#映画連載 佐久間宣行 世界って残酷。でもだからこそかけがえのないものに出会えることを教えてくれる映画作品4本 後編

映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。同連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。

テレビ東京制作局プロデューサー・佐久間宣行には、「10代の頃に観ていたら価値観が変わったかもしれない作品」を4本挙げてもらった。新旧名作は、多感で不安定な時期の人にとっては、きっと人生の指針の1つとなる。もちろんその時期を過ぎた人にとっても、過去を懐かしみ、新たな考えを持つ良いきっかけとなるはずだ。

前編では『そうして私たちはプールに金魚を、』『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』を紹介いただいたが、今回はどんな作品が登場するのか。

『ガタカ』発売中  英題:GATTACA
Blu-ray 2,381円(税別)/DVD 1,410円(税別)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント (Sony Pictures Entertainment Japan)
©1997 COLUMBIA PICTURES INDUSTRIES, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

3本目に挙げるのは、『ガタカ』です。遺伝子至上主義の近未来を描いたもので、自然出産によって生まれた“不適格者”の青年ヴィンセント(イーサン・ホーク)が、遺伝子操作されたエリート“適格者”しかなれない宇宙飛行士を目指す話なんですけれど、これを僕はディストピアものではなく、希望の物語として紹介したい。運命が決定づけられている世界の話だけれど、ヴィンセントは手持ちのカードで精一杯抵抗する。知恵と勇気で自分の人生を切り開いていく物語です。

僕はこの作品をギリギリ大学生の頃、20代で観ることができた。その時の僕は、就職活動するのかしないのか、と揺れ動いている時期で。自分にできることや、できないことをはっきり認知して、「自分って全然天才じゃないな〜」なんて切ない気持ちを持っていた頃にこれを観て、とても勇気づけられたんです。

「もともとルックスが良い人はいるし、足がめちゃくちゃ速い人もいる。そういう子達が周りにいる中で、自分は天才ではないからってやりたいことを諦めるのか? でもそうじゃないだろう」って。自分のやりたいことがあった時にどうしたら良いのか。その回答を、この映画に見出したんです。今の10代が観ても、救われる部分が大いにあるはずです。僕は今の10代って、情報量が多すぎて、人間を信用して生きていない部分が大きいと思っていて。僕が10代の頃って、クラスの40人ぐらいと12年間付き合う人生で、しかもインターネットもないからその40人との世界が人生のすべてだったわけです。自分に似た人間が世界にいるだなんてことも思っていないから、自分がオタクだったことをひた隠しにして、自分は変わった人間なんだって思わざるを得ない人生だった。でも、今の子達はSNSのおかげで、自分に似た人が世界中にいることを早い段階から知っている。その一方で、自分が天才ではないこと、自分のルックスが全世界において何番目ぐらいなのかとか、自分がつぶやいても“いいね”がこれくらいしかつかない…とか、自分の世界からの評価みたいなものも圧倒的に早い段階から知っている。だから手持ちのカードを知ってしまっている中で生きていかなくてはいけないつらさがあるんですね。まさに『ガタカ』と一緒で。

でもこの映画の素晴らしいところは、たとえ産み落とされたのがどんな場所だとしても、人間は夢や希望を抱くもので、それって当然だよなって気付かせてくれるところ。この映画には、若かりし頃のジュード・ロウも出演しているんですが、もし僕が天才だったら、彼が演じる“適格者”のジェロームに共感したかもしれない。でも、僕は恵まれた側の人間じゃなかったからヴィンセントの気持ちで観ていて。きっと、今の10代も同じ視点で観ることができるんじゃないかなと思います。

発売日:2020年7月3日(金)
2015年/韓国/品番:OED-10666/価格:3,800円(税抜)
発売元:マンシーズエンターテインメント/販売元:中央映画貿易

そして4本目は『わたしたち』。韓国の映画です。これは、韓国の小学生同士の日常を描いた作品なんですが、とにかくすごい。何がすごいって、自分の小学生時代のことを鮮明に思い出させる映画なんです。小学生の女の子達が主人公で、仲間外れやらいじめやら、クラス内で起こる日常を大人の目線を徹底的に外して、子どもの目線のみで描いている。子どもの世界から大人を描くとこうなるっていうことをきちんと見せているし、子どもは子ども同士のコミュニティの中だけで閉塞感がありながら必死に生きていることを見せつけてくる。

子ども達のすさまじい演技と表情を見ていると、「わ、小学生の時ってこうだったわ」とか一気に思い出すんです(笑)。こちらは大人の目線で小学生の頃を回顧するから、微笑ましい思い出もたくさん脳裏に浮かぶんだけれど、一方で「もうやっべ。本当に大変だったなこの頃」っていうことも思い出してしまう。小学生の時なんてクラスと家がすべてだったから、1人でも嫌いな奴がクラスにいたら、「あー最悪だ、もう世界終わった」と思って生きていたなって。一言で言うなれば、コミュニティで生きることの大変さって、ここから始まるから、もう人間って大変だなっていう映画ですこれは(笑)。

その中で、『ガタカ』や『ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから』と似ているのは、世界が優しくないっていう残酷な部分をちゃんと描いているから、そこで不意に訪れる友情とかがとんでもない輝きを見せるところ。キラキラ映画の中の友情って、やっぱりキラキラ映画の中の話だから心に響いてこないけど、この作品は、世界は残酷だという大前提のもと主人公の仲の機微を捉えていて、そこに本当に感動してしまう。

なんか大人になって、急に世界に絶望する人がいるじゃないですか。会社に入って「なんなんですか、あの人!」と言い出す人とか。そういう人って、世界がめちゃくちゃ優しくて、自分が皆に理解されると勘違いしている。そういう人に僕は「え? 小学生の頃から大変じゃなかった? 忘れたの?」って言いたくなる。「自分を100%理解してほしい」とかそういうことを簡単に言う人には、この4本を観ろって伝えたい。特に『ガタカ』をね。

僕は映画をほぼ毎日1本観ていて、これは25年ほど続いている習慣なんですが、映画を観続ける理由は映画より贅沢な娯楽って他にはないと思うからなんです。何年もかけて何百もの人が関わって作り上げたものを約2時間で体験できるのは、とても贅沢ですよね。

あと間違いなく、10代から20代前半ぐらいまでに摂取したカルチャーで自分の人生の柔軟さが変わると思っていて。価値観が決まるとまでは言わないですけど、その時期にいろいろなものを入れられたかどうかで、自分の中に受け入れられる幅が変わる。しなやかさが変わってくるというか。やっぱりその間に偏ったものしか触れていないとか、自分が正しいと思うものとしか出会っていない人は、自分と違う価値観と向き合った時にそれを認められなかったり、自分が平気なものでも世界にはそれがつらくて耐えられない人がいることに気付けなったりすると思うんです。30代でも考えを変えることができる人もいますが、そういう人はやっぱり脳がゆるゆるの時期にいろいろなものを摂取していたりするんですよね……。だから時間がある10代のうちに、いろいろな映画や創作物でさまざまな価値観と触れ合っておくことをおすすめします。そうするとあとの人生がもっと生きやすくなるのではないでしょうか。いろいろな意味でね。

Edit Kei Watabe

author:

Nobuyuki Sakuma

1975年福島県いわき市生まれ。1999年に早稲田大学商学部を卒業後、テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで、チーフアシスタントディレクターやロケディレクターとして経験を積みながら、入社3年目に『ナミダメ』を初めてプロデューサーとして手掛ける。現在は『ゴッドタン』『あちこちオードリー~春日の店あいてますよ?~』『青春高校3年C組』などのバラエティ番組でプロデューサーを務める他、ニッポン放送『オールナイトニッポン0(ZERO)』で水曜日のパーソナリティを担当している。 https://www.tv-tokyo.co.jp/

この記事を共有