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ファッションショー「True Colors FASHION」が表現する身体の多様性 総合演出の落合陽一が語る

5月30日、“ダイバーシティ”“アダプティブファッション(さまざまな個性を持つ人に適応する服作り)”をテーマにした新しいオンラインファッションショーが開かれる。タイトルは「True Colors FASHION—身体の多様性を未来に放つダイバーシティ・ファッションショー」。パフォーミングアーツを通じて、障がい、性、世代や言語といった身体的・能力的な壁を考える日本財団主催「True Colors FESTIVAL 超ダイバーシティ芸術祭」のプログラムだ。

「あなたの身体には多様性が潜んでいる。テクノロジーとファッションがアップデートする身体の挑戦を見つめ、個々の身体に耳を澄まし、体を研ぎ澄ます」をコンセプトに、ショーの総合演出は、研究者でメディアアーティストの落合陽一が務める。

当日は、視覚障がい、聴覚障がい、子ども用義足、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、また妊婦といったテーマに対し、彼等の身体をサポートするデバイスの開発者や企業、そしてファッションブランドあるいはファッションプロジェクトを掛け合わせた11組がショーを披露。また落合と11組のクリエイターとの対談映像も配信する。「身体性というものをどうテックが保障するかに僕自身、興味があります。このイベントが、身体の多様性に耳を研ぎ澄まし、またイベント参加者自身の身体を研ぎ澄ますようなきっかけになれば」とは、落合の弁だ。

実際に落合は、これまでに、ダイバーシティとテクノロジーを組み合わせたプロジェクトをいくつも実践し、高い評価を得ている。ショーに挑む彼の意気込み、またその根底にあるダイバーシティに対する私見を聞いた。

デバイス×ファッションデザインの可能性

——落合さんは、これまでにも、“ダイバーシティ”をテーマにしたプロジェクトを推進されています。まず、ご自身が関わってきたプロジェクト事例をいくつか教えてください。

落合陽一(以下、落合):僕はJST CREST(科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業)に採択されたプロジェクト『xDiversity(クロス・ダイバーシティ)』の代表を務めています。そこでの研究テーマは、視・聴覚障がい、身体障がいに、テクノロジーをどう向かせるかというもの。例えば、四肢欠損の作家である乙武洋匡さんがロボット義足技術を使い、歩く「OTOTAKE PROJECT」。また、「Ontenna(振動と光によって、音を身体で感じるユーザインターフェース)」を使ったワークショップを行ったり、ろう・難聴者とのコミュニケーションツールとして、会話をリアルタイムで字幕表示する「See-Through Captions」を作ったりしてきました。障がいのある人と、あるいは当事者同士のコミュニケーションやワークショップをベースに、身体的・能力的な差異がうむ壁を取り払い、 “違いのある人も個性を保ち、自然に日々を過ごせる社会”を考えていく、という取り組みです。それは自分の研究センターの研究や表現でもよくテーマにする「デジタルネイチャー」に近い考え方です。限界費用が変化し、多様性に適応できるデジタル技術が生まれた時に、近代的な分断の意味はなくなりつつある。その次はマイノリティとマジョリティの相互理解と多様なコミュニティ形成が重要になると考えています。

——今回のショーも、そういった落合さんの関心や研究とリンクしてくる部分も多いかもしれません。

落合:今回は、デバイスを作っている人とファッションデザイナーを組ませたら、どんなものが生まれるかということを、ショーやイベントで探っていきたいというのがベースにあります。なので、ショーはデバイスの開発者やデザイナーのほうが中心になってくると思います。

——落合さん自身もショーに参加し、以前に制作したLIVE JACKET」の新バージョンを見せます。少し解説をお願いできますか。

落合:もともとは、ロックバンド「ONE OK ROCK」とのコラボレーションで作ったもので、いわゆる“ウエアラブルなサウンドジャケット”。ジャケットに低音・高音、また振動がでるスピーカーを配置し、全身で音を体験しようというものです。ドラムやギターなどそれぞれの音や振動が、ジャケットのパーツからバラバラに出力され、これまでにない音楽体験が得られる。実は、これを披露した展覧会に、聴覚障がいのあるデフサッカーの選手、仲井健人さんがたまたま来てくれたことがありました。その時に仲井さんが、「『LIVE JACKET』は、聴覚障がいの人も楽しめますね」と。それをきっかけに始まった“ダイバーシティ×音楽”のプロジェクトもいくつかあります。

——今回ショーで披露する「LIVE JACKET」は、「カンサイ ヤマモト」とコラボレーション。具体的にどういったものになる予定でしょうか?

落合:「カンサイ ヤマモト」の服に装置をつけます。これまでにオーケストラとコラボレーションしたこともありますが、人がこれ着用してステージで歩く、というのは初めての試みです。

イベントをきっかけに相互理解を深めたい

——ショーに参加する11組のラインアップに対して、どういうところに注目をしていますか?

落合:視・聴覚障がい、身体の障がい、ALS、それを補う車椅子や義足など、まず一般的に広く認知されているものが選ばれています。そういった人達の個性、身体の多様性を表現することが一つのコンセプトですが、個人的には、彼等がクールに見える要素、彼等ならではの魅力は何か、ということに着目したいと思っています。

——障がいそのものにフォーカスするのではなく、そのかっこよさを発見し、引き出そうということでしょうか?

落合:というのも、身体的・能力的な差異とは、今後さらにテクノロジーが発達すれば、解消され得るものかもしれません。また、全員が耳が聞こえなかったら、障がいにはならないし、耳が聞こえる人が多いから、現状では“障がい”になっているーーそう考えた時に、テクノロジーで課題を解決できれば、その“違い”とは、マジョリティとマイノリティの差でしかなくなってくると思うのです。だからといって、マイノリティをマジョリティの価値観に合わせることは、本質ではない。むしろ、ニッチなものが美しく、だから多様性があるわけですから、彼等の個性やかっこよさ、美しさを魅せることが大切なのではないか、と思うのです。僕が押し付けるのでなく、かっこよさをコラボレーションの中から引き出すアプローチを取らないと、結局マジョリティへの価値観提示になってしまうので注意が必要です。

——なるほど。アダプティブファッションという言葉も最近、耳にするようになりました。例えば障がいのある方がファッションを楽しむのに必要なことは何だと思いますか?

落合:当事者にはファッションを楽しんでいる人も多いと思います。ただ、作り手が少ない。例えば、車椅子の人は、足が不随意に動いて、シューズが脱げてしまったりもします。だから、本当は履きたくはないのだけれども、マジックテープがついた靴を履いている女性などもいます。そういう選択の余地がないことは大きな課題だと思いますね。そういったものがテクノロジーや製造技術によって解決されていく未来を実現していきたい。他にも実際には、まだ我々が気付いていない課題がいっぱいあるかもしれません。そのためにも、今回のイベントでは、ショーに加えて、当事者の方にインタビューした映像も配信します。当事者にしかわからないこと、言えないこともたくさんありますし、その声に耳を傾けたい。

――そのインタビューでは、どんなことを聞こうと思っていますか?

落合:率直にオシャレについてどう思っているのかを聞きたいと思っています。これは知り合いから聞いた話なのですが、ピンクの服を好んで着る視覚障がいの方がいます。彼女に“なぜ、ピンクを着ているの?”と聞いたら、“ピンクが可愛い、似合っていると言われたから、ピンクでそろえている”と。ピンクを強制されているわけではなく、彼女の好みなので、それは自由だとも言えますが、もし、彼女が、目が見えている人の価値観に合わせているのだとすると、それで良いのだろうかとも思ってしまうのです。マジョリティに価値観を合わせるためのツールとして色を捉えているとしたならば、もっと違う捉え方もあるかもしれない。本当に彼女が好きなものを他の色で表現できることもあるかもしれない。

——もう少し具体的に教えてください。

落合:北九州で直近、SDGsをテーマにした展覧会をやっていたこともあって、最近“環世界”について考えていました。ドイツの生物学者・哲学者ヤーコブ・フォン・ユクスキュルが唱えた概念で、「個々の生物種には、それぞれ生物種の認識し得る世界があって、それぞれが主体としておのおのの世界を認識しているのだ」という考え方です。例えば、犬が認識している嗅覚ベースの世界と、人間が認識している視・聴覚ベースの世界はかなり違う。目が見えない人が認識している世界と、耳が聞こえない人が認識している世界はもちろん違う。そこをあえて、同じ世界観でそろえようとすること自体、おこがましいのでは、と思うのです。つまり、マイノリティの“世界”をマジョリティの“世界”に馴染ませるというのは非常に暴力的だし、僕はやりたくない。ただ、自分とは価値観の違う、たとえば、横にいる人の服装や考え方が“かっこいい”と思ったり、“真似したい”と思うことはよくありますよね。ショーを通じて、彼等のかっこよさに着目したいというのは、そういった意味です。その観点では日々多くの発見がありますし、違ったカルチャーをミックスしたいというのも自然なクリエイティブの発想に感じます。

——そういった視点が、ダイバーシティの本質的な理解、また多様性のある社会を拓いてくれるのかもしれません。

落合:そもそも、生物種の関係性の中には、マジョリティとマイノリティという概念はないのでは、とも思います。例えば、犬は、猿の気持ちをあまり考えていないと思うし、猿の方が犬より多いから、自分達は優位だなんて思っていないのではないか、と。マジョリティとマイノリティとは、同じ群で暮らすから発生する問題であって、異種生物間ではあまり発生していないのかもしれない。そうやって広く考えると、我々の社会の中にあるマイノリティとマジョリティの相互理解を広い視点で捉えることができるかもしれない。どちらかの価値観に迎合する必要はないかもしれないけれど、そのためにも前提として相互理解が必要です。今回のイベントが、その相互理解のきっかけになればいいし、その先に、ダイバーシティの本質を参加者と一緒に探っていきたいと思います。その意味では前提抜きで感性で捉えても、はたまた文脈とともにロジックで探求しても良いのではないかと考えています。

落合陽
1987年生まれ、メディアアーティスト。2015年東京大学大学院博士課程修了、博士(学際情報学)。2015年より筑波大学助教としてデジタルネイチャー研究室を主宰、2017年より准教授、2020年より,デジタルネイチャー開発研究センターセンター長として現職推進戦略研究基盤代表。大阪芸術大学客員教授、金沢美術工芸大学客員教授、京都市立芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授も務める。2015年 World Technology Award受賞、2016年 Prix Ars Electronica、EU Starts Prize受賞、Laval Virtual Awardを2017年まで4年連続5回受賞、2019年SXSW Creative Experience ARROW Awards 受賞、2019年カンヌライオンズ ミュージック部門 ブロンズ / SDGs部門 ショートリスト、2017年スイス・ザンガレンシンポジウムよりLeaders of Tomorrowに選出、ダボス会議よりGlobal Shapers選出、MIT Technology Review Innovators Under 35 Japan選出など。
https://yoichiochiai.com

身体の多様性を考える約3時間のオンラインショー

オンラインで配信される「多様性」をテーマとしたファッションショー「True Colors FASHION」では11組のチームがランウェイに登場する。参加するのは、「武藤将胤 x 01 x ALS SAVE VOICE PROJECT」「Tommy Hilfiger Adaptive x GIMICO・あべけん太・ 栗原慎子・益ノ進」「乙武洋匡 x KORISHOW PROJECT x OTOTAKE PROJECT」「”Blade for All” x 義足のキッズランナー」「我妻マリ x WHILL」「GenGen x LIVE JACKET xKANSAI YAMAMOTO」「OTONGLASS x betapost x濱ノ上文哉」「りゅうちぇる x MIKAGE SHIN」「ここね x kotohayokozawa」「Pippi x ANREALAGEx ONTENNA」「mission arm japan x Hatra」の11組。ブランドやテクノロジーによって四肢欠損や聴覚障がいなどの当事者、ALS、高齢者、妊婦、子どもなどのさまざまなモデルの身体から、これまでにない身体像が立ち上がる。それぞれのチームの制作プロセスに迫るインタビューとともに、身体の多様性を考える約3時間のプログラムとなっている。

「GenGen x LIVE JACKET xKANSAI YAMAMOTO」では、音楽を振動で体感し踊る軌跡を視覚的に増幅させるLIVE JACKETが登場。サウンドデザインはケンモチヒデフミが手掛け、難聴ダンサーのGenGenがジャケットを着こなす。

「りゅうちぇる x MIKAGE SHIN」では、妊婦でもそうでない女性も、さらに男性でも着ることができるワンピースを披露。「ミカゲシン」が、りゅうちぇるのファミリーがもつイメージから、チューリップ(花言葉:正直な愛・博愛)とアイリス(花言葉:希望)のオリジナルプリントでデザイン。妊娠体験ベルトとこのワンピースを着た彼が、新時代の人間像を体現する。

「Pippi x ANREALAGEx ONTENNA」では、ヘッドピース、イヤリング、ネックレスといったアイテムを、光を通す細い柔軟な繊維(光ファイバー)による光る糸で作ったニット組織とレース組織から成形。音に反応して明滅するインタラクティブなアクセサリーが、聴覚情報を視覚情報に「翻訳」し、情報を携えた新しいファッションを切り開く。

また、裏番組として、村上要(WWDJAPAN 編集長)、山口壮大(ファッションディレクター)、徳永啓太(車椅子のファッションジャーナリスト)、金森香(「True Colors FASHION」プロデューサー)による「ファッショニスタがお送りするオーディオガイド」も「UDcast」で聴くことができる。

■True Colors FASHION 身体の多様性を未来に放つダイバーシティ・ファッションショー
日時:2021年5月30日13:00~

今回発表したうちの5ブランド(「アンリアレイジ」「ベータポスト」「ミカゲシン」「ハトラ」「やまと ×コリショウプロジェクト」)の作品を「ミキリハッシン」の店頭で展示。初夏に向けて受注会なども展開予定。

■「ハウス@ミキリハッシン」
期間:5月30日〜6月13日
場所:東京都渋谷区神宮前5-42-1
https://shop.mikirihassin.co.jp

5月30日から6月13日まで「TOKION E-STORE」と「TOKiON the STORE」で一部アイテムを販売

また、「トミー ヒルフィガー アダプティブ」や「01 ボーダレスウェア」などの一部のアイテムは5月30日から6月13日まで「TOKION」のオンラインショップ「TOKION E-STORE」とMIYASHITA PARK内にある旗艦店「TOKiON the STORE」で販売する。「TOKiON the STORE」では、実際にショーで着用された「LIVE JACKET」も展示され、体験可能となっている。

Photography Hironori Sakunaga
Text Masanobu Matsumoto

問い合わせ先
日本財団DIVERSITY IN THE ARTS
TEL: 03-6455-3335(平日10:00〜17:00)
MAIL: info@truecolorsfestival.com

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TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

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