新世代を象徴する存在、諭吉佳作/menが語る“今” 「今日思っていることを明日も思っているかはわかんないです」

現在17歳のシンガーソングライター、諭吉佳作/men(ユキチカサクメン)。小学6年の時に作曲を始め、iPhoneアプリのGarageBandだけで楽曲制作を始めたことや、アイドル・グループのでんぱ組.incに楽曲を提供したことなどで、多方面から注目を集めている人だ。作り出される楽曲は、言葉そのもののインパクトを重視した豊かなイメージの歌詞世界、ストレンジなトラックメイキング、マナーを逸脱した曲構成など、全てが新鮮であり不思議な感覚に満ちあふれている。既成概念にとらわれない自由で軽やかなスタンスがあり、長谷川白紙、君島大空、崎山蒼志らとともにいわゆる新世代系の象徴といえるだろう。まだアーティストとしてはデビュー前の諭吉佳作/menに、“今”の話を聞いた。

──小学6年で曲作りを始めたそうですが、それ以前から音楽は好きだったんですか。

諭吉佳作/men(以下、諭吉):最初に自分で音楽を聴くようになったのは小学3〜4年くらいの時、ボーカロイドが好きになった時期だと思うんですけど。ただ自分はオタクなので(笑)、音楽がどうこうっていうよりは、その周辺のキャラクターとかのコンテンツ自体に惹かれていたのが大きくて。その時はそんなに音楽大好きってわけでもなかったんですけど、歌うのは好きでした。それで主にボーカルを聴くという態度で椎名林檎さんを好きになったタイミングがあって。それと音楽とは関係なく文章を書くのが好きだったので、音楽を作ってみたいと思ったのも、言葉を扱うことをしたかった、というのが最初のきっかけとしてありました。

──そこからどういうきっかけで、iPhoneで曲作りをするようになったんですか。

諭吉:音楽を好きになったタイミングと合ったんですよね。音楽じゃなくても、何か好きになったら自分で作りたくなる、っていうのがすごくあって、それがたまたまその時は音楽だったんです。最初は小6の頃に、それまで習っていたピアノをあまり弾けないなりになんとなく弾きながら曲を作り始めました。それで中学2年の時に地元のオーディション(K-mix主催「神谷宥希枝の独立宣言 ザ☆オーディション」)を受けることになって、そのために楽器が弾けないからDTM的なことをやるのが早いんじゃないかなと思って。でもパソコンがなくて、母が見つけてきたのがiPhoneのGarageBandで。その時に初めてGarageBandを触って、何もわからないけどとりあえず打ち込んでみて、という感じで作っていました。そのオーディションで、一緒に出ていたアーティストの方や崎山蒼志さんとかと知り合って、その辺のつながりで(地元の)静岡県内のいろんなライヴに出るようになったんです。だから成り行きみたいな側面が大きくて、音楽に決めた! っていうタイミングってなかったんですよね。

諭吉佳作/menはあくまで1つのアカウント的な存在

──2018年からSoundCloudにオリジナル曲を上げていくわけですけど、その頃には諭吉佳作/menの名前もついて、「音楽をやりたい」って感じになっていたんですか。

諭吉:……とは思っていなかったと思うんですよね。それ以前からTwitterなどにアカウントを持っていて、そのアカウント名をつけるのが好きだったんですよね。自分の好きなように名前をつけて、1つのアカウントとして存在できるわけじゃないですか。それがすごく感覚的になじんでいて。だから曲をアップし始めた時は、音楽をやりたいって気持ちはもちろんありましたけど、音楽家としてどうこうっていうよりは、諭吉佳作/menという名前として存在している1つのアカウントができた、みたいな感覚だったと思います。

──諭吉佳作/menと本来の自分とはイコールではない、ということですか。

諭吉:そうですね。どれが本当の自分とかじゃなくて、自分っていっぱいあるし、どんだけでも広がっていくような、そんな感じです。

──曲作りは歌詞から書いてメロディーをつけていくそうなんですが、イメージやテーマみたいなものがあって作るんですか。

諭吉: SoundCloudに上がっている曲は、テーマというか、なんとなく歌詞の内容に統一感があるというか、これについて書こうかなっていうのがあったりとか、もしくは後付けで、結果的にこういうことを言ってるっぽいな、みたいなのがあって。でもSoundCloudの中では一番新しい曲(2019年1月発表の「プロトタイプ-11」)以降の曲は、全くそういう感じじゃなくて。テーマがあった時は詞を先に書いていたんですけど、最近作っている曲はいろいろと同時にやっていて。歌詞は、「伝えよう」とか「こういうことを言いたいんだ」っていうのが全くなくなってきて、言葉のリズムや、自分がその言葉を言った時の感じがいいか悪いかとかを重視していると思います。

──歌詞は諭吉さんの脳内妄想の具現化というか、イメージの連鎖みたいに思えるんですけど、書く時にどんな感じで言葉が出てきますか。

諭吉:メロディーがすでにあったら、そのメロディーに合わせて……、その合わせての基準も、自分にとっては、「このメロディーにはこういうリズムでこういう言葉しかハマらないだろ」、みたいな感覚ができていて、それに従って作る感じです。例えば、メロディーに合わせて歌詞を作っている過程で、どうしても“ほろ”って言葉を使いたかった時があったんです。でも“ほろ”って言葉があるかどうかも知らなくて。“ほろ”って入力したら、札幌の“幌”って出てきて、調べたら一応意味があったんですね。意味があるんだったら使えるじゃん、みたいな感じで使っちゃうとか。だからほんとに発音の感じだけで決めて使っちゃう時もあります。

──“腎臓”とか“阿呆な桜桃”とか、いきなり異物感のある言葉が出てきたりしますけど、そういう、「この曲心地良いけど、なんか気持ち悪いぞ」、みたいな、ちょっと引っかかってほしいという気持ちはありますか。

諭吉:それはたぶんあると思っています。世の中にすでにある、自分が干渉していない文章に、なにかしら違和感を感じたりして、それが楽しいと思って言葉を好きになってきたと思うので。それを自分が作るものにも含ませて感じてほしいというのはあります。基本的にはやっぱり好きな言葉を使っていますし。

──その“違和感”って、言い換えるとグロテスクなものとか不穏なものとかってことですか。

諭吉:そういう時もあった気がしますね。でも今はそういう縛りみたいなものもないです。自分が好きだなと思う言葉を、特になんの順序もなく、好きな時に好きなものを出して歌詞に並べているだけだから。最初の頃は言いたいことがないなりに、曲を作るのであれば、言いたいことをひねり出してそれを歌詞にしなきゃいけないような気がしていたんですが、別にそうじゃなくてもいいかなって思って。歌詞の意味っていうよりは、言葉も音として聴いていて、こういう言葉を言うのって気持ちいいよねみたいな、早口言葉みたいな気持ちよさがあるよね、って聴き方ができるようなものを作れるのが楽しいな、の方に変わってきていますね。

「サビを作らないのも、自分らしいのかな」

──ちなみにでんぱ組.incに提供した3曲の中では、根本凪ソロ曲の「ゆめをみる」がすごく興味深いんですけど、いわゆるサビ部分がどれなのかよくわからないっていう、不思議な曲ですよね。

諭吉:自分の最近の曲もそうなんですけど、これがサビです、みたいなところを作るのが、あんまり上手じゃなくて。ヤマ場です! 盛り上げます! っていうのが、絶対に必要なわけじゃないよなと思っていて。1個目のAメロを作って、Bメロを作って、だいたいの曲だったらその次サビに行くのかもしれないけど、Bメロまで作って別にサビに行きそうじゃないなって思ったらCメロになって、っていう作り方がすごく多くて。根本さんと打ち合わせをした時に、「好きなように作ってください」ってお言葉をいただいたので、いつもの自分に近い作り方で作った結果、ああなった感じです。

──既存の構成だったらAメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→サビ→Cメロ…ってなっていって、ABサビってきたらまたAに戻るじゃないですか。でもこの曲って、ABCDE…って感じで行ったら行きっぱなしで戻らないんですよね。そういう既成概念みたいなものがないわけですか。

諭吉:そうですね。崎山蒼志さんと曲を作った時(2019年の「むげん・」)に、サビをお互い1つずつ作って、両方使って、最初と最後の部分もサビだとすると、サビが4種類くらいある状態になっていて。その時に、よくよく考えたらこういうことをしてもいいんだよなと思うようになって。もともと自分も「これはこうじゃなきゃ」みたいなことはそんなに考えないタイプなので、一番自然な形になればそれでいいと思っています。「ゆめをみる」を作った時は、流れにまかせるというか、こうでこうきたからこうきて、みたいなのは別になくてもいいよな、というのはあったと思います。

──諭吉さんファンも新作を待っていると思います。今後のリリースについては決まっていたりしますか。

諭吉:まだ決まってはいないんですが、頑張って制作しているので、待っていていただけると嬉しいです。

──最後に1つ、これからアーティストとしてどうありたいと思っていますか。

諭吉:自分がどうありたいかって、その都度変わっちゃって。自分でもよく、今日思っていることを明日も思っているかはわかんないですからね、って人に話すことがあって。自分で自分の在り方をコントロールしているようなところがあるから。その都度の考え方があって、「こうです!」っていうのが変わっちゃったりもするので。たぶんその都度、「今はこうです」っていうのがあったらいいし、そう思っている通りに行動できたらいいんじゃないでしょうか、みたいな感じ。あと、音楽もやれたらいいし、音楽以外のこともやれたらいいし、いろいろやれたらいいですね。

──いきなり音楽をやめるかもしれないし?

諭吉:……怖いですよね(笑)。音楽をやめたくはないんですけど、でも自分の考えが変わりやすいから……。でも音楽、がんばります。

諭吉佳作/men(ユキチカサクメン)
2003年生まれの音楽家。2018年、中学生の時に出場した「未確認フェスティバル」で審査員特別賞を受賞。インディーズバンド音楽配信サイト「Eggs」では年間ランキング2位を獲得。2019年6月、でんぱ組.inc「形而上学的、魔法」の楽曲提供を行い話題に。10 月に発表された崎山蒼志とのコラボレーション楽曲「むげん・」はYouTube80万再生を突破。坂元裕二作品「忘れえぬ 忘れえぬ」主題歌を担当。2020年11月ヒップホップバンドAFRO PARKERとのコラボレーション楽曲「Lucid Dream feat.諭吉佳作/men」を発表。音楽活動以外にも、執筆活動やイラストレーションなどクリエイティブの幅は多岐にわたる
https://soundcloud.com/yukichikasaku
Twitter:@kasaku_men
Instagram:@ykckskmen

Photography Yoko Kusano

author:

小山守

1965年、東京都出身。フリーの音楽ライター。『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『TOKYO FM+』などで、インディー系ロック、エクスペリメンタル・ポップ、ガール・ポップ、アイドルなどを中心とした文章を執筆中。ライヴや配信の現場感覚を重視しつつ、ジャンル、国籍、年齢に関係なく、新しい驚きをもたらしてくれる音楽を常に探しています。阪神タイガースと競馬と猫をこよなく愛しています。 https://twitter.com/mamoru_koyama/

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