源馬大輔×「オーラリー」岩井良太 ミニマルの中で主張する素材とシルエット 前例のないカラーパレットで完成したスキーニットのすべて

数々のアーティストやクリエイターとコラボを続けてきた「TOKION」。コラボアイテムは「TOKION」オフィシャルECで発売する。本企画では、「TOKION」のキュレーターである源馬大輔が“今”会いたい人と対談をしながら、プロダクト開発のきっかけを探る。今回は「オーラリー」デザイナーの岩井良太が登場。

「オーラリー」は糸から開発するオリジナルのテキスタイルと時代の空気感をとらえた絶妙なシルエットがブランドの代名詞で、生地問屋からスピンアウトした経験をもとに、素材開発の追求がコンセプトでもある。そのこだわりは、より良い原料を求めて、自身が国内外の産地を飛び回るほど。ブランドに意味深なスローガンはないが、ミニマルなデザインと知的さ、穏やかなムードが「オーラリー」らしさであり、ファンの心をつかんできた。

ブランドスタートから5年目にあたる、2019-20年秋冬のパリ・ファッション・ウイークでパリコレデビューも果たした。立ち上げから現在に至るまで、一貫して素材とシルエットにこだわるもの作りの視点を深掘りした、2人の対談から生まれたのは“スキーニット”だ。

パリコレで再認識したブランドの方向性

源馬:出会いのきっかけは昔、岩井さんが働いていたブランドのデザイナーが僕の友達の尾崎雄飛さんだったことでしたよね?

岩井:はい。まだ25、6歳の頃です。

源馬:ブランドはまだ、あります? ちなみに僕は物持ちが良くて、その頃に買ったカノコのパンツは今でも履いてますよ。

岩井:ありますよ。実は、僕がそのパターンを引いていたんです。あと、尾崎さんが源馬さんの名刺を持ってたので、「知ってるんですか?」って話になったことは覚えてます。

源馬:その後「オーラリー」がものすごく人気で売れていると周りから聞いて、ブランドの存在を知ったんです。荒木(信雄)さんがショップの設計をしていて、内装も雰囲気がいいらしいと見に行ったら、驚きましたよ。レイアウトも良いけど、ニットが抜群に素晴らしかった。着たらピタッとして本来のゆったりしたムードにはならないから、その時は買わなかったけど(笑)。

岩井:あるプロジェクトでご一緒する予定もありましたしね……。あとになってパリコレに挑戦するタイミングで、相談に乗ってもらえるきっかけにもなりました。

源馬:パリでは「サカイ」のアトリエから出ることもないので、人に会うことが少ないけど、僕のクライアントから「オーラリー」を海外で売りたいっていう話もありました。

岩井:ありました……海外について、いろいろ相談しましたよね。

源馬:結構ガチな話だったことは覚えてます。ちょうど “ファッション プライズ オブ トウキョウ”を受賞して、パリでコレクションを発表することになった時期。

岩井:想像以上に忙しかったです。他のブランドのコレクションを見に行く余裕もなかったですよ。でも、パリコレの経験から、身の程も知りましたし、制作以外の見せ方を考えたり、ブランドの方向性をもっと明確にしたりするべきだと痛感しました。

源馬:本当に? 岩井さんは自分の色を持ってるじゃないですか。例えば、KAWSって自分仕様のアクリル絵の具があるから、イメージする色を作るために他の画材メーカーの絵の具を混ぜる必要がない。要は“何を描いても自分の思い通りの色が出せる”わけ。「オーラリー」の服も一見シンプルだけど、見た人に「これ『オーラリー』だ」って理解させること自体すごいし、難しいですよ。

正直、「すごく人気」と聞いた時にどんなのか見てやろうじゃないかって思ったんです(笑)。でも、ハンガーに掛かっているニットもジャケットも、パッと見シンプルだけどはっきりと「オーラリー」って主張してるのがおもしろかった。カラーパレットも好きだけど、特にニットのシルエットが洒落てるなって。ブランドを立ち上げた頃に意識していたことってありますか?

岩井:セレクトショップにたくさんのブランドと並んでラックにかかった時、唯一肩の部分だけ見えますよね。当時は、そこを見ただけでも目を引くような服を作りたいと考えていました。素材や生地の作り方、突き詰めて考えると原料にまで行き着くんですけど、自分が納得できる形で少しずつ広げようと思っていましたね。

源馬:原料から製品まで一貫して関わるデザイナーは珍しい。大手の海外ブランドなら生地専門のスタッフが日本に来て、京都の染屋とか刺しゅうの職人をリサーチして、デザイナーにプレゼンするわけじゃないですか。それを全部1人でやっちゃう。

岩井:もの作りのきっかけが欲しいんですよね。イメージする服を作りたいという思いから原料を探してますし、ある性質の原料だったらこんな糸にして、生地を作ったらいいんじゃないかとか、その逆の発想があったりもします。難しいので、良し悪しは未だにわからないですけど。

源馬:原料を見て生地をイメージできると。

岩井:コットンだけ見ても理解できないですけど、生産背景も含めた話を聞くと、イメージが湧く場合もあります。知識も経験も必要なので、いろいろな人に教わりながらです。

ミニマルな中にある素材とシルエットの際立つ主張

源馬:僕が関わっていることってデザイナークローズだったり、比較的キャラクターが見て取れる場合が多いんですよ。グラフィックとか、全くシルエットが違うものを組み合わせたり。正しい表現かわからないけど、雰囲気をデザインするのって難しいと思うんです。背が低くて肩幅が広い人とか、逆に背が高いけどなで肩の人とか、それぞれのイメージなんてわからないのに、実際に着るとブランドイメージが確立されるってマジですごい。なんでそうなるんでしょうね。

岩井:ある意味、逆のコンプレックスですね。個性がないという。

源馬:個性はあるんじゃないですか?

岩井:デザインが少ない分、素材など別のところに時間を費やしているというか……。

源馬:だから、顧客の年齢層も広いですよね。(山本)康一郎さんのディレクションもそうだけど、大御所も若い人の気持ちもつかんでいる。

岩井:特定の人物像を描いていないからかもしれません。もっと感覚的というか、言葉にするのがうまくないので、どう言えば良いのか難しいですけど……触感。シーズンテーマも人物像もはっきりとした言葉では伝えられないぼんやりした感覚があります。その雰囲気が気持ちよくて。

源馬:興味深い。ちなみにニットってメンズとウィメンズの明確な差があるんですか?

岩井:一応、パターンは変えてます。女性が着た場合にどう見えるかなど、デザインが同じでもシルエットを変えたり、逆に素材が一緒だったり。そこだけですね。

源馬:初めて「オーラリー」のショップを見た時に、いろいろなことが繋がったのを思い出しました。バックグラウンドを見て、もの作りが想像できるように、このインテリアのセンスだからこういう服なのかとか。ブランドイメージもあるので、ルックブックもある程度、服のディテールを見せなきゃいけないし。服以外でイメージしたものはあったんですか?

岩井:そうですね……。頭の中にある何となくのムードをしっかり人に伝えようとしたことがなかった。でも、荒木さんからの大量の質問に答えているうちに導かれた感覚もあります。なので、荒木さんにお願いして本当に良かったです。世界観をはっきりと示す事ができたのが大きい。

源馬:荒木さんに関してはおもしろい話があるんですよ。僕の友達が事務所の内装を荒木さんにお願いしていた時に、テーブルの見積もりが2つ提示されたらしいんです。金額もかなりの差があって、違いを聞いたところ、「天板が違う」と。片方は無垢材で、もう一方は集成材。無垢材のメリットを聞いたら「バイブスです」って(笑)。でも、芯を食ってる話なんですよね。無垢材を“バイブス”って表現するのが好きなんです。もちろん、友達はバイブスが良い方を選んだんですけれども。その事務所がめちゃくちゃかっこいい。

荒木さんはクライアントのことを真摯に考えているから「オーラリー」のバイブスにもなっていると思うんです。岩井さんは「オーラリー」が“ぼんやりしている”って言うけど、意志が強い服ですよね。僕が思う“ぼんやりしている”ブランドって、毎シーズン、トレンドを節操なくピックアップするような姿勢だと思うんです。一見、わかりやすいけど昨日まで主張してたことが急に変わるという。以前、ゴッホの「ひまわり」の贋作をずっと描いている中国人の作品を観た時に、本物のタッチとは全然違ったんですよね。僕がうれしいのは、こういう服が売れている=お客さんがブランドのコンセプトを理解しているっていうのが健全だし、未来があるということ。

淡色のグラデーションという前例のないカラーパレット

源馬:あと、素材以外でこだわっていることはありますか?

岩井:普通ですが、色使いとシルエットにはこだわっています。

源馬:ニットもボディとアームのバランスが難しいですけど、それがみんなに似合うように肩が落ちているものとか結構難しいですよね。色使いも一言で表現しづらいじゃないですか。そういう色使いの参考ってありますか?

岩井:パントンのカラースワッチを延々と見たり、気になる色のスワッチを集めて、大量の色をピックアップしたりしています。2色展開なのに4色作ったり。一番気にしているのは、その色がわざとらしくなく、上品に見えるかどうか。

源馬:普通、服のカラーバリエーションって黒とかネイビーみたいな着やすい色に加えて、差し色が1つくらいなんですけど、「オーラリー」は全部淡い色の場合もありますよね。かなり、ガッツあるなって。

岩井:そこは結構、突っ込まれますね。

源馬:なぜ、この色展開って? 今でも覚えているけど、初めてアトリエに行った当時、映画監督のテレンス・マリックに夢中だったんです。ブラッド・ピットが主演して「プランB」が手掛けた作品に出てくる、“マジックアワー”って言われる、夕焼けの色みたいな感じがしたんですよ。抽象的な色のセンスってうらやましいなって。僕にはそういうのないから。服以外に映画とかインスピレーション源ってあるんですか?

岩井:映画もギャラリーも美術館も好きで人並みに行きますけど、直接的なインスピレーションにはなっていないです。仕事しかしていないというのも理由なんですけど。昔から好きな作家はリ・ウーファンです。

源馬:意外かもしれないけど、「サカイ」のショップでもお世話になってる「GELCHOP」の森川さんも、今でこそポップだけど“もの派”と呼ばれる出身なんです。腑に落ちる説明。

岩井:おもしろいですね。

源馬:トップデザイナーは素材とか原料に詳しいけど、以前、岩井さんがいた会社が素材も手掛けていたから詳しいんだろうな。そういう意味ではいい影響ですね。マーケットに対して。リサーチはどうしているんですか?

岩井:いろいろですね。向こうから声をかけていただいたり。そういえば、前にイノウエブラザーズと一緒にペルーに行きましたよ。

「オーラリー」らしさを凝縮したスキーニットとは?

源馬:今回の企画では岩井さんの持っている古着がベースになっていますよね。

岩井:いろいろなジャンルでいくつか提案して、この辺がいいなって思いました。

源馬:これはスキーニットですけど、「オーラリー」的なシルエット。

岩井:それ、おもしろいですよね。普通の切り替えではないですし、バイク仕様というわけでもない。クッションにもなっていないです。

源馬:ヤバいですね。

岩井:昔はこの辺を着てましたけど、今は置いてるだけですね。

源馬:「ヴェルサーチ」のニットも見たいです。

岩井:はい。最近、ハマっているんですけど、なんでこんなに質が良いのかなって。洗い込んでこんな風合いになっていますけど、1980〜90年代くらいのやつです。

源馬:「ヴェルサーチ」のニットの雰囲気で、こういう(スキーニットの)形が作れたらおもしろい。

岩井:膨らみがいいですよね。

源馬:そう、膨らみがあったほうが良いです。だけど軽いっていうか、ふわっとしているみたいな。これも「ヴェルサーチ」ですか?

岩井:これは「バランタイン」です。あと、レタードニットみたいなのもあります。1940年代くらいですかね。昔、着てましたけど、今は着ないですね。重いからかな……チクチクするんですよ。

源馬:そういうのすごくわかる。なので、あまり、重くないものがいいですね。見せてもらった資料では圧倒的に「ヴェルサーチ」に興味があります。デザインに興味があったのはこれ。100%カシミア?

岩井:いえ、シルクが混ざっていると思いますね。

源馬:サイズは52の割に小さい……相当、洗ってますね。でも、この「ヴェルサーチ」のイメージでできたら。もっと編みが緩くてもいいかもしれませんね。

岩井:それでいろいろ編んだんです。仕上がりの感じを確認してもらいたくて。

源馬:100%カシミアとかだと、そこまでムードが出せなかったりしますよね。ひょっとしたらシルクとか混ぜたほうがいいのかなとか。でも、そこはお任せします。

岩井:これがカシミアと同じようなタッチのウールの別注の糸です。それか、これはハリがある普通のラムなんですけど、本数取りしているので膨らみがありますね。

源馬:あまり、ハリがない方がいいんじゃないですか? このスキーニットなのにふわっと柔らかい感じがいいです。

岩井:そうですね。スキーニットですから大き過ぎない方がいいですか? 

源馬:スキーニットのディテールをいつものサイズ感でお願いします。ちなみに今までスキーニットをデザインしたことはあるんですか?

岩井:3年くらい前にハイゲージで作りましたけど、今回はそれとは全く違う落とし込みにしたいです。もっと詰めたハイゲージで。

源馬:おもしろそう。ここ(アトリエ)にどんな生地があるか気になりますね。このカラーパレットの感覚ってなかなかないですよ。僕だったらベージュとかカーキのあとにブルー、その後に黒とかネイビーを組み合わせるようなイメージ。

岩井:はっきりした色を入れた方がいいのかもしれないですね。

源馬:でも、このパターンに入ってくるとムードが出なかったりしますからね。でも、自分ではけっこう濃色を着てますよね(笑)?

岩井:今日は特別、撮影用に(笑)。

源馬:僕は淡い色を見ると心配になるので濃色しか着ないんですけれども。ショップだとニュアンスカラーが人気なんですか?

岩井:どうなんですかね。展示会では、買い付けがありますけど、その後は、いつも心配してます。消化率とか気になりますね。

源馬:今日、西麻布から根津美術館の方に歩いてる途中に淡い色のトップスをオーバーサイズで着ている人がいたので「オーラリー」なのかなと考えながら来ました。ただのオーバーサイズじゃないんですよね。デザインで構築されているオーバーサイズというかシルエットというか。今回で言うとスキーニットをそんなデザインと形でお願いしたいです。

岩井:はい、まずは素材から考えますね。

岩井良太
1983年生まれ。文化服装学院卒業。2015年春夏シーズンに自身のブランド 「オーラリー」を設立。2017年に初の路面店を南青山にオープンし、2018年に開催された第2回 「ファッション プライズ オブ トーキョー」 を受賞。2019年秋冬コレクションよりパリ・コレクションに参加。2019年に「第37回毎日ファッション大賞」で新人賞・資生堂奨励賞を獲得した。

Photography Kazuo Yoshida

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

この記事を共有