イラストレーター兼デザイナーからミュージシャンへ。試行錯誤しながら音楽を楽しむ新鋭エレクトロニック・デュオ、Ooveenの音楽性

今や日本でもメジャーミュージックとしてヒップホップが認知されているが、そのカウンターとしてクラブシーンでは、ハウスやテクノ、エレクトロといったサウンドに注目が注がれている。そこで今回、注目するのは、女性2人組エレクトロニックデュオ、Ooveen(オーブン)。

イラストレーター兼デザイナーとして活動しているeryMakiko Yamamotoによって2020年に結成されたOoveen。ミュージシャンとしてのキャリアはほぼないにもかかわらず、結成してすぐの2021年夏にはセカンドアルバム『UCHU YUEI』をリリース。このアルバムは、音楽プロデューサーでDJのOlive Oil(オリーブオイル)と、画家でVJのPopy Oil(ポピーオイル)によるクリエイティブレーベル、OILWORKSからリリースされ、さらに音楽フェス「りんご音楽祭2021」にも出演を果たした。

なぜミュージシャンとしてのキャリアゼロの彼女達は、音楽活動をスタートさせ、瞬く間に活躍できているのか。心から音楽を楽しむ彼女達に、結成から自由な音楽性についてインタビューを行った。試行錯誤しながらも強い意志を持って突き進む2人の行先とは。

まるで料理を作ってるかのような実験しながらの楽曲作り

ーーまずOoveenの結成から聞かせてください。

ery:2020年の4月に結成したエレクトロミュージックユニットです。

ーーコロナ禍の自粛中に結成されたんですね。新型コロナウイルスが結成のきっかけだったのでしょうか?

Makiko Yamamoto(以下、Makiko):時期としてはコロナ禍でしたが、まったく関係ないですね。2人が出会ったのが、自粛に入る3、4ヵ月前だったんです。

ery:音楽を始めることに必死で、あまりコロナウイルスによる自粛前とか、自粛後とかは気にならなかったですね。

Makiko:とはいえ、結成2回目のライヴが配信ライヴになってしまいましたけど(笑)。

ーーOoveenというユニット名も珍しいですよね。由来は?

ery:お互いにミュージシャンとしてキャリアがあるわけではなく、出会った勢いで「私も音楽やってみたい」「音楽やろうよ」というぐらいの軽いノリで、ユニットを組んだので、自分達がミュージシャンだという意識もあまりなかったんですよね。

Makiko:そんな私達だったので、「どうやって一緒にライヴをしようか?」というところからスタートしていて。

ery:機材のボタンを押せば音がなるし、サンプラーも使えば曲になるし、ドラムパットを置けば見映えはいいかなとか。私達はそんなふうに試行錯誤してきました。なので、使う機材も持ってる楽器もどんどん変わっていけばいいし、最終的に歌だけになってもいい。そんな実験をしながらやっている感じが、キッチンで料理をしているようだったんですよね。そこから「キッチン」っていう名前や、他にも料理機材の名前などからユニット名を考えていきました。でもユニット名よりも先にライヴが決まってしまって、ユニット名の提出をしなくてはとなってしまったんです。それで、料理機材からオーブンって温める道具だから合ってるかもねって、LINEで決めました。本当は、ライヴだけの一時的な名前のはずだったのですが、お互いに響きが好きになって、今もそのままでいるって感じですね。

ーーそんな出会ってすぐノリでスタートしたOoveenですが、そもそも2人の出会いは?

Makiko:共通の知り合いのカメラマンがいて、その人がInstagramのストーリーズにeryちゃんが居酒屋でソロライヴをやっているところをアップしていたんです。それを観て、eryちゃんのことが気になっていたんですよね。その後、そのカメラマンがeryちゃんと当時、私が働いていた古着屋に来てくれて出会いました。

ーー1人で居酒屋でライヴですか?

ery:そうなんです。全然ライヴをやるような場所じゃない、普通に居酒屋。でもそこの店長が音楽好きで「なんでもいいからやってくれ」と頼まれてやっていたんです。私も音楽をやり始めたばかりだったので、居酒屋ぐらいしかライヴをやる場所がなくて。

Makiko:それから原宿の「ボノボ」で、私がバーテンをやっている日にライヴのオファーをしたあと、下北沢のライヴハウスに一緒に出ないかと誘ってくれたことからスタートしました。

ーーでは2人ともほぼ未体験でのスタートだったんですか?

ery:私は、小さい頃にピアノを習っていたり、高校生の頃にバンドをしていたことはありました。でも今のように機材をたくさん使って、DTM音楽のようなスタイルでやるのは、最近始めましたね。

Makiko:私も小さい頃ピアノはやっていましたが、それもやっていたというレベルではなくて。ちゃんと音楽を始めたのは最近です。DJからのスタートでした。

Ooveenのライヴの模様。ドラムパットとシンセを使ったライヴ

ーーそうだったんですね。ちなみにMakikoさんは、ドラムパットをたたいてますが、ドラム経験はあったのですか?

Makiko:1年ほどドラムを習っていたことはありました。でも「たたけます!」と言えるほどのレベルではなくて。eryちゃんがライヴに誘ってくれて、私に何ができるんだろうって考えた時に、ピアノシンセとドラムならできるかもと思ったんです。それから、 見映えがいいって理由だけで、ドラムパットをいきなり買って、使い始めました。

ーーとなると、立ち位置的には、ドラマーになるんですかね……?

Makiko:そうとも言えないですかね。シンセにもチャレンジしていて、ドラムマシンを入れて歌ってみたりと試行錯誤しているところなので。でもドラムパットを使った演奏は、定着しつつあります。

より多くの人に聴いてもらうためにだどりついた音楽もビジュアルも全部を含めたプロジェクト

ーー2021年の夏にはアルバム『UCHU YUEI』を発表されました。こちらはOILWORKSからリリースされていますよね。どういった経緯で?

Makiko:eryちゃんがメールを送ってくれたんです。

ery:そうなんです。2人で一緒にいる時に、せっかくリリースするならレーベルから出したいよねって話していたので。でもどうやったらレーベルからリリースできるかもわからないし、コネクションもなかった。だったら、私達が好きなアーティストが所属している国内外のレーベルにひたすらメールを送ってみようと。その中で日本だと、LISACHRISさんの作品をリリースしていたOILWORKSに一番注目していました。そうしたら、メールを返信してくれたのがOILWORKSだったんですよね。

ーーすごい! ちなみにレーベルからリリースしたいというのは、どのような意図が?

Makiko:ただ、たくさんの人に聴いてもらいたい、知ってもらいたい。本当にそれだけですね。

ery:音楽ってやっぱり誰かに聴いてもらわないと始まらない。作って出して、作って出してって、基本はそれしかできないとは思うんですけど、その活動をどのように見てもらうかっていうのは、しっかり向き合いながら活動したくて。それならちゃんとしたレーベルからリリースしないといけないなって思ったんです。

ーーでは、このアルバムについて教えてください。

ery:このアルバムは、音楽をやってきていない状態からスタートしています。どうやったらアルバムはできるのか、MVは作ったほうがいいのかとか、まさに試行錯誤しながら作りました。ただ、苦しくなったり、難しく考えすぎて動きが止まってしまうよりは、とにかく楽しくやろうって動きました。そんな制作活動が、“YUEI(=遊泳)”という遊ぶ雰囲気に近いなって感じて。それから、この感覚で制作してるのって、宇宙を漂っている感じに似ているなって思ったんですよね。

Makiko:収録された曲も意識していたわけではないのですが、スペーシーな感じが多いんですよね。チープな宇宙というか、昭和の宇宙というか。そう言ってくれる人が多いです。

Ooveen 「Check Check」

ーーアルバムのジャケットやMVのバーチャルモデル感も印象的でした。

Makiko:もともと手作り感あるMVが私達は多かったので、それとの差別化も意識してCGを軸に制作しました。もちろん、今までのMVが嫌いとかそういうことではないのですが、とにかく変化をつけたいと思っていました。

ery:そもそも最初は、MV自体にあまり興味がなかったんです。でも音楽だけを聴いてもらうことはまだ私達には難しかったので、それならビジュアルでイメージ戦略するしかないかなって。それでしぶしぶ1曲目のMVを作ったんです。そうしたらMVを作るのが楽しくて、むしろ今ではMVを作ることも制作の軸になっているくらい。それで今回も試行錯誤しながらですが、CGにチャレンジしたくなって。私たちはイラストレーターのユニットでもあるので、イラストだけに縛られるのも嫌だなっていうこともあって、スタイルに変化をつけてみました。

Makiko:音楽だけのプロジェクトというより、音楽とビジュアルの全部を含めたプロジェクトがOoveenって考えたほうが、私達にはあってるのかなって思います。

Ooveen 「憂うつ NO MONEY」

ーーそれぞれのインスピレーション源についても教えてください。

Makiko:音楽も絵もそうなのですが、私のインスピレーションの源は、その辺に転がっています。日常やパーティシーンで聴いた音楽、そんな瞬間芸術が刺激になっていると思います。現場で出会ったカッコイイことをしている人からの影響も大きいですし、踊っている時にひらめくアイデアだったり、体験として感じるものから得るインスピレーションも多いですね。

ery:私が意識しているのは、Ooveenの制作においては、お互いが苦しくならないように2人で目指すトーンを言葉で決めすぎないようにしています。私は、Makikoちゃんが何をインスピレーションにしているかも知らないし、ほとんどお互いに放し飼い状態でやっていますね。

ーーお互いのスタイルを縛らずに制作していても成立しているのは、何か共通点があるんですか? 例えばルーツだったり、普段聴いている音楽など。

Makiko:好きな色や使いたい色が似ているのかもしれないですね。あとはJUDY AND MARYが好きなところですかね。ただ、私は古い曲を掘るのが好きで、eryちゃんは最新の曲を掘っています。そういう掘る音楽が真逆なところもおもしろいですかね。

ーー確かに新しさと懐かしさを感じる作風ですよね。

ery:MakikoちゃんはDJだから、ダンスミュージックやクラブミュージックを聴いているんですけど、そのMakikoちゃん周りのパーティに行くと、スマホアプリでは検索できない曲もあったりするんですよ。そんなMakikoちゃんのいる世界もおもしろいなって思います。

Makiko:私はアナログ人間なので、サブスクとかはやっていないんですよ。だから最新のものは本当に知らない。なのでeryちゃんに教えてもらっています。

ーー大きな共通点と言えば、2人ともイラストレーターですよね。その仕事は、音楽活動にどのような影響を与えていますか?

Makiko:私は、好きなDJのジャケットの絵を描かせてもらったところから、イラストレーターとしてのキャリアがスタートしています。だから直接、イラストがミュージシャンとしての入り口として開いたわけではないですけど、音楽と絵は私の活動では関連していますね。

ery:私の場合はイラストはイラスト、音楽は音楽と、それぞれ分けています。例えば、イラストだと、私の明るいとか楽しいとかそういうプラスな部分やポップさが出ていて、音楽だと、ちょっと暗い部分、アンダーグラウンドな要素が出ているんですよね。だから、私の中ではあまり音楽とイラストがつながらないんです。私のイラストを好きって言ってくれる人でも、私の音楽はあまり好きじゃないかもって言われることもあります。

ーー2人の異なる世界が音楽でつながっているのがOoveenの魅力かもしれませんね。最後に今後どのようなアーティストになっていきたいですか?

Makiko:私は音楽を通していろんなところに行けたらいいなって思いますね。おもしろい場所で、おもしろい出会いというものが、音楽を続ける先にあればいいなって考えています。

ery:まだまだ未完成ですが、私達がいろいろな方法で音楽を楽しんでいることが多くの人に伝われば嬉しいです。だからこそ、私は好きな音楽を追求しながらも有名になりたいと思っています。まずは聴いてもらわないことには、何も起こらないので。

Ooveen
2020年4月結成。トラックメイカーのeryとDJのMakiko Yamamotoによるエレクトロ音楽ユニット。 2人ともデザイナー兼イラストレーターとしても活動する。 主に東京都内のクラブやライヴハウス、ギャラリーなどで活動を行っている。 脱力感、手作り宇宙感のあるサウンドが特徴。 2021年6月には、OILWORKSからアルバム『UCHU YUEI』をリリースした。
Instagram:@ooveen_music
Twitter:@ooveen
YouTubeチャンネル:Ooveenオーブン

Photography Takao Okubo

author:

大久保貴央

1987年生まれ、北海道知床出身。フリーランスの雑誌編集者、クリエイティブディレクター、プランナー。ストリートファッション誌の編集者として勤務後フリーランスに。現在は、ファッション、アート、カルチャー、スポーツの領域を中心にフリーの編集者として活動しながら、5G時代におけるスマホ向けコンテンツのクリエイティブディレクター兼プランナーとしても活動する。 2020年は、360°カメラを駆使したオリジナルコンテンツのプロデュース兼ディレクションをスタート。 Instagram:@takao_okb

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