アニメーションの演出から知る、新たな発見 「Aフレーム」とは何か?

今や、子どもならず大人にとっても身近な存在となったアニメーション。その作中の演出に目を向けてみると、また新しい発見がある。例えば、こんな構図を見た覚えはないだろうか? 画面手前に配置した後ろ姿のキャラクターを腰から股下で切り取り、さらに画面奥に別のキャラクターが配置されたもの。海外では、2008年に著名なアートディレクターにしてデザイン評論家のスティーブン・ヘラーが、このフレーミングを「これまでに使用された中で最も頻繁にコピーされたトロープ」と主張。ローポジション&ローアングルで描かれる開いた足の形が、アルファベットの“A”に似ていることから「Aフレーム」と呼ばれている。

現在もよく見るAフレーム。その元ネタはあのスパイ映画

ちなみに、特撮オタクの間では通称「矢島アングル」とも呼ばれたりしている。『ウルトラマンタロウ』や『秘密戦隊ゴレンジャー』など、数多くの特撮作品を手掛けた矢島信男監督が得意としたことから、この名が付いたのだという。以降、さまざまな作品でこの構図は多用されるようになっていくのだが、現在に至るAフレームを利用したディレクションのネタ元とされるのが、映画『007/ユア・アイズ・オンリー』(1981)のビジュアルだ。

セクシーなハイレグ水着を着た女性の足の間には、颯爽と銃を構えたジェームズ・ボンド。シンプルながらもインパクト抜群で非常に目を引くと話題に。その結果、この構図を拝借した数々の作品が生まれては消えていった(実際探してみると膨大な数のサンプルが見つかる)。
さて、冒頭で触れたように、このアングルがアニメ本編中で採用される例は今でもよく見かけるが、ティザービジュアルや版権イラストなどの使用例は多くない。その理由として、この構図が関係性を象徴的に示すのに効果を発揮する一方で、キャラクターがコンパクト化されてしまうため見映えの問題が考えられる。そんな中で、成功している例もある。

大胆に遠近法を採用することで、各キャラクターの関係性を示すと同時に、どのようなシチュエーションなのか? と興味を呼び起こす秀逸なビジュアルとなっている。では、実際に作中で使用される場合はどうなのかと気になり調べてみた。
すると、ほんの一例だけでも有名作がたくさん。『シティーハンター』オープニング(1987)、『涼宮ハルヒの憂鬱』第25話(2006)、『ポケットモンスター ベストウィッシュ』第33話(2011)、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』第2話(2015)などなど。書き出していけば枚挙にいとまがない。ただ最近の用例としては、女性キャラを手前に配置したセクシーなシチュエーションで使用される場合が多いということがわかった。これは元ネタとなった『007』での見せ方から考えるに、当然な流れなのかもしれない。ちなみにTVアニメで最古クラスの用例を探すと、日本で最初の本格的な1話30分の連続TVアニメにして、日本初の国産ロボットアニメに行き当たる。

国産TVアニメで最初に使い出したのは、“漫画の神様”!?

ご存じ、“漫画の神様”による名作『鉄腕アトム』屈指の名エピソードである「史上最大のロボット」からのワンシーン。ロボット、プルートウの足元に立つのは、主人公アトムの保護者的存在である、お茶の水博士。叫んでいる博士の顔の向きから、いかに巨大で強大な存在と対峙しているのかがうかがえる。ちなみに、このAフレームはアニメのみならず、原作漫画でも描かれている。

のちの日本漫画界に大きな足跡を残した手塚治虫。その影響もあってか、他の有名作家の作品にも、このアングルが使われている。

ご覧のように、海外のビッグネーム達の名作においても、緊迫感を表現するテクニックとして使われている。基本的に奥に主人公を配置し、手前に配置された強敵と対峙する構図となっており、主人公の表情もよく伝わってくる。手塚治虫から、石森章太郎(現・石ノ森章太郎)、そして鳥山明。これぞ脈々と受け継がれる漫画の伝統的作法と言えよう。

西部劇ブームが「Aフレーム」を普及させたとも……

さて一方、海外ではどうだろうか。アメリカは日本よりも先にコミック文化が発達しただけあって、1950年代にはAフレームが姿を現していたというが、ここでは『鉄腕アトム』と同時期の作品から。

どれも1960年代後半に発行された作品だが、これらを見るに、当時のアメコミ表紙に用いられたAフレームも、日本と同じく“立ち塞がる強力な敵キャラに手を焼くヒーローの図”といったニュアンスが主流だったようだ。先に挙げた現代の用例とは構図が異なる点に、時代の変化が感じられる。最後はさらなる源流を求め、『鉄腕アトム』よりも前の時代に発行された、パルプ小説(パルプ雑誌と呼ばれる、低質な紙を使用した、安価な大衆向け雑誌に掲載された、荒唐無稽でエンターテインメント性の高い小説)も見てみよう。

この図版からもわかるように、Aフレームといって思いつくのはやはりカウボーイの決闘のイメージではないだろうか。先に述べたアメコミの例もしかり、少なくとも後の1960年代にはこのフレーミングが定番化していったようだ。恐らくは当時、制作された膨大な数の西部劇映画やTVドラマにおいて、ダイナミックな遠近法でキャラクター間の関係性を浮き彫りにし、さらに緊迫感をもたらすテクニックとしてAフレームが採用され、それを観たアメコミのアーティスト、そして日本の有名漫画家たちも強烈にインスパイアされて、自分の作品に取り入れたのではないだろうか。そして、それらの影響は今日まで続いており、われわれはこのインパクトある構図を知らず知らずのうちに脳裏に焼き付けているというわけである。このように1つの演出から新たな発見を見出すことができるアニメーションとは、げにおもしろきものである。

※本稿は大匙屋氏による見解を、許可を得た上で引用し、加筆・再編集したものである。

Edit Tommy

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREとRAYMOND MIYASHITA PARKのコンセプトストア「TOKiON the STORE」で、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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