#映画連載 岡本大陸「ダイリク」デザイナー コレクションを代弁するアメリカン・ニューシネマの3本から学ぶ服飾術

映画鑑賞は動画配信サービスの普及によって、もはや特別な行為ではなくなり、感想の共有やレコメンド検索も簡単になった。しかし、それによって映画を“消費”しているようにも感じる。本連載では、映画を愛する著名人がパーソナルなテーマに沿ったオススメ作品を紹介。“消費”するだけでなく、“吸収”し糧となるような作品を紹介していく。

今回登場するのは「ダイリク」のデザイナー、岡本大陸。バンタンデザイン研究所在学中に自身のブランドをスタートさせ、2016年のアジア ファッション コレクション(AFC)ではグランプリを受賞し、2017年2月のニューヨーク・ファッション・ウィークでランウェイデビューを果たした。東京を代表する若手デザイナーの1人で、毎シーズン自身の“ルーツやストーリーを感じさせる”テーマのもとコレクションを発表している。中でも映画は「ダイリク」を語る上では欠かせない着想源の1つ。今回は特にお気に入りのジャンルというアメリカン・ニューシネマから3作品を紹介する。1960年代後半から1970年代のアメリカの時代精神を代弁する作品群と当時の若者たちが放った鮮烈なメッセージは、半世紀を経て今の若手ファッションデザイナーにどんな影響を与えたのか?

映画にのめり込んだきっかけとアメリカン・ニューシネマとの出合い

小学生の頃、毎週末に父とレンタルビデオショップで5作1000円みたいなサービスを利用して映画のビデオを借りていたんですけれども、そのうち1作は、僕の好きなアニメとか人気のキャラクターもので、残りの4作は父が好きなスティーブ・マックイーンやブルース・リーの主演作だったり戦争映画でした。地元は奈良ですが、大阪の富田林市にある祖母の家で鑑賞していたんです。他に観るものがなくなると自然と父が選んだ作品にも触れるようになっていきました。

そういった経験もあって、高校3年から専門学校生になりたての頃は映画からインスピレーションを得ようと、新旧限らず興味のある作品はリサーチとして片っ端から観ていたし、その中で理不尽だったり、思い切り余白を残したり、観終わってから考えさせられるようなエンディングに惹かれて、特に古い映画にのめり込んだわけです。

『カッコーの巣の上で』

言葉にならない感動を受けたエンディングの脱走シーン

『カッコーの巣の上で』
Blu-ray ¥2,381/DVD ¥1,429 
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント

© 1975 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

高校3年の時に観た『カッコーの巣の上で』は、複雑な感情が入り交じったような例えようのない感動を受けました。特に掃除係の大男、チーフ(ウィル・サンプソン)がジャック・ニコルソン演じるマクマーフィーを窒息死させた後、「持ち上げた者には奇跡が起きる」という彼の言葉を信じて、水飲み台を持ち上げて窓を破り、精神病院を脱走するエンディングのシーンは言葉にならなかったですね。当時はハッピーエンド以外のエンディングが強烈に刷り込まれましたが、あとになって観直すと、物語に当時の社会問題に対するアンチテーゼだったり強烈な皮肉が込められていることも知りました。

好きな場面は、マクマーフィーが罰として電気ショック療法を受けさせられる順番を待つ間、耳が聞こえなくて、言葉も話せないはずの掃除係のチーフにガムを渡した時に「ありがとう」と返されるシーン。ネイティブ・アメリカンの血を引いているチーフが、マクマーフィーと同じように自我を殺して生きていることがわかるんです。病棟という狭いコミュニティーを牛耳っているのがラチェッド婦長(ルイーズ・フレッチャー)で薬とか規則で患者を縛っていて、この構図も他人に言えない秘密を互いに解放したというか、共有してわかりあうような気持ちも、今の時代にそのまま置き換えられるし、重なる部分が多い。当時から今まで共通している問題も各シーンに込められています。60年前の問題を未だに引きずっている世界とはなんなのかとさえ思うほどです。

実在したロボトミー手術も精神疾患の治療が目的ではありましたが、結局は廃人にされて心を停止させられる、ある種誰かに操作されるためのような印象も受けました。病棟という1つのコミュニティーが社会の縮図でもあって、今観直すと、当時の社会情勢を反映しているので、コロナ禍で聞くあらゆるネガティブなこととも重なりました。

『イージー・ライダー』

ファッション好きのメンズは誰もが通る道

『イージー★ライダー』発売中 
Blu-ray ¥2,381/DVD ¥1,410 
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 

© 1969, renewed 1997 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. 

ファッションを学ぶためにバイカースタイルというキーワードから映画を探していた時に出合った作品です。完全にファッションを経由して観た映画ですけど、今はそれも踏まえつつ、もう少し広義で映画に込められた意味などを考えるようになりました。仮にコレクションを作る場合、創作の理由を深く考察するきっかけになりやすい作品だともいえます。

『イージー・ライダー』は特にメンズファッションに捉えられやすい。ストーリーというよりロードムービー特有のワイルドさ、男臭さなど、ワイアット(ピーター・フォンダ)とビリー(デニス・ホッパー)のスタイルに影響を受けた人も多いでしょう。映画自体はツーリングを見ている感覚で、冒頭の麻薬取引の描写にあまり意味がないですし、モーテルで露骨に宿泊を断られて焚き火を囲んで野宿するシーンも絵的にかっこいいという印象です。その次のシーンでパンクしたタイヤを修理するために、カウボーイ風の農家の小屋でバイクをいじっているんですが、隣では馬の蹄の手入れをしているんですね。昔と今(当時)を象徴するアメリカを対比している表現は気に入っています。ジャック・ニコルソン演じる弁護士のジョージ・ハンセンと出会ってからストーリーが動き出すのですが、衝撃のエンディングまでは出演者のスタイルに目がいっていました。

ただ、理不尽としか言いようのないエンディング、中指を立てただけで銃撃されるシーンは未だになぜ? という感情しか生まれてきません。ただ、観直しても理解できない場面も多いですから、僕にとっては難しい分類の作品なんです。歳を取るにつれて理解が深まっていく感覚もあるので、定期的に観続けようと思います。ちなみにステッペンウルフの「Bone to Be Wild」は車のCMの印象しかなかったです。これが元ネタなのかと答え合わせをしているような感覚でした。

『卒業』

ダスティン・ホフマンのアイビールックの美学

『卒業』
Blu-ray ¥2,000
発売・販売元:株式会社 KADOKAWA

アイビールックをテーマにしたコレクションを作るために、ダスティン・ホフマンのスタイルのリサーチとして出合った作品で、最初観た時は正直眠くなりました(笑)。ただ、主人公と同じ年頃でもあったので、親からの過剰な期待に反発する衝動や将来への漠然とした悩みなど、思春期特有の葛藤や不安は理解できて、好きな世界観ではあったので、何度か観返すうちにどっぷりハマっていきました。

まず、3作品中、『卒業』は一番理解しやすいストーリーではないでしょうか。今では、結婚式に花嫁を奪い去るというシーンは映画やドラマ、コメディに限らず何度も繰り返し表現されています。でも、普通に考えて百戦錬磨の人妻の誘惑に負けて、アバンチュールを繰り返すも、ふと彼女の娘とデートしたことから恋に落ちる。嫉妬した母親に恋路を邪魔されて別れた挙げ句、他の男との結婚式当日に娘を奪い去るというストーリーは斬新で、非現実的です。

中でも印象的なのはやっぱりエンディング。花嫁を略奪しバスに乗り込んでから2人がキョロキョロしだし、次第に表情が曇っていくシーン。愛する人と結ばれたにもかかわらず、先々を案じた時にこぼれた暗い表情のまま物語は終わります。ハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、2人の関係性が歪むくらい、その先をイメージさせる余韻がありますよね。完結型ではなく、投げかけ型の作品が好きなんですが、『卒業』も笑顔のままエンディングを迎えていたら印象に残らなかったと思います。テレビドラマなどでは何年後という描写も多いですが、個人的にはそうではなくプツッと切れているくらいの終わり方にそそられます。

ちなみに、作中のダスティン・ホフマンのナチュラルなテーラードジャケットとボタンダウンシャツにネクタイを合わせた、「これぞアイビールック!」というスタイリングとラストシーンのアノラックとポロシャツは、休日のお父さんを想像できる親近感が秀逸です。あと、ポスターにもなっているミセス・ロビンソン(アン・バンクロフト)が足の向こうにベンジャミン(ダスティン・ホフマン)が立っている写真も好きですね。もし、その写真がプリントされているカットソーがあればすぐにでもほしい。

アメリカン・ニューシネマの思想を軽やかにファッションに落とし込む

これまでのコレクションのテーマは映画に沿うものが多かったですが、洋服そのものから強烈にメッセージするのではなく、軽やかに表現してきたつもりです。前シーズン、『タクシードライバー』をテーマに据えた理由は単純にトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)のスタイルを見てほしいという思いから。反戦、反体制といった重いテーマで何かを投げかけるのではなく、僕が作ったファッションやスタイルが映画を観るきっかけになってほしいだけなんです。すでにその作品を観た人にとっても観直すきっかけになるといい。インスタグラムのDMで映画を観たというコメントをもらうとうれしくなります。僕が映画によって考え方が変わったように、ファッションがその映画に触れるきっかけになることが理想です。

author:

Dairiku Okamoto

1994年生まれ。奈良県出身。バンタンデザイン研究所ファッションデザイン学科在籍中に自身のブランド「ダイリク」を立ち上げる。2016年にはアジア ファッション コレクション(AFC)のグランプリを受賞し、2017年にニューヨーク・ファッション・ウィークでランウェイデビューを果たす。ブランドコンセプトは「ルーツやストーリーが感じられる服」で毎シーズン映画をテーマにしたコレクションを発表している。

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