#映画連載 佐久間宣行 世界って残酷。でもだからこそかけがえのないものに出会えることを教えてくれる映画作品4本 前編

映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。“消費”するだけでなく、“吸収”し、糧となるような作品を掲載していく。

今回登場するのは、若い頃から映画や演劇などに親しむテレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行。多忙を極めながらも、観たい作品をカレンダー上で管理してほぼ毎日のように映画を観るという佐久間に、「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」をテーマに4本選んでもらった。傷つきやすく、多感な時期に観ていたら、心の支えになっていたかもしれないし、違う人生を歩むきっかけになったかもしれない作品を、前後編に分けて2本ずつ紹介する。

『そうして私たちはプールに金魚を、』は、2010年代前半の埼玉県狭山市に生きる女子中学生の姿を描いた、実話を元にした作品なんですけれど、地方の閉塞感のようなものって、どの場所、どの時代でも変わらずあるものなんだなと思って選んだ作品です。僕自身は10代当時、閉塞感を持って生きていることなんて気付いてはいなかったんですけどね。でも今、大人になって振り返ってみると、作品に共感できることが多くて心に残ったんです。

僕が10代を過ごしたのは1980年代後半から1990年代前半。場所は福島県いわき市。インターネットもない時代だし、文化格差がものすごくある場所でした。というのも、僕が住んでいた海沿いのエリアでは、ニッポン放送とかいわゆるキー局のラジオを聴ことができたんですね。そのおかげで東京というか、最先端のカルチャーに触れることができた。例えば、「士郎正宗さんって人が『攻殻機動隊』『アップルシード』っていうすごい漫画を描いているらしい」だとか、演劇では「第三舞台とか、三谷幸喜っていうすごい人が出てきたらしい」だとか。そういう情報が深夜ラジオを通して耳に入ってきたんです。でも、そんなことを知っているのって、クラスの2〜3割ぐらい。電気グルーヴがインストでアルバム出すなんて言ってもほとんどの人は知らなくて、「は? 電気グルーヴ? インスト? 何それ?」って感じ(笑)。

そんな中で、どうやったら最先端のアニメやら舞台やらを観ることができるんだろう……って、ずっと憧れているような10代を僕は過ごしていました。

でね、当時のいわき市は基本的にヤンキー文化だったから、ちょっとでも変わったことをすると目をつけられてしまうんですよ。特に僕のような180cmも身長があって、ヤンキーともそこそこうまくやってる人間の鞄から『アニメージュ』が出てきたら「え、佐久間ってひょっとしてオタク?」って、いじめられちゃったりするわけです。もちろん、それぞれのジャンルで気の合う仲間はいましたけれど、総合的にカルチャーに興味のある友達は1人もいませんでした。アニメージュなんてエロ本の如く、「絶対に見つかってはならない」と思って持ち歩いていたし、めちゃめちゃメインカルチャーを好きなふりをしたりとか(笑)。

当時はそんな生き方に息苦しさや寂しさは全く感じず、むしろそれが普通のことだと思っていたんですけど、大学入学に合わせて上京した時、初めて自分が寂しさを抱えていたことに気付いたんです。今でも友人なんですけれど、東京で初めて仲良くなった人が相当なオタクだったんです。実家の金物屋の2階にある彼の部屋はSFや演劇関係の本であふれていて、床が抜けそうになってるほどで。そんな同じ趣味を持つやつと初めて出会って「あ、俺寂しかったんだな10代」って。

でもね、今、当時の自分に言いたいのは「絶対その趣味やめんなよ」ってこと。『そうして私たちはプールに金魚を、』の彼女達もそうですけれど、自分が興味のあることや本心を誰かに話しても興味を持ってもらえないことって、誰にでもあるわけです。それこそ言ったらいじめられちゃうかもしれない……とかね。僕自身も「なんだ、誰も観てないし、誰もおもしろいって思ってないじゃん」と、いっときは自分の趣味をやめたこともあったけれど、それでもずっと好きだって気持ちを見捨てずに触れ続けてきたカルチャーで得たもの=価値観が、今ではものすごい宝物になっている。その事実は、10代の自分に伝えてあげたいですよね。

『そうして私たちはプールに金魚を、』は、10代の頃の僕が観ても共感できる作品だと思ったりもするんですけれど、『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから(以下、ハーフ・オブ・イット)』は価値観が最先端すぎて、10代の僕が果たして正しく理解できたかは疑問です。でも「世界で自分のことを理解してくれる人なんていないんだ」っていうわりと絶望的なところから始まる物語には自分と重なるところがありますし、10代の時にこの作品を観たのなら価値観がずいぶん変わるだろうなと思って選びました。

『ハーフ・オブ・イット』はラブストーリー・青春映画ってここまできたんだなっていう衝撃的な作品でした。ベースになっているのが『シラノ・ド・ベルジュラック』だったり、監督の実話でもあるんですけれど、物語が本当にみずみずしくって繊細で単純じゃなくって……。セリフの1つひとつもとても美しく、青春映画でここまでさまざまな価値観を描くことができるんだってすごく感動しました。

この作品は、自分を100%理解してくれる人なんていないし、いたらそれは奇跡なんだよということをちゃんと伝えてくれる。それって、「この世界って残酷なんですよ」って伝えていることと一緒だと思うんです。みんなが優しくて、あなたのことを両手を広げて待ってますなんていうことを描く映画って嘘じゃないですか。世界ではそんなことあり得ない。現実の残酷さをちゃんと描きながら、だからこそかけがえのないものがあるんだよということを伝えてくれているんですよね。残酷な世界の中で生きるからこそ、不意に訪れる友情がとんでもない輝きを見せる。心を打たれた理由は、ここにあると思います。今回チョイスした4本の中では『ハーフ・オブ・イット』が一番好き。

ちなみに、この2作品とも女性が主人公なんですが、特に意識して選んだわけではありません。でも女性は生きづらさだったり、どうやって生きていこうかっていうことに気付くのが早いですよね。10代の早い段階で自意識の葛藤がある。だから心震わされる10代をテーマにした映画は女性が主人公であることが多いんじゃないですかね。男ってこの時期は何も考えてなかったりするじゃないですか(笑)。

Edit Kei Watabe

author:

佐久間宣行

1975年福島県いわき市生まれ。1999年に早稲田大学商学部を卒業後、テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで、チーフアシスタントディレクターやロケディレクターとして経験を積みながら、入社3年目に『ナミダメ』を初めてプロデューサーとして手掛ける。現在は『ゴッドタン』『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』『青春高校3年C組』などのバラエティ番組でプロデューサーを務める他、ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』で水曜日のパーソナリティを担当している。 https://www.tv-tokyo.co.jp/

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