みんなの今年のベスト映画は? 「TOKION」ゆかりのクリエイターが選ぶ「2021年公開の私的ベスト映画」 

昨年に引き続き、2021年も新型コロナウイルスのパンデミックによって、多くの映画作品が公開延期に追い込まれたり、映画館へ足を運ぶこともままならない時期もあった。一方で10月1日から全国の映画館で全席販売・レイトショーが再開される等、明るいニュースも聞かれた。

そんな過酷な状況でも、鑑賞後にポジティヴなエネルギーを与えてくれる作品が今年も数多く公開されたわけだが、「TOKION」にゆかりのあるクリエイターが、今年、劇場やストリーミングサービスで日本公開された映画の中から心に残った、私的なおすすめ映画を発表! グッと来た場面やシチュエーションなど、2021年を映画とともに振り返る。

『JUNK HEAD』
八木華(ファッションデザイナー)

たった1人で、独学で作り始め7年かけて完成させたストップモーションアニメ『JUNK HEAD』。

環境破壊が止まらず地上が汚染された未来。人類は遺伝子操作により永遠の命と引き換えに生殖能力を失う。そして新種のウイルスにより絶滅の危機に瀕した人類は、独自に進化していた人工生命体の住む地下世界へ調査に向かう。地下調査員として名乗りを上げた主人公が地下の世界で人類再生の道を探る物語。

ストップモーションを制作している妹と映画館で観たのですが、もう二度と観たくないくらい疲れる圧倒的な映像体験でした。映画の舞台は未知なる地下の世界ですが、地下の構造から生物が話す言語まですべて未知です。その上ストップモーションという技法で映像も音もノイズが多い。

CGや演出の技術によって整備されたファンタジーの世界を快適に楽しむことはできるけど、本当に未知の体験は快適ではないような気がします。わからないことばかりで疲れる。そういう体験をさせてくれる映画は貴重だなと思います。

そのような意味でこの混沌にたどり着くために1人で7年間をかけてストップモーションで表現する必然性を感じました。

八木華

八木華
1999年、東京都生まれ。都立総合芸術高校卒業後、「ここのがっこう」で学ぶ。2019年に欧州最大のファッションコンペ「International Talent Support」ファッション部門に最年少の19歳でノミネート。現在は、妹と組んで映像制作にも取り組んでいる。
Instagram:@hannah.yagi

『サマーフィルムにのって』
岡本大陸「DAIRIKU」デザイナー

© 2021「サマーフィルムにのって」製作委員会
配給:ハピネットファントム・スタジオ

良い映画だったなぁ。最近の映画に対する消費のされ方に疑問を訴えかける映画で、映画館が減ったりレンタルビデオ屋も少なくなっていたりして映画好きとしては悲しい。古い映画はなかなか観れなくなってしまうのではないのかなっていう心配もある。でも、この映画を観ると映画作りの舞台裏と高校生達のキラキラした青春を混ぜていて、しかもSF! 観てて本当に楽しかったし、もし僕が高校生の時くらいに観たら、映画をサブスクとかじゃなくて映画館で観ようとかDVD借りて観ようという気持ちにさせてくれそうな映画でした。

特に昔の日本映画や日本文学への多大なリスペクトが込められていて、随所に作品がストレートに紹介されて、その映画作品観たい! というきっかけを作ってくれる。

これから名作は生まれるの? みたいな葛藤はあるけど、ちゃんとラストシーンで映画の未来が明るいという気持ちにさせてくれるし、あのシーンは泣いた。映画の過去作も現在も未来へも、ヒヤヒヤしながらも丁寧に丁寧に線と線を結んでる感じ。

日本映画の影響が色濃いかと思いきや、小栗くんが乗っているデコチャリと彼の髪型は映画『さらば青春の光』のエースみたいだったり、ラストシーンは出演者がみんな体育館に集まって“祭”のような感じで、『フェリーニ』の“8 1/2(ハッカニブンノイチ)”のようだった。洋画からの影響もあるのかなって想像するたびにワクワクした。監督さんは、本当に映画を愛してるんだろうなって。

岡本太郎は“芸術は青春”って言ってた。それを感じるくらい、主人公ハダシ達のあの若々しい映画づくりこそ情熱であって青春。映画でも音楽でも服作りでも何にでも、ひたむきに頑張ることが青春だなって改めて感じた映画でした。

僕も今、青春してるんだって思ったよ。ありがとう、映画。

岡本大陸

岡本大陸
1994年、奈良県生まれ。バンタンデザイン研究所ファッションデザイン学科在籍中に自身のブランド「ダイリク」を立ち上げる。2016年にはアジア ファッション コレクション(AFC)のグランプリを受賞し、2017年にニューヨーク・ファッション・ウィークでランウェイデビューを果たす。ブランドコンセプトは「ルーツやストーリーが感じられる服」で毎シーズン映画をテーマにしたコレクションを発表している。

『#寛解の連続』
十河幸太郎「ノウハウ」デザイナー

昨今、子どもと一緒に映画館に行く機会が増え、ファミリー向け映画を観る機会が増えたのですが、この作品は、今年1人で観に行った数少ない映画の1つです。その映画『#寛解の連続』は、2011年にファーストアルバム『神戸薔薇尻』をリリースしたラッパー、小林勝行の創作と生活に密着したドキュメンタリーです。躁うつ病を抱える小林さんの日常と、セカンドアルバム『かっつん』のリリースに至るまでの過程に迫る、というのがあらすじです。

僕の想像以上にむき出しで己の内面と向き合いながら描かれた壮絶なドキュメンタリーでした。ここ数年ずっと頭上に重く立ち込めている暗いムードのようなものは、自分自身の受け止め方や行動でまだいくらでも払いのけれる、そんなことに気が付いてハッとしました。ドキュメンタリーが好きな方にはもちろんですが、もしそんなムードが自身に立ち込めているような気がするのなら、すごくおすすめの映画です。

印象に残っているのは、序盤にレコーディング風景の場面があるのですが、そこでのレコーディングエンジニアの方との会話です。ラップを吹き込むことで音楽として印象がガラッと変わっていくことに驚きと喜びを隠さないその2人のやりとりにグッときました。それと、ボールペンの視点で描く楽曲「オレヲダキシメロ」を自宅の部屋で1人で制作する様子がとても印象的です。何度も声に出し自分に問いながら自分を鼓舞しながら表現を模索する姿はとても胸を打たれます。

小林勝行を知ったのは、数年前に現代美術家のcobirdさんに教えてもらった「108 bars」を聴いた時で、それから、生きざまや表現についての向き合い方がとても気になっていました。映画は2019年にできあがっていたそうなのですが、コロナ禍の影響もあり鑑賞する機会がない中で、ようやく今年の4月に閉館間近の渋谷アップリンクで上映されるという情報を聞きつけて観に行ってきました。昔のインタビューで唾奇さんも小林勝行さんに影響を受けたと話していたのもこの映画を観る後押しになりました。

ただ、現時点では配信サービスでは観れませんので、お住まいのエリアのお近くで上映される情報を要チェックです!

十河幸太郎

十河幸太郎
1980年、北海道生まれ。2013年にパジャマブランド「ノウハウ」をスタート。チューソンとともに夫婦で製作を行っている。近年では広島県尾道にある複合施設「U2」内のホテルのアメニティパジャマを製作。また、インナー&ルームウエアのライン「トワイライト」や、“家が恋しくなる”をテーマにした高級ライン「ホームシック バイ ノウハウ」なども展開している。「ノウハウ」のオンラインショップ「ROOM SERVICE」は年末年始も休まず営業予定。https://nowhaw.shop-pro.jp/

『逆光』
工藤司「クードス」デザイナー

1970年代の尾道が舞台のこの映画は、主人公である晃の故郷に憧れの先輩である吉岡を連れ帰省し、晃の友人達とともに過ごすひと夏が描かれる。(そこで彼等の微妙な人間関係が交差していく)。シークエンスごとに繰り返し強調されるのは尾道の土地の音や光だ。

しかし、晃が好意を寄せる吉岡の顔や表情はなぜかどこかおぼろげで印象に残らない。それは晃にとっての彼自身が「逆光」だからなのかもしれない。カメラの前では、逆光は被写体を光で覆い隠す。

渡辺あやの脚本や大友良英の音楽はもちろんのこと、俳優・須藤蓮の初監督作品であるということが1つのこの映画への呼び水だとしたら、それはとても表層的な要素でしかない。

誰かに想いを寄せ、それを直接伝えられない歯がゆさそれ自体は、いつの時代にも等しく僕等を苦しめると同時に喜びでさえもあるということを改めて思い知らされた。

1970年代を意識し作り込まれた衣装のスタイリングの世界観もとても心地のいいものだった。

工藤司

工藤司
沖縄県出身。早稲田大学卒業後、ベルギーのアントワープ王立芸術アカデミーに進学。中退後に渡仏し、パリの「ジャックムス」でデザインアシスタント、「Y/プロジェクト」ではパターンアシスタントとして経験を積み、その後渡英し「JW アンダーソン」のデザインアシスタントを経て2017年に自身のブランドである「クードス」を立ち上げる。2018年にはウィメンズ「スドーク」をスタート。写真家としても活躍。今秋に出版事業「TSUKASA KUDO PUBLISHING」を始動し『TANG TAO by Fish Zhang』を出版。
https://kudoskudos.co
Instagram:@tsukasamkudo

Photography Kisshomaru Shimamura

『浅草キッド』
藤原新「クオン」創業者

ビートたけし(北野武)さんのファンで楽しみにしていました。監督・北野武としての作品はもちろん、小さな頃からビートたけしさんを見て育った世代なので。劇団ひとりさんが監督・脚本を務め、松村邦洋さんが演技指導をするなど、ビートたけしさんをリスペクトする人達が多く関わっているということで、どんな作品になるのだろうという期待感がありました。希代の芸人・ビートたけしという主人公を通した、師匠である深見千三郎の物語。印象に残ったシーンはたくさんありますが、ビートたけしさんを演じる柳楽優弥さんのタップダンスが映像としてもすてきだなと思いました。

KUON 藤原新

藤原新
メンズブランド「クオン」創業者兼株式会社「MOONSHOT」代表。2011年「1sin」を立ち上げ、2016SSシーズンより新たに石橋真一郎をデザイナーとした「クオン」をスタート。現在も法律に携わる仕事を継続しながら、さまざまな日本の伝統技術を結集したメンズウエアを提案し続けている。ブランドの公式noteも更新している。
https://note.com/kuontokyo2016
https://www.kuon.tokyo

author:

TOKION EDITORIAL TEAM

2020年7月東京都生まれ。“日本のカッティングエッジなカルチャーを世界へ発信する”をテーマに音楽やアート、写真、ファッション、ビューティ、フードなどあらゆるジャンルのカルチャーに加え、社会性を持ったスタンスで読者とのコミュニケーションを拡張する。そして、デジタルメディア「TOKION」、雑誌、E-STOREで、カルチャーの中心地である東京から世界へ向けてメッセージを発信する。

この記事を共有