連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.4 クリエイター・佐藤詩織 アートブックを通じて自身の活動に深みを与える

常に新鮮な創造性を発揮するクリエイターにとって、写真集やアートブックを読むことは着想を得るきっかけになるだろう。この連載ではさまざまな領域で活躍するクリエイター達に、自らのクリエイションに影響を与えた写真集や注目のアートブックなどの書籍を紹介してもらう。

連載第4回は、欅坂46(現・櫻坂46)の1期生で、“美大アイドル”としても注目された佐藤詩織。2020年10月にグループを卒業し、現在はデザイナー、アーティスト、ダンサーとして映像や絵画、衣装制作、グラフィックなどさまざまな表現活動に取り組んでいる。そんな彼女が、今「自分に必要な参考書」として活用しているのが、アートブックだ。

レオナール藤田の画集

人生で初めて買い求めた、とっておきの1冊

高校生くらいの時に家族で行ったポーラ美術館で、初めてレオナール藤田さんの絵を見ました。その時館内はほぼ貸切状態で、人物画の表情などもじっくり見られました。私がそれまで見てきた画家の絵とは違ってとても印象的で、「こんなふうに絵を描きたいな」と思ったんです。それで画集を購入しました。人生で初めて買った画集がこの本です。

藤田さんの絵はいろいろなバリエーションがありますが、ペンでかたどって詳細に色をつけるものがあって、中でもこの左ページの絵に強く惹かれました。この絵の雰囲気を真似して高校生の時に描いたのが、右の絵です。当時飼っていて大好きだった犬を登場させ、黒白のタイルをリボンで表現。果物の感じも真似して、藤田さんオマージュの1枚になりました。

私は興味を持ったことに「がっ」とはまるタイプで、アートに興味を持った高校生の頃はとにかく突き詰めて、短期間で美術のある程度の基礎を身につけることができたように思います。大学はグラフィックデザインを専攻し、今年8月に開催した個展は、企画構成から衣装までデザインした映像を元に構成しましたが、最近はやっぱり手を動かして絵を描くのもいいなと思っていて。書道も含めて、絵画作品もつくっていこうかと考えているところです。

ファッションの舞台裏
-コンセプトを引き立てるグラフィックデザイン-

着想を得るために、何気なくパラパラとめくってみる

これは、ファッションに関わるグラフィックデザインの本です。画材を買いに行った新宿の世界堂で見つけました。こちらはデザインを考える時の直接的な参考書としてよく手に取ります。いろいろな国のおしゃれなグラフィックが載っているので非常に参考になりますが、タイポグラフィは、日本語が入るととたんに難しくなるんですよね……。

写真や文字の配置の仕方、色味の組み合わせ方が好きなページです。私が持っているアートブックは写真や文字、絵などが組み合わさったものが多く、トータルのデザインがいいなと思って買っているところがあります。だから、レオナール藤田さんの作品集のような画集や写真集は数を持っていません。そちらは好きな作家さんの作品を手元に置いておきたいという理由で購入していて、デザインの参考にするのとはまた違った意味合いなのだと思います。

小説などの本を読むのも好きですが、本よりアートブックからのほうがインスピレーションをもらいます。小説は情景を頭に浮かべながら読むほうなので、途中で中断してしまうと、次に読む時にもう一度描いた情景を思い浮かべなくちゃいけなくなって読むのに時間がかかります。それもあって1時間くらいで読み切れる短編小説のほうが好き。頭に浮かんだイメージを作品に表現してみるのもおもしろいかもしれませんが、手に取って視覚的にパッと目に入るアートブックは、やはり日常におけるいちばん身近なツールです。

Lula Japan

写真や文章のレイアウトの参考に用いる1冊

イギリスのファッション誌の日本版。毎回1つの色をテーマにしていて、この号はブラック。ブラックを基調にしたファッションや、写真もモノクロのものが多く入っています。私はフィルムカメラも趣味にしているので、写真の構図なんかも見惚れてしまいます。

日本語と英語の表記が秀逸な見開きページ。日本語版なので英語の他に日本語が入っているのですが、それでもすごくかっこいい。「何が違うんだろう?」と思いながら、勉強しています。

私は在学中から芸能活動をしていたので、大学の授業にあまり通えないまま卒業していて、「置いてけぼり」感を強く持っています。在学当時は、友人に「学生なのに第一線で活躍してがんばっているんだから」と励まされていましたが、大学を卒業し、グループも卒業した今は、振り出しに戻ったような気分。街を歩いている時に友人が携わった広告を目にしたりすると、なおさらそう感じますね。

不安も焦りもあります。というより、毎日が焦りとの戦いです。でも、何かをつくることはずっと続けていきたい。将来的には、日本の良さをアートで伝えられるアーティストになりたいと思っているので、留学も視野にいれつつ、今はアートや日本のことをたくさん勉強して力をつけていきたいなと思っています。

「もう少しでいい案が出てきそう」という時にアシストしてくれる存在

小さい頃は、クラシックバレエをずっと習っていて、絵を描くことには苦手意識がありました。書道はバレエと同じくらい長く、4歳くらいからずっと続けて師範ももっているのですが、絵は姉のほうがずっと上手でした。でも中学生の頃にケガをしてバレエを断念せざるを得なくなり、何か夢中になれることがないかなと考えていた頃に、TVドラマでCMプランナーの女性を題材にした「サプリ」を見て、CMやグラフィックに憧れを持ちました。そこから美術系の高校に進学し、大学もムサビ(武蔵野美術大学)に。大学1年生の夏休みに先輩から欅坂のことを知って、応募しました。2次審査には、自己PRのために自分で描いたボールペン画を持っていったんですが、アカペラ審査では歌詞がとんで全然歌えなかったので、作品を持ち込んだのが良かったのかなと今となっては思います。

アートブックを見るようになったのは、美術に興味を持った高校生の頃から。美術の予備校に通っていた時期は毎回課題があってポスターデザインなどを制作していたのですが、インプットがないとアウトプットができないので、書店でアートブックをパラパラ見たり、かわいいフライヤーを集めたり。「もう少しでいい案が出てきそうなんだけどな」という時にめくって、助けられてきました。

佐藤詩織
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。欅坂46の第1期生として活動し、2020年卒業。アーティスト、デザイナーとして活動する他、ディーンフジオカのMVでダンスを披露するなどダンサーとしての顔も見せるなど多彩な才能を発揮。
Instagram:@shiori_sato_artwork

Photography Kentaro Oshio
Text Akiko Yamamoto
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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