連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/連載「クリエイターが語る写真集とアートブック/ Mon, 29 May 2023 08:10:47 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.3.2 https://image.tokion.jp/wp-content/uploads/2020/06/cropped-logo-square-nb-32x32.png 連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」 Archives - TOKION https://tokion.jp/tag/連載「クリエイターが語る写真集とアートブック/ 32 32 連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.13 写真家・赤木楠平 長年、手元に置き続けてきた3冊の毛色が異なるアートブック https://tokion.jp/2023/05/31/creators-talk-about-books-vol13/ Wed, 31 May 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=187026 ”Kenko健光”シリーズ、多重露光写真”Zenzen”を生み出した、写真家・赤木楠平が選んだアートブック

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カメラのレンズを外し、光を採集/撮影をする“健光(Kenko)”等の手法を編み出した、写真家・赤木楠平。東京に生まれて、サウジアラビアやシンガポールで多感な時期を過ごしたからこそ培われた視点で、カメラを使った作品を生み出し続け、展示会やDJイベントなども精力的に開催し続けている。自身が生み出す作品は“健光”シリーズをはじめ、多重露光写真シリーズ“Zenzen”など、写真という技法を使った、独自のアプローチを用いることにより、偶発的に生まれる美しい色彩が最大の特徴だ。今回は誰もみたことのないものを捉えて描写し続け、写真家という枠に収まらない彼の有するアートブックと写真集をご紹介いただいた。

赤木楠平
幼少期をサウジアラビアやシンガポールで過ごす。日本大学芸術学部写真学科を卒業した後に渡英。2008年に帰国し、2013年からはポーランド・ワルシャワに拠点を置く写真家集団「Czulosc(感度)」に初の外国人メンバーとして参加している。また近年は、絵画の制作も行っている。

『タロット・トキ式』
マドモアゼル朱鷺

マドモアゼル朱鷺さんはタロット占い師でアーティストなんだけど、僕がロンドンに行く前の10代の頃に、毎日のように朱鷺さんに遊んでもらっていて本人からもらったんだよね。当時は僕もまだ子どもだったし、向こうは12歳上だったから、いろいろ教えてもらってたんです。タロットのタイトルごとにページが分かれていて、それぞれに写真と名言、そして朱鷺さんのメッセージが添えられています。

有名なカメラマン達の写真が使われていて、本としてもとてもかっこよくてさ。本全体が不安から希望に繋がる流れになっていて、ふとした時にパッとめくって、そのページを見て自分なりに感じたことを解釈して「そうだな」とか「そうしよう」と考えてから行動をするようにしてる。

『Shinjuku(Collage)』
吉田昌平

吉田昌平というアーティストの本なんだけど、彼は森山大道のファンで森山大道の写真集『新宿』を使ってコラージュした作品集。写真集のコラージュで新たな写真集を作っているわけだから、リミックスというか考え方が音楽的だよね。こうやって本を作るってあんまりない表現じゃん。

1人の作家の写真を勝手にコラージュして、OKが出たというのがいいなと思って。森山さんの写真が本当に好きだったんだろうね。森山さん本人も嬉しかったから「よくぞやったな」ってOKを出したと思うんだよ。

『タイトルなし』
赤木楠平

これは僕の最初の作品集。2013年にポーランドを拠点とする、写真家集団「Czulosc(感度)」に初の外国人メンバーとして参加したんだけど、その時に作ったステッカー本。コロナ禍に入る前まではグループ展があって、ポーランドに毎年行っていたんだよね。

この本は特にタイトルが無いんだよね(笑)。もともとはアルバムだったものにステッカーの作品を貼った手作りなんだよ。これを欲しがってくれる人もいたんだけど、売りたくないものでこれは自分で取っておいてあるんだよね。

「パーティによく行っていて、周りにDJの人達が多いから、その考え方とか行為とか手法に影響を受けているんだろうね」

「タロット・トキ式」はアートブックとしてのクオリティの高さもありながら道具としても使えるから、道具みたいに常に持ってる。僕はタロットの勉強をしていないから、細かいことはわからないんだけど(笑)。「Shinjuku(Collage)」は作品というよりも、アイデアとして好きだね。サンプリング、DJ的というか、考え方がおもしろいと思ったんだ。普段から僕はパーティによく行っていて、周りにDJの人達が多いから、その考え方とか行為とか手法に影響を受けているんだろうね。自分の作品集もたまに見るよ。作品をたくさん作っちゃうからこういうのがいっぱいあるんだよね(笑)。持ってると人にあげちゃうし、作品を作っているとどんどん時間がなくなっていくんだよ。だから最近はなるべく本とか読んだり、インプットしたいと思っている。だからパーティもほどほどにね(笑)。

Photography Kentaro Oshio
Text Tsuneharu Mamiya
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.12おもちゃ店「SPIRAL」オーナー・高橋香代子 自身のキャリアに寄り添ってきた3冊 https://tokion.jp/2023/05/14/creators-talk-about-books-vol12/ Sun, 14 May 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=184272 原宿のおもちゃ店「SPIRAL」オーナー・高橋香代子が選んだ3冊のアートブック。

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原宿の「SPIRAL」は1990年代から続く老舗のおもちゃ店だ。ディズニーやシンプソンズといったメジャーなキャラクターだけでなく、アメリカに買い付けに行き選んだ、遊び心あふれるアイテムの数々が小さな店内に所狭しと並ぶ、その世界観は原宿メルヘンと呼ぶに相応しい“KAWAII”があふれたおとぎの国のよう。一点ものを見つけるために宝探しをするコレクターから、その“KAWAII”を体感するために訪れるおもちゃ初心者、観光客、そしてセレブリティまで幅広いファンがこの原宿の小さなお店が醸し出すファンタジーあふれる世界観に魅了されている。今回は原宿のおもちゃ店「SPIRAL」のオーナーである高橋香代子にとって、お店の世界観作りに欠かせない3冊を、「SPIRAL」の原点となった露天商時代や「1990年代の東京」というまた別のおとぎ話とともに振り返った。

高橋香代子
原宿の「おもちゃやSPIRAL」オーナー。「SPIRAL」は1990年代のアメリカのおもちゃ・雑貨を中心に取り扱う。自らアメリカへ買付けに行き貴重なヴィンテージや一点ものが揃う。

『SNAPS』
エレン・フォン・アンワース

おもちゃ店を始める前は美容師だったんです。その頃は今ほどインターネットが普及していなかったから、仕事が終わったら最先端のヘアスタイルを勉強するために海外誌とか海外の写真集を探しに夜中まで開いてる本屋にチェックしに行くのが日課だった。私は六本木の方に住んでたから、麻布警察署の並びにあった青山ブックセンターに夜な夜な足を運んでいて、エレンが撮ったタバコを吸ってるナオミ・キャンベルの写真にすごい惹かれ「誰が撮っているんだろう?」と調べたことが最初の出会い。

別の機会に別の雑誌を見ていて「この広告格好いいな」と思ってクレジットを調べたら、またエレンだった。出ているモデルも髪形もかっこよかった。当時はかっこいいものを見たかったら海外誌を見るしかないから、ずっと立ち読みしてたんだよね(笑)。ちょうどこの頃、サロンで働くのが苦痛になってきていた時期で。ヘアメイクをやりたいと思っていたけど、ヘアメイクでやっていける人なんてほんのちょっとじゃん。結局、ヘアメイクがやりたいのか何がやりたいのか、よくわからなくなって。その時に六本木の道端で、私の元ボスに声かけられたの。道で物を売っているおじさんに(笑)。

『WARTER KEANE』
ウォルター・キーン

ウォルター・キーンはサンフランシスコ出身のアーティスト。道端で知り合った元ボスに買い付けに誘われて、あるタイミングで一緒に行ってみた。名前も知らないおじさんと行った、初めてのアメリカでの買い付けがおもしろくて美容師をやめて、自分で買い付けをするようになったんです。よく買い付けで「ブライス」っていうおもちゃの人形を買ってたんだけど、パルコのコマーシャルに使われてから値段が高騰してしまって。このウォルターの絵を見た時に「ブライスみたいだな」って感じた。

ウォルターの活躍していた時期も1960~70年代なんだけど、1970年代のアメリカのおもちゃって、泣いてるお人形とか、こういうちょっと寂しい感じのものが流行っていたんだけど、「この時代のものはなんでこんなに寂しい表情の人形や絵が多いんだろう?」って思って気になるようになったんです。この人の絵を「怖い」っていう人もいるんだけど、私は寂しくて大きい目に惹かれて、フリマで見かけると買うようになりました。クリエイターが語る写真集とアートブックの世界

『Gary Baseman』
ゲーリー・ベースマン

ゲーリーの本は何冊か持ってるんだけど。このアーティストの作風は「ポップだけどかわいすぎない」みたいな。キャラクターはみんな可愛いんだけど、口とか目から何か垂れていておもしろいし、どうしてこういう風にしちゃうのか気になる(笑)。彼の描く絵のキャラクターの目もウォルターの描くキャラクターの瞳みたいで大きくて印象的。

LAに買い付けに行った時に雑貨店兼ギャラリーみたいなところで見て、「何だこの絵?」って思ってから気になるようになったんです。フィギュアなどの立体も出ていて、リトグラフは知人にプレゼントしてもらいました。かわいくて何か気になる存在。

20代の美容師時代に出会った写真集

エレンの写真はやっぱりどれもかっこいいんだけど、やっぱりナオミが髪をコーラの缶で巻いてるやつが好きかな。ゴメンね、この写真集には入ってなかったんだけど(笑)。ナオミの髪形も大好き。

キーンとベースマンのは改めて見てると、私ってちょっと暗いのが好みなのかなって思った(笑)。暗いというよりアダムス・ファミリーみたいな「奇妙な可愛さ」が好みではあるかな。ウォルターは10年くらい前にティム・バートンが監督した映画で取り上げられていたけど、あの映画によってすごい絵が高くなっちゃった。私が買った頃もそんなに安くはなかったけど。お客さんの中にも好きだと言ってくれる人がいて、以前はよく買い付けていました。

1990年代はインターネットが普及していなかったから、世界中に自分が知らないものがいっぱいあったの。だからアメリカや海外での買い付けがおもしろくて、私は買い物が好きなんだなって思って美容師をやめた。それで公園通りの路上にお店を出したのが「SPIRAL」の原点かな。作品集を見返して振り返ると、それぞれに思い出がありますよね。見返すとやる気が出るじゃないけど、「こういう世界をつくりたいな、こういう世界観がやっぱり好きだな」と楽しくなりますね。

Photography Kentaro Oshio
Text Tsuneharu Mamiya
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.11 セレクトショップ「カンナビス」バイヤー・HIMAWARI インスピレーションの源である3冊 https://tokion.jp/2023/04/15/creators-talk-about-books-vol11/ Sat, 15 Apr 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=178747 「カンナビス」のバイヤー兼オーナーのHIMAWARIのインスピレーション源といえる3冊を紹介。

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「音楽・ファッション・アートを切り口にアウトサイダー(異端児)達の集まる場所」をコンセプトに掲げ、2000年にオープンした原宿のセレクトショップ「カンナビス(CANNABIS)」。現在、同店でバイヤー兼オーナーとして働くHIMAWARIは、個性的なファッションをクールに着こなすセンスと飾らない人柄で、ファッションアイコンとして多くの支持を得ている。流行と個性がひしめき忙しく移り変わる渋谷と原宿、その2つを結ぶキャットストリートで20年以上続く「カンナビス」で育った彼女は、昨年から同店のオーナーとして一層精力的に活動の幅を広げている。「カンナビス」以前から始めていたDJは、今では自身のイベント以外にもゲストとして引く手数多であり、本業を忘れさせるほどの活躍を見せている。また不定期に刊行される『PETRICHOR』誌のメンバーとしては、美大出身という背景を生かして撮影やMVの制作にも携わってはその才能を発揮している。このようにHIMAWARIは、ファッションを軸に音楽とアートという、まさに「カンナビス」のコンセプトを地で行くようなクールな人生を満喫している。今回はそんな彼女の大切なアートブック3冊を紹介してもらった。

HIMAWARI
原宿にあるセレクトショップ「カンナビス(CANNABIS)」のバイヤーと店長を経て、2022年6月に元会社から独立し新たに「カンナビス」をスタート。DJとしても活動しており、多数のイベントでテクノ、アンビエント、トライバル等幅広くプレイ。インディー雑誌『PETRICHOR』のメンバーとしてMV等の制作にも携わっている。

『Parasites』
マルティン・エダー

ロンドンで偶然出合った、ポップでキモいアートブック

ウチはギャラリーに行くのが好きで、初めてロンドンに行った時も自分で調べて1人でいろいろ回ったの。これは内装が薬局をモチーフにしたカフェみたいになっている『ニューポート・ストリート・ギャラリー』で展示してた、油絵画家の本。ギャラリー自体が気になって行ったから、もともとこのアーティストのことは知らなかったんだけど、結構衝撃を受けた。ウチも油絵をやっていたからかもしれないけど。

犬とか猫の横にいきなり人間の裸が描かれてたり、ちょっとエロが入ってるんだけど、それが綺麗な裸じゃなくて、人間のキモい感じが描かれていて、作風も気に入った。わざわざ海外旅行中に、持って帰るのが大変な重い作品集を直感のまま2冊も買っちゃった、っていう思い出の本。

『Nam June Paik』
ナムジュン・パイク

ビデオ・アートの探究者・ナムジュン・パイクの作品集

彼はビデオアーティストで存在は前から知ってたんだよね。でも、パリに行った時にやってた彼の展示を見に行ったら、その展示がヤバくて。ブラウン管をいっぱい並べてその画面に映像を流すっていうインスタレーションだったんだけど、衝撃的すぎて、また作品集を海外で買っちゃった(笑)。2年くらい前に清澄白河でも展示をやってた。

東京で展示をやってた時はパカパカの携帯をいっぱい並べて映像を流したりとか、室内に森を作ってめちゃくちゃブラウン管を並べて部屋をつくってたりとか、彼の空間の使い方がマジでヤバい(笑)。

『ホテル ニューマキエ』
『おピンクマキエ画報』
『マキエマキの空想ピンク映画 ポスター集』
マキエマキ

自撮り熟女・マキエマキの写真集

これはウチの大好きなおばちゃん。おばちゃんって言っちゃいけないかもだけど(笑)。かわいい人で、作品はこの年齢の女の人だから出せるエロさで溢れてるんだよね。妖艶な感じでいながら全部自分でシャッターを切って撮る、自撮りおばちゃんなの。グラビアなんだけど、ロケ場所やアングル、それに衣装まで“ザ・昭和のポルノ”っていう感じ。ウチは昔から昭和のエロ本を集めているからすぐに気にいって、神保町でやってた写真展に行ったらご本人がいたから、話もさせてもらった。これも結構衝撃だったな。

デザインも古いエロ本みたいで好きだし、おっぱいに貝殻を付けた写真とか昼間の団地とかあるんだけど、セルフポートレートだからね(笑)。自撮りっていうのが超ヤバイなって。

「きれいなだけのアートよりもポップでありながらちょっとリアリティーがある、エログロとかが入ってるのが個人的な好み」

本がもともと好きで、このインタヴューの直前まで3冊に絞れなくて、重いのにたくさん持ってきた(笑)。もちろん洋服は好きだったんだけど、アートとか建築がもともと好きだった。ウチが働き始めたころの「カンナビス」は2フロアでギャラリーもあったから、空間デザインとかインスタレーションみたいなことがしたいなって思ったこともある。実際3冊に絞ってみると、ただきれいなだけのアートよりも、ポップでちょっとリアリティがあって、エログロとか入ってるのが個人的な好みなのかなって気付いたかも。

マキエさんの展示にいったのは、ちょうど『PETRICHOR MAGAZINE』で自分のページを作っていた時期で、もちろん作風は違うけど、自分なりのポルノを表現するインスピレーションになった。実際、今もいつか自分でポルノショップをやりたいなって思ってるし(笑)。今の「カンナビス」は前と違ってギャラリースペースはないけど、将来的にはこの店を大きくしたいと思っていて、こういった本とかを並べて紹介したり、アーティストの展示をやりたいなって思ってるの。そういった意味でも、今の私のインスピレーションの源になっている3冊かな。

Photography Kentaro Oshio
Text Tsuneharu Mamiya
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.10 アーティストのohiana ハードコアな作風に影響を与えた3冊 https://tokion.jp/2023/02/24/creators-talk-about-books-vol10/ Fri, 24 Feb 2023 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=168519 ohianaのドープな世界観に影響をもたらした、3冊のアートブックについて話を聞いた。

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アヴァンギャルドなタッチのグラフィックとコラージュやアートワークによる独自の世界観を展開する、気鋭のアーティストohiana。そのホラーでカオスなアングラ感とどこかポップで笑える世界観に触れたら最後、“やめられない、止まらない”となるohiana中毒者が続出している。アーティスト活動以外にも、他のアーティストやアパレルブランドへのアートワーク提供やPV制作等で活動している。また2017年より展開している自身のアパレルブランド「A.C.C」は2月24日から原宿の「ドミサイル(Domicile)」でポップアップを開催する。今回は多岐にわたって活動するohianaのアーティストとしてのキャリアにおいて重要な3冊のアートブックを紹介してもらった。この記事でohianaが気になったなら、ぜひ「ドミサイル」で直接、彼の世界観に触れることをお勧めする。それでは行ってみよう!

ohiana
1985年生まれ。東京工芸大学卒。コラージュ制作を続ける。アパレルブランド「A.C.C」を展開。anal dragonのブック参加、アーティストへのアートワーク提供、術ノ穴所属アーティストのPV、自身でのTシャツ制作や、ウェアブランド「サベージ(SUB-AGE.)」へのグラフィック提供等で活動する。

『CLOTING FOR A CURIOUS LIFE』
ブレインデッド

ルックの撮影やコラージュの着想を得るための“教科書”のような1冊

エド・デイヴィス(Ed Davis)がやっているカリフォルニアの「ブレインデッド(BRAIN DEAD)」のアーカイヴ集。「ブレインデッド」はストリートブランドですが、自分も仕事で一番多いのがTシャツのデザインだったりします。Tシャツのグラフィックで「人をくり抜いてどこにレイアウトしようか?」とか考えるんですけど、この本には相当な数のアーカイヴが載っていて、僕にとって教科書的な感じで見ていますね。

自分もエドもコラージュをやるんですけど、わりと近いスタイルなんで勉強にもなります。それと「ブレインデッド」がかっこいいのは、アーティストの人選。あとはルック写真も多く、自分もルックを撮る時に構図等を参考にさせてもらってる、教科書的な感じの本ですね。

『mango spirit』
河井美咲

手作りでしか生まれない風合いを感じる1冊

河井美咲さんはNY在住の作家なんですけど、彼女の力の抜けたドローイングが本当に好きで。この本は10年ぐらい前に「TOKYO ART BOOK FAIR」でご本人が販売していて「全部オリジナルの1点ものだから、気に入ったのを見て」って直接お話しさせてもらって買いました。

1部ずつ全部本人の手作りなんです。もちろんコピーで出力はしているんでしょうけど、用紙の色やページの順番とかも1部ずつ違うと思います。本を束ねている背の部分もいろんな柄の布を使ってのり綴じして留めてるんですけど1点1点違うんですよ。

『Amazing Wizard』
ジョン・マギー

アーティストとしての在り方に共鳴した、ジョン・マギーのパラパラ本

これはジョン・マギー(John Maggie)というミシガン在住のアーティストのパラパラ本。彼は若い頃から絵を描いていて、彼の作品はいろんな美術館に所蔵されていたりするんです。ジョンの絵の特徴はこの気の抜けた、いい意味でくだらない感じ。

親近感が湧いて真剣にくだらない、自身を支えるアート。

アートとしてこういったテイストってあんまり見たことがないんですけど、僕のキャリアを支えてくれているような本で、正直アーティストとしてこういうマインドで自分もいたいんですよ。アートなんだけど中指が立ってるじゃないですか。高尚なものだけがアートではないんだよって。そういう感じが伝わってきて親近感が湧きますね。真剣にくだらなくて。

ジョン・マギーのパラパラ本は手売りでしか売っていないし、河井美咲さんのは完全な自主制作、「ブレインデッド」の本は「リッゾーリ社(Rizzori)」から出版されてるけど今は希少だと思います。やっぱり自分の好きなアートブックはAmazonとかでは売っていない、アーティストが展示をやって手売りとか、自分のサイトのみで売ってるような、作り手の気持ちがダイレクトにビンビン伝わってくる代物。大量生産でも良いものがあったりしますけど、そういうのじゃなくて仲間内だけに伝わる“あの感じ”。そういうものが好きなんで。例えば自分達だけが知っているかっこいいフーディーがあったとして、それを有名人がテレビで着て広まっちゃったらあまり着たくなくなっちゃう。そうじゃなくて仲間内だけがその価値をわかって、仲間だけが着てたらもっとかっこいい。そういう3冊かな。

ジョン・マギーのは笑いたい時、河井美咲さんのは手作りの作業で心が折れそうな時とか、「河井さんはここまで手作りでやってきたんだぞ、お前はそんなんで心が折れてんじゃねえ」って、そんな感じで見させてもらっていて、「ブレインデッド」のは教科書です。それぞれ中身も素晴らしくて、どれも自分にとってはバイブルみたいなものです。ジョン・マギーの本は2月24日からのポップアップでも販売するし、彼の作品も展示します。気になったらぜひ来てください。

Photography Kentaro Oshio
Text Tsuneharu Mamiya
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

■idolatría
会期:2月24日〜3月2日
会場:ドミサイル東京
住所:東京都渋谷区神宮前4-28-9
時間:12:00〜20:00 
※オープニングパーティ24日 18:00〜21:00
公式サイト:https://domicile.tokyo/

■descargar
会期:2月24日〜3月2日
会場:ドミサイル東京 ギャラリー
住所:東京都渋谷区神宮前4-28-9
時間:12:00〜20:00 

■fiesta de clausura
日程:3月2日
会場:翠月(MITSUKI)
住所:東京都渋谷区道玄坂1-22-12長島第一ビルB1
時間:22:00〜
入場料:¥1,500

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.9 作家・島口大樹 アートブックにおける言葉の存在感 https://tokion.jp/2022/09/05/creators-talk-about-books-vol9/ Mon, 05 Sep 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=140134 作家、島口大樹によるテクストと繋がりのある写真集。

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常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブック等の書籍を紹介してもらう。

第9回は、2021年に群像新人文学賞を受賞した1998年生まれの作家、島口大樹。圧倒的な文章力で物語を紡ぐ“言葉の人”が選ぶ、アートブック3冊とは?

『メメント・モリ』
藤原新也

写真の上に文章が載る大胆なデザイン

1983年初版発行のロングセラーで、今さら僕が紹介するべきか迷いました。この本は、写真だけでなく文章が特徴的。一般的な言語感覚でないというか、写真家の言葉だなと思います。写真家は言葉を介さずに、写真というある意味1つの答えが見えているというのがまずあって、そこから言葉が追いかけるかたちになっている。そのため、どうしても感覚が混ざったり、ポエティックになったり、弾丸として飛んでくるような力強さもあって、本当におもしろい。

写真がいいのはもちろん、言葉とともに表現されたテクストを読んだ時に僕は非常に強い衝撃をくらってしまい、胸焼けをする思いでした。僕が写真を撮ったり、文章を書いたりといった創作活動を始めるきっかけになった1冊です。今の時代、情報過多で制度として健康や長生きが叫ばれます。「生きる」というより「死を回避する」ための社会のシステムが確立しているくらい。でもこの本には、人の死体などが多く掲載されていて、検閲が内面化されている新しい表現者が読むと何か感じるものがあると思います。僕は、生と死について一切の揺らぎのない、突き抜けるような言葉と写真に影響を受けたと思っているので、この重みを、若い方にも受け取ってほしいなと思っています。

写真家の写真集で、大きな書体の文字を写真に載せているのも珍しい。言葉の選び方、助詞の選び方1つ取ってもユニークで、ジャーナリズムの言葉とも、小説を書いている人との言葉とも違う感覚の文章に引き込まれます。

『計画と偶然』
山崎博

カメラに従事した写真家

この写真集は、僕の本のカバーを担当してくださっている写真家の馬込将充さんに教えてもらいました。お話している時に「どういう時にシャッターを切るか」「書いている時はどういう状態か」という話になって、多分2人とも自分ではあまりわかっていなかった。だから、作品を作る時は無意識に自分を持っていくしかない、みたいな話になりました。無意識を意識するというのはおそらく禅の言葉ですが、そんな話をしている時に馬込さんが教えてくれたのが、この1冊です。

山崎さんは、長時間露光をして「カメラに写真を撮らせた」人。「写真はコンセプトに従属せず、コンセプトは写真に奉仕する、作家はカメラに従事しなければいけない」という考え方をしています。一般的なスナップショットというのは、「決定的瞬間」をフィルムで捉えるという認識が多いと思いますが、それとは逆。水の流れを撮ることに対しても、「決定的瞬間などという見る側のヒエラルキーは存在しない」といった言い方をしています。要は、決定的瞬間は誰が決めるのか? に基づいて写真を撮っている人で、「決定的瞬間を決定的瞬間と定めるあなたは何者なのか」という態度がすごくいいなと僕は思っています。

無意識を意識すること、作家が写真に対して奉仕するということ。これらを語り手が必要な小説で表現するのは難しいことですが、何か通じる作品を生み出すことができるのではないかと、考え続けているところです。

長時間露光をすることによって、人間が見ることのできない光の軌跡を写す。これを彼は、計画と偶然と呼んでいます。カメラには機能があるのだから、それに従事しなくちゃいけないというスタンスで、人間が決めるのではなくあくまでカメラに従事することで、写真の可能性を切り開いてきた人だと思います。

『正体不明』
赤瀬川原平

路上観察をまとめた写真集

赤瀬川さんは、前衛画家であり、尾辻克彦というペンネームで芥川賞を受賞している作家でもあります。この写真集は、かつては役に立っていてもはや意味をもたないもの、あるいはそもそも作った意図がわからないものなど無用の長物がまるで芸術のように都市に存在している景色を集めた写真集です。赤瀬川さんは、当時、読売ジャイアンツの助っ人外国人にちなんで、その存在をトマソンと命名して、路上観察を続けていました。

「読む写真集」とあるように、すべての写真にキャプションがついているのですが、それが徹底的にふざけている。あるいは、徹底的にふざけている自分を俯瞰しています。もともと前衛画家なので、いわゆる美術作品のアンチテーゼとしていろいろな活動をしていて、路上観察もその1つ。

まず、写真家の目線でなく観察者目線の写真が並んでいるのがおもしろい。日常にあふれているものなのに、そういう目線で見ていなかったということに気づかされます。2冊目の山崎さんの写真集にもつながりますが、トマソンには作為性がありません。作り手が存在せず、観察者に観察されることで作品になる。都市の無意識が生み出したもの。そこに彼が1つの美学を見出して、観察者目線の写真とキャプションで紹介しています。

添えられるキャプションはずっとふざけているのに、急に胸に刺さる言葉があります。この右ページの写真にある「僕が水道の蛇口だった頃、お父さんは井戸のポンプだった。東京」という表現も好きです。

「ヴィジュアルやデザインだけでなく、芸術作品における言葉の用い方、存在意義を探ること」

今回、アートブックを紹介するにあたって、僕は作家として呼んでいただいているので、テクストとの関わりについて話ができるものを選びました。選んだ3冊は、どれも写真集。「メメント・モリ」と「計画と偶然」は写真家による写真作品で、「正体不明」は単に写真なので、写真の方向性は全く異なりますが、恣意性がないという点は通底しています。

さらに、写真と文字のバランスはそれぞれちがいますが、どれも言葉が重要なファクターとなっているアートブックだと思います。美術作品と言葉の関係でいうと「テクストが必要な美術は美術ではない」と考える方もありますが、最後に紹介した赤瀬川さんは「写真というのは『ここにあるものを写して他に見せる』もの。写真の基本は報道だから、最低限の言葉の補助が必要だと思う。写真に言葉がないとそれを芸術として見ないといけないような義理が生じやすい」といった表現をしています。

僕自身は、言葉にして決定づけることや名前をつけることはある意味、暴力的な行為であると考えている節があります。言葉をそれほど信用していないというか、誰かに押しつける言葉遣いを望みません。でも、赤瀬川さんは言葉が必要だという言い方をしている。確かに路上観察においては、都市的な無意識の写真を見つけるだけでなく、そこに丁寧に丁寧に考えた言葉を添えることによって、その“わからなさ”を楽しめるようになります。写真の内容を解析したり究明したりする意味ではなく、わからなさを楽しむために言葉がある。

そう考えると、定義づけや暴力的ではない言葉のあり方が見えてきて、写真と言葉の両方があることで、1つの作品として写真をより深くまで味わうツールになることがわかります。僕はこの3冊によって、自分の小説における言葉のあり方について考えさせられました。ヴィジュアルやデザインだけでなく、芸術作品における言葉の用い方、存在意義を探ることができるのも、アートブックの楽しみ方のひとつになるかもしれません。

島口大樹
1998年埼玉県生まれ。横浜国立大学経営学部卒業。2021年、『鳥がぼくらは祈り、』で第64回群像新人文学賞を受賞しデビュー。同作が第43回野間文芸新人賞候補となる。2022年、第2作『オン・ザ・プラネット』が第166回芥川賞候補となる。今最も注目される新人作家の1人。新刊『遠い指先が触れて』が販売中。

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.8 全国を旅する映画館 「キノ・イグルー」有坂塁 映画鑑賞に深みを持たせる3冊のアートブック https://tokion.jp/2022/07/28/creators-talk-about-books-vol8/ Thu, 28 Jul 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=133028 「キノ・イグルー」として映画の楽しさを伝える、有坂塁に映画にまつわるアートブックとパンフレットの魅力について話を聞いた。

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常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブック等の書籍を紹介してもらう。

第8回は、「キノ・イグルー」名義で移動映画館等、体験としての映画の楽しさを伝え続けている有坂塁。19歳の時に観た映画『クール・ランニング』で人生が一変したという有坂に、映画にまつわるアートブック3冊、そして日本独自の文化である映画パンフレットの魅力を教わった。

スタンリー・キューブリック

フィルムポスター アーカイブズ

キューブリックのアートワークを余すことなく味わう

アメリカの映画監督スタンリー・キューブリックのポスター等アートワークをまとめた1冊。ボツになったポスター含め300枚以上が掲載されています。キューブリックは、超コントロールフリークで、作品内だけでなく宣伝物まで完璧にコントロールする人だったそう。日本向けポスターのフォント等も全部チェックし、気に入らなければデザインを変更させたとか。

『博士の異常な愛情』(1964)は、アメリカとソ連の東西冷戦で、いよいよ核兵器が使われるかといった時代を皮肉ったブラックコメディ。今観ると、妙なリアリティがあります。

映画プロップ・グラフィックス
スクリーンの中の小道具たち

神は小道具に宿る

著者のアニー・アトキンズは、映画の中に出てくる手紙やメニュー、看板といった作品の世界観を演出するプロップ(小道具)を作ってきたデザイナー。小道具は一瞬しか映らないこともありますし、ストーリーに直接作用することはないですが、映画の世界観をつくるためには欠かせません。「せっかく作るなら」「せっかく見てもらうなら」より良いものにという、作り手のこだわりがうかがえます。

ウェス・アンダーソン監督の『グランド・ブダペスト・ホテル』のアートワーク。この本を見ると「これはどこに出てきたかな?」等、もう一度作品を観たくなります。

LE MUSEE IMAGINAIRE D’HENRI LANGLOIS

映画遺産を守り続けた、アンリ・ラングロワ

アンリ・ラングロワという映画人のコレクションや記録をまとめたアートブックです。ラングロワは、コレクションしていた古い映画のフィルムを上映する場所として「シネマテーク・フランセーズ」を創立した人。昔のフィルムは可燃性だったので、上映後に廃棄する必要があったんですが、それを買い取って蒐集していました。その後の世界大戦の時にもドイツ軍からフィルムを守る等、彼のおかげで僕らは初期のチャップリンの作品等も観ることができています。また、フランス映画にヌーヴェルヴァーグをもたらしたゴダールやトリュフォーは「シネマテークフランセーズ」の常連でした。ラングロワがいたから、今の映画があると言っても過言ではありません。

この本は2005年にベルシーに移設オープンしたシネマテークで購入しました。フランス語なので読めませんが、アーカイブとしても貴重な1冊です。彼は仕事人としては付き合いづらい人だったらしく、一度シネマテークを解雇されましたが、当時の映画監督や俳優達が解雇反対のデモを起こし、2ヵ月後には解雇が撤回されたそう。

「映画館が、教会のように心の拠り所になる」

僕は、19歳の時に映画館で見た『クール・ランニング』で人生が一変しました。それまでに観ていた映画は、7歳の時に見た『グーニーズ』と『E.T』の2本だけ。『グーニーズ』を観て感動し、どうしてももう一度観たくなって、母親に映画館に連れて行ってもらったら、やっていたのは『E.T』だった。観たくもない映画を映画館で観るのは最高に苦痛で、双子の兄と一緒に映画館内を駆け回り、『もう二度と映画なんて観ない』と断言したのを鮮明に覚えています。

でも、19歳の時に付き合っていた彼女に無理やり連れて行かれた10数年ぶりの映画館では、上映前からすごくワクワクしている自分がいました。暗くなった瞬間に、ここが自分の居場所だとさえ感じました。当時の僕は、一卵性の双子の兄といつも比べられてストレスを感じていたのですが、映画館ではそういう周囲の目から離れ、完全に1人になれたのだと思います。

それまではサッカーに没頭していてプロを目指していたのですが、それがかなわなくなり、ワクワクを感じた映画のほうに進もうと考えました。それまで全く観てきていない分、1日1本は映画館で映画を観ようと決めて現在も続けています。

最近は配信が充実して主流になってきていますが、そうなればなるほど映画館の価値も高まると考えています。映画館ではスマホの電源を切らなければいけません。これにはすごく希望があって、「映画を観ていたから」という理由で、常に繋がっていることの無意識のストレスを解放できる。映画館は今後、教会のように心の拠り所になるのではとさえ考えています。

ちなみに僕は、映画館では前から3列目くらいの真ん中の席を選びます。せっかく行くのだから、映像や音を浴びて没入したい。後ろの席で見るという選択肢はないので、好きな席が取れなかったら「今日ではなかった」と観るのをあきらめます。上映中は水分補給程度で、食事はしない。それは、サッカーの1時間半の試合にコンディションをつくって臨む感覚に近いですね。

それから、映画のパンフレットは必ず購入します。映画のパンフレットは作品の世界観をギュッと集約したもので、映画を観終わったあとにコーヒーやビールを飲みながら、パンフレットを読んで映画の世界を反芻したり、“言葉にできない余韻”にまどろんだりするのに最適なアイテムです。よく、映画の感想をテキストで残しているのだろうと言われますが、僕は感想をまとめたりしません。映画を観終わった後は言語化できないほど感動しているし、言葉に落とし込めないからこその余韻があります。パンフレットは、すぐには現実に戻れずに余韻にひたっている時間を豊かなものにしてくれるのです。

これは一般にあまり知られていないことですが、映画パンフレットは日本独自の文化で、他の国では制作されていません。パンフレットをめくれば、「どこで誰と観た」「その後一緒にお茶したな」といった映画の記憶が何年経っても蘇りますが、そういった楽しみ方ができるのは、実は日本だけ。

大島依提亜さん、石井勇一さんといった映画愛をもつデザイナーさん達によって、アートブックのように丁寧に作られているものが多いのも魅力です。コストがかかるため、最近はパンフレットを作らない作品も増えていますが、僕は絶やしてはいけない文化だと思っています。

有坂塁
2003年に移動映画館「キノ・イグルー」を渡辺順也とともにスタート。美術館やカフェ、遊園地等さまざまな場所で映画上映界を開催。1対1のカウンセリングでその人におすすめの映画3本を導き出してくれる「あなたのために映画をえらびます」を定期的に行う等、映画の楽しみ方を広げてくれるイベントを開催し、映画の魅力を伝える。kinoiglu.com/
Instagram:@kinoiglu

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.7 どついたるねん 先輩 本はほとんど手放す先輩が手元に残している3冊 https://tokion.jp/2022/06/04/creators-talk-about-books-vol7/ Sat, 04 Jun 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=119864 ロックバンド「どついたるねん」の先輩に「なぜか捨てられない」という理由で所有し続けているアートブックを紹介してもらう。

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常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブックなどの書籍を紹介してもらう。

第7回に登場するのは、2007年に結成し今年で15周年を迎えるロックバンド「どついたるねん」の先輩。記憶に新しい音源ダウンロードコード付きの弁当箱リリースや、粗悪な画質の配信ライブ。いつ見ても変わらずに、進化し続けているバンドだ。そんなどついたるねんのメンバー先輩は、そもそもアートブックや写真集をほとんど持っていないという。その中でも「なぜか捨てられない」という理由で所有し続けているアートブック3冊を紹介する。

『LICENSED TO ILL TOUR 1987』
ビースティ・ボーイズ

古着店を開店するならば持っておくべき1冊

1987年のビースティ・ボーイズのツアーのパンフレット。高校生の時通っていた、町田の古着店に飾ってありました。店長が「この本1冊あれば古着店を始められる」と言っていて(笑)。意味がわからないじゃないですか。当時はちゃんと見たことがなくて、大人になってから買いました。確かに、ここに載っているものを全部そろえればお店が開けるだろうなと思いました。

自分のバンドも写真集を出していますが、1枚のアルバムのツアーで本を出すのはすごいですよね。あとグラフィティの感じも好きです。

『先輩ちゃん』
塚本弦汰

後輩が撮りためた先輩の写真集

これはマネージャー兼カメラマンを務めていて、今はYouTubeでも活躍している塚本弦汰が手がけた俺自身の写真集です。弦汰がバンドに帯同していた2015年のアメリカツアー等、2年ほどの間に撮影した写真がまとまっています。限定1部だったため、最初はウェブサイトで150万円で販売を始めて。売れなくてBASEで上限価格の50万円で出品しても売れなかったので、今ここにあります。希望者がいればいつでも販売しますよ。

このグラフィティ、自分が描いたみたいですよね。絵は小さい頃から描くのが好きで、漫画のようなイラストはよく描いていました。

『RAPID RABBIT HOLE』
伊藤彩

和歌山出身の現代アーティスト

絵画や立体作品、インスタレーションを制作しているアーティストの作品集。「ラブパワー」のアートワークも担当してもらったことがあります。この本にも寄稿させていただいたのですが、彼女は小さい頃に絵が好きだった感覚そのままで作品を作り続けていることがすごいなと思います。実家が和歌山のみかん農園で、ダブリンと和歌山を行ったり来たりしているみたいなんですが、和歌山でライブがあった時はバンドメンバーみんなで実家に泊めてもらいました。彼女の作るおにぎりも世界で一番おいしいです。

まず登場するモチーフを立体で制作したり、ためておいた落書きを切り抜いたりしてリアルなジオラマをつくり、それを写真に撮って油絵で描き直す「フォトドローイング」という手法で絵を描いているそう。

「捨てることがアウトプットに近い感覚なのかもしれない」

昔から絵を描くのは好きでした。小学生時代に巻物を作ったことがあるのですが、1日で完成させて周りを驚かせました。その時はカブトムシの絵をよく描いてました。甲虫が好きなのかもしれません。学生時代はよく本も読みましたが、今は本や漫画はほとんど持ってないです。所有欲はあって気になったもの、好きなものは一度手に入れますが、その後手放すのも早いです。本に限らず服やバンドの機材にも愛着がないので、数年前と今では持っているものも全然違います。

自分が作った曲ですら、作って出すまでがピークで昔の曲を聴き直すことはほとんどありません。捨てることがアウトプットに近い感覚なのかもしれないです。作品作りのためにアートブックを物理的に読み返すことはしませんが、これまで見たものが影響しているのだと思います。愛を持ってアートブックを読んでほしいですね。

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.6 サブカル系YouTuber おませちゃんブラザーズ・わるい本田 無意識の出会いで自分の世界を広げる https://tokion.jp/2022/04/24/creators-talk-about-books-vol6/ Sun, 24 Apr 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=107032 サブカル系YouTuberのおませちゃんブラザーズ・わるい本田に好きなアートブックについて話を聞いた。

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常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブックなどの書籍を紹介してもらう。

第6回はサブカル系YouTuber「おませちゃんブラザーズ」のわるい本田が登場。仲間とともにYouTubeで映画や音楽、漫画などのサブカルチャーを解説していて「教える」というより「ここが好き!」という作品愛にあふれた作品解説に定評がある。本田は動画編集を一手に引き受けている。動画づくりにもインスピレーションを与えているという本田のアートブックコレクションから、お気に入りの3冊を教えてもらった。

『100』
松本大洋

想いを寄せるあの人の気持ちが知りたくて

中学生の時に買った画集。当時、好きだった女の子が松本大洋が大好きで、その子に近づきたくて『ピンポン』の漫画を読み始めたんですが、最初は絵が苦手でした。ストーリーはすごく好きで、そのうち友人にも広めたいと思うようになったんですが、自分のように絵が苦手な人がいるかもと思って、『ピンポン』のストーリーをそのまま文字に起こして、小説にして読んでもらっていました。そのうち、絵のことも理解したいと思うようになって、一度『ピンポン』の漫画を全部模写したこともあります。その経験から、かっこよさも自分なりにわかって絵も大好きになり、この画集を買ったのを記憶しています。

僕はこの「むしろ苦手なところから、好きな子が好きだからという理由で自分なりに研究して自分の好きにした」という経験から、「背伸びして知る」楽しさを知りました。僕の場合、第一印象で“生理的に無理”と思ったものは、あとで大好きに化ける可能性がある。それもあって、YouTubeでサブカルチャーの解説をする時は、「もしかしたら今はすごくその作品を苦手な人がいるかもしれない」ことを考慮したり、知識でマウントをとるよりも“好き”の気持ちを伝える解説をするよう意識したりするようになりました。そのきっかけになったのが、松本大洋です。

『鉄コン筋クリート』のシロとクロ。これは書き下ろしで細かな部分も描き込まれていて、漫画の中で描かれていた2人とは少し違う。漫画の本編には描かれていない、こんな一面もあるんだと思って驚いて強く印象に残っているページ。

『エゴン・シーレ ―ドローイング 水彩画作品集―』
ジェーン・カリアー

アメリカ留学中に出会ったアーティスト

高校3年の時に、アメリカのミシガンに1年間留学していました。行くまでは英語がペラペラになって帰ってこようと思っていたのですが、言葉の壁にぶつかってしまって。人と話ができなくなったので、諦めて絵を描いていました。絵なら言葉が必要ないというか、フラットな感じなのが良かった。自分の手をずっとデッサンしていたら、周りからほめてもらえたりして、コミュニケーションを少しとれるようになりました。だから留学中は1日10時間とか、とにかくずっと手を描いていたんです。

エゴン・シーレは、その留学中の美術の授業で知りました。美しいけど退廃的な感じというか、死に近い感じがする。どこか松本大洋の線とも似ているなと思いました。ナイーヴさと力強さがあり、細かいところまで描いているけど写実的かというとそうでもなくて。女性のヌードをたくさん描いていますが、少女の誘拐容疑で逮捕されたり、妻の姉と不倫したり。まあ、めちゃくちゃなところが好きです。

シーレのミューズだったヴァリと自身を描いている「死と乙女」。シーレは絵を描き続けるために別の中産階級の女性と結婚することが決まっていて、ヴァリとの別れのシーンを描いていると言われています。よく見ると、自分が決めたことなのに被害者みたいな表情をしているし、左手で優しく抱き寄せているのに、右手で突き放そうとしているような。矛盾と葛藤が見えて、人間らしさにぐっとくるものがあります。

『Let’s Go Downtown まちがいさがし』
町田ヒロチカ

バンドサークルの友人が手掛けた1冊

町田くんは大学のバンドサークルの後輩で、当時は絵を描いているなんて全く知らなかった。大学4年生の時に突然「絵を描く」といってびっくりしたんですが、作品を見せてもらったらめちゃくちゃいい。当時から雰囲気があって、後輩だけど会うと緊張してあまり喋れなかった思い出がありますが、社会人になってから、町田くんの絵がスカパラのジャケットに採用されるなど名前を聞くようにもなりました。僕はその時、放送作家として奴隷のように働いていて、好きなことで生きている彼をうらやましく思ってムズムズしていたのを覚えています。そういった思いは、僕がYouTubeを始める力にもなっていて、間接的にですが僕に今の生き方を教えてくれた友人です。

この画集は1冊まるごと間違い探しになっています。とにかく好みのタイプの絵で、LINEスタンプも全部持っています。色使いも最高。僕は色盲で、赤と茶色とか、青と紫の差がわかりにくいんですが、そんな僕が見ても町田くんの色使いはすごくいい。

「アートブックには無意識の出会いがある」

僕はアートに詳しいわけではありませんが、アートブックはパラパラめくって無意識に目に入れたいと思うものがあった時に購入して、動画編集などで行き詰まった時に何気なく見ています。今って、自分の選択したものしか目に入ってこない世の中になっていると思うんです。YouTubeでもGoogle検索でも、おすすめされるものは過去に検索したものに紐づいていて、何かを深めることはできるかもしれないけど、意識しないと自分の世界を広げることは難しい。

そういう意味では、アートブックには無意識の出会いがあります。自分が選択していないところから思いがけない情報が入ってくることがあるので、気になるページがあったら購入して手元に置いておいて、いつでもパラパラできる状態にしておくと、自分が予測していなかった意外な方向へ世界が広がるのではないでしょうか?

わるい本田
1989年生まれ、千葉県出身。早稲田大学中退。ラジオやテレビの放送作家として活躍後、学生時代の友人とともにYouTuberに。「おませちゃんブラザーズ」のチャンネルで、映画や音楽、漫画などのサブカルチャーを解説する動画が人気。
Twitter:@omasehonda

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.5 漫画家・川勝徳重が古き日本の姿に魅せられたこと https://tokion.jp/2022/01/07/creators-talk-about-books-vol5/ Fri, 07 Jan 2022 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=83481 漫画家・川勝徳重がオススメする画集と写真集について話を聞いた。

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常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブックなどの書籍を紹介してもらう。

第5回は、漫画家であり『セミ書房』の編集にも携わる川勝徳重。自宅にあった西洋絵画の画集の影響もあり、小学生時代、自宅にあった複製画や画集から西洋絵画に親しんでいたという。中学になると、クラシック音楽マニアだった美術の先生に感化されて美術部に入部し、本人も古典的な音楽や美術を鑑賞し始める。漫画を描き始めたのは中学3年の頃で、同級生が漫研をつくり「美術部だから漫画も描けるだろう」と勧誘されたのがきっかけ。そこから『ガロ』に掲載されるような劇画をはじめ漫画を「真面目に」読むようになったという。漫画に限らず活字本、写真集、画集など古本コレクターとしても知られ、とにかく読書量の多い川勝徳重が「アートブック」というお題で選書した3冊とは?

『私的昭和史』(上巻/下巻)
桑原甲子雄

戦前、戦後の匂いを写真から嗅ぎ取る

アマチュア写真家であり編集者の桑原甲子雄(1913〜2007)が撮影した写真をまとめた写真集。桑原は『アルス』というカメラ雑誌を手掛ける出版社で編集長を務めていた人で、土門拳や荒木経惟も見出しています。

この本は、上巻『東京 戦前篇』、下巻『満州紀行 東京戦後篇』に分かれていて、昭和の東京がそこに暮らす人々とともに収められています。桑原が編集者ということもあり写真にはキャプションもつけられていて、それを順に読むだけで、桑原とその時代を生きているような気分になれます。当時の何気ない日常やよそ行きではないラフな表情が垣間見られます。彼は当時の人々の何気ない日常やラフな表情を写すのが本当に上手いです。彼の撮る写真には、被写体への親しみと、少し離れて観察しているような目線が共存しています。東京の下町育ちの坊ちゃんならではの写真ですし、要するにシティボーイなんです。

生涯アマチュアカメラマンに徹した、桑原が撮る写真には、作品として以上にその時代の魅力が感じられます。例えば土門拳の写真を見たとき「土門拳の写真だな」という感想を抱きますが、桑原の写真は「こういう時代だったんだな」と。上巻『東京 戦前篇』が良いのはもちろん、下巻も素晴らしい。特に締め括りの未発表のカラーフィルムのページ。雨上がりの虹を撮影した写真があるのですが、上巻から通して見ていくと桑原の人生に想いを馳せてしまい、泣けるんです。これは桑原の死後に編まれた写真集ですが、素晴らしい編集だと思いますよ。

『温泉芸者』
平地勲

温泉芸者の着物姿に魅せられて

平地勲が信州別府温泉に働く温泉芸者を記録した写真集です。学生運動の記録写真を撮っていた北井一夫が主宰する「のら社」が、昭和50年に刊行したもの。

こちらは桑原の写真集とは違い、コントラストがバキバキの写真ですが、古い映画のワンシーンのような非日常感と郷愁が同居しています。1970年代の温泉街にいた芸者達の姿をたくましく捉えており、生活臭の強いリアリズム写真でありながら、コントラストが強いので“あの世感”も漂っています。同時代に『ガロ』に掲載されていた、つげ義春や菅野修に通じる質感があるので好きなのかもしれません。

図集『幕末・明治の生活風景 外国人の見たニッポン』

幕末から明治の日本の姿を収めた画集

幕末・明治に来日した外国人が残したスケッチをまとめた画集です。この時代の写真は、露出時間も長く、スナップ撮影ができないので、当時の様子を知るためにはスケッチの方がわかりやすい。その上で外国人によるスケッチが多いので、日本人であれば見過ごすようなあたりまえにある風物、場面が丁寧に描かれているんです。火葬の絵も収録されていますが、これは外国人でなければ描けなかったと思いますよ。J.M.Wシルヴァーの著作『日本の儀礼と風習の素描』からの転載だと思うのですが、切腹、死者の頭髪を剃る、送り火を焚くなどの絵も収められています。

あくまで記録として描かれた絵なので、絵画としての魅力はありません。でも、だからこそ当時の空気が伝わってくる側面があるんですね。版元の農文協は『現代農業』や『季刊地域』を発行していて、この画集の編者の須藤功先生の著作も『大絵馬ものがたり』、『写真ものがたり昭和の暮らし』など多数発行しています。写真も編集の腕前も見事ですし、まだご存命です。

写真集もアートブックも漫画も活字もそれほど区別がない」

私は漫画家なので、絵を描くのに資料が必要で、昔の時代の写真集を集めている側面もあります。また特に昭和が好きなので、この手の本を集めていました。古い漫画本は趣味で集めていますが、写真集や画集などは区別して収集しているわけではありません。今回はアートブックという言葉を画集や写真集と解釈し、選書しました。有名な画家や写真家の作品は私よりも語れる方がいると思うので、今回はこのような本を挙げました。桑原甲子雄も須藤功の編著も、昭和や江戸を描く漫画家は目を通しているのではないでしょうか。今回紹介した本と、昭和や江戸を描くのが得意とされている漫画家の作品を刮目すると何か発見があるかもしれませんよ。

川勝徳重
1992年、東京生まれ。漫画家。2011『幻燈』(北冬書房)にてデビュー。漫画雑誌『架空』の編集、執筆に関わる。戦後に流行し、のちの劇がブームを先行した『貸本漫画』にも詳しく、コレクションも多数。著書に『電話・睡眠・音楽』(リイド社)、『現代マンガ選集【恐怖と奇想】』(ちくま文庫)、『アントロポセンの犬泥棒』(リイド社)がある
Twetter:@old_schooooool

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.4 クリエイター・佐藤詩織 アートブックを通じて自身の活動に深みを与える https://tokion.jp/2021/12/11/creators-talk-about-books-vol4/ Sat, 11 Dec 2021 06:00:00 +0000 https://tokion.jp/?p=79019 元・欅坂46のメンバーであり、クリエイターとして活動している佐藤詩織に影響を受けたアートブックについて聞いた。

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常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブックなどの書籍を紹介してもらう。

連載第4回は、欅坂46(現・櫻坂46)の1期生で、“美大アイドル”としても注目された佐藤詩織。2020年10月にグループを卒業し、現在はデザイナー、アーティスト、ダンサーとして映像や絵画、衣装制作、グラフィックなどさまざまな表現活動に取り組んでいる。そんな彼女が、今「自分に必要な参考書」として活用しているのが、アートブックだ。

レオナール藤田の画集

人生で初めて買い求めた、とっておきの1冊

高校生くらいの時に家族で行ったポーラ美術館で、初めてレオナール藤田さんの絵を見ました。その時館内はほぼ貸切状態で、人物画の表情などもじっくり見られました。私がそれまで見てきた画家の絵とは違ってとても印象的で、「こんなふうに絵を描きたいな」と思ったんです。それで画集を購入しました。人生で初めて買った画集がこの本です。

藤田さんの絵はいろいろなバリエーションがありますが、ペンでかたどって詳細に色をつけるものがあって、中でもこの左ページの絵に強く惹かれました。この絵の雰囲気を真似して高校生の時に描いたのが、右の絵です。当時飼っていて大好きだった犬を登場させ、黒白のタイルをリボンで表現。果物の感じも真似して、藤田さんオマージュの1枚になりました。

私は興味を持ったことに「がっ」とはまるタイプで、アートに興味を持った高校生の頃はとにかく突き詰めて、短期間で美術のある程度の基礎を身につけることができたように思います。大学はグラフィックデザインを専攻し、今年8月に開催した個展は、企画構成から衣装までデザインした映像を元に構成しましたが、最近はやっぱり手を動かして絵を描くのもいいなと思っていて。書道も含めて、絵画作品もつくっていこうかと考えているところです。

ファッションの舞台裏
-コンセプトを引き立てるグラフィックデザイン-

着想を得るために、何気なくパラパラとめくってみる

これは、ファッションに関わるグラフィックデザインの本です。画材を買いに行った新宿の世界堂で見つけました。こちらはデザインを考える時の直接的な参考書としてよく手に取ります。いろいろな国のおしゃれなグラフィックが載っているので非常に参考になりますが、タイポグラフィは、日本語が入るととたんに難しくなるんですよね……。

写真や文字の配置の仕方、色味の組み合わせ方が好きなページです。私が持っているアートブックは写真や文字、絵などが組み合わさったものが多く、トータルのデザインがいいなと思って買っているところがあります。だから、レオナール藤田さんの作品集のような画集や写真集は数を持っていません。そちらは好きな作家さんの作品を手元に置いておきたいという理由で購入していて、デザインの参考にするのとはまた違った意味合いなのだと思います。

小説などの本を読むのも好きですが、本よりアートブックからのほうがインスピレーションをもらいます。小説は情景を頭に浮かべながら読むほうなので、途中で中断してしまうと、次に読む時にもう一度描いた情景を思い浮かべなくちゃいけなくなって読むのに時間がかかります。それもあって1時間くらいで読み切れる短編小説のほうが好き。頭に浮かんだイメージを作品に表現してみるのもおもしろいかもしれませんが、手に取って視覚的にパッと目に入るアートブックは、やはり日常におけるいちばん身近なツールです。

Lula Japan

写真や文章のレイアウトの参考に用いる1冊

イギリスのファッション誌の日本版。毎回1つの色をテーマにしていて、この号はブラック。ブラックを基調にしたファッションや、写真もモノクロのものが多く入っています。私はフィルムカメラも趣味にしているので、写真の構図なんかも見惚れてしまいます。

日本語と英語の表記が秀逸な見開きページ。日本語版なので英語の他に日本語が入っているのですが、それでもすごくかっこいい。「何が違うんだろう?」と思いながら、勉強しています。

私は在学中から芸能活動をしていたので、大学の授業にあまり通えないまま卒業していて、「置いてけぼり」感を強く持っています。在学当時は、友人に「学生なのに第一線で活躍してがんばっているんだから」と励まされていましたが、大学を卒業し、グループも卒業した今は、振り出しに戻ったような気分。街を歩いている時に友人が携わった広告を目にしたりすると、なおさらそう感じますね。

不安も焦りもあります。というより、毎日が焦りとの戦いです。でも、何かをつくることはずっと続けていきたい。将来的には、日本の良さをアートで伝えられるアーティストになりたいと思っているので、留学も視野にいれつつ、今はアートや日本のことをたくさん勉強して力をつけていきたいなと思っています。

「もう少しでいい案が出てきそう」という時にアシストしてくれる存在

小さい頃は、クラシックバレエをずっと習っていて、絵を描くことには苦手意識がありました。書道はバレエと同じくらい長く、4歳くらいからずっと続けて師範ももっているのですが、絵は姉のほうがずっと上手でした。でも中学生の頃にケガをしてバレエを断念せざるを得なくなり、何か夢中になれることがないかなと考えていた頃に、TVドラマでCMプランナーの女性を題材にした「サプリ」を見て、CMやグラフィックに憧れを持ちました。そこから美術系の高校に進学し、大学もムサビ(武蔵野美術大学)に。大学1年生の夏休みに先輩から欅坂のことを知って、応募しました。2次審査には、自己PRのために自分で描いたボールペン画を持っていったんですが、アカペラ審査では歌詞がとんで全然歌えなかったので、作品を持ち込んだのが良かったのかなと今となっては思います。

アートブックを見るようになったのは、美術に興味を持った高校生の頃から。美術の予備校に通っていた時期は毎回課題があってポスターデザインなどを制作していたのですが、インプットがないとアウトプットができないので、書店でアートブックをパラパラ見たり、かわいいフライヤーを集めたり。「もう少しでいい案が出てきそうなんだけどな」という時にめくって、助けられてきました。

佐藤詩織
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。欅坂46の第1期生として活動し、2020年卒業。アーティスト、デザイナーとして活動する他、ディーンフジオカのMVでダンスを披露するなどダンサーとしての顔も見せるなど多彩な才能を発揮。
Instagram:@shiori_sato_artwork

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

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