“着る眼鏡”をコンセプトに掲げる「アイヴァン」が「アイヴァン 7285」「10 アイヴァン」「アイヴォル」に続く5つ目の新ブランド「E5(イーファイブ)アイヴァン」をローンチした。
テーマには、「Form follows role and purpose(形態は役割、目的に従う)」という生物学の思想を据えて、本質的な機能性を追求する。アイウェアの原点に立ち返り、機能的な工業製品を作るために「実用的であること」「機能が必然であること」「安心して扱えること」「フレシキブルであること」「長く使えること」という5つのステートメントを掲げ、本来の必要な機能を求めた結果、ミニマルで美しいデザインが誕生した。「E5 アイヴァン」のローンチを記念したポップアップストアが「アイヴァン 7285 東京」「THE EYEVAN 京都祇園」「コンティニュエ 恵比寿店」で10月24日まで開催している。
今回は「E5 アイヴァン」のデザイナー・中川浩孝に立ち上げの背景やプロダクトのこだわりなどを聞いた。
使用する人の利便性や効率性などを最優先する美的感覚
――「E5 アイヴァン」のテーマである生物学に行き着いた理由は何でしょうか?
中川浩孝(以下、中川):もともと「形態は機能に従う」という言葉をバウハウスなどの建築業界の言葉として知っていたのですが、デザインをする際の軸になったことはありませんでした。ただ、かっこいいという記憶が残っていただけなんですが、機能性を追求したアイウェアのデザインに向かい合った時に、この言葉がしっくり来ました。新しいレーベルのテーマとした時に、19世紀の生物学がこの言葉の源流ということを知りました。
――建築で有名なフレーズですね。
中川:さらに調べるとダーウィンの進化論に行き着いたという文献もありました。植物や動物を見て美しいと感じるのはなぜか? それは生物の形には“目的”が存在しているからなんです。生物のデザインは目的が主導で形作られてきた。建築や工業製品も同様ですが、すべてのものが目的や役割によって、あるべき姿になっていると感じてこのテーマに行き着きました。
――デザインに関して、これまで手掛けてきた「アイヴァン 7285」「10 アイヴァン」「アイヴォル」とどんな違いがありますか?
中川:制作のプロセスが大きく異なります。これまでは最初に美しい形をイメージし、いわゆる“外側”が決まってから掛けやすさ、使いやすさなどの機能性を掘り下げていくというのが主なデザインの進め方でした。これは「アイヴァン」のメインコンセプトである“着る眼鏡”というアイウェアをファッションとして解釈する考え方に基づいていると言えます。
一方で、本来の道具は利便性や効率性などを最優先で考えられていますよね。例えばミリタリーウェアやワークウェアなどは素材やポケット、ボタンの位置など、あらゆる部位の目的や役割が決まっていて、それに従って最終的なデザインが出来上がる。「E5 アイヴァン」はこれまで自分が手掛けてきたブランドとは違い、ミリタリースペックのように、道具として一番基本的なプロセスを踏むことで、結果的に美しいものができあがるのではないかという結論に達しました。子どもの頃、戦車のプラモデルに夢中だったことも思い出しました。戦車のデザインにも明確な理由があったんです。
――メンズウェアの考えも近いですね。スーツのラペルやベント、ポケットの配置などにも目的がありますよね。
中川:そうなんです。これまでは、美しいアイウェアをデザインするためのアイデアが先行していましたが、「E5 アイヴァン」に関しては逆の発想で、機能を追求すれば自然に美しくなるだろうと。
それぞれの時代の人の微妙な体型の違いに合わせたものづくり
――「10 アイヴァン」も機能性を重視したレーベルですが、具体的に「E5 アイヴァン」との違いは何でしょうか?
中川:とてもわかりやすいのですが、2013年に「アイヴァン 7285」が誕生してから、「10 アイヴァン」「アイヴォル」とローンチを続けてきまして、自分の創作思考が徐々に機能性を重視した方向性になっているんです。サングラスの「アイヴォル」を除き、「アイヴァン 7285」のデザインは“美しさ”という、いわゆる芸術性に重きを置いています。「10 アイヴァン」は、パーツの美しさという芸術性と機能性がイコールと考えます。「E5 アイヴァン」は機能先行なので、それぞれ芸術性と機能性を追求する考え方が明確に異なっています。新ブランドの立ち上げに関わってきたのですが、振り返ると自分の気持ちが段階的に機能性に向かっているのがよくわかります。
――最近は、クラシック回帰の流れも落ち着いてきましたが「E5 アイヴァン」のブランディングはどう考えていますか?
中川:新旧といった時系列ではなく、芸術性と機能性を掛け合わせたブランディングを考えています。とはいえ、トレンドが明確なのはレンズのシェイプで、機能を妨げるものではありませんので、「E5 アイヴァン」の顔はクラシックな印象ですが、構造は最新。素材やテクノロジーも含めた機能性に最新技術を備えつつ、見た目がクラシックという少し不思議な組み合わせではないでしょうか。
――「実用的であること」「機能が必然であること」「安心して扱えること」「フレシキブルであること」「長く使えること」という5つのステートメントを掲げていますが、特徴を詳しく教えていただけますか?
中川:まず、特許を取得したL字型のテンプル。これまで扱っていなかったBSチタンを採用し、素材の効果を最大限に高めるアイデアを考えました。テンプルがこめかみに当たるまでの距離が、顔の正面からより遠くに保たれていることと、丁番のリーチが1cm程度長いことでテンプルのバネの弾性が高まります。
もう1つは緩みにくいヒンジの構造です。テンプルを開閉する時の衝撃でネジの緩みが生じるんですが、ネジの周辺をパイプで覆い囲むような構造にすることで、振動を軽減することができ、ズレや歪みを解消し心地よい掛け心地を持続することができるんです。さらに、スウェーデン語で“重い石”を意味するタングステン製のエンドチップを採用しているので、顔の前側に掛かるストレスも軽減していますし、鼻パッドにはニュクレルという滑りづらく、経年変化しにくい素材を採用しています。
最後にかなり重要ですが、オプティシャンの調整がしやすいこと。実はこの点を考えているブランドは少ないんです。結果、調整した形跡がわかりづらいこともブランドの特徴です。
――メタルフレームでは調整した跡がはっきりわかりますね。
中川:ですので、テンプルをかなり広範囲に広げたとしても、最初からそういうデザインに見えるような構造にしています。私自身もオプティシャンの経験があるので、調整しやすいアイウェアは、掛ける人にとってもメリットしかない。あたりまえですが、すべてはエンドユーザーのための発想です。
――「E5 アイヴァン」をどのようなブランドに育てていきたいですか?
中川:ファーストコレクションの完成度に関わらず、今後もそれぞれの時代の人の微妙な体形の違いに合わせたものづくりを続けていきます。そうすれば、自然にテーマが見えてくると思うんです。「形態は役割、目的に従う」というテーマの通りですね。これまでのデザインは、芸術性を追求することが多かったので、答えがないことを模索し続けてきました。一方で機能性を追求する場合の答えは明確です。実用性と目的に帰結したデザインは自然に美しさへ導かれるのだと思いますし、その過程に興味はありませんが、完成したデザインに答えがある。これからの時代では、美しさに加えて機能性や構造、仕組みを追求する美的感覚に、ある種の新しさを感じられるのではないかと考えています。