一般社団法人CLEAN & ARTの代表理事、傍嶋賢に聞く、渋谷の落書き問題とアートの考え方

渋谷、いや日本の街のいたるところで見かけるグラフィティ。以前からアートだ、アートではないといった議論が巻き起こるなど、社会問題の1つだ。もともとは路上から派生したアンダーグラウンドなカルチャーだったが、バンクシー展の開催やライヴペイントイベントの開催など、徐々にではあるがアートとしての認知を日本でも高めてきている。そんな街に描かれている無数のグラフィティと向き合う1人のアーティストがいる。一般社団法人CLEAN & ARTの代表理事も務める傍嶋賢。彼は行政や困っている人からの依頼を受けて、渋谷の街から「クリーン」と「アート」をテーマに落書きを消す活動を行っている。この活動は、家庭や地域、学校、職場などで実践されている、渋谷区らしい持続可能なライフスタイル、環境に優しい取り組みを評価する「渋谷サステナブル・アワード2019」の大賞を受賞した。アーティストでもある彼は、どういった思いでこの活動を始めたのだろうか。そして自身が考えるアートとはどんなものなのだろうか。

グラフィティをあらゆる角度から考えてみる

――まずはじめにCLEAN & ARTを始めたきっかけを教えてください。

傍嶋賢(以下、傍嶋):もともとは僕が荒川区の高架下の落書き対策やホームレスの居住スペースの快適化を目的とした依頼から、壁画を描き始めたのがきっかけです。その壁画を描いていく中で、街の落書き問題に直面しどうにかできないかと、渋谷区や港区のグラフィティを中心にリサーチをするようになりました。それが2017年6月です。そしてリサーチをしていく中で、渋谷区の商店街の人や街のゴミ拾いを行っているNPO法人のメンバーに出会い、この落書き問題をどうにかしたいという思いから、2018年3月にCLEAN & ARTを団体としてスタートさせました。その後、2019年の6月には一般社団法人として法人化し、今の活動に至ります。

――実際にはどんなリサーチを行ってきたのですか?

傍嶋:ひたすら街を歩いて、グラフィティや落書き、貼られているステッカーなどを撮影し、それから実際に壁やシャッターに落書きをされた人達の話を聞きました。まずは知ること、聞くことから始めないといけないと思ったんです。このリサーチの結果で、街に暮らす人達が落書きを受け入れている、むしろウェルカムと言うのであれば、CLEAN & ARTの活動はなかったです。でもやはり暮らす人達は困っていたし、怒っていたので、落書きを消すということをスタートさせました。リサーチに関しては、ロンドンにはどんなグラフィティカルチャーの歴史があるのかを知りたくなり、今年の1月に現地に飛びました。実物のバンクシーの作品を見たり、リーク・ストリートのグラフィティトンネルやサウスバンクスケートパークを肌で感じたりして、やはりロンドンはストリートアートが身近にある国だと実感しましたね。これを日本でも生かせないものかと考えています。

――どのように消して、どのくらいの頻度で活動しているのですか?

傍嶋:依頼を受けた建物の落書きは白く塗って、貼られたステッカーは剥がしてきれいにしています。使う道具は、工具メーカーの「ボッシュ」、ユニフォームは「ビームス」が提供してくれています。そしてメンバーには、チームの他に地域住民やSNSの募集を見て参加してくれるボランティアの方達がいます。通常は2ヵ月に1度のペースで活動していますが、今年は新型コロナウイルスの影響で活動を行えていません。8月中にはメンバーのみで行うことにしています。

――活動する時に大切にしていることなどありますか?

傍嶋:参加メンバーには、必ず事前に僕らの活動と、グラフィティカルチャーとはどんなものなのか、ということを説明しています。街の落書きにはどんな種類があって、グラフィティカルチャーにどんな歴史があるのかなど、一般の人でもわかるように説明しています。一方的な立場から考えるのではなく、両方の立ち位置から見るというのが大事。それぞれの間に入ってフォローができたらいいですよね。そしてゆくゆくはグラフィティを文化としてさらに大きく花開かせることができたらいい。あとは、消す前にアーカイブとしてその作品は撮影して保存しています。それこそ渋谷の街にあるグラフィティは見つけたらすぐに撮影しています。日に日に変わってしまうので、「あ! ここ変わってるな!」というところは撮影して、これまでに6000枚以上撮ったと思います。今ではグラフィティが増えているスポットや新しいアーティストは、パッと見たらわかるほどになりました。とにかく保存しておかないと、都市開発でどんどんなくなってしまうので。

――これまでに活動した場所は具体的にはどの辺りですか?

傍嶋:MIYASHITA PARK近くのJR高架下の一時避難所を示す矢印の図柄は、渋谷区の依頼で、原画は森本千絵さんが主宰するgoen°、壁画は僕が描きました。ただ3日後には上から落書きされていましたね。でも僕は特殊なインクを使って描いているので、グラフティだけを落とすことができるんですよ。なのですぐに元に戻しました。

誰がどこに描こうが描かれたものは創造物でありアート

――ところで傍嶋さん自身はグラフィティをどう捉えていますか?

傍嶋:落書きとされるものは、見る人が無価値と決めたモノです。そしてグラフィティに関してのアート論争の考え方と僕は違います。そもそも著作物は、すべてアートで、誰が描こうが描かれたものは創造物である。要はそれが違法か合法かの違い。そして違法の中でも、バンクシーのように価値があるのかないのか、有名なのか無名なのか、という分類も出てくる。でも僕の中ではバンクシーは違法という点では、街の他のグラフィティと同じなので、消されていいものだと捉えています。なのでどのグラフィティがアートかアートじゃないかという議論はナンセンスで、全部アートなんです。

――CLEAN & ARTで今後やってみたいことはありますか?

傍嶋:今までは壁やシャッターを白く塗り直してきたのですが、白い壁だと再犯率が高いんです。なので、図像があればもう少し抑止にもなるだろうし、街もハッピーなると思うので、何か図像を描いてみたいですね。ですが、民間の建物や土地に何かを描くという行為は、場所によっては東京都屋外広告物条例や道路占有許可などに引っかかったりもします。今はこのハードルをどう越えるかを考えています。場合によっては条例を変えないといけないかもしれません。でもそうやってルールを変えるということも、アートだと思うので実現させたいです。

――では次にCLEAN & ARTの活動ではなく、傍嶋さんご自身のアーティストとしての活動を聞かせてください。

傍嶋:主に個展などで作品を発表していたのですが、今年は新型コロナウイルスの影響でほとんどアーティストとしての仕事はなくなりました。でも発表する場はなくなってしまっても、制作は続けていたので、「デリバリーアート」という活動を行いました。「デリバリーアート」では、オンライン上で作品を購入できて、さらに僕が直接届ける。ちょうど自粛要請期間中で外部とのコミニュケーションが取りにくい状況だったので、顧客の声を直接聞くことができてよかったです。ちなみにデリバリーということで、実物のウーバーイーツのバッグをカスタマイズして、バイクや自転車で届けました(笑)。

――ユニークな活動ですね。思い出に残るエピソードはありますか?

傍嶋:作品を受け取る時に、ラフな感じの部屋着の方が多かったですね(笑)。僕の作品を以前購入していただいた方のご自宅に行き、昔の作品に対面するのも感慨深かった。『週刊文春』にデリバリーアートの記事が掲載されたのはいい思い出です。

――「デリバリーアート」以外にも新しいプロジェクトの予定はありますか?

傍嶋:9月に向けて新しい企画を進めています。僕は赤坂に事務所兼ギャラリーを持っているのですが、そこを完全な無人ギャラリーにしようと考えています。ギャラリーにあるのは作品とPCのみで、PCをZoomでつないで自宅にいる僕を映す。ギャラリーの鍵やエアコン、掃除機などは、すべてスマホで操作する、いわばスマートIOT型ギャラリーです。さらに展示作品にはQRコードをつけることで、その場でオンライン決済で買えるようにします。なので、僕は自宅のPC前でひたすら待機しているだけでいい(笑)。

――なぜ誰もしていないようなことをされているのですか?

傍嶋:それがアートだからです。僕の中では、芸術家というのは、新しい考え方や生き方を知ってもらう、提供する存在だと思っています。みんなが1つの考え方で生きていると、それが原因で争いも起きてしまう。グラフィティカルチャーもそうですが、相互理解ができていい方向に進められたらいいですよね。そして、今後も誰もやらないようなアート活動を続けていきたいです。

傍嶋賢
アーティスト兼一般社団法人CLEAN & ART代表理事。千葉県出身。東京藝術大学卒。個人の活動としては、これまでに常磐線の待合室のデザインラッピング、荒川区のJR高架下の巨大壁画や、取手競輪場でのアートイベントの企画デザインを実施。一般社団法人CLEAN & ARTとしては、「渋谷サステナブル・アワード2019」の大賞を受賞。依頼プロジェクトの傍ら、自身の作品を展示販売する個展も開催している。
SOBASUTA合同会社
https://www.sobasuta.com
一般社団法人CLEAN&ART
http://clean-and-art.com

Photography Shinpo Kimura
Thanks to café 1886 at Bosch

author:

Shuichi Aizawa

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。現在、子育てに奮闘中。

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