渋谷の泥酔者達のリアルで常軌を逸した姿を記録し続ける『Shibuya Meltdown™』 変化し続ける街、渋谷の人々は未だにメルトダウンし続けているのだろうか?

ここ数年で渋谷PARCOがリニューアルし、スペイン坂上の風景はガラリと変わった。さらには、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア、MIYASHITA PARKなど渋谷駅を取り囲むエリアも大幅に再開発され、2027年まで工事は継続する模様だ。コロナで一時は閑散としていたが、現在は以前のような活気を取り戻しつつある。常にシフトし続ける渋谷の街を、ある特殊な視点で観察するインスタグラム・アカウント『Shibuya Meltdown™』。そこには年齢や性別関係なく、路上や電車の中で泥酔し、意識を失ったように寝る人々の常軌を逸した姿が投稿されている。

“24時間戦えますか?”これはバブル時代、日本のサラリーマンを象徴するキャッチコピーとしてCMに使用され、市民権を得たものだ。30年以上経った今でも、ワークライフバランスが偏り、社畜にならざるをえない現状にペーソスを感じずにはいられないが、互いを干渉し合わず、電車や路上であっても安全なパーソナルスペースを確保できる日本のポジティブな面も見出せる。

投稿スタートから10年が経ち、現在では28万を超えるフォロワー数を獲得し、メルトダウンを引き起こす“ある”ドリンクを模したグッズも人気で、今までとは違ったファン層も獲得している。素性を明かさないという条件の下、謎多き『Shibuya Meltdown™』首謀者にその活動について話を聞く機会を得た。

−−このアカウントをスタートさせたきっかけはなんでしたか?

旅行で日本に長期訪れる中で、日本の酔っ払い達ってすごく独自だなと関心を持つようになって。彼らの存在ってポジティブ、ネガティブどちらの側面も持っているし、観察しがいがあるなと感じました。日本に移住してからは、SNSで彼らのことを発信したら、自分以外の人も興味を持つんじゃないかってアカウントをスタートして。もともとは親しい友人や知り合いがチェックしてくれていたけど、すぐに多くのユーザーがこのアカウントをフォローして、注目してくれるようになりました。

−−最初に投稿した時の東京、渋谷にはどんなイメージを持っていましたか? 渋谷の酔っ払いを初めて見た時、どんな気持ちになりましたか?

ショックというか、目を見張ることはいくつかありましたね。 さっきまで元気だった人が、5分くらいの間に前触れもなく床で爆睡していたり。道端で酔っ払いが寝ていても、通行人達も何事もないようにスルーするし、所持品を盗まれることもない。そんなのって日本だけだと思います。他の国だったらパブリックな場所で無防備な状態でいるだけで、暴力を振るわれたり、強盗にあったりするリスクがある。日本はいかに安全か、彼らの存在が証明してくれてるなと思いますね。

−−自分は日本人なので、この渋谷にいる酔っ払いを見ると恥ずかしい気持ちになるというか、自分もこんな風にならないように気をつけなければと感じるのですが、海外の人から見るとどんな印象なのでしょうか?

さっきの答えと重複しますが、それって日本の路上が他の国と比較できない程安全だってことを証明していると思います。でも、その状況に甘んじて、路上で酔っぱらってよだれをたれ流したり、失禁してグチャグチャになったりするデメリットもありますが…。路上でメルトダウンしている人の一部にはオーバーワークで終電を逃してしまった人もいます。日本の労働環境って長時間労働だったり、社畜文化だったりがまかり通っているけれど、コロナでリモートワーク化が進み、彼らへのしかかる重圧は、少しは軽減したはずです。

−−フォロワーからのリアクションはどんな感じですか? 国内と国外で違いますか??

あまりネガティブな反応はないけれど、このアカウントのコンセプト自体を嫌だと思う人は少なからずいて。今までも日本のテレビ番組などメディアからの取材を受けたこともありますが、そういったところでの取り上げられ方は、誤解を生んでしまうリスクもあります。海外からのリアクションだと、泥酔者を演出したフェイクな写真を送ってくる人もいるけど、それって正直めちゃくちゃダサいです(苦笑)。

−−SHIBUYA MELTDOWNの由来は?

渋谷(SHIBUYA)という街は私自身が旅の途中で滞在するメインの場所で、そこでいろんな経験をし、観察してきました。メルトダウン(MELTDOWN)って言葉は、泥酔して意識を失った人々って誰よりも地球(地面)に近い存在だなと思って。そもそも、メルトダウンはろうそくが熱で溶けることを意味しますが、個人的に炉心溶融(nuclear meltdown:原子炉の燃料棒が過熱によって溶けるという、深刻な事故を指す言葉)というワードが2011年メディアで取り沙汰されていたのもあって、それにちなんだ名前にしようと思って。

−−こうやって泥酔できるのって、ある意味東京や渋谷が平和な街であることを証明していると思います。酔っぱらいに適した街というか、それが許される街っていいなと思うのですが、どうでしょうか?

他の国では、愚かな振る舞いで、何かを主張する酔っ払いが多いから、アルコールに関する厳しいルールや法律を定めて規制する必要があります。その一方で、日本人は主張もしつつ、お互いを尊重するコミュニティ形成ができているので、たとえ酔っぱらっていても、誰かに襲われることなく、安全な環境を確保できるのだと思います。

−−ここ数年で渋谷の風景はガラリと変わりましたし、なによりコロナの影響で泥酔する人を見る機会も一時は激減しましたが、また復活しつつあります。これからの活動も含めて、どんな風なことをアカウントで発信していきたいですか?

オリジナルグッズなどを販売するSHIBUYA MELTDOWNのウェブサイトをスタートして、パンデミックの最中は新規登録者数が低迷していたけれど、レストランやバーが完全に営業再開していないにもかかわらず、今では登録数が急増していますね。オリジナルグッズを制作してSNSで発信することで、多くの層を取り込むだけでなく、同時にメッセージを届けるともできる。これは1案ですが、夜の繁華街で、ボランティアのサポートチームを設置したり、若い人にもウケるウコンドリンクを制作したり、ただSNSを閲覧している人には、私のアイデアが滑稽に映るかもしれないけれど、支援を必要としている人達に何か自分ができることはないかな? と日々考えていますね。

“Shibuya Meltdown™ porfile
渋谷で眠る人々
“What goes up must Meltdown”
Instagram:@shibuyameltdown
Webサイト:https://shibuyameltdown.com

author:

多屋澄礼

1985年生まれ。レコード&アパレルショップ「Violet And Claire」経営の経験を生かし、女性ミュージシャンやアーティスト、女優などにフォーカスし、翻訳、編集&ライティング、diskunionでの『Girlside』プロジェクトを手掛けている。翻訳監修にアレクサ・チャンの『It』『ルーキー・イヤーブック』シリーズ。著書に『フィメール・コンプレックス』『インディ・ポップ・レッスン』『New Kyoto』など。

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