「ユニクロ」からも支援される新世代の表現家、MÖSHI 東京・ロンドン・NYを横断するミュージシャン&ファッションデザイナーが見据える未来

ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ芸術大学卒業後、「ユニクロ」からスポンサーシップを得て、ニューヨークのパーソンズ美術大学院在学。世界屈指のアート&ファッションの名門で学んだコンセプト&コンテクストデザインと、新世代のパーソナリティを駆使して、ミュージシャン&ファッションデザイナーとして活動するMÖSHI。今と未来をつなぐこれからのクリエイティブの在り方について聞いた。

試行錯誤しながら、テーマ決めやリサーチ、時代のコンテクストを読みつつ、作品までたどり着かなければいけない

――音楽、ファッション、アートと多岐にわたって活動していますが、まずはファッションデザイナーとしてのこれまでのキャリアを教えてください。

MÖSHI:もともとファッションに興味があって、好きなデザイナーがたくさん卒業しているロンドンのセントラル・セント・マーチンズで勉強したいと思って渡英しました。

――ちなみに、好きなデザイナーやブランドは?

MÖSHI:「コム デ ギャルソン」のコレクションラインが好きで、テクスチャーもすごいし、人がオブジェクトを着て歩いているようなパワーには常に刺激を受け憧れています。僕の作品も、オーバーサイズやテクスチャーにフォーカスしたものが多いのですが、それは「コム デ ギャルソン」の影響があるのかもしれません。

それと、セントラル・セント・マーチンズへ行くきっかけにもなった、同校卒業生である川西遼平/RYOHEI KAWANISHIさん。「ランドロード」時代(2020年5月にクリエイティブディレクターを退任)の作品も好きですし、セントラル・セント・マーチンズでの卒業コレクションは、メッセージ性やボリューム感に圧倒されました。

――確かに、MÖSHIさんが手掛ける作品は、テクスチャーに特徴があるものが多いですよね。

MÖSHI:セントラル・セント・マーチンズに入学後、最初は基礎コースでファインアート、グラフィック、テキスタイルなどいろいろなことを学びました。基礎コースの後半からは専攻を1つに絞るのですが、そこでテキスタイル科に選ばれたのでさらに興味が深まった感じです。

――その時点で、将来的にファッションの世界で活動しようと決めていたのでしょうか?

MÖSHI:基礎コースを終えてファッション学部に進んだので、何かしら洋服に携わることができたらいいな、とぼんやりとは考えていました。

――セントラル・セント・マーチンズ卒業後は、ニューヨークのパーソンズへ進学(現在は同大学院在籍)しましたよね。「ユニクロ」からのサポートを受けていますが、どういった経緯で実現したのですか?

MÖSHI:「ユニクロ」とパーソンズが提携していて、ユニクロが行っている次世代の教育支援(TOMODACHI-UNIQLO Fellowship)に応募して奨学金を得ることができたんです。アメリカの大学は学費が高いので、大きな企業がサポートしているケースが結構あって。自分としてもずっとロンドンに住んでいたので、違う土地や教育システムで学びたいという想いもありました。

――セントラル・セント・マーチンズもパーソンズも、アートやファッションの分野において世界屈指の名門校ですよね。それぞれ、もっとも吸収できたことはなんですか?

MÖSHI:セントラル・セント・マーチンズに関しては、コンセプトの組み立て方です。基本的に座学がないので、何も教えてくれずスケジュールもタイト。自分で試行錯誤しながら、テーマ決めやリサーチ、時代のコンテクストを読みつつ、最後の作品までたどり着かなければいけない。ファッション云々よりも、そういった思考回路を鍛えられたことが大きかったです。実はこれ、どんなことにでも応用ができるので財産になっています。

一方、パーソンズは、そういう部分も大事にしながら、もっとパーソナルな部分を大事にしなさい、という教育方針なんです。昔は好きなファインアートや映画など、他人のストーリーを参考にしていた部分もありましたが、パーソンズでは自分の中から出てきた感情や体験を出発点に作り上げる。パーソナルなストーリーが大事だ、ということを教えてもらいました。

――ロジカルな部分とエモーショナルな部分を双方で学べたというか。

MÖSHI:そうですね。それぞれ学べたことは、自分としてもバランスが良かったです。

昔からある作法や手法、時代背景や今の流れなどもくみ取りながら、アプローチしていくことがおもしろい

――音楽活動についても聞きたいのですが、ミュージシャンとしてはどのようにキャリアを開始したのですか?

MÖSHI:曲を制作し始めたのは、セントラル・セント・マーチンズの最終学年の時です。ギャップイヤーといって、2年生と3年生の間にみんな大きなブランドでインターンとして働くために休学するんです。でも僕は、日本に帰って自分の作品を作っていました。学校で学んだことをファッション以外のツールでも表現できるんじゃないかと。

そこで、音楽、グラフィック、インスタレーションなどを用いて作品を作り始めたところ、「LUMINE meets ART AWARD」のアートインスタレーション部門でファイナリストに選出されて自信がついた。基本的に、ファッションも音楽もアートも垣根はなくて、同じ考えのもとに表現しています。

――複数のジャンルに着手することになりますが、作業時間はどのように配分しているのですか?

MÖSHI:ニューヨークに住むようになってからは、午前中に音楽を作って、昼から学校へ行って夜中までファッションの制作をやって、家に帰って2〜3時間また音楽を作る。日によっておもしろそうなイベントがあれば遊びに行く。音楽に関しては、今でも毎日何かしら作っています。

――音楽制作は、どういったプロセスで進めているのでしょうか?

MÖSHI:まずトラックを作ったり仲間から提供してもらい、フロウとメロディを入れたりして、そこに歌詞になる言葉を合わせていく感じです。歌詞に関しては、自分のパーソナルな部分が反映されることが多いです。

逆に、トラックやサウンド、ファッションに関してはコンテクストが必要なので、自分の好き勝手に作っても誰も聴いてくれないし、誰も着てくれないと思っているんです。昔からある作法や手法、時代背景や今の流れなどもくみ取りながら、その中で新しい提案や今の流れにアプローチしていくことがおもしろいというか。

――それって、現代アートの考え方や制作方法に近いですよね。

MÖSHI:そう、まったく同じなんです。ジョン・ガリアーノなどハイファッションのコレクションも同じ考え方ですよね。まさにセントラル・セント・マーチンズの教育なんですよ。学校によっては、こういう気持ちを表現してみましょうとか、雰囲気で教えているところも多いと思います。でも、裏付けがないものを作ってもひとびとには届かないので、僕自身はしっかりコンテクストを意識しています。

それと同じ考え方で、音楽のトラックも作っているんです。はちゃめちゃなものって誰でも作れるので、ちゃんと分析して、どうしたら届くのか、新しいと思ってもらえるのかを考える。そこに、パーソナルなリリックを合わせるという感じです。

――昨年12月にEP『#13G 10009 (ナンバー・サーティーン・ジー・ワン・ゼロ・ゼロ・ゼロ・ナイン)』をリリースされました。詳しく聞かせていただきたいのですが、これは、ニューヨークにある自宅のルームナンバーということですが、現地でのライフスタイルの断片が、各楽曲で描かれているということですか?

MÖSHI:そうですね。ずっとロンドンに住んでいたので、ニューヨークに移ったことは大きな変化でした。環境と学校も変わって友達もいない状況で、自分を見つめ直す機会になった。その想いや空気感を、EPにまとめたいなと思いました。

――収録曲を解説していただきたいのですが、1曲目の「Back And Forth」も、もちろんニューヨークで感じたことが反映されていますよね?

MÖSHI:そうですね。冬休みを使って帰国する際に、JFK空港で待っていた時に着想しました。ちょうどPause Catti(MÖSHIと同じコレクティブ「Laastc」の一員として活動する音楽家)が、自分用に作った15秒ぐらいのデモループを送ってきて、それがすごく良かったのでラップをのせました。内容は、年に何度も各国を行き来している中で、1箇所に留まらない自分の立ち位置、そういう環境にいる自分ができることはなんだろう、と考えて書いた曲です。

――2曲目の「On My Way Back」は、ロックダウンしたニューヨークについて歌われていますよね。

MÖSHI:家から学校まで、歩いて15分くらいのところに住んでいるんですが、自分の中ではこの通学時間、特に1日作業して家に帰るまでの道のりは、いろいろなことを考えることが多くて。実際、コロナでロックダウンしてしまったので、以前のような日常が戻ってくるのか? など考えたりしていましたね。

――4曲目「Calling」は、日常の情景というよりも、マインド的なことが表現されているのかなと。

MÖSHI:今回のEPの中では、一番アグレッシブな歌詞だと思います。普段はあまり尖ったことを言わないけど、Pause Cattiと話していて「お前らじゃ、俺らについて来れないよ」といった強気な一面も大事にしたほうがいいよね、となって。自分達ならもっとクリエイティブにできるし、それを形にできる自信もあるよ、という。

――5曲目「Brooklyn Bridge」、6曲目「Crystal」は、共通してシネマティックな空気感があります。

MÖSHI:映画を観るのが好きなので、自分の生活をベースにその情景を誇張して、映画の物語のように仕上げました。「Brooklyn Bridge」は、まさにブルックリンブリッジを渡っている時に、自分は本当にニューヨークに居るんだな、と実感しました。そこが基点になって、思い起こされる記憶や人とのつながりを、スクリーンに投影するかのように表現しました。

――すべての曲に共通しているのが、クールな空気感だと思いました。音楽制作において、自分的なありなしのジャッジはどのような観点で行っているのでしょうか?

MÖSHI:まだそれほど多くの音楽を作っていないので、基本的には自分が今まで聴いてきた音楽による経験則が大きな割合を占めているとは思います。

――ちなみに、どんな音楽を聴いてきましたか?

MÖSHI:中学生の頃に、先輩からブルーノートのCDを借りて、そこからブラックミュージックを知って。その後は、ロバート・グラスパーなどのジャズ、Ninja TuneやWarp Records関連のエレクトロニカミュージック、ジ・インターネットなど次世代のヒップホップなど、自分の世代的にもおもしろい時代の音楽と出会えてこられたのかなとは思います。

そういう中で、自分の好きなものはもちろん、嫌いなものも見えてくるようになったというか。セントラル・セント・マーチンズで言われたのは、作品制作におけるアイデアやプロセスをスケッチブックに書くということ。しかも、途中で気に入らなくなっても、絶対に消したり破ったりしてはならない。なぜ、消したり破ったりしたくなったのか? その理由を考えなさい、と。なので、嫌いな音楽を聴くことも大事にして、その中でMÖSHIというアーティストがやるべき音楽を判断しているのかもしれませんね。

――基本的に1人で表現していると思いますが、何か理由があるのでしょうか?

MÖSHI:テーマやコンセプトによって、他人の力が必要であれば取り入れます。ただ、作品を作っているとわがままになるので、他人とやるのは難しくもあるんです。

現実の状況に対して悲観することなく、ポジティブに考えたほうがいい

――ニューヨーク、ロンドン、東京の芸術⼤学⽣が中⼼となり発⾜したコレクティブ 「Laastc」としても活動していますよね。チームやクルーは馴染みがあると思いますが、コレクティブというのはどういう集合体なのでしょうか?

MÖSHI:1つの目的に対して、自由にコラボレーションしてアプローチしていくというか。ヒップホップでいえばクルー、プロジェクトだとチームに近い形ですが、それだと少し固いというか。コレクティブは、それよりもっと緩いつながりかもしれません。日本では、アート業界の人達が、コレクティブという形をとっていることが多いですよね。

もともとは、Odd Future(OFWGKTA)が好きで、彼らの楽しそうな感じに憧れもあって。とにかく、音楽でもグラフィックでもファッションでも、信頼している仲間といつでも気兼ねなく縦横無尽に活動するといった感じです。

――今後、「Laastc」としてはどのような活動を予定していますか?

MÖSHI:それぞれがおもしろいバックグラウンドを持っていますし、自分と同じように音楽だけじゃなくいろいろなアプローチをしていこうという人達が集まっています。なので、1つのコンセプトと複数のアウトプットを詰め込んだものを、ギャラリーなどで発表できたらいいなと。まだ、道半ばですけど。

――コロナによってさまざまな状況が変わりましたが、それによる変化はありましたか?

MÖSHI:僕は一切ありません。基本的には、ノリで生きているところもあるので(笑)。もちろん、コロナによってニューヨークもロックダウンして、学校も閉鎖しました。学校のプロジェクトも進んでいたけれど、生地屋さんが閉まっているなら、プラスチックで洋服を作ろうとか。ニューヨークにいられないなら、帰国して日本でできることをやろうとか。

コロナに限らず、自分ではコントロールできないものってたくさんありますよね。それでうろたえても仕方ないですし、現実の状況に対して悲観することなく、ポジティブに考えたほうがいいなと。なので、この状況だからこそ目立つためにはどうしたらいいのか分析して考えていました。

――実際、どんなアクションを起こしましたか?

MÖSHI:Pause Cattiと一緒に音楽活動における施策を考えていた時に、友達のイベントに出演したり、SNSで情報を拡散したりするのは、どこか僕ららしくないなと。だから、まずは高いクオリティの作品を作って、音楽業界の人達に信頼されるようなアプローチをしようと。

そのことで、タワーレコードの「TOWER DOORS」で紹介していただいたり、「FUJI ROCK FESTIVALʼ20」のROOKIE A GO-GOへ出演できたり、ビクターとつながったり、いろいろな出会いが生まれました。もちろん、今後はSNSにも注力しなければいけないですが、とにかく今の状況に対して最適なことを考える、それを常に実践していきたいですね。

――さまざまなアウトプットがある中で、今後はどんなことを表現していきたいですか。ビジョンやリリース情報などあれば教えてください。

MÖSHI:自分のアーティスト写真を撮影した時に、自分でインスタレーションを組んで空間を作り上げましたし、EPのジャケットも自分で作りました。それと同じように、音楽、ファッション、アート、それぞれのクリエイションをクロスオーバーさせていきたい。

自分としては、コンセプトを作ることが好きなんです。なので、パーソナルなことであれ、ソーシャルなことであれ、その時々で表現したいコンセプトを設計して、それに適切なツールを用いてアウトプットしていきたいと思っています。
そして4月7日にはニューシングル『Painting』をリリースしました。トラックからアレンジまである程度自分で固めたところから、ギターを「Laastc」の1e1に弾いてもらい、ミックスをKazuki Muraokaさんに手掛けていただきました。今回掘り下げましたEP『#13G 10009』と併せて聴いてほしいです。

MÖSHI
ニューヨーク在住のミュージシャン、ファッションデザイナー。ロンドンのセントラル・セント・マーチンズ芸術⼤学を卒業後、「ユニクロ」からスポンサーシップを得て、ニューヨークのパーソンズ美術⼤学院に在学中。「2017 LUMINE meets ART AWARD」アートインスタレーション部⾨ファイナリスト、「FUJI ROCK FESTIVALʼ20」ROOKIE A GO-GO出演、100byKSR選出、TOWER RECORDS「TOWER DOORS」でのパワープッシュなど。ニューヨーク、ロンドン、東京の芸術⼤学⽣が中⼼となり発⾜したコレクティブ「Laastc」の中⼼メンバーとしても活動中。
the-moshi.com/
Instagram:@moshi_the

Photography Teppei Hoshida
Text Analog Assassin

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author:

相沢修一

宮城県生まれ。ストリートカルチャー誌をメインに書籍やカタログなどの編集を経て、2018年にINFAS パブリケーションズに入社。入社後は『STUDIO VOICE』編集部を経て『TOKION』編集部に所属。

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