「imma天」から考える、バーチャルヒューマンを取り巻く時代の変化や思想 代表・守屋貴行インタビュー

2018年に突如登場した、ピンクのボブヘアが特徴のバーチャルヒューマン、imma。国籍や経歴などは一切明かされていない謎多き存在ながら、8月29日現在のInstagramフォロワー数は34万を超えており、国内外のファッションブランドや企業とも協業している。

そんなimmaをテーマにした展覧会「imma天」が、東京・渋谷の「ディーゼルアートギャラリー」で9月2日まで開催中だ(展覧会の公式サイトではヴァーチャルツアーも行っている)。本展では、アートユニットskydiving magazineとしても活躍するアーティスト村田実莉が会場構成とビジュアルディレクションを手掛ける。その空間に、YOSHIROTTEN、河村康輔、吉田ユニ、トキ、Jun Inagawa、キム・ソンヘ、Riyoo Kim、Amazing JIRO、岸裕真、MASAKO.Y、山田晋也、Kanatan、上岡拓也の計13組のアーティストが、immaを題材に制作したペインティングや写真、映像といったさまざまな作品を展示している。

今回は、immaを生み出したAwwの代表・守屋貴行に、本展を起点として、バーチャルヒューマンを生み出す際に感じていた時代の変化、ものづくりにおけるコンテクストへの価値付けなどについて話を聞いた。

日本のアニミズムとバーチャルヒューマンの関係

――「imma天」で掲げているステートメントの中で、「信じられるものこそ真実」という言葉が印象的でした。ある人にとっては、その存在がimmaのようなバーチャルなものだと思うのですが、本展開催にあたってリサーチした中で、過去に似たような存在や時代のムードはありましたか?

守屋貴行(以下、守屋):1970年代の雰囲気が近いのかなと思います。特にヒッピー文化のような、社会全体が中央集権にどこか諦めを感じ始め、その代わり人それぞれ信じる対象がいて、その対象が発するメッセージをコミュニティとして伝播させていくような光景。例えば歴史上の人物で言えば、それがイエス・キリストや聖徳太子だっただろうし、近現代で言えば、初音ミクやキズナアイ、実在のアイドルもそうだと思うし、immaも同じく。ある意味、偶像崇拝に近いですよね。

――バーチャルヒューマンという存在を信じるということも、ある意味偶像崇拝ですもんね。

守屋:そうですね。それに日本のアニメにも偶像崇拝に近い力があるんじゃないかなと考えていて。もともと日本には、あらゆるものに生命が宿るというアニミズムの考えが根底にありますよね。その考えがアニメの作り方としても表れていて、自分の描いたイラストにも命を宿らせてストーリーをつくっていってると思うんです。そしてオーディエンスは、そこに登場する生き生きとしたキャラクターを崇拝して、さまざまな気持ちを抱く。バーチャルヒューマンもある意味、日本のコンテクストと親和性があるものだと思います。

――日本独自のコンテクストを前提に置きつつ、immaのSNSフォロワーのほとんどは海外の人。immaを題材に本展では多種多様の作品が発表されましたが、作家選定で意識したことはありますか?

守屋:もともと展覧会の構想初期段階では、訪日外国人向けの見せ方を行おうとしていました。実際、パンデミックで海外からの移動が難しくなってしまったので、現在はマーターポート(360度撮影し、3Dデータを作成できるカメラ)を通して世界各国からオンライン上で作品を見せていますが……。そういった初期の狙いから、作家選定も国外を意識しています。例えば、晋也くん(山田晋也)は抽象画も描くのですが、本展で展示したような日本古来の掛け軸にアニメのキャラクターを描く作品で海外からもすでに評価を受けている作家です。他にも、MASAKO(MASAKO.Y)も同じく、日本古来のコンテクストをコラージュ作品として描いています。一方で、JUNくん(JUN INAGAWA)のような日本の漫画やアニメを描く人にも参加してもらうことで、immaを通して多種多様な新進気鋭の国内の作家達を海外に知ってもらおうという狙いもありました。

――「imma天」で作品を観た感想や、immaに関して新たな発見などがあれば教えてください。

守屋:会場ディレクションをお願いした(村田)実莉ちゃんもそうですが、作家1人ひとりにも自分が思うimmaを創造してもらいました。物理的には存在しないimmaでも、やはり彼らの中で存在するimmaには共通点があって、それが全体の展示会の雰囲気につながったと思います。前も言ったように日本のコンテキスト、掛け軸やアニメなど、を扱っている作品が多くあったと思いますが、immaという存在は現代の共感を何かしら感じられる存在でもあって、その先に、日本のものづくりやカルチャーを世界に発信できる媒体でもあると、もう一度思わされた展示でした。

“個”の成長と、その先の“コミュニティの時代”

――2018年にimmaが誕生したわけですが、その背景には“個”のメディアが成長したことがあったと思います。守屋さんはいつ頃から“個”の力が強くなっていくことを予想していましたか?

守屋:自分が映像のプロデューサーとして働いていた2005年前後から、体感として従来のメディア構造に何か変化が起きることは感じてました。それまで映像プロダクションの構造としては、1人のプロデューサーごとにノルマがあって、その中でできるだけ原価を抑えて、いいクリエイティブを広告に打ち出していくやり方が主流でした。でも、実際肌感覚としては、当時から僕自身もテレビよりもスマホなどを観るようになっていて、そうなると宣伝費を出している代理店側も、テレビだけではなく他のメディアにも費用を分配していくことになるなと。そうなった時に、従来の映像プロダクションの規模感では見合わないコストになってきて、優秀なプロデューサーほど個々で作品のクオリティを判断できるBtoC向け、つまりSNSを通して自分の作品を発信していく時代になると思ったんですよね。

――そうした時に、発信者も“個”の意見や特徴を持った人が増えていくと。

守屋:そうですね。でも、僕自身はもう“個の時代”という言葉は使いたくなくて。今は“コミュニティの時代」”だなと思ってます。

――というと?

守屋:“個”の力が強くなったことで、その対象をフォローしているコミュニティだけでビジネスを生み出すこともできるということです。例えば、1〜2万のフォロワーがただ単に画面越しに見ているという距離ではなくファンとして応援している場合、1コンテンツに対して各自が月に500円を払うだけで、その対象の生活は成り立ちますよね。両者ともに熱量の純度が高い状態であれば、それ以上規模やフォロワーを大きく広げる必要もないんです。実際若年層には、多種多様なコミュニティに分散して、自分達がやりたいことをやって生きていっている人も多いですよね。クリエイターにとっては、満足度の高いものづくりや意見をアウトプットしやすい世の中になってきたなと思います。

――その一方で、日本の従来の社会構造や教育方法と、近年の表舞台で自由に発言することへの肯定感が矛盾をはらんでいるということも言われています。いきなり意見を発表することを肯定されても、なかなか教育上そうは身に付いていないというか。

守屋:例えば、大企業で日々一生懸命仕事をしているけど、家に帰っていざYouTubeやTiktokを開くと無数に華やかに見える世界があって自分自身の立場に葛藤する人もいますよね。そういう人をケアする環境も作るべきだとは思います。ものづくりにおいて言えば、ここ数年間で時間の概念が「価値」に影響をかなりもたらしたなと感じます。ただ、メインストリームでは、スピーディーにあらゆるコンテンツが同時多発的に生まれていて賑わっているように見えるけど、実際、速さでモノの価値に優劣が付いているわけじゃないと思うんです。全員が全員、スピーディーにコンテンツをあげることを目指す必要ないんじゃないかなと。

ものづくりにおけるコンテクストへの価値付け

――ものづくりの世界は特にそうですよね。瞬間的にわかりやすくヒットするものもあれば、長い時間コンテクストや作り込みを考えてかたちにするものもある。どちらも大切にしつつ、現代においては両者をミックスしたものづくりも成立しそうですよね。

守屋:例えば、10年単位で新しいプロダクトを開発するプロジェクトがあってもいいと思うんです。それで、プロジェクトに関わるすべての人とプロセスをちゃんとYoutubeやSNSでうまく紹介していく。そういった包括的なケアの仕方を大企業も取り入れていってほしいと理想では想像しつつ、片一方でそのようなアイディアを前向きに取り入れる社長がこの国にも増えるといいなとも感じます。コンテンツの肝となるものづくりは、長年の経験値を持った方に任せて、最後のアウトプット先を若年層の感度に任せるといったようなイメージを描いて、更新していく未来図が広がっていってほしいと思います。

――そういったじっくりと構成したものをデジタル上にアップロードすることは、immaの今後の取り組みでもあり得るのでしょうか?

守屋:今後は、NFTでの発表を考えています。NFTは一見するとただ単にデジタル上でデータをアップロードすればいいだけに見えるんですけど、実際に触ってみると、ことは複雑。コンテクストと戦略をしっかり練ることで、逆にそこに価値を付けられるゲーム的な世界だと思います。そういう意味では「価値基準」がいかようにも変わっていく世界であり、個人的にはかなりおもしろみを感じています。例えば、近年スニーカーが高騰していたのも、実際オーディエンスの欲求は履きたいというよりも所有して飾りたいという気持ちが強かったからですよね。その所有欲に対してうまく「価値付け」が合致した例だと思いますし、それはNFTにも言える考え方だと感じています。実態があるようでないような、でもそこに価値があると信じられるほどのコンテクストがそこには潜んでいる。ある意味、「信じられるものこそ真実」といったことにも通ずるように思います。

守屋 貴行(もりや たかゆき)
株式会社Aww 代表取締役兼株式会社NION代表取締役。大手プロダクションで企業コマーシャルやMusicVideoの制作を手掛けたのち、マッチングサービス『Paris』を運営する株式会社エウレカに参画。その後、新しい映像ビジネスを構築するため2016年に株式会社NIONを設立し、自身主催のプロジェクトも複数開催する。2019年に、日本初のバーチャルヒューマンカンパニー株式会社Awwを設立。immaなどバーチャルヒューマンのプロデュースや開発を手掛ける他、現在はXR領域やバーチャルファッションなどに関連するビジネス展開、パートナーシップも積極的に⾏っている。2020年、「WWDジャパン」主催の「NEXT LEADERS 2020」に選出された。

■imma天
会期:5月22日〜9月2日
会場:DIESEL ART GALLERY
住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti DIESEL SHIBUYA 地下1階
時間:11:30〜20:00
入場料:無料

author:

倉田佳子

1991年生まれ。国内外のファッションデザイナー、フォトグラファー、アーティストなどを幅広い分野で特集・取材。これまでの寄稿媒体に、「Fashionsnap.com」「HOMME girls」「i-D JAPAN」「Quotation」「STUDIO VOICE」「SSENSE」「VOGUE JAPAN」などがある。2019年3月にはアダチプレス出版による書籍『“複雑なタイトルをここに” 』の共同翻訳・編集を行う。CALM&PUNK GALLERYのキュレーションにも関わっている。 Twitter:@_yoshiko36 Instagram:@yoshiko_kurata https://yoshiko03.tumblr.com

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