“老舗”の看板にはこだわらない 「トラヤカフェ・あんスタンド」が提案する和洋を超えた新たなお菓子

和菓子屋の「とらや」は、室町時代後期に京都で創業した。約500年の歴史のある同店が、2003年に新業態としてスタートしたのが「トラヤカフェ」だ。

“とらやがつくるもうひとつのお菓子”をテーマに、“和と洋の垣根を超えたお菓子”を提案するブランドとして誕生した。今もこの想いを一貫して継続しているが、看板商品の“あんペースト”を中心としたメニューをより前面に打ち出すために、2016年には“あんのある生活を”というコンセプトの「トラヤカフェ・あんスタンド」をスタートした。

気軽に“あん”を楽しんでほしいという思いを込め、テイクアウトメニューやワンハンドメニューを増やし店舗もスタンド式にするなど、より立ち寄りやすいかたちにした。現在は北青山店、新宿店、横浜店、青山店、銀座店(銀座ソニーパークの当初の閉園予定に合わせて2020年9月29日に閉店)の5店舗があり、展開するメニューもそれぞれ異なる。

「トラヤカフェ」は和菓子に欠かせない“あん”をベースに新しい菓子を提案している。奇をてらったことをするのではなく、約500年という年月をかけて作られたものを礎に、新しい価値観を生み出しているように感じる。 

今回は「老舗の看板」、「メニュー」、「内装」をどのように捉えているかという考察を通して、その魅力に迫る。同ブランドの事業部部長・宇野俊道に話を聞いた。

“老舗”という看板にはこだわらない

「とらや」という名前こそ入っているが、「トラヤカフェ」は老舗の看板にあぐらをかくことなく、これまで開発しなかった菓子、ドリンクやパンを使ったメニューや新しい顧客へのアプローチに積極的に挑戦している。

開業当時、社内からは「トラヤカフェ」という新業態に「とらや」の名前を使用することで、ブランドが傷つくことを懸念する声があがった。

同業他社からは「老舗のとらやがこんなことやっていいんですか」といった驚きの声も多くあったという。

「“老舗”はお客様から評価を頂いたという結果の積み重ねであり、先人からの財産です。会社がたどってきた歴史について理解を深めることは大切ですが、同時に今、目の前の事象にどのように取り組むかも重要。長く続いている歴史があるということが、これからの未来を保証してくれるわけではありません」。

組織は歴史が積み重なるほど、プライドや企業理念が固まりブランドイメージも世間に浸透する一方で、大きな変化を嫌う傾向も出てくる。しかし「トラヤカフェ」は「とらや」が長年かけて作り上げてきた老舗像を継承するだけではなく、新機軸を打ち出すための明確な違いを意識している。 

和菓子の魂である“あん”を手軽に楽しめる商品作り

「トラヤカフェ」のスペシャリテでもある“あんペーストは”、当時の開発担当者の「海外の人からしたら、“あん”は豆のペースト。ピーナッツペーストやチョコスプレッドのように、あんペーストを瓶詰めにしたらどうか」というアイデアから生まれた。パンやアイス、ドリンクメニューにも使用されている人気商品だが、開発当初は店名同様に社内からの否定的な意見も多かったという。

「『とらやグループとして、和菓子屋の魂である“あん”そのものを売っていいのか』という議論があったと聞きます。しかし開業してみると、皆さまから評価を頂き、“とらやがつくるもうひとつのお菓子”として認知頂けたと考えています」。

奥行きのある甘さを生み出す黒砂糖とメープルシロップ、そして、とろりとした食感を出す寒天を加え、飽きのこない味わいが楽しめる上に汎用性も高い。発売後はすぐに人気商品になった。

「和でも洋でもないお菓子」を扱うお店の空間作り

各店舗の内装は、オフィス・店舗等の空間デザインやオリジナル家具の製造販売を行う中原慎一郎主宰のランドスケーププロダクツが手掛けている。「あんを包むようにおおらかでやわらかい皮」をテーマにした木と白い壁を基調としたモダンな空間は、和でも洋でもない新しいお菓子の世界観を表現している。

また、店内壁面にはグラフィックデザイナーの仲條正義が手掛けた2匹の虎を描いたタイル画を飾っている。店舗の顔になるようにと、駅のタイル画をモチーフにして作られたデザインはショッパーや商品のパッケージにもなっており、まさに「トラヤカフェ・あんスタンド」の看板となった。

TOKiON the STOREでは“ミニあんペーストアイスバー”を販売

TOKiON the STOREでは、「トラヤカフェ・あんスタンド銀座店」のみで扱っていた“ミニあんペーストアイスバー”を限定パッケージで販売している。ストレートにあんの味わいと程よい甘さを活かした“ミニあんペーストアイスバー”は、葛を使用しているので、特有のやわらかい食感も楽しめるうえに溶けにくいのも特徴だ。

目印はTOKiON the STOREの入り口にあるアイスケース。今の時期は買物のついでに、暑さを忘れるためのリフレッシュにぴったり。「トラヤカフェ・あんスタンド」が提案する“和と洋の垣根を超えた”味を手軽に味わってほしい。

パンデミック下におけるお菓子屋としての使命

最後に未だ新型コロナウイルスが流行する現在の思いを聞いた。

「意識の変化はあっても、生活の中で心を豊かにしてくれる、喜びとなるような時間は変わらず存在すると考えています。例えば自宅でのテレワークが増えている中で、以前よりも休憩を取れる時間が増えた人や、自宅でゆっくりと朝食を取れるようになった人もいらっしゃるかもしれません。それぞれの生活の中で、お茶やコーヒー、パンなど他の食材とともに“あんペースト”や“あん”を使ったケーキなどを食べることで、ちょっと気持ちが上がり心が豊かになる、そんな存在となれれば幸いです」。

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREとRAYMOND MIYASHITA PARKのコンセプトストア「TOKiON the STORE」で、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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