音楽、そしてそこにある言葉を通じて魂を届けるーーレゲエディージェイ・RUEEDの今

2007年、今や伝説となっている日本最大のレゲエミュージックフェスティバル、「横浜レゲエ祭」の出演権をかけた「ROAD TO 横浜レゲエ祭」に参戦し、18歳で最年少優勝記録を樹立。ジャパニーズレゲエシーンの話題をかっさらった新星、RUEED。あれから15年が経ち、32歳になった今、シーンの担い手として最前線を走る男が、新型コロナウイルスが蔓延して変容した世界で何を考え、どのように活動しているのか。5月16日から始まるライヴツアー「Mastermind CLUB TOUR 2021」を前に、その胸の内を聞いた。

希望の光や人生を楽しむヒント、そういったものを曲に忍ばせたい。

――今年でキャリアは何年目になりますか?

RUEED:15歳から活動を始めて、今年で33歳になるので18年目になります。当時は先輩達から「始めるのチョッ早(チョー早いの意)!」なんて言われていましたが、そう考えると時間が経つのってホント早いですよね。

――となると音楽との出会いは……?

RUEED:最初に興味を持ったのはヒップホップでした。14歳の時に一番上の兄貴(=俳優・窪塚洋介)が持っていたミックステープやCDを聴いたりしていたんですが、2002年にキングギドラの再結成ライヴのチケットをその兄貴からもらって、二番目の兄貴(=俳優・窪塚俊介)と一緒に観に行ったら、思いっきりクラっちゃって。さらに同時期に、MTVでDJ KENTAROくんや映画『SCRATCH』でDJ Qbertを観て「ヤバイ!DJやりたい!」って思うようになり、誕生日に兄貴からターンテーブルセットを買ってもらったのを期にスクラッチDJを目指すようになったんですよね。

――キャリアのスタートはヒップホップだったんですね。

RUEED:そうなりますね。それでレコードも買うようになり、12インチ以外に7インチもあると知って。徐々に「レゲエをかけている時のほうが自分もお客さんも盛り上がれるな」って感じるようになってきてレゲエのセレクター(レゲエミュージックにおけるDJ)に。それからほどなくして歌も書き始めるようになって今に至るっていう感じです。

――その18年間の中で、ジャパニーズレゲエのシーンは大きく変化しているかと思いますが、どう感じていますか?

RUEED:どうですかね。ジャパニーズレゲエのシーン自体はもちろん大事なんですけど、昨年くらいから俺自身が“周囲を気にしないマインド”になっているので、シーン全体を客観的に語るというのが難しい状況です。確かにヒップホップに比べて楽曲のリリースが少ないとか、元気がないなんてテンプレな話はいくらでもできると思うんですが、それを肌で感じられるほど、コロナの影響で今は現場もないですし。

逆に言うと、現場がすごく大事な音楽だなと改めて実感しています。演者と遊びに来てくれたお客さんが作り出すフロアの一体感があってのレゲエであるはずなのに、そこに触れることができていないのは寂しいですよね。とはいえ悲観的になり過ぎることはなく、俺は自分ができることを全力でやるだけ。むしろ昨年からゾーンに入っているというか、(今、俺は)「キテるぞ!」という感覚があります。

――そんなコロナ禍の昨年は、2枚のコンセプトアルバム『Q』と『K』をリリースされました。

RUEED:ライヴができないという誰しもが予想しえなかった状況が、自分の中でいろんなことを見つめ直すキッカケにもなりました。創作に対するモチベーションに一気に火がつき、ゾーン状態で毎日のように新しい曲ができあがっていったんですが、それを自分や仲間内だけで聴いて終わらせるのはもったいないし、たくさんの人達にしっかり届けることができるという自信がある。ならば発信していくべきだと思ったんです。最初は「10数曲入りのフルアルバムで出すべきか?」とも考えましたが、どうせだったらコンセプトで分けて2枚で出してみようということで、自然とこのカタチに落ち着きました。

――『Q』が女性に向けたメロウなチューン、『K』は意志の強さやスタンスを表明するようなチューンが収録されていますし、タイトルの『Q』はQueen、『K』はKingという意味でしょうか?

RUEED:確かに“柔と剛”、“優しさと強さ”というように対になるコンプトを掲げて制作しているのでそう読み取ることもできますが、それはあくまで裏テーマ。最終的には受け手側に委ねています。『Q』=“Queen”と思う人もいれば、“Quality”を意味していると思う人もいたりでイイんじゃないかって。例えばAに対して、元カノのイニシャルで懐かしいと感じる人もいれば、アルファベットの最初の文字だって思う人、いや、これはAceだって思う人がいれば、Answerだって感じる人もいるように。

――それで言えば、『Q』はQuest(探求)と読み解くことも可能ですね。探求という意味では、コロナ禍での制作はこれまでと違う部分があったんじゃないでしょうか。

RUEED:そうですね。単純に人と会う機会が減った分、制作に集中できました。プロデューサーとのキャッチボールの必然性をより強く感じましたし、あえてもっとわかりやすくしようとか、普段だったら自分では取り入れないようなアイデアに耳を傾けてみたりもしました。もちろん全曲そうではないけど、そういったディレクションやその場の空気感だったり、友達がデモを聴いた時にポロリとこぼした言葉だったり、そういった中から、自分のアンテナにビビッときたモノを集めてできあがった2枚です。

「EVERYDAY」

「REMEMBER」

――誰しもが、明日のことさえわからない不透明な日々を送っていた中で、リリックがネガティブなマインドに引っ張られたりはしませんでしたか?

RUEED:あまりなかったですね。そもそも聴き終わったあとにドンヨリした気持ちにはさせたくないし、そもそもネガティブな歌を書くのが苦手なんです。一筋でも希望の光があったり、何か人生を楽しむヒントになったり、そういったものを忍ばせたいという想いは常にあります。

――それって現代を生きるひとびとに、すごく必要なモノだと思います。

RUEED:SNSを開けば、誰かが誰かの文句言っているし、世の中が、そして人と人がどんどん分断されていって、混沌とした社会になってきているというのはすごく感じていて。それって、まんまとバビロンのトリックに引っかかっているだけ。なので「もう少し冷静にLOVEでいこうよ」っていうメッセージを、こういう時こそ音楽や、そこにある言葉で魂を届けなくてはいけないなって思います。

レゲエの根幹にあるレベルミュージックの精神が、今だからこそ必要なんじゃないかなって

――レゲエディージェイとしてのスタイルもそうですし、キャラクター的にも真面目な印象があります。時にはくだらない内容のリリックも見てみたいです(笑)。

RUEED:(笑)。最近はそういう歌も書きたいって思うようになってきました。例えば、朝7時に起きて、ホットケーキを食べてコーヒー飲んでみたいな(笑)。ただそれよりも、雨の描写で悲しみを伝えるような日本的情緒や表現、そこから生まれる余白の文化が俺はメチャクチャ好きなので、目指すのはソコかな。これは売れる曲とかとはまた別の次元の話になっちゃいますが……。

――レゲエ、ことダンスホールというジャンルでは詩的な表現よりも感情をストレートな言葉に乗せて伝えるものが多く感じます。そういう意味では、まだまだ新たな可能性がありそうですね。

RUEED:ですね。そういう表現の仕方ってヒップホップにはあるんだから、レゲエにも存在して然るべきですし。タイトルの話もそうですが、受け手側のための想像する余白を残しておくというか、そういう音楽はおもしろいですよね。だからさっき話に出たくだらないリリックなんかも、おもしろ格好よく仕上げることができたらアリかもなって(笑)。

――『K』では、客演としてヒップホップやR&Bなど他ジャンルの方々が参加しており、新たな RUEEDさんの一面が垣間見えました。キャスティングはどうやって決めているんですか?

RUEED:客演のキャスティングに関しては、格好いいモノができ上がるなら、そこにジャンルなどの枠組みはあんまり関係ないと思っています。格好いいと思える人達と一緒に曲を作り、そこに俺がワンバース入る。それだけでレゲエを、そしてダンスホールを感じてもらえるハズ。その自負があるから、躊躇することなく何にだって飛び込んでいけると、そう思っています。

――なるほど。他ジャンルとのコラボレーションでいえば、同じくレゲエディージェイとして活躍する盟友・J-REXXXとともに参加した、ALIの「FIGHT DUB CLUB feat. J-REXXX, RUEED」など、ジャンルの枠を越えた活動も注目されています。

RUEED:自分らがやっているバンド、DRLSで対バンさせてもらったりもしていたので、ヴォーカルの(今村)怜央くんは以前からの知り合い。なので、J-REXXXの色と俺の色が結構違っていて、整合性が取れすぎていないのがおもしろいということもわかった上でオファーしてくれているので、J-REXXXはJ-REXXXなりの、俺は俺なりのスタイルを表現しています。ただ、最後に絡むところはしっかりとリンクさせるという感じで、結果的にはすごくイイ感じに仕上がりましたね。

「RUEED&J-REXXX / SARABA、SHADY&ARC-MAN / KEEP BLAZING(SHINING TRAIN RIDDIM by 教授)」

――先ほどの客演の話も然りですが、そうやって音楽や映像に関して、いろいろな人達とチームアップしてモノ創りをする中での難しさはありますか?

RUEED:基本的に人と人の間で起こる化学反応が昔から好きなので、難しさを感じることはあまりなくって、むしろワクワクする気持ちや高揚感のほうが強いですね。自分1人では引き出せない力を引き出してくれたり、自分でも知らなかった引き出しを開けてくれたりして、1+1が10にも100にもなる。そこで生まれるパワフルなエナジーを俺は信じています。

――そしてデビュー20周年を迎える2023年には、35歳を迎えます。

RUEED:アラフォーか、ヤバイですね(笑)。歳を重ねるごとに視野も広がり、15周年のタイミングで「Mastermind」という自分のレーベルを立ち上げたことで「こんなこともできるんだ」と気付く瞬間も増えたし、やりたいこともドンドン増えていっています。

例えば、好きで描いているイラストを何か形にさせたいっていう野望もあったりしますし、タイミングが合ってチャンスがあれば役者にもまた挑戦したい。役者に関しては実際に演じてみて、音楽制作とかなりシンクロするということがわかりました。1発撮りではなくパーツごとに作っていってそれを組み合わせる作業は、とんでもなく壮大なアルバムを作るのにも近い感覚でおもしろかったです。以前演じた役柄がすごくいいヤツだったので、今度は悪役もやってみたいかな。

――最近は兄弟でのリンクアップも頻繁に行われていますが、表現者として同じ土俵に立つというのはどんな気分ですか?

RUEED:兄弟で一緒に仕事ができるっていうのはすごくイイこと。普段通り自然体でいられる分、ある意味甘えちゃう部分はありますけどね(笑)。やっぱり自分のベースにあるのが兄貴の教育というか、中学生頃からビシビシ注入されてきたイズム。それがある上で成長して今の俺があるし、お互いがお互いを理解し、刺激しあえているイイ関係性だと思います。あと最近は、甥っ子が成長してきて、多分兄貴はこういう風に俺を見ていたんだろうなっていう感覚がわかるようになったのも、新鮮ですね。俺自身が温かい家族の中で育ってきているので、自分が享受してきたLOVEを広げなきゃとは常に考えていて。近くにいる人を大事にしたり、ちょっとした気遣いができたりとか。難しい話ではなくそんなことでイイんです。それがドンドン感染して広がっていくようにするのも、俺達、発信する側の役割だと思っています。

――自分達の世代がシーンの担い手になっているという実感はありますか。

RUEED:自分で言うのもアレですが、俺やJ-REXXXはちゃんと音楽にライフを削っているし、そういう奴らが確実に、今のジャパニーズレゲエのシーンを引っ張っているとは言えます。だからこそ、もっとがんばらなきゃいけないなとも思いますし。
今って15歳で一歩を踏み出して駆け上がってきた山を登り切ったら、そこからさらに高い山が見えて、その存在を知ったという状態。なのでまだまだ登り続けなきゃいけないし、「やるぞ!」ってヴァイブスが高まっているところです。

――ここ日本におけるレゲエシーンは今後、どうなっていくと思いますか?

RUEED:これまでレゲエミュージックに触れてこなかった人達が、薄まった部分や上澄みだけをすくい取って、濃い部分やおもしろさに気付かずに“レゲエはイケてない”と思われてしまうのはイヤです。
世の中にみんなが不満を持っていたり、ネガティブなマインドを垂れ流したり、押し付けてくるような輩がいる今だからこそ、レゲエの根幹にあるレベルミュージックの精神が必要なんじゃないかなって思います。俺達演者側は普段あまり意識することはないかもしれないけど、多様化している音楽シーンの中でレゲエが輝く可能性は、そんな“レベルミュージック”にあると思うんですよ。

RUEED
1988年生まれ。神奈川県出身。15歳でレゲエディージェイとしてのキャリアをスタートさせ、2008年に19歳でデビューアルバム『NEW FOUNDATION』をリリース。1stを含む5枚のフルアルバムと数々のコンセプトアルバムや楽曲、ミックスCDをリリースし、目まぐるしい成長を経てシーンの一線を走る。その活動の幅は多岐にわたり、バンドプロジェクト、DRLSのほか、2017年には映画『スカブロ』で初主演も果たした。2018年には自身の15周年を記念したベストアルバム『MASTERMIND』をリリース。現在は2枚のアルバム『Q』&『K』が好評発売中。また同アルバムのリリースを記念して「Mastermind CLUB TOUR 2021」がスタートする。
http://rueed.jp
Instagram:@rueedman / @rueed_info
Twitter:@RUEED_INFO

■LIVE : Mastermind CLUB TOUR 2021 “Q&K”RELEASE PARTY
出演者:RUEED他
日時:
5月16日@静岡 CLUB 51
5月29日@千葉 MAXIM(POSTPONED)
6月 4日@北海道 札幌 ACID ROOM
6月 5日@北海道 函館 club COCOA
6月10日@大阪 THE PINK(POSTPONED)
6月25日@宮城 仙台 CLUB SQUALL
6月26日@岩手 盛岡 SICKth
7月 3日@福岡 STAND-BOP
7月 4日@熊本 SANCTUARY
7月25日@東京 OR TOKYO
http://rueed.jp/live/

Photography Teppei Hoshida
Text TOMMY

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author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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