アーティスト・我喜屋位瑳務が作品を通して伝えたい現代社会での生き方

現在、新宿のBギャラリーにて個展「GUNIEA MATE」を開催中のアーティスト、我喜屋位瑳務。彼はアナログとデジタルを織り交ぜて、ドローイングにコラージュ、ペインティングなどさまざまな技法を使って独自の世界を描き出すアーティストだ。今回の個展では、パソコンを使ったデジタルコラージュを元に描いた油絵を発表しているが、なぜ油絵を選び、そして作品を通して何を伝えたいのか。その真意を本人に聞いた。

デジタルで分解、再構築し、アナログで描き起こす作業

――今回の個展「GUNIEA MATE」は、パソコンを使ったデジタルコラージュを元に描いた油絵とのことですが、どのように描いているのですか? 

我喜屋位瑳務(以下、我喜屋):アメコミとか昔の印刷物の線をパソコンに取り込んで、それを一度バラバラにします。それからデジタル上で分解したものを組み合わせて、さらにそれをアナログで描き起こすという作業をしています。例えば、僕の作品の人物の顔を1つとっても、輪郭はアメコミのキャラの顔の一部や印刷物の線だったりと、いろんな作品のコラージュになっているんです。線のコラージュと言いますか。

――展示作品のすべてにドリッピングが施されていますね。

我喜屋:作品の仕上げとして入れているものなのですが、今回の個展では架空の宗教をでっち上げていて、ドリッピングはその宗教での儀式としています。だから全作品にドリッピングが入っているんですよね。儀式とは美しいものでもあるので。

――我喜屋さんはアクリルやペインティングとさまざまな技法で描かれていますが、今回はなぜ油絵にしたのですか?

我喜屋:油絵にしたのは、作品を長く残したいのと、そもそも油絵という表現があるのならば、チャレンジしてみたい気持ちがあったからです。油絵ってアクリルと違ってキャンバスに塗っても色が薄くなったりせずにそのままなんですよね。それは描いてみて好きになりました。あとはなぜ最近油絵を描くようになったのかというと、前回の個展(3月末に開催した「Pineal body」)で頼んだキャンバスが、自分のミスで油絵用だったんですよね(笑)。間違えてしまったからにはもうやるしかないなと、重い腰を上げてチャレンジしました。結果、いろいろな発見もあったので、このタイミングで油絵を描けてよかったです。

既存の神様や宗教に頼るよりも、自分のオリジナルで作り上げればいい

――次は個展のテーマについて聞かせてください。テーマでもある「GUNIEA MATE」では、「私達が現代社会を生きていく上でのそれぞれの個人的な信条を『GUNIEA MATE』と定めてその人を描いている」とのことですが、この“GUNIEA MATE”とはなんですか?

我喜屋:実は、綴りを間違えてしまって……。正式にはギニーメイト(GUINEA MATE )で、今回に限ってはこのままにしています(笑)。ギニーは、ギニアピッグ(GUINEA PIG)が由来なのですが、これはモルモットの英語読みで、僕はモルモットと一緒に暮らすくらい大好きでなんですよ。
もっと詳しく説明すると、この世界には救いの神様なんて存在しないと考えていて。もしいるのだとすれば、戦争なんてないし、差別もないし、みんな苦しまないで生きていけるはず。でも実際は違うじゃないですか。なので、既存の神様や宗教に頼るよりも、自分でオリジナルで神様を作り上げたり、宗教を作ったりすればいいんじゃないかと思ったんです。それで自分で自分を救えばいい。そんなことを何年も前から考えていて、今回のテーマにしました。だから僕の神様はモルモットです。

――架空の宗教が、“GUNIEA MATE”なんですね。我喜屋さんはTwitterで、“GUNIEA MATE”には信条があって、それが108箇条あるとつぶやいて6箇条アップされていましたが、他にはどんな信条があるのですか?

我喜屋:108箇条というのは、煩悩の数からきているのですが、まだ全部決まっていません(笑)。死ぬまでに108箇条作れたらいいかなってくらいゆっくり決めていこうと思います。

――本展では、立体物の作品が1つ置かれています。どういった作品なのですか?

我喜屋:この立体作品は原型から自分で作っていて、初めてチャレンジしました。胸には“PANiC DiSORDER”(パニック障害)と彫っているのですが、僕自身が10年以上患って苦しんできた病の名前です。今は寛解の状態が続いているので、その苦しみを供養するために地蔵として制作しました。この作品はガレージキット化するので、会期中に受注販売をはじめたいと考えています。

アメリカの文化が僕の中で血となり骨となり染み込んでいる

――本展もそうですが、我喜屋さんの作品は構図も自由で、色使いがポップで独特だなと感じます。作品のインスピレーションはどこからきているのですか?

我喜屋:僕は沖縄出身なんですけど、生まれ育った故郷には戦後のアメリカの文化がまだ残っていて、その影響はすごい受けていると思います。それこそ沖縄ではテレビの6チャンネルで、アメリカ軍に向けた番組が放送されているんですけど、僕の生まれた地域ではその番組を観ることができて。だから小さい頃はアメリカのアニメや映画をずっと観て育ちました。

――他にも影響を受けたものはありますか?

我喜屋:ホラー映画も大好きなので影響を受けています。なのでホラー映画やアメコミといったアメリカの文化が僕の中で血となり骨となり染み込んでいて、作品に落とし込まれていると思います。

――現在もアメコミは購入したり読まれたりしていますか?

我喜屋:特にスーパーマンやバットマンといったキャラクターやこの時代の作品が良いというこだわりはないのですが、今も古いアメコミを探しています。新しいアメコミ作品は、線がきれいすぎてしっくりこないんです。良くも悪くも上手すぎるというか。それに対して古いアメコミは、印刷の線がずれていたり、インクが多すぎるものがあったりと引かれるんですよね。

世の中に対して声を上げるのも大事だけど、もっと自分を大切にしてほしい

――新型コロナウイルスの影響はありましたか?

我喜屋:これと言ってクライアントワークには影響はないですね。ただ、良かったとまでは言いませんけど、僕は家で過ごすことが好きなので、オンラインで打ち合わせするようになったりして外出しなくて済むようになったので、精神的に生きやすくなってます。

――自粛期間は何をされていましたか?

我喜屋:家でモルモットと遊んだり、ゲームしたりとかですかね。あとは、ドローイング作品を毎日1つは描いてアップしていました。現在は個展の準備で描けていませんけど、かなり貯まってきたので、この作品は年末に開催予定の個展で、1年のまとめとして展示しようと考えています。

――我喜屋さんと言えば、クライアントワークでは音楽関係が多いですが、個人の創作との違いはありますか?

我喜屋:音楽関係のクライアントワークの場合は、コンセプトを聞かせてもらって、あとは自由にやってほしいという要望が多いのでとても嬉しいのですが、相手がいる作業なので、アナログっぽさは創作に比べてないかもしれません。アナログで作業してしまうと修正が難しいんですよね。なのでデジタルをメインに駆使して、少しアナログを混ぜています。ただ、最近描かせていただいたアユニ・Dさんの依頼は、すべてアナログで描かせていただきましたね。

――では個展のテーマにもありましたが、現代社会の状況をどう感じていますか? そしてそんな社会を生きていくためのアドバイスなどありましたら聞かせてください。

我喜屋:生きづらい社会だと思います。みんなコロナの影響で家にいることが多くなってしまい、自分と向き合う時間がこれまで以上に増えて、意識が滞っている状態と言いますか……。それが良い方向に転んでいたら良いのですが、うまく転がっていない人が多いように感じています。
先ほども話しましたが、自分を救うというのは、自分自身を肯定するって意味もあって。自分自身を肯定できれば、そうネガティブに考えることはないはず。結局はすべて自分自身の問題。これからの時代、個人の考え方がもっと大事になっていくと思います。世の中に対して声を上げるというのも大事ですけど、もっと自分を大切にするというのが重要だと思います。

我喜屋位瑳務
沖縄県出身、東京在住のアーティスト。地元で絵画を独学で学び25歳で上京。戦後のアメリカホラー映画やSF映画、アメコミなどに影響されたイラスト作品などで人気を得る。現在はイラストレーターとしての活動の他、美術館での展覧会や芸術祭にも精力的に参加するなど、アーティストとしての活動を展開している。
http://gakiyaisamu.com/
Twitter:@gakism


■「GUNIEA MATE」
会期:~11月1日
会場:B GALLERY
住所:東京都新宿区新宿3-32-6 ビームスジャパン 5F
時間:12:00~20:00
入場料:無料
URL:https://www.beams.co.jp/news/2153/

Photography Shinpo Kimura

author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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