A24による最新作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』監督が語る 激変する大都市に送るメッセージ

アカデミー賞作品賞受賞作『ムーンライト』を筆頭に次々と話題作を発表している制作スタジオのA24と、ブラッド・ピットによる制作会社のプランBが『ムーンライト』以来となるタッグを組んだ最新作『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』が10月9日に公開される。

監督のジョー・タルボットは、幼なじみで同作の主人公を演じるジミー・フェイルズとともに体験してきた、サンフランシスコを舞台にした物語を初の長編作品として仕上げた。同作はサンダンス映画祭で監督賞と審査員特別賞をダブル受賞し、バラク・オバマ前アメリカ大統領のベスト・ムービーの1つにも選ばれている。

物語はサンフランシスコで生まれ育った2人の青年が、故郷に思いを馳せながら、激変していく街や人々、文化に対する葛藤を綴ったもので、予告編のラストには「多くの財産をもたなくとも、心の中に大切な居場所とかけがえのない友がいる。それだけで人生はそう悪くないはずだ」という監督のメッセージで締めくくられている。

生まれ育った場所が面影も残らないほど変化することで、大切な記憶が上書きされ、自分のアイデンティティーまで否定されてしまうような感覚は、一見パーソナルな問題と思われがちだが、今世界中の大都市が抱える問題でもある。東京も変化を続ける都市の代表。新型コロナウイルスによって都市計画は大きく狂い、不透明な未来への不安も未だに払拭できないでいる。同作に込めたメッセージはこのタイミングで未来の大都市のあり方や考え方にどう影響を与えるのか? ジョー・タルボット監督と原作・主演を務めたジミー・フェイルズの2人の言葉から考える。

——『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』は実際の2人の歴史をどのくらい反映しているのでしょうか?

ジミー・フェイルズ(以下、ジミー):それについてはあえて答えないようにしているんだ。観客の想像力や解釈に任せているよ。

——個人的な思いを込めるシーンと客観視する見方のバランスはどう考えましたか?

ジミー:バランスは特に意識しなかった。ジェントリフィケーションはどこでも起こっていることだから、多くの人が共感できるはず。同様に、昔暮らしていた家を失うという僕のストーリーも経験がある人には共感してもらえると思う。生まれ育った街にノスタルジーを感じることもね。

——そんな経験や街をどう見せたかったのでしょうか? 多様性を持たせる考えに至ったプロセスも教えてください。

ジミー:僕達が知っているサンフランシスコを、できる限りすべて見せたかったんだ。サンフランシスコが舞台の映画でも、サンフランシスコ出身者が手掛けていることは少なく、キャストもそうじゃない人々の場合が多い。だからもっとリアルなサンフランシスコを描写したかった。実際に暮らしていて、街を大きく感じることもあれば、すごく小さく感じることもある。すべてのニュアンスを映画に反映するように努めたんだ。

——詩的でシュールな映像のビジュアルやトーンはどう決めたのでしょうか? 最初からコンセプトにありましたか?

ジミー:夢の中にいるかのように見せたくて、あえて現実と夢の境界をあいまいにした。ノスタルジアは、ある意味、夢のようでもあるからね。みんな過去を夢見ているんだよ。ノスタルジアは、この物語を進める上で最も大切な要素。そういう背景もあって、シュールな映像になったんだと思う。

——バス停のベンチに座るジミーと裸の老人の対比やケーブルカーから酔っぱらいが「This guy fucks!」と叫ぶシーンはシュールかつコメディの要素もあって、印象的でした。

ジミー:あのシーンを入れた意図はいくつかある。裸の男が隣に座ってもジミーが全く驚かないのは、サンフランシスコには本当にいろんな人がいて、裸の人なんて慣れているからだ。だから全く気にする素ぶりを見せないのさ。

そして、ケーブルカーだけど、最近はIT企業のスタッフの間でケーブルカーを貸し切ってパーティーを開くのが流行っているんだ。あのシーンにはいろんな皮肉がこもっていて、ケーブルカーはサンフランシスコを象徴する乗り物だけど、線路ではなくタイヤで道路を走っている。さらにそれを利用して新しい住民であるIT企業のスタッフがパーティーを開いている。そういう現状を皮肉を込めて表現したかった。

——未来を見据えて、歴史を振り返ることは街にどのような役割を果たすと思いますか?

ジミー:過去に感謝して、思い出を守るためにも、歴史を振り返ることは大切。過去に浸りすぎるのはいけないけどね。でも、同時に未来に希望を抱いて、街のために闘うべきだ。信じていることや愛することのために闘うことは大きな意義を持つ。

ジョー・タルボット(以下、ジョー):ジミーの言う通りだよ。昔を懐かしむことは、夢を見ている感覚に似ている。当時を振り返っているけど、実際は作り話も混ざっているから、“昔はこうだったであろう”と妄想しているのさ。思い出に浸るのは美しいことだけど、それを事実と思い込んでしまうのは危険でもある。

今、僕たちが暮らしている街では、虚言ばかりの未来が語られている。IT業界が語る未来もウソばかり。平等で愛や活気にあふれた素晴らしい世界になるというウソを売っているんだ。もちろんその一部は本当だろうけど、ITによって恐ろしい世界に導かれつつあるのも事実。サンフランシスコはアメリカのIT産業の震源地で、猛スピードで未来に突進しつつも、過去にしがみついている。それを肌で感じながら生活しているのは、すごく変な感じがするよ。

——監督にとって、人生で本当に必要なものとは?

ジョー:むずかしい質問だね。高校を中退しているし、哲学者でもないから答えられるかわからないけど……恋をすることかな。人に恋をすること、パートナーに恋をすること、芸術に恋をすること。どれだけ落ち込んでいた時も、ひねくれていた時も、僕は恋があったから乗り越えられてきた。人生に悩んで凹んでいる時、力を振り絞って恋をするのはなかなかむずかしいけど、ロマンチックな恋でも、プラトニックな恋でも、クリエイティブな恋でも、運よくその感情を抱くことができれば、それ以上の喜びはない。恐ろしくも美しくも、とても価値のあるものを得られるはずだよ。

——2人は東京に来たことがありますか?

ジミー:行ったことはないけど、ものすごく興味があるよ。最高にクールな場所という印象だ。アートやカルチャー、ライフスタイルなどのすべてに憧れている。活気にあふれていて、豊かな文化を持っているイメージだね。

ジョー:東京からは黒澤明監督や小津安二郎監督が思い浮かぶ。でも、まだ知らないことが多すぎるね。最近、『Gate of Flesh(肉体の門)』という映画を観たんだ。1960年代の映画で、娼婦たちがギャングと組んで男たちを襲うんだ。おもしろかったよ(笑)。映画の中の日本しかまだ知らないから、いつか実際に行って自分で体験したいね。

——今後の大都市に求められるものは何だと思いますか?

ジョー:BLM運動で最も感銘を受けたのは、若者たちがストリートに出て行っているということだ。上の世代は、「若者は携帯ばかり見ていて、コミュニケーションを取らないし、行動に移していない」とよく言うが、今回の運動を通して、それは違うということが証明できた。運動を主導し、知らないことを学び、知識が間違っている場合は改め、若者たちがどんどん積極的に動いている。

大都市はそういう動きを直に感じられる場所だと思っている。サンフランシスコの歴史を振り返ってみてもそうだが、反戦運動やゲイ解放運動、移民の権利擁護運動などが活発に行われてきた。文化や政治や立ち上がることへの関心の高さを表しているんだ。大都市に必要なのはそういうことじゃないかな。

——次回作の構想はありますか?  2人のタッグをまた見られるのでしょうか?

ジョー:常に2人で話し合っているから、アイデアは山ほどある。

ジミー:1本に絞るのが難しいほどだよ。ジョーからは次々とアイデアが生まれてくるんだ。

ジョー:ロックダウン中も2人で長編の構想を練っていた。サンフランシスコが舞台のサマームービーになる予定だ。

ジョー・タルボット
映画撮影のために高校を退学し、幼なじみであるジミー・フェイルズと映画製作の準備を始める。サンダンス・インスティテュートの研修生として撮った短編『American Paradise』では監督・脚本を担当し、サンダンス映画祭とサウス・バイ・サウスウエスト映画祭で高い評価を受けた。ジミーを主役にした本作が長編デビュー作となる。

ジミー・フェイルズ
サンフランシスコで生まれ。監督のジョー・タルボットと幼なじみ。2人で初めて作った短編映画『American Paradise』が、2017年サンダンス映画祭でプレミア上映されたことが本作の製作に繋がった。本作はジミーの実体験をもとに製作した。

author:

Jun Ashizawa

1981年生まれ。「TOKION」エディトリアルディレクター。大学卒業後、編集プロダクションで出版社のカルチャーコンテンツやファッションカタログの制作に従事。2011年にINFASパブリケーションズに入社。2015年に復刊したカルチャー誌「スタジオ・ボイス」ではマネジングエディターとしてVol.406「YOUTH OF TODAY」~Vol.410「VS」までを担当。その後、「WWDジャパン」「WWD JAPAN.com」のシニアエディターとして主にメンズコレクションを担当し、ロンドンをはじめ、ピッティやミラノ、パリなどの海外コレクションを取材した。2020年7月から現職。

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