IDETATSUHIROからTIDEへ 世界が注目するアーティストの創作の源

アーティストのIDETASTUHIRO(イデ・タツヒロ)がTIDE(タイド)に名義を変更後、初となる個展を東京・原宿の「GALLERY COMMON」で開催している。2009年からモノクロの作品を描き続け、近年はネコをモチーフとした作品が、国内外問わず人気となっている。それに浮かれることなく、彼は周囲が加速度的に盛り上がる中で、あくまでもフラットに、俯瞰的に自身の状況を捉えている。今回の個展が「DEBUT」と名付けられている通り、新たなスタートを切ったTIDEに、これまであまり語られることがなかった、創作について聞いた。

——まず、作家の名義をIDETATSUHIROからTIDEにした理由から教えてください。

TIDE:いつも作品の後ろに自分のサインを書くんですが、TATSUHIRO IDEを略して“TIDE”と書いていたんです。それで海外ではTIDEとして認知されるようになってきたんです。加えてそれまでIDETATSUHIROと区切りをつけていなかったので、海外ではIDETAとか、TSUHIROなど、誤解されやすかったというのも理由の1つで、今後は海外に軸足を置いてやっていきたいという思いで、TIDEにしました。

——IDETATSUHIROの前は、平仮名の「いでたつひろ」として活動されていましたね。

TIDE:2009年から作家活動を始めて、10年ほどはいでたつひろとしてやっていました。2年ほど前から海外での認知が高まってきたことと、平仮名だと作風に対して印象が柔らか過ぎるので、昨年からアルファベット名義にしました。

——今回の個展「DEBUT」に関しては、いつ頃やることを決めたんですか?

TIDE:半年ほど前です。5月にオンライン展覧会をやったんですが、その写真をこの「GALLERY COMMON」で撮影させてもらったんです。その時に実際にここで展示することをイメージして、どれくらいの作品数が必要かを具体的に考えていたんです。それに改名するタイミングなどもあって、この時期に開催することを決めました。

——近年はネコをモチーフにした作品を発表されていますが、ネコはどこから着想を得たんですか?

TIDE:昔のアニメーションのように、背景はリアル(3次元)で、キャラクターはフラット(2次元)にしたいというところからスタートしています。そこに寝室の布量の多いところにフラットなキャラクターがいるイメージが思い浮かんで、今の作風になっています。ネコはいくつかモチーフがあった中での1つで、まずはネコのぬいぐるみから描き始めて、それをフラットにして今のキャラクターになっています。しばらくはネコをモチーフにした作品は描いていくと思いますが、今後はそれ以外の作品も描いていきたいと思っています。

——今回の作品群は、”Childhood(子ども時代)”が主題だと聞きしましたが。

TIDE:そうですね。子ども時代に家族4人で川の字に寝ているというのが原風景としてあります。そこで感じた大きな安心とちょっとした不安みたいなものが作品には投影されていると思います。これまでの作品もそうなのですが、どこかノスタルジックな雰囲気が出ているのは、子ども時代の原風景が大なり小なり影響しているんでしょうね。

1つの作品で小さな実験を行い、次の作品へとつなげる

——もともと鉛筆でモノクロ画を描かれていたTIDEさんですが、近年はアクリル絵の具を使用しているのはどういった変化があったんですか?

TIDE:鉛筆で緻密な絵を描くとなると、小さなサイズでもかなり時間がかかってしまうんです。それでもっと大きなサイズで、より多くの作品を作れるように考えて、アクリル絵の具に変えました。また、スプレーなど自分の作為が及ばないことを試したくなったのもあります。今回の展示では150号(2273mm×1818mm)の作品を初めて作りましたが、これは鉛筆だとできなかったですね。

——作品はすべてモノクロで描かれていますが、カラーの作品も考えたりしますか?

TIDE:カラーは考えていません。シルエットをキレイに表すことがとても好きなので、カラーにすることでそれがぼやけてしまい、インパクトが薄れてしまうんです。

——影響を受けたアーティストはいますか?

TIDE:たくさんいます。今回の作品内のポスターでもイメージとして使用させてもらったロイ・リキテンスタインやサイ・トゥオンブリーとか、挙げるときりがないですね。

——アイデアが全く浮かばないということもあるんですか?

TIDE:それはないです。毎回、1つの作品の中で小さい実験をしているので、やっているうちに次はこれを試してみたいということが浮かんでくるので、それをベースに次の作品に取り掛かっています。基本的には毎日、何かしら絵を描いているという生活で、それはコロナ禍でも全く変わらなかったですね。

——今回の展示で一番最初に描いた作品と最後に描いた作品を教えてください。

TIDE :一番最初がベッドの上にネコのぬいぐるみが置かれている作品で、最後はほぼ同時に2作を描き終えて、ネコが犬を抱えている作品とネコがぬいぐるみを抱えている作品です。

——以前はイラストレーターとしてクライアントワークも行っていました。今でもされているんですか?

TIDE:昨年からは作家活動に専念していて、今は基本的にはやっていません。

——ここ1年ほどで認知度もかなり高まっていますが、心境の変化はありますか?

TIDE:認知度が高まっているというのは実感することもありますが、僕自身の気持ちは以前から変わらずフラットで、そういった状況を俯瞰的に見ているという感じですかね。

——TIDEさんの作品が2次流通で高騰してしまっている現状については?

TIDE:僕が意図していないところで、勝手に値段が高くなってしまうのは、なんだかなぁという気持ちです。

——今後は海外を軸にやっていくと言っていましたが、具体的には決まっていますか?

TIDE:年内は韓国と香港での展示が決まっています。来年以降もある程度は決まって動いてはいるんですが、まだ言えない状況で。今回、名義をTIDEにして「DEBUT」という個展をやったことで、気持ちも新たに、1からスタートという思いで活動していきます。

TIDE
1984年生まれ。オーストラリア滞在時に読んだ水木しげる漫画に着想を得て、制作活動を開始。2009年から東京を拠点に絵描きのキャリアをスタート。現在はネコをモチーフにしたキャラクターと部屋のモノクロームイメージをキャンバスに落とし込んだ“CAT”シリーズを中心に制作・発表を行っている。ロンドン、ニューヨークでもグループ展での発表を行うなど、国内外の現代アートシーンで大きな注目を集めている
https://henkyo.jp/artist/tide/

■TIDE SOLO EXHIBITION「DEBUT」
会期:10月2日~10月11日
会場:GALLERY COMMON
住所:東京都渋谷区神宮前6-12-9 1F
時間:13:00~19:00
入場料:無料
URL:http://www.gallerycommon.com/exhibition/11_tide/

Photography Takahiro Otsuji(go relax E more)
Cooperation HENKYO

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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