連載「クリエイターが語る写真集とアートブックの世界」Vol.12
おもちゃ店「SPIRAL」オーナー・高橋香代子 自身のキャリアに寄り添ってきた3冊

原宿の「SPIRAL」は1990年代から続く老舗のおもちゃ店だ。ディズニーやシンプソンズといったメジャーなキャラクターだけでなく、アメリカに買い付けに行き選んだ、遊び心あふれるアイテムの数々が小さな店内に所狭しと並ぶ、その世界観は原宿メルヘンと呼ぶに相応しい“KAWAII”があふれたおとぎの国のよう。一点ものを見つけるために宝探しをするコレクターから、その“KAWAII”を体感するために訪れるおもちゃ初心者、観光客、そしてセレブリティまで幅広いファンがこの原宿の小さなお店が醸し出すファンタジーあふれる世界観に魅了されている。今回は原宿のおもちゃ店「SPIRAL」のオーナーである高橋香代子にとって、お店の世界観作りに欠かせない3冊を、「SPIRAL」の原点となった露天商時代や「1990年代の東京」というまた別のおとぎ話とともに振り返った。

高橋香代子
原宿の「おもちゃやSPIRAL」オーナー。「SPIRAL」は1990年代のアメリカのおもちゃ・雑貨を中心に取り扱う。自らアメリカへ買付けに行き貴重なヴィンテージや一点ものが揃う。

『SNAPS』
エレン・フォン・アンワース

おもちゃ店を始める前は美容師だったんです。その頃は今ほどインターネットが普及していなかったから、仕事が終わったら最先端のヘアスタイルを勉強するために海外誌とか海外の写真集を探しに夜中まで開いてる本屋にチェックしに行くのが日課だった。私は六本木の方に住んでたから、麻布警察署の並びにあった青山ブックセンターに夜な夜な足を運んでいて、エレンが撮ったタバコを吸ってるナオミ・キャンベルの写真にすごい惹かれ「誰が撮っているんだろう?」と調べたことが最初の出会い。

別の機会に別の雑誌を見ていて「この広告格好いいな」と思ってクレジットを調べたら、またエレンだった。出ているモデルも髪形もかっこよかった。当時はかっこいいものを見たかったら海外誌を見るしかないから、ずっと立ち読みしてたんだよね(笑)。ちょうどこの頃、サロンで働くのが苦痛になってきていた時期で。ヘアメイクをやりたいと思っていたけど、ヘアメイクでやっていける人なんてほんのちょっとじゃん。結局、ヘアメイクがやりたいのか何がやりたいのか、よくわからなくなって。その時に六本木の道端で、私の元ボスに声かけられたの。道で物を売っているおじさんに(笑)。

『WARTER KEANE』
ウォルター・キーン

ウォルター・キーンはサンフランシスコ出身のアーティスト。道端で知り合った元ボスに買い付けに誘われて、あるタイミングで一緒に行ってみた。名前も知らないおじさんと行った、初めてのアメリカでの買い付けがおもしろくて美容師をやめて、自分で買い付けをするようになったんです。よく買い付けで「ブライス」っていうおもちゃの人形を買ってたんだけど、パルコのコマーシャルに使われてから値段が高騰してしまって。このウォルターの絵を見た時に「ブライスみたいだな」って感じた。

ウォルターの活躍していた時期も1960~70年代なんだけど、1970年代のアメリカのおもちゃって、泣いてるお人形とか、こういうちょっと寂しい感じのものが流行っていたんだけど、「この時代のものはなんでこんなに寂しい表情の人形や絵が多いんだろう?」って思って気になるようになったんです。この人の絵を「怖い」っていう人もいるんだけど、私は寂しくて大きい目に惹かれて、フリマで見かけると買うようになりました。クリエイターが語る写真集とアートブックの世界

『Gary Baseman』
ゲーリー・ベースマン

ゲーリーの本は何冊か持ってるんだけど。このアーティストの作風は「ポップだけどかわいすぎない」みたいな。キャラクターはみんな可愛いんだけど、口とか目から何か垂れていておもしろいし、どうしてこういう風にしちゃうのか気になる(笑)。彼の描く絵のキャラクターの目もウォルターの描くキャラクターの瞳みたいで大きくて印象的。

LAに買い付けに行った時に雑貨店兼ギャラリーみたいなところで見て、「何だこの絵?」って思ってから気になるようになったんです。フィギュアなどの立体も出ていて、リトグラフは知人にプレゼントしてもらいました。かわいくて何か気になる存在。

20代の美容師時代に出会った写真集

エレンの写真はやっぱりどれもかっこいいんだけど、やっぱりナオミが髪をコーラの缶で巻いてるやつが好きかな。ゴメンね、この写真集には入ってなかったんだけど(笑)。ナオミの髪形も大好き。

キーンとベースマンのは改めて見てると、私ってちょっと暗いのが好みなのかなって思った(笑)。暗いというよりアダムス・ファミリーみたいな「奇妙な可愛さ」が好みではあるかな。ウォルターは10年くらい前にティム・バートンが監督した映画で取り上げられていたけど、あの映画によってすごい絵が高くなっちゃった。私が買った頃もそんなに安くはなかったけど。お客さんの中にも好きだと言ってくれる人がいて、以前はよく買い付けていました。

1990年代はインターネットが普及していなかったから、世界中に自分が知らないものがいっぱいあったの。だからアメリカや海外での買い付けがおもしろくて、私は買い物が好きなんだなって思って美容師をやめた。それで公園通りの路上にお店を出したのが「SPIRAL」の原点かな。作品集を見返して振り返ると、それぞれに思い出がありますよね。見返すとやる気が出るじゃないけど、「こういう世界をつくりたいな、こういう世界観がやっぱり好きだな」と楽しくなりますね。

Photography Kentaro Oshio
Text Tsuneharu Mamiya
Edit Kumpei Kuwamoto(Mo-Green)

author:

mo-green

編集力・デザイン思考をベースに、さまざまなメディアのクリエイティブディレクションを通じて「世界中の伝えたいを伝える」クリエイティブカンパニー。 mo-green Instagram

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