10代から世界を舞台に戦い、国内外から熱視線を浴び続けるブレイクダンスシーンの若手筆頭、ISSEI。“日本人初”や“史上最年少”といった冠がついた華々しい世界タイトルの受賞歴を持ち、それを裏付ける確かなスキルは観る者すべてを魅了し、興奮の渦に巻き込む。ISSEIは、昨年始動したプロダンスリーグ「第一生命D.LEAGUE」(以下、「D.LEAGUE」)のチーム、KOSÉ 8ROCKSにてディレクター兼ダンサーとしても活躍している。
その活動がつながる先は、日本のブレイクダンスシーンの底上げ。最前線に立ち続けるISSEIの過去から現在に触れ、見据える未来を語ってもらった。
母にダンスをやめろと言われて、気持ちが切り替わった
——2012年から日本の中学校では授業でダンスが必修科目となり、2024年のパリ五輪ではブレイキン(ブレイクダンス)が競技種目に追加されるなど、ますますダンスが身近な存在となってきました。日本のダンスシーンの現状はいかがですか?
ISSEI:日本はダンサーが多くて、世界的にレベルが高いです。大学のサークルや高校の部活でダンスを始める人も増えていて、シーンとしてはかなり盛り上がっていますよ。でも、ダンスをしていない人達にとっては、いまいち浸透しきっていない感触があるので、もっとブレイキンの楽しさを伝えていきたいですね。
——時代ごとにテレビ番組でもダンスがピックアップされ、興味を持って始める人も多いかと思います。ISSEIさんがダンスを始めたきっかけは?
ISSEI:幼稚園の年長の時、仲良しの友人達がダンスを習っていて、誘われたんですよ。それで、ダンスのイベントに行ってみたら、九州男児というブレイクダンスのチームがショーをしていて、それを見て、「やりたい!」と思って始めました。
——それから現在に至るわけですが、歳を重ねるごとにダンスとの向き合い方は変わりましたか?
ISSEI:中学1年生の時、「勉強のためにダンスをやめなさい!」と母に言われたんです。でも、どうしても続けたかった。どうやって納得させるかを考えたら、結果を残すしかないと思ったんですよ。それまでは、いろんなジャンルを楽しく踊っていましたが、ブレイキンだけに絞って結果を残すことだけに気持ちを切り替えました。
——それから、どんな変化が?
ISSEI:その頃、僕も九州男児新鮮組に所属していました。それで、中学2年生の時に世界大会のエントリー権を懸けた日本予選で優勝して、初めてロンドンの大会(「UK B-Boy Championships」)に出場したら、母も納得してくれたんですよ。さらに、九州男児新鮮組の先生であるSHUVANさんが、FOUND NATIONという東京のブレイキンチームに誘ってくれて、それから家族はもっと応援してくれるようになりました。
——それ以降、数多くの海外の大会に出場していますね。
ISSEI:FOUND NATIONに加入してからは、いろんな国に連れて行ってもらいました。思い出深いのは、ロンドンの大会と同じ年(2012年)に出場した、「R16 KOREA」。クルーとしての出場でしたが、ソロトーナメントの残り1枠を懸けた前日予選もあって、ISSEIも出たほうがいいと先輩に言われたんですよ。でも、そこでネタを使っちゃうとクルーバトルに影響してしまうので断ったんですけど、押し切られて出場することに……。
——やや自信がなかった、と。
ISSEI:僕は加入したばかりだったし、そこに出場するFOUND NATIONの先輩達がヤバすぎたから、正直自信は……。それまでYouTubeで観ていた世界のトップダンサーが、ズラーーって並んでいて、これはスマブラか! って思って(笑)。
——強キャラのオールスターだったんですね(笑)。
ISSEI:そこに混ざって予選を勝ち抜けば、翌日の決勝トーナメントに出場できるんですけど、まずこの予選に僕が上がっていいの? って思っていました。そうしたら、予選どころか本戦でも勝ち進んで、結果的に優勝できたんですよね。
——すごい!
ISSEI:さらにその年、一番の目標にしていた大会、「Red Bull BC One」と「The Notorious IBE」に招待してもらえました。「Red Bull BC One」はずっと憧れていた大会だけあって、開催地のブラジルは暑かったのに緊張でずっと震えていたし、バトル中の記憶はほぼありません。
——そして、「R16 KOREA」では2012年から3連覇を成し遂げ、2016年には「Red Bull BC One」で、日本人初でありながら史上最年少で世界チャンピオンの座を勝ち取ったという輝かしい成績を持っています。世界トップクラスを相手に戦うなんて全然想像できないんですけど、バトル中は高揚してハイになりますか? それとも、意外と冷静だったり?
ISSEI:どちらかと言えば、ハイになっていると思います。ただ、冷静な時もあって。そういう時は、僕が好きじゃないスタイルのBBOYと戦う時。本当に戦いたかった相手は、テンションが上がりすぎて、細かいことは覚えていないくらい「イエーーーイ!」ってなっちゃう(笑)。
——一番テンションが上がるのは、どんな瞬間ですか?
ISSEI:大勢が見ている中で踊るのが、一番テンションが上がる。技を狙い通りバッチーンとメイクして、ドッカーンと会場が沸いた瞬間は……気持ちいい。国技館みたいな、360度客席に囲まれたステージなんて最高ですよ。ソロのダンスもカッコいいけど、クルーのほうが表現力は無限大だと思うんです。みんなでショーケースを作り上げていくのが、ダンサーというより、HIPHOPカルチャーの1つであるBBOYの魅力だと思います。
わかりやすく伝えることが大事
——確かに、ソロダンスもかっこいいですが、クルーだと迫力が増しますね。ISSEIさんは、昨年発足したプロダンスリーグ「D.LEAGUE」のチーム、KOSÉ 8ROCKSでディレクター兼ダンサーとしても活動していますよね。
ISSEI:「D.LEAGUE」は全9チームありますが、それぞれダンスのジャンルが異なっていて、僕達8ROCKSはブレイキンを押し出したスタイル。3年後にパリ五輪もあるので、ブレイキンの人気をもっと高めたいと考えながら活動しています。
©D.LEAGUE 20-21
——ディレクターとダンサーを分けているチームが多い中、兼任するようになった経緯を教えてください。
ISSEI:「『D.LEAGUE』っていうプロダンスリーグが始まるんだけど、チームのディレクター兼プレイヤーとしてやってみる?」って、FOUND NATIONの先輩から電話で軽く言われて。今まで、プロダンサーに明確な定義がなかったから、みんながプロとして活動できる「D.LEAGUE」は魅力的でした。僕も目立つのが好きなので、ディレクター兼ダンサーは「熱いっすね! やってみたいです!」って軽いノリで引き受けました(笑)。
——実際に活動してみて、いかがですか?
ISSEI:めっちゃくちゃ大変で、プレッシャーも大きいです。あの時の軽いノリが嘘のように(笑)。でも、すごく充実していて、いい経験になっています。考えることが増えたから、最近は今まで以上に楽しいです。
——どのような部分にプレッシャーを感じていたのでしょう?
ISSEI:曲や衣装、振り付けの大枠、そしてチームの方向性を決めるなど、僕がディレクターとしてやるべきことはたくさんありますが、最初にプレッシャーを感じたのは、メンバーを決めること。もともと僕と一緒に戦ってきたダンサーがそろっているので、最初はうまくまとめられるかも不安でした。8ROCKSにはメンバーが10人所属しているんですけど、「D.LEAGUE」では8人しかステージに立てません。だから、2人は出られないわけです。それによって当初は、練習の空気が悪くなっちゃっていました。
——みなさん、プライドがありますからね。
ISSEI:その時はまだ、理解を得られるような言葉を知らなかった。それじゃ良くないと思って、最近は少しずつ学んでいるところ。どうメンタルのケアをしていくか、どう話せばいいか、を考えています。それが今後につながっていけばいいし、何より僕が学ぶことが多くて楽しいです。
——リーダーシップを執るために学んだことは?
ISSEI:相手と同じ感覚になることだと、つくづく思いました。相手の今の状況や心境を知るには、最終的にコミュニケーション。全員の話を聞いた上で、良くしていくことが大事だな、と。僕が言うのはまだまだおこがましいですけど、あとは信頼。僕はガッツリとチームを引っ張っていくという感覚ではありません。今ではチームが一丸となっているから、僕のほうが引っ張られていると感じています。おかげで最近は、広い視野でチームを見られるようになりました。
——テクニック以外に、ブレイキンを楽しく観るポイントってありますか?
ISSEI:BBOYって、ゲームみたいにいろんなスタイルのキャラクターを持ったダンサーがいるんですよ。攻撃的なバトルスタイルの人がいれば、笑顔でまったりとした雰囲気の人もいるし、コミカルに振り切ったダンサーもいて。だから、まずは推しのダンサーを3人くらい見つけると楽しくなると思います。そうすれば、スタイルの違いがわかってきて、ここが好き、あれがカッコいいって好みが出てくるんじゃないでしょうか。ダンスって、難しくないんですよ。でも、難しく考えちゃうと難しい。簡単に考えれば、音楽に乗って体の一部を動かしているだけでもダンスなので、ラフに楽しく観てもらいたいです。
——このインタビュー中、何度もブレイキンを浸透させたいとおっしゃっていますが、具体的にどんなことを考えていますか?
ISSEI:ブレイキン自体は知っているけど、詳しくないという人が多いので、わかりやすく伝えていくことが大事だと考えています。難しいことをわかりやすく、わかりやすいことでも、もっとわかりやすく。だから、「D.LEAGUE」が立ち上がった今こそチャンスだと思っています。今までは、俺らがカッコよく、楽しく踊れていればいいって感覚で、それが好きだし、それをやりたかった。でも、さらに1つ上のステージに行くには、このタイミングで意識を変えるべき。トレードオフにならないようなバランスも保ちつつ、幅を広げていきたいです。YouTubeもTikTokもやっているけど、僕がやるなんて思ってもいませんでしたよ(笑)。でも、そういう活動をコツコツと積み重ねて、3年後のパリ五輪までにどんな花を咲かせられるかが勝負どころ。まずは、目の前の「D.LEAGUE」で結果を残すことが大事です。