コント作家オークラが語る、カルチャーとコントの融合を目指したあの頃と、お笑いシーンの現在地——前編

バナナマン、東京03、おぎやはぎ、ラーメンズ、バカリズム——日本を代表する東京のコント師達と共に過ごした青春の日々を綴った自伝『自意識とコメディの日々』(太田出版)を上梓した、コント作家オークラ。笑いの才能に溢れる同世代の芸人達と、作家という立場で関わりながら、目指したのは「カルチャーとコントの融合」だった。そんな彼の眼に映る、現在のお笑いシーンはいかに。

インタビュー前編では、現在のお笑いシーンからコント師と漫才師の違い、そして第6世代が持つ悩みについてなどを語ってもらった。

——『自意識とコメディの日々』はオークラさんにとって初の著書となりますが、本にまとめるのに、だいぶ時間と労力を費やしたみたいですね。

オークラ:かなり時間かかりました。もともとは雑誌『Quick Japan』で連載していたコラムなんですけど、本にするために1つ1つのエピソードを時間軸に並べ替えていたら、いろいろと思い出すことがあって。それに、せっかく1冊の本として出すからには、全体で1つの青春譚になるような仕上がりにしたくて、どこでライブをしたとか誰と会ったとか、事実だけを書くのではなく、その時に自分が感じたことや考えていたこと、感情や思考も書いたほうがいいなと思って、いろいろ書き加えていたら、ボリュームも増えていっちゃいました。

——当時の感情や考えていたことも、ちゃんと覚えていたんですね。

オークラ:最近のことはどんどん忘れちゃうのに、この本に書いた、自分が20代の頃、1990年代から2000年代のことって、すごく覚えてるんです。うまくいかないことや初めての体験も多かったし、毎日がキラキラしていたんでしょうね。

——本の中に登場する芸人さん達からの反響はどうでしたか?

オークラ:バナナマンと東京03はすぐに読んでくれて、とても喜んでましたね。普段はほとんどほめない設楽さんもほめてくれましたし、角ちゃん(東京03 角田晃広)は「まわりのみんなのことは詳しく書いてあるのに、俺のことはちょっとしか書かれていない!」って。ただそれは、僕の立場的に作り手の目線で書いているので、どうしてもネタのことやネタを書く人のことが中心になっちゃうんですよね。

——1990年代〜2000年代と比べて、今はお笑いのシーンがものすごく大きなものになっています。

オークラ:芸人の数も、お笑いを目指す人の数も増えましたし、なにより世の中の芸人に対するハードルがだいぶ低くなりました。僕らの頃はまだ、芸人というのはヤクザな水商売みたいなイメージがあって、そこがまったく変わりましたね。それと、僕らが若手の頃って、テレビで活躍しているお笑い芸人はスターしかいなかったんですよ。タモリ・さんま・たけしのBIG3しかり、とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンといった。それが今では、バラエティで活躍する中堅もいれば、若手芸人が毎日のようにテレビでネタをやっていて、世間の人達にとって、お笑いが相当身近なものになったと思います。

——本では東京のコント師達について書かれていますが、今でもシーン全体としては、関西圏出身の漫才師のほうが勢力としては大きいように思います。

オークラ:そうですね。なので、この本に書いた東京の芸人によるコントライブに影響を受けた下の世代、ザ・ギースやラブレターズ、かが屋あたりは、だいぶ気持ちを入れて読んでくれたみたいです。「やっぱり俺達はコントをやり続けるしかないんだ!」的な感想をもらいました。というのも、いまだに東京のコント師達は、自分達の思い描く理想像と、世間からの受け入れられ方のギャップに悩んでいるんですよ。僕らより下の世代のコントシーンは、シソンヌだけが商業的に成功している状態で。あの天才・岩崎う大のかもめんたるですら、「劇団かもめんたる」を結成して新しいチャレンジはしながらも、コントやネタだけで売れているわけではなく。救済措置と言ってはおこがましいですが、何か力になれないかなと思って、この本を書いたところもあります。そもそもコント師って、常に「何のためにコントをやってるんだろう」って、迷うし、悩んじゃうんですよ。東京03やバナナマンでさえも、ずっと悩んでましたから。

——なぜコント師は悩みがちなんでしょうか。

オークラ:最終的には、純粋に「ネタ」というものだけで勝負するのが厳しい、っていうことなんですけど。コントの位置付けとして、バラエティで売れる前の芸人がやること、っていうイメージがあるじゃないですか。そうではなく、コントという表現それ自体がエンターテインメントとして世の中に認められて、同時に、コントを続けることで十分な対価を得られるような環境を作っていかないといけない。この本のもうひとつのテーマは、それを世間に伝えることなんです。

コントライブはブランディングの場である

——改めて、オークラさんの考える、漫才師とコント師の根本的な違いについて聞かせてください。

オークラ:漫才というのは、漫才師である本人の人格がベースにあるので、テレビでの活躍に直結しやすい。バラエティ番組のトークにしても、キャラクターを認知されるにしても。テレビはもちろん、最近はYouTubeでさえも、基本的にメディアは不特定多数の人達に訴えかけることを求められているので、漫才師と相性がいいんです。

一方、コントというのは、価値観や文脈を共有できる特定の人達に訴えかけるものなので、ある程度まで人気と知名度を獲得すれば、そういう“わかってくれる”ファン達が観に来てくれて、評価もしてもらえるようになるのですが、そこまでたどり着くのがだいぶ難しい。まずはどうやったら「観たい」と思わせられるか。ブランディングがとても重要なんです。本にも書きましたが、例えばラーメンズはそれが抜群に上手かった。不特定多数の人に受け入れられることを目指さなくても、熱心なファンが全国に5万人いれば立派な商売になるし、1万人でもやり方によっては成立する。コントライブをやるからには、そういう仕組みから考えなければいけないのに、いまだに売れない若手芸人の下積みの場っていうニュアンスがある。ただ今は、ここまでコント師が増えてきて、この先ジャンルとして盛り上がる可能性は感じているので、国民的な大スターにはなれなくとも、コントだけで食べていけるようになってほしいですよね。

——コントがハイコンテクストな演芸であることを自覚しつつ、コントライブをブランディングの場にしていくことが大事である、と。

オークラ:盛り上がってきているとはいえ、現状まだまだコントにお金を払う人はそれほど多くありません。テレビでタダでも見られるものだし、そのテレビでやっているコントがおもしろい/おもしろくないの価値観の基準にもなっている。実際コントライブで披露されるコントは、テレビで放送されているコントとは異質のものなので、それを観るためにわざわざライブに足を運んでもらって、お金を払ってでも観たいと思わせるためには、コント師は上質なコントを作って演じるだけではなく、観る側のコントリテラシーを鍛えないといけない。コントシーンを成熟させるためにはどうしたらいいのか、それを考え続けた結果、まずは自分でやるしかないと思って、僕がバナナマンや東京03と一緒に何をやってきたのか。それがこの本に書いたことです。

ラーメンズとシソンヌの特殊性

——オークラさんを称して「第三のバナナマン」と言う人もいますが、芸人のブランディングには、やはり理解ある第三者の存在が必要なのでしょうか?

オークラ:それはいろんなパターンがありますね。本人がそれをやるパターンもありますし、どこまでどうだったのかは知りませんが、たとえばナインティナインにとってはフジテレビの番組『めちゃ×2イケてるッ!』が、もっと言えば番組の総合演出だった片岡飛鳥さんがブランディングをしたのではと思っています。バラエティ番組がそういう役割を担うこともよくあります。ただ、当時の僕らはテレビから相手にされていなかったので、自分達のライブでどうにかしないといけなかった。と同時に、テレビに出ないと正解とは言えない空気もまだあって。あの時期にラーメンズがあれだけテレビを拒否しながら認められていったのは、コントに対する意識がどんどん高くなっていった末にようやくたどり着いた、本当に特殊な事例なんです。

——ラーメンズにはオークラさんのような第三者的なブレーンはいなかったですよね。

オークラ:ラーメンズの場合は、小林賢太郎本人がその役割を担っていましたからね。彼自身がラーメンズの一番のファンであり、客観的にプロデュースもしていました。なので、ブレーンというよりは、小林賢太郎を支える、気持ちを高めてくれる存在のほうが重要だったんじゃないかと思います。

——今ブランディングやプロデュースができているコント師はいるのでしょうか。

オークラ:やっぱりシソンヌですかね。ただ、彼らもまた特殊で、より多くの人達に届けるために笑いを大衆化してきた吉本興業に所属していながら、作品性の高いコントをやり続けて、ちゃんと評価もされている。そんな環境の中で、あのコントを続けてきたっていうのは、まぁ特殊ですよね。

——吉本の劇場がいくつもあるにもかかわらず、シソンヌは下北沢の本多劇場で公演をやったりとか、どこで誰に向けてライブをするのか、かなり意識的ですよね。それは9,000円というチケット代にも表れています。

オークラ:僕らより下のコント師で、今シソンヌほど、しかもその値段で本多劇場を連日満員にできるコント師は、正直いないと思います。だから独壇場なんですよね。

——シソンヌのお二人は1978年生まれなので、オークラさん達より1つ下の世代になります。

オークラ:1つ下の世代だと、オードリー若林、南海キャンディーズ山里、キングコング西野、ピース又吉、ウーマンラッシュアワー村本、このあたりの世代ですね。僕らの世代はまだ、舞台のコントシーンを作ることにエネルギーを使っていましたが、1つ下になると、テレビ業界のピラミッド構造が変わっていないこともあり、ネタ番組はあるにせよ、自分達が主導権を握って中心になれるお笑い番組にあまり恵まれなかったと言える世代です。そのため、「芸人として自分はこの世界で何をすべきか?」と思い悩みながら、今あるお笑い界のルールに縛られず、どうにか別の場所で戦おうとしている、自分達なりに前に進もうとしている芸人が多い印象ですね。

後編に続く

オークラ
1973年生まれ。群馬県出身。脚本家、放送作家。バナナマンや東京03の単独公演の初期から現在まで関わり続ける。主な担当番組は『ゴッドタン』『バナナサンド』『バナナマンのバナナムーンGOLD』など多数。近年は日曜劇場『ドラゴン桜2』の脚本のほか、乃木坂46のカップスターウェブCMの脚本監督など仕事が多岐に広がっている。

『自意識とコメディの日々』 著者:オークラ

■『自意識とコメディの日々』
著者:オークラ
価格:¥1,760
発行:太田出版
https://www.ohtabooks.com/publish/2021/12/02143328.html

Photography Masashi Ura
Edit Atsushi Takayama(TOKION)

author:

おぐらりゅうじ

1980年生まれ。編集など。雑誌「TV Bros.」編集部を経て、フリーランスの編集者・ライター・構成作家。映画『みうらじゅん&いとうせいこう ザ・スライドショーがやって来る!』構成・監督、テレビ東京『「ゴッドタン」完全読本』企画監修ほか。速水健朗との時事対談ポッドキャスト番組『すべてのニュースは賞味期限切れである』配信中。 https://linktr.ee/kigengire Twitter: @oguraryuji

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