連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.11 セレクトショップ「カンナビス」バイヤー・HIMAWARI インスピレーションの源である3冊

「音楽・ファッション・アートを切り口にアウトサイダー(異端児)達の集まる場所」をコンセプトに掲げ、2000年にオープンした原宿のセレクトショップ「カンナビス(CANNABIS)」。現在、同店でバイヤー兼オーナーとして働くHIMAWARIは、個性的なファッションをクールに着こなすセンスと飾らない人柄で、ファッションアイコンとして多くの支持を得ている。流行と個性がひしめき忙しく移り変わる渋谷と原宿、その2つを結ぶキャットストリートで20年以上続く「カンナビス」で育った彼女は、昨年から同店のオーナーとして一層精力的に活動の幅を広げている。「カンナビス」以前から始めていたDJは、今では自身のイベント以外にもゲストとして引く手数多であり、本業を忘れさせるほどの活躍を見せている。また不定期に刊行される『PETRICHOR』誌のメンバーとしては、美大出身という背景を生かして撮影やMVの制作にも携わってはその才能を発揮している。このようにHIMAWARIは、ファッションを軸に音楽とアートという、まさに「カンナビス」のコンセプトを地で行くようなクールな人生を満喫している。今回はそんな彼女の大切なアートブック3冊を紹介してもらった。

HIMAWARI
原宿にあるセレクトショップ「カンナビス(CANNABIS)」のバイヤーと店長を経て、2022年6月に元会社から独立し新たに「カンナビス」をスタート。DJとしても活動しており、多数のイベントでテクノ、アンビエント、トライバル等幅広くプレイ。インディー雑誌『PETRICHOR』のメンバーとしてMV等の制作にも携わっている。

『Parasites』
マルティン・エダー

ロンドンで偶然出合った、ポップでキモいアートブック

ウチはギャラリーに行くのが好きで、初めてロンドンに行った時も自分で調べて1人でいろいろ回ったの。これは内装が薬局をモチーフにしたカフェみたいになっている『ニューポート・ストリート・ギャラリー』で展示してた、油絵画家の本。ギャラリー自体が気になって行ったから、もともとこのアーティストのことは知らなかったんだけど、結構衝撃を受けた。ウチも油絵をやっていたからかもしれないけど。

犬とか猫の横にいきなり人間の裸が描かれてたり、ちょっとエロが入ってるんだけど、それが綺麗な裸じゃなくて、人間のキモい感じが描かれていて、作風も気に入った。わざわざ海外旅行中に、持って帰るのが大変な重い作品集を直感のまま2冊も買っちゃった、っていう思い出の本。

『Nam June Paik』
ナムジュン・パイク

ビデオ・アートの探究者・ナムジュン・パイクの作品集

彼はビデオアーティストで存在は前から知ってたんだよね。でも、パリに行った時にやってた彼の展示を見に行ったら、その展示がヤバくて。ブラウン管をいっぱい並べてその画面に映像を流すっていうインスタレーションだったんだけど、衝撃的すぎて、また作品集を海外で買っちゃった(笑)。2年くらい前に清澄白河でも展示をやってた。

東京で展示をやってた時はパカパカの携帯をいっぱい並べて映像を流したりとか、室内に森を作ってめちゃくちゃブラウン管を並べて部屋をつくってたりとか、彼の空間の使い方がマジでヤバい(笑)。

『ホテル ニューマキエ』
『おピンクマキエ画報』
『マキエマキの空想ピンク映画 ポスター集』
マキエマキ

自撮り熟女・マキエマキの写真集

これはウチの大好きなおばちゃん。おばちゃんって言っちゃいけないかもだけど(笑)。かわいい人で、作品はこの年齢の女の人だから出せるエロさで溢れてるんだよね。妖艶な感じでいながら全部自分でシャッターを切って撮る、自撮りおばちゃんなの。グラビアなんだけど、ロケ場所やアングル、それに衣装まで“ザ・昭和のポルノ”っていう感じ。ウチは昔から昭和のエロ本を集めているからすぐに気にいって、神保町でやってた写真展に行ったらご本人がいたから、話もさせてもらった。これも結構衝撃だったな。

デザインも古いエロ本みたいで好きだし、おっぱいに貝殻を付けた写真とか昼間の団地とかあるんだけど、セルフポートレートだからね(笑)。自撮りっていうのが超ヤバイなって。

「きれいなだけのアートよりもポップでありながらちょっとリアリティーがある、エログロとかが入ってるのが個人的な好み」

本がもともと好きで、このインタヴューの直前まで3冊に絞れなくて、重いのにたくさん持ってきた(笑)。もちろん洋服は好きだったんだけど、アートとか建築がもともと好きだった。ウチが働き始めたころの「カンナビス」は2フロアでギャラリーもあったから、空間デザインとかインスタレーションみたいなことがしたいなって思ったこともある。実際3冊に絞ってみると、ただきれいなだけのアートよりも、ポップでちょっとリアリティがあって、エログロとか入ってるのが個人的な好みなのかなって気付いたかも。

マキエさんの展示にいったのは、ちょうど『PETRICHOR MAGAZINE』で自分のページを作っていた時期で、もちろん作風は違うけど、自分なりのポルノを表現するインスピレーションになった。実際、今もいつか自分でポルノショップをやりたいなって思ってるし(笑)。今の「カンナビス」は前と違ってギャラリースペースはないけど、将来的にはこの店を大きくしたいと思っていて、こういった本とかを並べて紹介したり、アーティストの展示をやりたいなって思ってるの。そういった意味でも、今の私のインスピレーションの源になっている3冊かな。

Photography Kentaro Oshio
Text Tsuneharu Mamiya
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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