「フミト ガンリュウ」デザイナー丸龍文人 vol.2――社会と創作を結ぶ原点を探る

2010年代後半に吹き荒れるストリート旋風に先んじて、ストリートを取り込んだモードスタイルを世界に発表してきた丸龍文人。しかし、彼は2018年に「フミト ガンリュウ」を設立したのち、自身の才能がストリートだけに収まるものではないことを証明する。ロングインタビューで語られた丸龍の生の言葉を可能な限り多く届けるべく、全3回にわたってお送りしたい。

前回Vol.1で明らかになった、社会からファッションをデザインしていく丸龍の姿勢。いったい彼はどのようにして、そのクリエイティブな姿勢と思考を育んできたのだろうか。その原点を探るため、vol.2では彼の故郷である福岡時代から始まり、「フミト ガンリュウ」として再始動する時にまで至る。そして、話は現代のラグジュアリーストリートにもおよぶ。丸龍のファッションの目覚めからストリート、作る服への思いまで。その声に耳をかたむけてほしい。

幼少時のイマジネーション

――前回は2021SSコレクションについて伺い、丸龍さんの思考がどのように育まれてきたのか、その原点はどこにあるのか、とても気になりました。福岡県のご出身ということですが、ファッションに興味を持ち始めたのはいつ頃からでしょうか?

丸龍文人(以下、丸龍):明確な意思で選んで着るというのを意識したのはスケートブランドの服でした。それは今でも鮮明に覚えています。当時、地元でもある福岡県に住んでいたのですが、兄のセンスが良くて、どこで服を買っているのか聞いたら、福岡市内にある有名な店で。でも、いきなりその店に行くにはちょっと勇気が持てなくて。こっそり兄の服を拝借して店へ行くと、店長さんに「君、中学生なのにそれ持ってるの? すごいね」 と言われて、いろいろ教えてくれたりと良くしてくれて。当時、僕自身がスケーターでもあったので、それがファッションに興味を持ち始めたきっかけの1つ、といえるのかもしれないですね。

――当時からファッションに関わる仕事をしたいと?

丸龍:より遡ると、他にもきっかけといえるものがあって。幼少期にいわゆるマンガというのか……、ストーリー展開のあるデザイン画みたいなものを描いていたんです。今振り返ると、まだ10歳にも満たない少年が、随分と重たいテーマの物語を描いていたな、と(笑)。

――どんなストーリーを描いていたのですか?

丸龍:当時はミレニアムを迎える前だったので、世紀末以降の世界を自分なりに想像して描いたのですが、そこでは思いがけない出来事が多発したことによって、地球が滅亡の危機にあるという設定で。

――幼い時にそんなストーリーを!?

丸龍:そうなんですよ(笑)。その世界では人類が滅びかけていて、上空を幾重にも覆い尽くしたスモッグと海洋汚染によって、本来の空や海の色を知らない。ただ、昔の空は美しかったとか、海はきれいだったといったことを昔話のように聞かされているだけで、青という色を知らない、イメージすることができないというストーリーでした。

――それはおもしろいですね。

丸龍:いくらなんでもそんな短期間にひとびとの記憶が失われるものなのか、ということであったり、青いものなどもすべて消滅してしまったのかという、数々の矛盾や詰めの甘さはあるんですけどね(笑)。青を取り戻すための物語なんです。話の内容や結末こそ違いますが、そこで描いていたものは、しばらくあとに観た『タンクガール』 という映画の登場人物が着ていた服装や世界観に通じるものでした。頭にはゴーグル、服装自体はミリタリーっぽくもあり、パンクスっぽくもある。当時、なぜ自分の描いた物語でそういう服装を描いたのか、うまく説明できませんが、いわゆるレジスタンス然とした装いをさせていました。物語の一部は今でも残っていて、見返すと気恥ずかしいですが(笑)、発見もあります。

――子どもの時から社会的視点の創作をしていたのは驚きました。

丸龍:幼少期からそういったことに強い関心があって。ストーリー展開があるものを数多く描いてたのですが、中学を卒業する頃には、よりデザイン画に近いものを意識して描くようになって、授業中よく怒られたりしましたね。

――(笑)。洋服と絵を描くのが好きな少年だったわけですね。では当時は洋服と絵ならば、どちらが好きだったのですか?

丸龍:今でもたまに絵は描いているくらいなので、絵を描くことのほうが好きだったと思います。あと、音楽も同じくらい好きでしたよ。

――どんな音楽が好きでしたか?

丸龍:今でも覚えているのは、小学生の時に科学番組を観る授業が定期的にあって。当時アインシュタインに憧れていたこともあり、その授業と番組をすごく楽しみにしていました。

――そういえば、前回もアインシュタインが大好きだと話していました。

丸龍:科学全般が好きだったんです。実験番組のBGMは、今でいうエレクトロというか、アンビエントのような音楽が流れていて、そういったニュアンスの音が好きでした。

――そんな音楽を好きだと言うのは、当時珍しかったのでは?

丸龍:中高など進学するたび「好きな音楽は何?」と聞かれると、「科学番組のバックに流れている音楽あるじゃん、ああいうの」と答えていました。それでよくお前、変わってるねと言われてましたよ(笑)。音楽や絵画など、ファインアート全般を含めたあらゆるクリエティブなものにも興味がありました。

――いろんな経験を経て、ファッションの道へと進んだのですね。

丸龍:服作りに関しては真摯な姿勢で取り組み続けたいと思っていますが、服以外のメディアに関しても、ファッションデザイナーの視点で取り組むことができればと考えています。

原点であるストリートについて、今思うこと

――丸龍さんはスケートボードに乗っていたりと、原点の1つにストリートがあると感じましたが、国立新美術館で開催されたショーで配布された用紙の1行目に、このような文章が書かれていました。「辟易するほど命題として示されてきた『モード』と『ストリート』の図式は、果たして相反する指標なのか」。このモードとストリートの図式を、具体的にどう捉えているのですか?

丸龍:本来モードとストリートは、発生源に違いはあるものの密接な相対関係にあり、言葉の先にある現象を俯瞰で捉えれば、結果的に同義語とも言えるのであって。それが時代とともにマインドにフォーカスされ、スタンスの違いが浮き彫りとなっていくことで、ある種分断されていたものを、数々のブランドが確たるマインドを伴った上で融合させる、そういったクリエイションによって新たなムーブメントが次々と生み出されていたように感じています。でも昨今のラグジュアリーにおいて目の当たりにするのは、あくまでテクスチャーというか……、表面的要素をコントラストとしてただ利用しているようにしか思えなくて。もちろん、国内外において強いマインドを感じるブランドや人物はいますが、今世界を席巻しているラグジュラリーのストリートに関しては、そういったスピリットが感じられず、ストリートテイストだと思っていて、グッとこない。芯のない見せかけのコントラストには背反のベクトルが感じられないし、何より、そもそもの意味に対する問いでもあるんです。

――ラグジュアリーのストリートがグッとこない要因はどこにあるのでしょうか?

丸龍:カテゴライズを前提に考えるのであれば、ストリートマインドの根幹にあるもの、それは反骨の精神なんだと思っています。ラグジュアリーでは当然それが希薄になってしまうのは節理であり、しかたのないことだと思います。好んでいる方を決して否定するつもりはありませんが、僕はあくまでテイストではなくマインドを感じたいので。

――ではラグジュアリー以外で、丸龍さんから見てストリートマインドを感じる海外のブランドはありますか?

丸龍:日本と比較すると少ないように感じます。

ファッションから離れることで見えてきたビジョン

――高校を卒業してから文化ファッション大学院大学に入学するまで空白の期間がありますが、高校卒業後はどうされていたんですか?

丸龍:重複してしまいますが、絵画や音楽、そして服と、やりたいことが多過ぎて煮詰まっている時期に、ベルギーのアントワープに行きたい学校が見つかって。当時まだ日本人の卒業生がいなかったこともあり、そこへ留学しようと考え、アルバイトをしながら語学も学びましたが、最終的には多くのデザイナーを輩出している文化服装学院に入学しようと決心しました。

――文化ファッション大学院大学を卒業後、「コム デ ギャルソン」に入社されていますが、在学中から入社を目指していたのですか?

丸龍:もし入社するのであれば「コム デ ギャルソン」しかないと思っていました。

――では「コム デ ギャルソン」退社後、ご自身のブランド「フミト ガンリュウ」を立ち上げるまでの期間はどう過ごされていたのですか?

丸龍:ファッションだけではなく、21世紀のこの先、社会がどこへ向かおうとしているのか、そういったことを考えていました。ファション産業は2番目に環境を破壊しているといわれています。エネルギー産業や自動車産業においては、もはや環境への配慮や取り組みが大前提です。それらの産業は取り沙汰されるタイミングも早かったため、問題解決や改善に取りかかるのも自ずと早くから行われていて、そういった取り組みに目を向けていました。その時間を経てファッション業界に戻ってこられたのは、社会と向き合う姿勢をこれまで以上に育むためにも有益な期間だったと、今にして思えばそう感じています。
(Vol.3に続く)

丸龍文人
文化ファッション大学院大学卒業後、「コム デ ギャルソン」を経て2018年に「フミト ガンリュウ」を設立。象徴だったストリートスタイルは、スポーツ、テーラードと多様性を含むスタイルの境界を超えたスタイルへと更新され、そのコレクションはデイリーウェアとしてのリアリティを備えながらも社会を批評的に切り取るデザイン性も披露する。
Instagram:@fumitoganryu

Photography Shinpo Kimura

author:

AFFECTUS

2016年より新井茂晃が始めた“ファッションを読む”をコンセプトに、ファッションデザインの言語化を試みるプロジェクト。「AFFECTUS」はラテン語で「感情」を意味する。オンラインで発表していたファッションテキストを1冊にまとめ自主出版し、現在ではファッションブランドから依頼を受けてブランドサイトに要するテキストやコレクションテーマ、ブランドコンセプトを言語化するテキストデザインを行っている。 Twitter:@mistertailer Instagram:@affectusdesign

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