日本を代表するカリスマ美容師・高木琢也 「ヨウジヤマモト」のヘアを担当した経緯を語る

ヘアサロン「オーシャントーキョー」の代表を務める高木琢也。日本最大級のヘアコンテストで、3年連続グランプリを獲得するなど、日本を代表する美容師の1人だ。そんな高木が「ヨウジヤマモト」2021-2022秋冬メンズ&ウィメンズ・デジタルコレクションのヘアを担当した。いち美容師がいかにしてコレクションのヘアを担当するまでに至ったのか。高木に聞いた。

高木琢也(たかぎ・たくや)
「オーシャントーキョー」代表。1985年7月14日生まれ。2013年9月にヘアサロン「オーシャントーキョー」を設立。2015年3月に月間技術売り上げ1200万円を達成。「ホットペッパービューティー」主催のヘアコンテストでは、3年連続日本一を獲得。美のミシュラン「KAMI CHARISMA 2020」「KAMI CHARISMA 2021」で三つ星を2年連続で受賞。2ヵ月の予約枠はわずか1分で完売。サロン経営の他、ヘア関連製品などの企画、制作なども手掛ける。
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Twitter:@ocean_takagi
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「きっかけは山本里美さんとの出会い」

——今回、どういったきっかけで「ヨウジヤマモト」のコレクションのヘアを担当することになったんですか?

高木琢也(以下、高木):あるブランドのパーティで山本里美さんにお会いしまして、その時に名刺交換させていただいて。それで後日僕のほうから「先日はありがとうございました、また機会があればご一緒させてください」とメールを送ったんです。そしたら里美さんから「よかったら『リミ フゥ』の展示会に来ませんか?」ってご案内をいただいて。それで「リミ フゥ」の展示会に行ったら、偶然山本耀司さんも来場されていて、そこで少しお話させていただきました。その出会いがきっかけでしたね。

——ちなみにその時はどんな話をしたんですか?

高木:耀司さんから「日本一の美容師なんだって?」と話しかけてくれました。あと、僕のほうから「オーシャントーキョー」のオリジナルブランド「オーシャントリコ」のシャンプーの撮影で、僕が1人で出てるビジュアルがあるんですけど、それがたまたま「ヨウジヤマモト」の服で、その写真を撮ったのが写真家の操上和美さんだったって話をして。耀司さんが「実は俺が初めて作った服を撮影してくれたのが操上さんなんだ」って教えてくれて、「よかったら次のパリコレ観に来て」って誘っていただいたんです。それで 2020年1月の2020-21秋冬メンズ・パリコレクションを観に行って、その時もパリで少しお話をさせてもらいました。

——その2回会っただけで依頼が来るのはすごいですね。ちなみに高木さんってこれまでコレクションのヘアを担当したことはあったんですか?

高木:ないです。僕自身は、ちょっと手を伸ばせば再現できるというか、人のライフスタイルに合ったヘアを作ってきたから、いわゆる作り込んだヘアはリアルじゃないから好きじゃなくて(笑)。最初のメンズの依頼に悩んでいた頃、ちょうど写真家の(蜷川)実花さんとの会食があって、「急に『ヨウジヤマモト』からコレクションのヘアをやってほしいって依頼があったんだけど、俺やったことないし、どう思いますか?」って聞いたら、「そんなの二つ返事でやるべきでしょ。絶対やったほうがいいよ」って言われて。

僕は、日本人に合わせたヘアスタイルを作ってきたから、外国人に合わせたヘアは作ってこなかった。そのプレッシャーはやっぱりあって。事前にほんの数分だけ会ってお話をさせていただいた時に「何で俺を選んだのか、それだけ教えてください」って質問をさせてもらいました。そしたら「高木君は即興ができるから大丈夫」って目を見て言われて。「当日会って、その場で作って、そこでアクシデントが起こるのが粋だろう」というのが耀司さんのスタイルなので、たぶん直感で僕を選んでくれたんだと思います。

「もう俺、それ聞けたら大丈夫です」って伝えて、あとはやってみて、ダメだったらその場で直していこうって覚悟しました。だからオーダーっていうのはなくて、カッコよければOK、みたいな。ただ「カッコいい」っていっても、ストリートのかっこいいや洗練されたきれいなかっこいいとか、いろいろあるから。それだったら、きれいな人、少しやさぐれてる人、みたいなのを13 パターン作ればいいやって考えて。

そこから耀司さんの本を読んだり、YouTubeにある過去のパリコレの動画をメンズもウィメンズも観たりして。あとは、そこに「オーシャントーキョー」っぽさも出していけばいいかなって思ってました。

——当日の「オーシャン」のスタッフはどう決めたんですか?

高木:連れて行くスタイリストを決めたのは1週間前でした。もともと七五三掛(慎二)と雨宮(雄三)は絶対に連れて行こうって決めていて、あとのスタッフはオーディションで決めました。オーディションでは、「どんな思いなのか、どんな作品を作りたいのか」をプレゼンしてもらいつつ、その場で対応できる人じゃないと無理だなと思って。それで僕と七五三掛、雨宮、島崎(力斗)、奥村(健司郎)の5人とアシスタント1人で行きました。

——実際、現場はどんな感じでしたか?

高木:正直、前日は「これで失敗したらどうなるんだろう」ってプレッシャーで本当に震えてました。それで、当日13パターン全部使って、1 人を一列に並べたところから、まず服のチェックが入って。それから「ヘアはどうですか?」って聞いたら、「ヘアかっこいい。でもここはちょっと寂しいかもね、服がこういう感じだから」って言われて、もともとあとで、服の色に合わせて色を足そうと思ってたから、それで色を乗せつつ15分くらいで13人直して。で、再度「どうですか?」って確認してもらったら、「いいね。高木君はささっとやっちゃう。最高」って言ってもらえて、「よっしゃ!」って気持ちでしたね。

——従来の「ヨウジヤマモト」と比べると、「オーシャン」っぽい感じのヘアになってますね。

高木:これまでのコレクションみたいな作り込んだヘアも作れるように道具とかは用意していたんですけど、一旦は「オーシャン」っぽい感じで作ろうって思って提案しました。

——基本的には13スタイルは高木さんが考えたんですか?

高木:全部僕がベースは考えて、現場では僕が指示を出しながらスタッフに作ってもらいました。特に何かを参考にしたわけではないけど、僕の中で〇と△と□というか、そういったシルエットのバランスは考えましたね。外国人のヘアだったので、海外のスタイリング剤もいろいろ試しました。でも結局「オーシャントリコ」のワックス使いました(笑)。

ウィメンズのヘアは大きな挑戦だった

——メンズをやって、その後ウィメンズのデジタルコレクションでもヘアを担当したのは驚きました。

高木:メンズの1ヵ月後に依頼があって。また3日ほど悩んで引き受けさせてもらいました。

——高木さんって全然ウィメンズのイメージがないです。

高木:できるっちゃできるんだけど、一応「オーシャン」ってメンズのイメージがあるから、僕がレディースをやるとブランドとしてブレちゃう。だからやってないだけで。

アパレル関係者から「いち美容師が『ヨウジヤマモト』のヘアをやるのはすごい」って言われて。一方でウィメンズのほうが緊張感はすごいっていうのも聞いて。それでいろんな人達に相談したし、正直「メンズの良い思い出で終わってくれればよかった」って気持ちもあった。ウィメンズやって引き出しがないことがバレる可能性もあるから、そこには怖さもありました(笑)。

ただ組織を作っていく中で、今の「オーシャン」の若いスタイリスト達に僕が挑戦している姿を、あまり見せられていないっていう思いもあって。だから得意分野でもない、表に出しているわけでもないレディースを勉強していく過程、もしかしたら苦しんでいる過程なのかもしれないけど、そういうのは見せられる時に見せたほうがいいなって考えて。

だから1人で美容師やってたら受けなかったと思う。だけど見せたい背中がある。後輩達もいるし、自分の弟もいる。「あの人も練習するんだ。練習って意味あるんだ」っていうのを見せないといけない。そういう思いもあって、今回は受けようって決めました。

——ウィメンズの時も耀司さんからオーダーはなかった?

高木:耀司さんからは、「人の道に背いたような女性像」と「みだれ髪」くらいでそれ以上は特になかったですね。

——耀司さんらしいオーダーですね。スタッフの人数はメンズと同じ人数で行ったんですか?

高木:メンズの倍くらいの人数でしたね。作るヘアもメンズの倍以上、50スタイルくらい作ったから。僕達はいつもヘアが主役で作ってきたけど、今回は服が主役で、アクセサリーみたいに一部としてヘアがある。ある意味で影武者の部分というか……目立ちすぎちゃいけないっていう部分はすごく難しかった。

——コレクションならではの意識したことはありました?

高木:コレクションのヘアって、モデルがみんな同じヘアスタイルに見えることが多い。僕は例えばルックが40あるなら、40パターンのヘアスタイルを作りたい。「このモデルさんさっきと同じじゃん」っていうより、違う人間像にしたいって思うタイプ。

でも、「俺はこんなこともできるんだ」ってやるだけではダメで、あくまで主役は服だから。耀司さんが強い女性を出したいなら、強くしないといけないし、エレガントだったら髪の毛でエレガントさを出す。デザイナーの「思い」をどうヘアで表現するか。あくまでも出しすぎないように、足し算と引き算は結構考えましたね。

結局、美容師の本質は技術力

——高木さんは夢をどんどん実現していますが、実現するには何が大切だと思いますか?

高木:ブレないこと。結局は本質だと思っています。今ってSNSのフォロワー数が増えれば、有名になれる。でも、美容師だったら、技術が上手いっていうのが本質。人気だから頼んでみたけど、実際上手くないじゃんってなったらお客さんはつかないし、撮影の仕事でも信用をなくす。だから結局、美容師は技術が一番で、あとは礼儀とか人間性。

最初の出会いの時に礼儀がちゃんとしてたら「この子ちゃんとしてるな」ってなるけど、僕みたいな見た目でガラ悪くやってたら仕事なんてこないから。そういう本質の部分と、礼儀。それは意識しているかな。

——日本の美容師の技術は、世界で戦えると思いますか?

高木:これは「当然」。世界でも通用する。

——日本の美容師はもっと世界に出ていけると?

高木:もちろん。でも日本にリスペクトがないんだったら、出ていっても意味がない。海外でやっている人もいるし、すごいとは思うけど、海外でやってることがすべてじゃないから。「メイド・イン・ジャパン」って気持ちを忘れちゃうんだったら、通用しないと思う。

例えば、ファッションにしても、「パリコレに出るのが夢」ってだけではダメで、耀司さんのようにパリコレで何かを変えたいって強く思ってないと。耀司さんは世界一を目指している。もしパリで自分のコレクションを発表することだけが目標だったらそれ以上にはなれないと思います。

——高木さんは大御所からも好かれますが、何か秘訣はあるんですか?

高木:運はいい方だと思うけど、知らないが故の強さっていうのはあると思う。大御所の人達って、下手な小細工は通用しないし、ごまかしがきかない。だから、わかんないことはわかんないし、知らないことは知らないっていうのは正直に伝えているし、「俺はこう思う」っていうのも伝えている。だから、好かれる人には好かれるし、ウザいって思っている人もいると思う。でも、やっぱり自分に正直でいたいとは思う。

——今は経営者としても忙しいと思いますが、サロンには出てるんですか?

高木:変わらずに出ていますね。僕の場合はお客さんからアイデアもらうし、お客さんの髪を切ってないとテンション上がらないから。お客さんって店に来て、30分とか1時間とかで「すごくよくなった」って、リアクションが早い。そうしたダイレクトな反応ってやっぱり嬉しいし、それがないとつまらない。だから基本的にサロンにはずっと立っていたいなって思っています。

Photogarphy Hironori Sakunaga

author:

高山敦

大阪府出身。同志社大学文学部社会学科卒業。映像制作会社を経て、編集者となる。2013年にINFASパブリケーションズに入社。2020年8月から「TOKION」編集部に所属。

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