トラックメイカー・プロデューサーのPARKGOLFが、約4年ぶりとなるアルバム『Totem』をリリースした。型にはまらず、作品ごとに多彩な顔を見せる彼だが、今作は台湾のラッパーMizu98やシンガー・ソングライターのおかもとえみなどの客演を迎え、トラックメイクとプロデュースの両方をバランスよく混在させた作品となっている。一方で気になるのはUFOや牛の描かれたジャケット、意味を捉えにくい歌詞、そしてMVにも登場するトーテムポール。注視するほどに謎は深まるばかりだ。
今回はPARKGOLFに、『Totem』を聴いて感じた謎をぶつけた。見えてきたのは、「わからない」ことをそのまま表現する姿勢。
自分のイメージや雰囲気だけを誇張して詰め込んだアルバム
――『Totem』は聴けば聴くほど不思議な、捉えどころのないアルバムだと思ったのですが、制作のコンセプトはありましたか?
PARKGOLF:もともとコンセプトを立ててアルバムを作るのが苦手で、今回もほぼ立てていません。簡単に言ってしまうと、アルバムを通して伝えたいことはなくてもいいかなと思っています。でも、前回の『REO』よりアルバムとしての空気感に一貫性を持たせるように作りました。
――ご自身では今作をどのように捉えていますか?
PARKGOLF:自分自身に対するイメージや雰囲気だけを詰め込んだようなアルバムです。だから制作中はもっとまとまりのない状態で(笑)。そこから伝わりやすくするために、自分の雰囲気を誇張していったら道筋が見えましたね。
――コンセプトを立てないまま一貫性を持たせるために、意識したことはありますか?
PARKGOLF:明確に必要なものとそうじゃないものは分けていました。自分にとって、テクニックや音の良さはどうでもよくて。音の良さでいうと、クリアな音が好きな人もいればガサついた音が好きな人もいるので、その部分は自分の好みにさえなっていればいいんです。でも、その他に必要なことはたくさんある。色や食べ物の組み合わせに近いですかね。「青に合うのはこの色」「みそ汁にもやしはナシ」みたいな自分の中のルール……伝わりますか?(笑)
――曲作りにおける決まり事があるということですか?
PARKGOLF:『Totem』では自分の中でまだ言語化できない空気感を最大限出せるような、アイデアや考え方の組み合わせや混ざり方のような部分が一番大事でした。それを明確に決めないと曲作りがなかなか進まなかったです。
――そのこだわりこそが作風を決定づけているんですね。一方でジャケットや「ルーモス牧島」のMVも不思議ですが……。
PARKGOLF:MVは簡単ですよ! 僕の演じた牧島が仕事で失敗して、落ち込んでいるところにSUSHIBOYS達が来て「頑張れよ!」と言っている。そのあとはみんなで歌ってハッピーエンド。唯一アルバムの中で社会性があるというか、人と接することができる曲かなと(笑)。
――その中でも、やはりトーテムポールが気になりました。
PARKGOLF:トーテムポールの制作は、毛布を使って作品を作るアーティストの江頭誠さんにお願いしました。展示を見た時にすごく良かったのと、自分と似た思考で作品作りをしているのかもしれないと勝手に思って。どこか通じるものを感じたというか。実際、実物を持って来てもらった時に話したら、近い考えの部分もあって今回のアルバムでご一緒できて嬉しかったですね。
言葉の意味を考えずに曲を作りたかった
――すでにMVの話でも触れましたが、今回のアルバムでは多くの客演を迎えていますね。
PARKGOLF:前々から一緒に曲を作りたいと思っていた2MCのSUSHIBOYS、YouTubeで曲を聴いて初めて声をかけた台湾のラッパー・Mizu98、またコラボしたいと思っていたGOKUくん(GOODMOODGOKU)とえみそん(おかもとえみ)に参加してもらいました。
――『Totem』に限らず女性シンガーとのコラボが多い印象なのですが、意識してコラボしていますか?
PARKGOLF:音色として、女性シンガーのほうが自分の曲に合う気はしています。高らかに歌い上げる男性シンガーが入るのはあまり想像できなくて。ただGOKUくんがゆったり歌うタイプだったように、ふにゃふにゃと歌う男性ボーカルがいたら合うかも。
――前作の「ダンスの合図」でもコラボしたおかもとえみさんとの曲「Daylight」は、どのように作っていきましたか?
PARKGOLF:実は、この曲のデモは2015年頃にはもうできていたんです。もっとチープな、ドラムループにシンセサイザーを弾いただけの段階でえみそんに渡して、そこからコライトのように作っていきましたね。歌詞も2人で曲のイメージに合った言葉をたくさん挙げてみて、その中から選んだものをつなげました。言葉の意味はなるべく考えずに作ったので、何も言っていない曲です(笑)。でもそういう曲が作りたくて。
――冒頭に言った「捉えどころのない」アルバムという意味で、「Daylight」は象徴的な曲になっていますね。
PARKGOLF:「わからないことはわからないままで!」と言っているアルバムもいいのかなと。今回はまさに「考えたけど、今はちょっとよくわからないですね~」という感じのアルバムです。
意味は自分だけが持っていればいいし、共有しなくてもいい
――歌詞があると曲のメッセージを受けとりやすいですが、「Daylight」ではそこをあえてやらなかったという点がおもしろいです。
PARKGOLF:多くの人は作品に意味があってほしいと思っているのかもしれません。意味がなくても、意味っぽいものを追加しておいてほしいというか、言葉の2、3個でもあればいいのにって。でも、それで「わかった」ことにしてしまうと、想像力が欠けてしまうと思う。聴いた曲をどう解釈をするか、曲にどういう意味を持たせるかは人それぞれでいいし、その意味を誰かと共有できなくてもいい。だから強要に近い共有になってしまう状態を僕は良いとは言い切れないです。
――コロナ禍での1年間、自分の意見を持つことや言語化する、つまり「わかる」状態にして他人に提示することが重要視された気がします。そして、多くの人がそれによって疲れや息苦しさを感じている。
PARKGOLF:自分の出した結論が間違っているかもしれないし、そうだった時にゆとりを持ってどうしたらいいのかを考えられたほうがいいと思うので、僕自身はあまり意見を強く持つことはないです。最近は最後まで考え切っていないというのもありますけど、「考え切っている人なんているのか?」と思ったりもして。でも、「みんな今までこんなに意見を持っていたの?」と思うことはときどきありましたね。それに、「こうなってほしい」「こうなるべきだ」という意見に比べて、「わからない」という意見はわざわざ言わないことが多いですよね。
――そういう流れがある中で『Totem』を聴いたら、「よくわからないけどとにかく楽しいし、これでいいんだろうな」という気持ちになれました。脳が休まったというか。
PARKGOLF:脳が休まるっていいですね!もちろん意見はあっていいと思うんですけど、現状でふわっとしている部分は流れに任せておく人がいていいかなと思っています。より良い方向にいってほしいけど、間違えないとわからないことってたくさんあると思うので。
――だからこそ今回のアルバムは、意味付けから解放されているところが個人的に好きでした。それでは最後になりますが、リリースライヴの予定があれば教えてください。
PARKGOLF:リリースライブはなかなか難しい状況ですね……。配信でやるつもりもないので、どこかでタイミングを見てやりたいとは思いますが……。でも7月に2本のイベントに出演するので徐々にライヴも復活していきたいです。
――あくまでフィジカルのライヴにこだわっているんですね。
PARKGOLF:トーテムポールを作るのにはいろいろ理由があるんですけど、記念碑として作るような場合は、完成パーティを開く風習があるらしいんですよ。作った家族が主催で料理を大量に作って、大きいホームパーティみたいなものをするんです。トーテムポールについて調べるとかなり興味深いです。長くなるので深くは話さないですが、気になる方は調べてみてください。とにかくこのアルバムを聴いてくれた人、好きな人達とそういうパーティができたらなと思っています。トーテムポールを立てて(笑)。