シソンヌ・長谷川忍責任編集。ZINE『混沌』からにじみ出る雑誌・カルチャー愛

2006年4月に結成し、2014年の「キングオブコント」で優勝したシソンヌ。圧倒的な実力をもち、一筋縄ではいかない複雑な笑いからは、彼らがその目で見てきたカルチャーを感じ取ることができる。最近ではお笑いだけでなく、舞台やドラマなど活動の幅を広げ、お茶の間でも見る機会が格段に増えたが、単独ライブが定期的に開催され、2人のバックグラウンドを感じさせるアートワークや物販にも注目が集まっている。その中でも、会場で販売されていたZINE『混沌』は長谷川忍が責任編集したもので、彼のパーソナリティが反映された興味深いものとなっている。

おもしろいことをやっている周りの人達を紹介したかった

ーーZINEにはどんな印象をもっていましたか?

長谷川 忍(以下、長谷川):スチャダラパーのアニさんと仲良くさせてもらっていて、ライブに行った時にアニさんが作ったZINEを見せてもらって興味を持って。ZINE自体はファッションとか、オシャレ界隈の人達が作ってるなあと、でもそれって同人誌だろって思ったりもしてて(笑)。漫画を買いに中野のタコシェに行った際に、おもしろそうなZINEを買ったりしてました。本当はこの「混沌」もタコシェにおいてもらおうと思ってたんですけど、お願いする前に在庫も少なくなって、コロナもあってお店にも足を運べず実現できていないのですが。

ーー実際ZINEを作ってみて、周りの反応は?

長谷川:だいぶん自信作ですけど、社内では評価はまったくされてないですね(笑)。1号目は制作担当の人が「長谷川さん、カラーのほうが豪華な感じに見えるので、カラーでいきましょう!」って感じで、制作費がかさんで、採算が取れず。それもあって、2号目はよりZINEらしい体裁にしました。責任編集なので、企画は全部自分で考えて、美大生の作品を評論してみたり、色々試行錯誤しました。制作チームがあって、ざっくりデザイン案を考えてチームに投げると、デザイナーさんを紹介してもらって。そんな感じで制作は進んでいきましたね。

ーー責任編集で大変だったことは?

長谷川:大変だったことはあまり思い当たらないけど、誤字脱字をチェックしたり、俳優の荒川良々さんとの対談の校正が大変だったかな。たとえZINEでも掲載できない内容が多くて、カットしたら「なんでカットするんだよ!」って怒られるし(笑)。でも、トータルではすごく楽しかったですね。ジャンルは違えど、おもしろいことをやっている同世代の人達が周りにたくさんいるので、その横のつながりみたいなものをZINEでも紹介したかった。

ーー表紙は「TOKION」でもプロダクトを制作しているfaceさんですね。

長谷川:個人的にインスタをフォローしてたら向こうもフォローバックしてくれて。チェルミコの2人とはラップをやる前から交流があって、原宿を妻と2人で歩いている時に壁に描かれたフェイスさんの絵を見て「これ、チェルミコに合いそうだね!」って妻が言ったんですよ。その時は「確かに……」とは思ったけど、「いや、俺が先にやりたい!」って。表紙はやはりカッコよくしたいので、2号続けてfaceさんにお願いしています。

ーーfaceさん作のロゴもすてきですが、『混沌』というタイトルは?

長谷川:ぐちゃぐちゃな闇鍋みたいな感じの内容なのと、響きが「コント」っぽいかなって。ちょっとかけてますが、改めて説明するのは恥ずかしいですね。ちょうど同時期にカニエ・ウエストとキッド・カディのコラボ作「Kids See Ghosts」のアートワークを村上隆が手掛けていて、そこに「混沌」って描かれていたのを発見してしまって。カニエ好きを公言してるのもあって、その作品から影響を受けたみたいに思われたら嫌だなって(笑)。

雑誌での情報収集が学生時代のルーティーン

ーーZINEを読んでいると雑誌からの影響も強く感じました

長谷川:僕が学生時代、インターネットは主流じゃなく、情報収集は主に雑誌からでした。特に「TOKION」や「relax」、「warp」からの影響は大きいですね。高校時代はストリート系のファッション雑誌がはやっていて、「boom」を読んだり、裏原の世界も雑誌で知りました。「TOKION」も確か「APE」の店舗に置いてあったものを見て知っていたはずです。もともと「TOKION」は英語・日本語のバイリンガルでしたよね。持ってるだけでかっこいい、そんな雑誌でしたね。地元の浜松だと、普通の書店に「TOKION」は売ってないから、タワーレコードで探して買ってました。

ネットで探せば情報はすぐ手に入るし、それは便利なんですけど。いまだに紙への愛着があるのってやはり雑誌の存在がデカかったのかなって。それに、このZINEってウェブで読んでも面白くない、紙で読むからこそおもしろい。スマホで漫画を読む世代からしたら、なんの違和感もないかもしれないし、わざわざ紙の本を読むのって面倒かもしれないけど、その手間が1つあることが大切かなって。アンチテーゼじゃないですけど。

ーー雑誌では音楽もチェックしてましたか?

音楽も好きで、地元ではヒップホップとメロコアが二極化してましたが、僕はどっちも聞いてて。特に「warp」ではどちらも取り上げられていたので、雑誌でチェックしたものを聴いてました。東京のシーンを体感したくて、東京にも行ってましたが、節約のために各駅停車に乗るんですけど、三島あたりで諦めて渋々新幹線に乗ったり、それも含めていい思い出です。

ーー今はどんな音楽を聴いてますか?

長谷川:一時期日本のヒップホップは聴かなかったんですけど、今はまたちょこちょこ聴いていて。フリースタイルバトルがはやって熱が覚めちゃって、最近フリースタイルじゃない人たちはやっぱかっこいいから、例えばそういうオトギバナシズとか、そこから派生してパンピーとか。その一方で舐達麻とかゴリゴリのやつも好きだったり。

ーーじろうさんとはまた違う音楽性ですね

長谷川:人間椅子とか、ロックが好きで。確か人間椅子とは同じ高校で、地元を盛り上げるって意味でもつながりがあって。じろうと出会った時は26歳で、吉本の養成所に入ったのがお互い遅かったのと、趣味が近くて意気投合して。じろうも断捨離前はアンダーカバーとかもきてましたしね。今は全部辞めちゃてパチンコに打ち込んでて。中毒とかそういうレベルを超えるほどハマってます。

ーーZINEに話を戻しますが、次の号はもう出ないのでしょうか?

長谷川:自作のコラージュも楽しかったし、テレビじゃできないことを自分のZINEでやれるって意義がありますよね。予算を確保しやすいのが社内で作る利点ですけど、みんな有志で参加してくれるんで、次はアニさんのZINEのようにもっとDIYで作るのもいいかもしれません。

 前に参加してくれた人にも出てもらいつつ、せっかくなんで最近仲良くさせてもらってるので、「スタイリスト私物」の山本康一郎さんとかに出てもらいたいなと。スタイリストなのにアーティストみたいな、すごい感覚でしゃべってる人で、すごく刺激をもらうので、ZINEにその会話を掲載できたらおもしろそうだなって。テレビだと自分の好きなものを紹介したり、表現したりするのに限界があるので、ZINEはある意味、自分の好きなものだけを詰め込むことができるメディアですよね。次は自分の趣味を突き詰めた内容にできたらいいな。まだ発行できるか自体、未知数ですけどね。

長谷川忍
1978年生まれ。浜松市出身。吉本興業所属。NSCで出会ったじろうと2006年に「シソンヌ」を結成。趣味はファッション、スニーカーやアメコミフィギア収集など。
http://sissonne.jp
Instagram:http://www.instagram.com/sissonne_hasegawa
Youtube:https://www.youtube.com/channel/UCfsyQDWrmn9_v4wl3MM99ww/

Photography Kosuke Matsuki
Cooperation BYT SHOWROOM

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author:

多屋澄礼

1985年生まれ。レコード&アパレルショップ「Violet And Claire」経営の経験を生かし、女性ミュージシャンやアーティスト、女優などにフォーカスし、翻訳、編集&ライティング、diskunionでの『Girlside』プロジェクトを手掛けている。翻訳監修にアレクサ・チャンの『It』『ルーキー・イヤーブック』シリーズ。著書に『フィメール・コンプレックス』『インディ・ポップ・レッスン』『New Kyoto』など。

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