NYの新たなポップアイコン、ガス・ダパートンの素顔と創作の源流にあるもの

2019年にデビューアルバム『Where Polly People Go to Read』を発表したNYのシンガーソングライター、ガス・ダパートン。デビュー前からインディーポップの新たな旗手として話題になり、全世界のユースから支持を集めている。スタイルを見ても、ブルーやレッド、グリーンの髪色であったりパステル調のファッションなど、ジェンダーレスなスタイルが特徴で、リベラルなスタンスが実にフレッシュだ。今年の9月に発表された2ndアルバム『Orca』では、より内省的な内容を盛り込み表現者としての変化があった。ガスにとって音楽というアートフォーマットは、どのようなものなのか。ポップアイコンと称されることをどう感じているのか。ガス・ダパートンとはどんなアーティストかを本人の声からひもときたい。

ロックスターや憧れのアーティスト達の影響で現在がある

――9月にリリースされた2ndアルバム『Orca』は、1stアルバムの世界観を受け継ぎつつも、さらにパーソナルな部分や自身の心の暗部についても歌われている作品だと感じました。楽曲の面でも、より次世代のポップスだと感じさせる新たなアプローチや従来のエレクトロの要素も盛り込まれています。本作についてご自身で「アルバム『Orca』の制作はセラピーだった」と話されていましたが、2ndアルバムが完成したことで何か自己表現に変化はありましたか?

ガス・ダパートン(以下、ガス):そうだね。音楽へのアプローチは今は少し前と違うと思う。僕が音楽を作る理由はいろいろあって、まずはすごく楽しいからっていうのがあるし、音楽に対して情熱を持っているということもある。そしてこのアルバムを作る過程はよりセラピー的なもので……、いろんな理由で音楽を作ってみたいし、単に自分の色恋について描きたいわけじゃない。世界で起こってることや、自分にとって大切なこと、暗いテーマでも取り上げていきたい。さらにはアーティストをプロデュースしたり、誰かの曲にギターで参加したりといった他のプロジェクトもやりたい。今は、ひたすらアルバムを出そうっていう意識が薄くなったような気がしていて、それよりもっと1つひとつの音楽が自分にとってどんな意味があるのかを考えることに意識が向いていると思う。

――そういった変化の1つがミックス作業を、スパイク・ステントにオファーしたことだと思いました。これまで自分だけで音楽制作をしてきたわけですが、外部から新たにスタッフを迎えることで変化はありましたか?

ガス:これまでは自分でミックスしてマスタリングもやってきたけど、ある意味、必要に迫られてやっていた部分もあったんだ。誰かに頼むだけの余裕がなかったから自分でやるしかないっていう。まぁ、やっていくうちにだんだんプロデュースとミックスがプロっぽくなってきたから良かったけどね。そして今回は、もともとスパイク・ステントの大ファンで人づてに紹介してもらったんだけど、一緒に仕事することになって、彼の解釈を入れたミックスを聴いた瞬間に満足感が湧き上がってきたんだよ。最高に嬉しかったし興奮した。彼にはこういうサウンドにしたいっていう自分の希望を書いた簡単なメモを渡しただけだったんだけど、最初に彼が送ってくれた音がすでに「これだよ!」っていう仕上がりで。僕が求めていたものがほぼ全部そこにあったんだ。

――アルバム『Orca』にしてもそうですが、あなたの楽曲からはアンビエントやニューウェイブ、ヒップホップなど、さまざまな音楽の要素を感じます。どのように音楽を掘っているのか教えてくれますか?

ガス:いろんな方法があるんだけど、友達が教えてくれたり、両親がよくかけていた音楽を改めて聴いてみたり、YouTubeで新しい音楽を見つけたり、誰かのオススメを聴いたり……。昔はちょくちょくCDやレコードを買いに行っていたけどね。気になる音楽が流れてきたらShazamで曲名を突き止めたり、歌詞の一部を覚えておいて、後でググったりもする。もちろん1980年代のニューウェイブ、シンセサウンドにもすごく影響を受けたし、あらゆる時代やジャンルの断片を集めて、自分なりの何かを作ろうとしてるんだ。

「First Aid」

――音楽的なルーツはどこにあるのでしょう? そもそも音楽に興味を持つことになったきっかけのアーティストはいますか?

ガス:子どもの頃から、ビートルズ、ザ・スミス、デヴィッド・ボウイ、マイケル・ジャクソンといった各時代の大物アーティストを聴きまくって育ったんだ。さっき話した1980年代のニューウェイブ以外にも、1960年代のロックンロール、それからオールドスクールのヒップホップも。J・ディラとかマッドリブ、MFドゥーム辺りのプロデューサーとかね。

――1960年代のロックンロールと言えば、過去にライヴで「Twist And Shout」のカヴァーも演奏したことがありましたね。そういったルーツミュージックからのインスパイアも大きいですか?

ガス:まずビートルズに関しては、ソングライティングの面でかなり大きな影響を受けてるし、当時の彼らは歌詞と楽曲の両面でとてつもない革新者だったと思う。僕の音楽は概してレイドバックしてるけど、ライヴでパフォーマンスする時はロックンロール寄りになるんだよ。ビートルズもやっている「Twist And Shout」は演奏するチャンスがあればやるようにしてるよ。

――影響を受けたのは音楽以外の面でもありますか?

ガス:もちろん! ロックンロールに限らず、ミュージシャン全般に言えるんだけど、ステージ上で思いっきり自分を表現して、ありのままの姿を100%表現するミュージシャン達を観てきて、自分もそうありたい、結果がどうであろうと本来の自分でありたいと思ったし、僕が今こうやって自分を表現しているのも、いわゆる“ロックスター”と呼ばれる人や、自分が憧れたミュージシャン達に影響されたからだったと思うよ。

――音楽で自分を表現する上で映画やドラマからも影響を受けていますか?

ガス:そうだね。映画から刺激を受けているし、映画と音楽って直接的に関わり合っていると思う。サウンドとストーリーの構造って非常によく似ているしね。ファッションでも音楽でも映画でも、いろんな要素がゆっくりと僕の中で混ざり合って、それが1つの経験のようになっている感覚があるんだよね。だけど、直接的に影響を植え付けられているという感じではないかな。アイデアを自分の頭の中で映画みたいに展開させるのが好きなんだよ。例えば、曲を作ってる最中にもどういうMVが合うか頭の中で映像やストーリーを同時に考えてみたりね。ちなみに子どもの頃で言うと『ハリー・ポッター』シリーズが大好きだった。それから『サンドロット/僕らがいた夏』っていう映画や『ドニー・ダーコ』とか。『オーシャンズ11』も好きだったな。最近観た中では、Netflixで配信されてる『悪魔はいつもそこに』って映画はおもしろかったよ。ちょっと前になるけど、すごく好きだったのは『Waves/ウェイブス』って映画。あとは『君の名前で僕を呼んで』も良かった。

ファッションは自分の好みで選ぶ。メンズやレディースなんて関係ない

――ビジュアルやファッション性も注目されていますが、好きなファッションやブランドはありますか? そしてその理由も教えてください。

ガス:特に好きなスタイルっていうのはないけど、すごく好きなブランドがいくつかあって、「エコーズラッタ」「ボディー」。あと「コス」も好きだな。今言ったブランドは自分にとって好きなフィット感で、ベーシックなんだけど、パンツがハイウエストめでワイドだったり、シャツのシルエットもきれいだったりする。これが好きだってずばり言えるスタイルはないけど、ゆったりした感じが好きだな。色に関しては季節によって好きな色が変わるんだけど、最近はグリーンやブラウン、ブルーといったわりとアーシーなナチュラルな感じの色が気に入ってるよ。ちなみに今は髪の毛もブルー。

――ブルーの髪色であったり、タトゥーやファッションを含めてジェンダーレスであると評されることが多いと思いますが、そこは意識的に実践しているんですか?

ガス:特にジェンダーレスな格好にしようと考えているわけじゃないけど、ファッションというのはジェンダーによって分けられている芸術形式だよね。音楽なら女性は女性シンガーしか聴かない、男性は男性シンガーしか聴かないってことはないし、映画もそうなのに、なぜかファッションになると女性はレディースを着て男性はメンズを着る。僕は必ずしもメンズの服のフィット感が好きってわけではなく、レディースのパンツのほうが自分に合うなと思うことが多くて。メンズのタイトなパンツとかテーパードは好きじゃなくて、レディースのワイドパンツとかが好きだったりする。友達と会った時に僕の着てる服を見て、レディースかメンズの洋服かを気にする人は誰もいないし、単純に「そのパンツいいね!」「そのシャツいいね!」って言うだけなんだよ。僕は昔からずっとこういう感じなんだ。

世界に対して忠実に接し革新や進歩をもたらそうとしている

――あなたは現在、アメリカを中心とするユースにとってポップアイコンでもありますが、ポップアイコンとはどんな存在だと思いますか? また、自身がそう呼ばれることに対してどう感じていますか?

ガス:ポップアイコンっていうのは最新のメインストリームの音楽界に存在している誰かだとは思うけど、自分をポップアイコンだとは感じていないよ。ポップアイコンってもっと超絶有名でメインストリームで人気があって、誰もがアクセスできるようにそこにいるっていうような人のことだと思う。僕だって、今TikTokをやってる子達を観てイマイチ理解できなかったりするし、そんな時は歳を取ったのかなって感じているしね。それでもTikTokなどで僕の曲が使われてて話題になったりするのは嬉しいよ。ただ音楽とアートって次から次へと量産できるようなものではないと思うんだ。深くのめり込んで革新的なものを作りたいと願っているんだ。

――抽象的な質問ですが、あなたにとって音楽はどんな存在ですか?

ガス:僕にとって音楽は共通言語。とはいえ、それは誤りでもあって、残念ながら耳が聞こえない人は音楽を聴くことができない。ただ彼らは振動のパターンを感じることはできる。世界中の人々に通じる言語という意味で、音楽は共通言語だと思う。例えば、外国語の曲でも、歌詞の意味はわからなくてもめちゃくちゃ好きだったり。自分にとってのその曲が、その言語を知っている人達にとって同じ意味を持ち得るんだ。だから音楽は世界中の人々とつながる方法の1つだと思う。音楽はメロディや人の声を聴いたり、うまい演奏に酔いしれたり、あまり考え込まなくても伝わる。それは素晴らしいことだと思う。

――では、自分にとってガス・ダパートンとはどのようなアーティストだと思いますか?

ガス:音楽の世界を発展させようとしている、ただ音楽を作ること、ただ芸術を作ることに誠実であろうとしている人間かな。僕は誰かにアピールしようとしてるわけではなくて、自分自身のために音楽を作って、それを世界とシェアしている。それが自分を助けてくれたように、他の誰かの助けになることを願いつつ、世界に対してあらゆる面で忠実であり続けようとしている。そして進歩や革新をもたらそうとしているんだ。

――今、コロナ禍によって世界中のアーティストにとってライヴしにくい状況が続いています。2020年3月以降のできごとは、あなたの表現にどのような影響を与えましたか? また今後、どのような音楽を作っていきたいですか?

ガス:今年の1月にツアーをしばらく休もうと決めたんだよ。そしたらパンデミックになってしまって、自分が思っていた以上に長く休むことになり、最後に有観客ライヴをやってから、もう10ヵ月も以上もたってしまった。今ではすごくライヴが恋しい。でもライヴについて振り返ったり、ステージパフォーマンスについて学んだりするには良い時間だと思うし、人々に向けてパフォーマンスしたりつながったりするさまざまな方法を見つけるのにも良い機会だと思う。僕はすでにライヴストリーミングを3回やってるんだけど、超楽しかったよ。ストリーミングでもライヴをやっている実感があるからね。唯一の違いは、オーディエンスの反応を直接見ることができないってことだけ。それから事前収録したライヴをストリーミングして僕とバンドメンバーや他の人と一緒に視聴するってこともやったんだけど、すごくおもしろくて新しい経験だった。ずっと前から「自分も観客の1人になって自分のライヴを観たらどんな感じなんだろう?」って思ってたからさ。今後作りたい音楽としては、映画のスコアはすごくやってみたいし、ビジュアルと連動するようなインストゥルメンタルとかアンビエントな音楽も作ってみたいね。

ガス・ダパートン
NY出身のシンガーソングライター。2020年現在、23歳。デビューと同時に世界中の若者の心をつかみ、Z世代のポップアイコンと称される存在に。9月に2ndアルバム『Orca』をリリース。
http://gusdapperton.com/
Instagram:@gusdapperton

author:

田島諒

フリーランスのディレクター、エディター。ストリートカルチャーを取り扱う雑誌での編集経験を経て、2016年に独立。以後、カルチャー誌やWEBファッションメディアでの編集、音楽メディアやアーティストの制作物のディレクションに携わっている。日夜、渋谷の街をチャリで爆走する漆黒のCITY BOYで、筋肉増加のためプロテインにまみれながらダンベルを振り回している。 Instagram:@ryotajima_dmrt

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