるんですけど、悪魔同士を合体させられるんですよ。ポットみたいなのに入れられて、しゅうって溶けて、要素となって新しいものになるんですけど。

たぶんそれもちょっとあって、溶けて見えないけれどいるぞ、みたいな。それがパワーになるぞ、みたいなイメージはあります。

──じゃあ、このキャンドル達は火を点けて、溶けたあともその空間を漂っているんですね。

平塚:そうです。で、持ち主のために助力してくれるけど、それがちょっとズレているんで、持ち主の思い通りになるかはわからないけど、その気持ちはあります。

──なるほど。すごく納得しました。とても素敵だなって、より一層思いました。こういうアイテムがいいなって思うのは、部屋に置いとくとそれがちらっと目に映るだけで、楽しい気分になる。そういった部分がすごく素敵だなと思いますね。生活に溶け込んで入っていく感じがしますね。しかも、このキャンドル達は溶けたあともいるっていうのがすごいですね。その空間にいるっていうのが。

平塚:ただ本当に燃やせないって、国外の人も含め、めちゃくちゃ言われます。だから、儀式道具だからって答えていますね。その時にしてくださいって。

インタビューを終えて

OLGA GOOSE CANDLEのキャンドルを初めて見た時、強く惹きつけられるものがありました。それはその造形はもちろん、火を点けると溶けてなくなってしまう「キャンドル」であるところにいい意味でショックを受けたのです。こんなに魅力的なものを溶かしてしまうなんて!

今回、お話を聞いてその思考の源泉をうかがいしれて、とてもおもしろかったです。まさかキャンドルをとりまく発想のソースの1つにことわざがあるとは。

まだOLGA GOOSE CANDLEのキャンドルに火を点ける勇気はありませんが、いつかその時がくるのだと思います。そして、溶けたキャンドルはずっとそこにいるのです。

平塚梨沙

平塚梨沙
1986年生まれ、東京都出身。2011年、多摩美術大学造形表現学部造形学科卒業。多摩美術大学在学中に、キャンドルブランド「OLGA-goosecandle-」の活動を開始。「OLGA-goosecandle-」のキャンドルは、「ガチョウ女の作る儀式道具」をテーマに、 独自で型や色を調合し、すべてハンドメイドで製作が行われている。
Web: olga-goose.com/
Instagram: @goose_hag

Photography Kousuke Matsuki

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漫画『めぞん文豪』原作者コンビが語る、制作背景と文学への想い https://tokion.jp/2021/08/31/maison-bungo/ Tue, 31 Aug 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=55807 ベストセラー本『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』執筆者の神田桂一と菊池良が再びタッグを組み、漫画連載をスタート。その制作背景と意気込みを尋ねた。

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この5月から「ヤングキング」(少年画報社)で連載が開始された“妄想文藝フィクション”漫画、『めぞん文豪』。太宰治が現代に転生し、武者小路実篤や坂口安吾らとシェアハウスで暮らし始める――。そんな荒唐無稽な設定のもとに彼らの日常を描く今作の原作を手掛けているのは、神田桂一と菊池良だ。彼らは、太宰治や三島由紀夫、村上春樹、そしてヒカキンや「週刊文春」などなど、多種多彩な文体模写で100通りの「カップ焼きそばの作り方」を綴った『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(2017年、宝島社)の著者コンビである。そのユニークな視点と巧みな技巧により大きな反響を呼んだ同書に続く新作漫画で、彼らは何をもくろみ、何を描こうとしているのか。『めぞん文豪』誕生の前史と背景、込めた想いについて、2人に尋ねた。

なぜ2人はコンビを組み、文体模写本を出すに至ったのか

――お2人は『もし文豪たちが カップ焼きそばの作り方を書いたら』(以下、『もしそば』)でもコンビを組まれていましたが、結成の経緯や意気投合したポイントを教えてください。

神田桂一(以下、神田):2015年の暮れに、僕ら2人の共通の友達が忘年会を開いたんですけど、その時、僕の前に菊池くんが座っていたんですよ。初対面なので名刺交換をしたら、肩書きに「コンテンツボーイ」って書いてあって。「なんだこいつは?!」っていうのが菊池くんの第一印象(笑)。

菊池良(以下、菊池):その時はまだ新卒で入った会社に所属していたんですけど、名刺の肩書きを何にしても良かったんですよ。僕はゲームボーイが大好きで、『発明BOYカニパン』や『ガリバーボーイ』が好き。なので、「コンテンツボーイ」にしていました。

神田:その肩書きが気になって、家に帰ったあとにちょっと菊池くんのことを調べたら、ネットで有名な人だということがわかったんです。僕、ネットにうとい人だったので全然知らなくて。その時に菊池くんの作品をいろいろと見たら、笑いのセンスにめちゃくちゃ共感できるところがあったんですよ。それで直感的に「2人で組めばかなりおもしろいことができるんじゃないか?」と思って、すぐにFacebookのメッセンジャーで熱い想いを伝えました(笑)。それが僕らの最初の出会いですね。

――その出会いから『もしそば』が誕生するまでの経緯について教えてください。2016年の春頃、菊池さんが村上春樹の文体模写をTwitterで行い大きな反響を生みましたが、それがきっかけとなったのでしょうか?

菊池:あのツイートに書籍化のオファーは1件もきていません。それよりも、神田さんのモチベーションによるところが一番大きかったですね。企画が動き出したのが出会ってから半年くらいたった頃だったんですけど、その時、神田さんの「本を出したい熱」がとても高まっていたんです。

神田:そうそう。「30代で1冊本を出さないとまずい」みたいな強迫観念があって(笑)。その焦りから、本の企画書をいっぱい書いていたんです。そしたらある時、「村上春樹のライフハック本」というアイデアを思いついて。いろいろな人生の局面を村上春樹の作品の主人公になりきることによって切り抜ける、みたいな内容で。それが朝の8時半くらいだったんですけど、すぐ菊池くんにメッセンジャーで連絡したんです。「こういうの思いついたから一緒にやろうぜ!」って。

菊池:おもしろいと思ったので神田さんの企画に乗って、2人で企画書を詰めていったんです。婚活とか就職の面接とか、実際にいくつかのシチュエーションで書いてみたりして。

神田:それを持っていくつか出版社を当たったんですけどダメで。そこで「村上春樹でいろいろなシチュエーションを書くよりも、1つのシチュエーションをいろいろな作家が書くほうがおもしろいんじゃない?」ってなったんですよ。そうして、宝島社に持って行ったら一発でOKが出たんです。

――『もしそば』では、川端康成や谷崎潤一郎、シェイクスピアら「文豪」のみならず、ナンシー関やヒカキンら著名人・文化人、そして「週刊文春」や「ポパイ」といった雑誌などを対象に、多岐にわたる文体模写が行われています。その経験を通して改めて感じたことなどあればお聞かせください。

神田:よくモノマネには「デフォルメ型」と「リアリティ型」があるっていわれるじゃないですか? 前者がコロッケで、後者がコージー冨田みたいな。それが文体模写にもあるんだなってことがわかりましたね。そのどちらが優れているということではなくて、模写する対象によって使い分けたほうがいいというか。『もしそば』に収められているものだと、百田尚樹や小林よしのりらは「デフォルメ型」で、蓮實重彦や井上章一らは「リアリティ型」で書いていくと、いい感じに似てくるんです。

菊池:そう、「リアリティ型」で模写していくと似ないというか、多くの方が似ていると思う文体にならない作家がいるんですよね。あと僕が思ったのは、文体の特徴は「情報とは別の部分」にあらわれるということ。例えば「主人公が走った」は、ただの情報ですけど、そこに「やれやれ」などを盛り込めば村上春樹風の文章になっていく。情報につけ加えられた「余計なもの」に、その作者の、特徴や癖が入ってくるんだな、と。

神田:つまるところ、文体っていうのは、その人の個性の1つなんですよね。1人ひとり全く違うものを持っていて、 究極的にはどうまねても全く同じものになることはないというか。文体模写の本を出しておいて何言ってんだみたいな感じですが(笑)。でも、続編も含めてめちゃくちゃ文体模写を行って、最終的にたどり着いた答えがそれなんです。

 妄想文藝フィクションが生まれた背景とは

――そんなお2人が再びタッグを組み、この5月から「ヤングキング」で『めぞん文豪』の連載が開始となりました。どのようにして連載が実現したのでしょうか?

神田:発想で勝負した『もしそば』でいい結果を残せたこともあって2人で企画ユニットみたいな感じで動いていこうという話になったんです。そうして諸所に企画書を出すなどして動きはじめていたところ、僕の友人でもある「ヤングキング」の編集長が「うちにも何か企画出してよ」って声をかけてきてくれて、4案ほど企画を出したんです。そのうちの1つが『めぞん文豪』で、編集部的に「これがいいね」となって、連載が無事に決まったという流れですね。『めぞん文豪』はわりと前から温めていた企画で、大元のところは菊池くんが考えたものなんです。

菊池:発想の最初のポイントとしてはすごくシンプルで。「文豪たちが共同生活していたらおもしろいだろうな」というアイデアがありました。その後、漫画作品として企画を練っていくにあたり、『めぞん一刻』や『まんが道』、『バクマン。』といった作品をイメージしつつ、シェアハウスでの共同生活の様子や、クリエイター同士が切磋琢磨していく物語の骨子を具体的に考えていきました。それをもとにして、神田さんと膨らませていった感じですね。登場メンバーも早い段階からもう固まっていました。

――今作の主人公となる太宰治は、『もしそば』においても、表紙を飾りつつ、一番最初の模写文として登場するなど、特別な位置を与えられていますね。太宰治に対する思い入れなどあればお聞かせください。

菊池:『もしそば』で太宰の文体模写は僕が書いたんですけど、その時に改めて彼の作品を読み直して感じたのが、「文体が完成されている」ということ。太宰の文体って、現在の小説の文体とさほど変わらないんですよね。太宰よりも前の小説を読むと、「(今の小説と)ルールが違うな」って感じてしまいます。3人称で書いてあるんですけど、「この男(登場人物)についていってみよう」であったり読者への呼びかけがあったり、「作者の声」が地の文に入ってきて、現在からすると違和感を覚えるところがある。一方、太宰はすごく自然に読めるんです。時代をさかのぼって読んでいくと、太宰の時代に小説の文体が完成されたんだなと感じます。現代の小説の大元のところに太宰がいる、そんなイメージが僕の中にはあって。それが、彼や、同時代の作家たちを現在によみがえらせてみる、というアイデアにつながっていったところもありますね。登場する主要メンバーで言うと、武者小路実篤と石川啄木は神田さんがアイデアを出してくれたんです。

――神田さんはどうしてその2人を加えようと思ったのですか?

神田:別件でコミューンやヒッピー関連のカルチャーについてリサーチをしていたんですけど、その時に、武者小路実篤の「新しき村」(編集部注:武者小路実篤とその同志により、人道主義的観点からの理想郷を目指し1918年に創設された村落共同体)を知って。正直、武者小路実篤については、昔学校で習って名前を覚えていた程度だったんですけど、「そういう系の人だったんだ!」というのがわかって、とても興味を引かれました。それで、メンバーの中に、ヒッピー系というかオーガニック志向というか、そういう方面のキャラがいたほうが作品に厚みが出ておもしろくなるんじゃないかと思ったんです。石川啄木については、「クズキャラ」を1人入れようかなと思い加えた感じですね (笑)。

――2人とも、神田さんの狙い通りに、作品の中でうまく生きていると感じます。お2人とも漫画は初挑戦の領域となりますが、具体的にどのように制作を進められているのでしょうか?

菊池:作業の内容的には、まず僕らがテキストベースでストーリーを書いて、それを作画担当の河尻みつるさんに渡して漫画として構築してもらう、という流れですね。僕たちは漫画に関しては門外漢みたいなところもあるので、『めぞん文豪』が漫画作品として成立しているのは、河尻さんの力がすごく大きいです。コマ割りだったり見開きの構図だったりで「読ませる漫画」にしてくれていて、本当にありがたいですね。あと、編集の方にもいろいろとフォローしてもらっています。

神田:1話あたりの僕たちの作業期間については、およそ1週間くらいですね。隔週連載なので、終わって次の1週間で他の仕事をしていると、すぐにまた『めぞん文豪』の1週間がやってくる……みたいな感じで、わりと大変な日々を送っています。ただ、「おもしろい」が大変さを上回っていますけどね。少なくとも今のところは(笑)。あと、ツイッターなどのSNSで結構反応があるんですけど、それがモチベーションになっているところもあります。というか、それがなかったら続けられないかもしれない(笑)。無反応というのが一番きついですから。

シリアスとギャグの間から見えてくること、2人が考える文学の魅力

――『めぞん文豪』は、史実性とフィクション性、そして文学的教養というか啓蒙的な感覚とコメディ的な感覚が絶妙に入り混じっていて、そのバランスがおもしろいと感じました。

菊池:2人でやっているバランス感が、いい具合に働いているんじゃないかなと。おおよその役割分担としては、史実のネタを入れるのは僕が多くて、ぶっ飛んだアイデアを考えるのは神田さんっていう感じですね。

神田:そうですね、僕は「ギャグ漫画がやりたい」という気持ちが最初にあって。史実や彼らの創作物を尊重して生かしつつ、どうギャグをやるかを毎回必死に考えています。そこには、『もしそば』の時もそういうところがあったんですけど、キャッチーな要素を掛け合わせることによって、文学のおもしろさが広く届けばいいなという気持ちもありますね。

菊池:そういう意味でも、全体として重くなりすぎないことは大切で。彼らに関する史実や逸話についてはひたすら調べていて、いつもどのネタをどう入れようかと勘案していますが、マニアックになりすぎないようには注意しています。

――ざっくりとした質問になりますが、お2人が文学について思うところなどを伺いたいです。

菊池:僕は芥川賞の受賞作はすべて読んでいるんですけど、全員が同じ1つの理想を追求しているように感じるところがあるんです。100年近くも同じルールの中で、純文学というものが、競われ磨かれ続けている——それって本当に奇跡的なことで。そんな切磋琢磨の尊さみたいなものは、『めぞん文豪』でも伝えられればいいなと思っています。

神田:長いこと「文学離れ」とかいろいろと言われていますけど、今、文芸誌も盛り上がっていますし、個人的には「全然そんなことないな」とは感じていますね。あと、僕はノンフィクションがすごく好きでよく読むのですが、そのことで、より「文学の言葉」の凄みを感じることがあって。たまに実際の事件を題材にした小説ってあるじゃないですか? 例えば、桐野夏生の『グロテスク』。この作品は1997年に起きた東電OL殺人事件をもとに書かれているんですけど、当該事件を扱ったノンフィクションの作品群に圧勝しているわけですよ。人間の業や性、底知れない暗部を描ききったその文学的想像力の凄まじさにおいて。それは、村上春樹が『ねじまき鳥クロニクル』で描いたノモンハン事件についても言えることで。「文学の言葉」には、時にノンフィクションよりもリアリティが宿るところがあるんだと思っています。

――最後に、お2人それぞれの今後の予定について教えてください。

神田:台湾について取材・執筆した単著がこの秋に出る予定です。現地の音楽や出版文化、オルタナティブ・スペース、政治など、さまざまな領域で取材しまくってかなり濃い内容になっているので、台湾に関心がある方には絶対に楽しんでもらえると思います。

菊池:僕のほうも秋くらいに単著の予定があって、先ほどお話しした芥川賞について、その歴史を総括する1冊になります。博士と少年のコンビがタイムマシンに乗って、石原慎太郎からスタートして、各時代の重要な作家・作品を紹介していくような構成で。ぜひ『めぞん文豪』と合わせて読んでもらいたいですね。

神田桂一
1978年、大阪府生まれ。ライター/漫画原作/総合司会。「ポパイ」「ケトル」「スペクテイター」「週刊現代」「論座」などで執筆。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社・菊池良と共著)。11月に『台湾対抗文化紀行』(晶文社)を刊行予定。
https://kanda.theletter.jp/
Twitter:@pokke0902

菊池良
1987年生まれ。作家。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社・神田桂一と共著)、『世界一即戦力な男』(‎フォレスト出版)、『芥川賞ぜんぶ読む』(‎宝島社)など。
https://kikuchiryo.me/
Twitter:@kossetsu

Photography Kazuo Yoshida

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