空気階段のコントに内在する“人への優しさ” 単独ライブ「anna」で見せたコアな部分

2020年の「キングオブコント」で3位になるなど、笑いの実力が高く評価されているお笑いコンビ空気階段。コントの実力はもちろんのこと、借金などのエピソードから“クズ芸人”とも呼ばれる鈴木もぐらと、女装姿が一部で人気の水川かたまりという個性が際立つ2人。彼らのコントでも少し変わった人が登場するが、その根底には“人への優しさ”がある。それは2人が影響を受けてきたザ・ブルーハーツや銀杏BOYZのように。

2021年2月に開催された第4回単独ライブ「anna」は、もともと2020年3月に開催を予定していたが、新型コロナウイルスによる影響のため延期となり、その後8月の振替公演も中止。そして、当初の開催予定から約1年後、念願の単独ライブの開催に至った。ライブチケットは即完売、オンラインチケットの販売も1万枚を超えるなど、SNSでも大きな話題となった。

彼らのラジオ番組『空気階段の踊り場』(TBSラジオ)も土曜日の27時30分から月曜日の24時に移動し、30分から1時間番組になるなど、ますますその人気は高まっている。今回、「anna」が5月19日にDVD化されるのに合わせて話を聞いた。

※インタビューには「anna」のネタバレに関わる部分も含まれています。

空気階段
水川かたまり(右)
1990年7月22日生まれ、岡山県出身。趣味は、読書、散歩、フットサル、絵本を読む、totoサッカーくじ。特技はヨーロッパサッカーの知識が豊富(全選手を覚えている)、人の血液型を当てる、テトリス。NSC東京校 17期生 Twitter:@kkkatmari

鈴木もぐら(左)
1987年5月13日生まれ、千葉県出身。趣味は将棋、卓球、漫画を読むこと、公園でのんびり過ごすこと、麻雀、音楽鑑賞、居酒屋巡り。特技は将棋(アマチュア2段)、麻雀(アマチュア4段)、縄跳び(三重跳びできます)、卓球(中学時代千葉県ベスト16)。NSC東京校 17期生 Twitter:@suzuki_mogura

オフィシャルサイト「空気階段の屋上」
https://www.kukikaidan-okujo.com

YouTubeチャンネル「空気階段チャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCMdLfSBEmAHXfjzG8nNwzxA

コントにおける役割分担は固定しない

——配信後のSNSでの評判もあって「anna」の配信チケットの売り上げ枚数が最終的に1万枚を超えました。想像していたよりも売れたなっていう感じでしょうか?

鈴木もぐら(以下、もぐら):驚きましたね。そんなに観てくれるとはありがたかったです。

水川かたまり(以下、かたまり):なんかラジオで目標枚数を言う時に5万枚とか2兆枚とかふざけて言ってて、最初は自分でも冗談だったのに、だんだんそういう感覚になってきちゃって、1万枚と聞いても「なんだ1万枚か」なんて思ったりもしてしまいましたが(笑)、でもめちゃめちゃありがたいです。

——普段のコントもそうですが、もぐらさんが変わった人をやって、かたまりさんがつっこむようなネタもあれば、逆の役割になるネタもあっておもしろいですよね。特に「コインランドリー」のネタは、どちらが洗濯機の中に入るか決まってなかったそうで。

かたまり:あれは結構前に、郵便ポストに入るネタがあって、そんな感じのネタをまたやりたいということから作り始めて、洗濯機で心の洗濯もするようなものにしようと作っていったネタなんです。

もぐら:最初からどっちがやったほうがいいか決まってるネタもあるんですけど、あのコントはそれがないまま作った感じです。

かたまり:単独って1時間半から2時間くらいあるから、ずっと1人がおかしな役割をやり続けるのも難しいなというのもあります。

——リハーサルをやってみたらすごく長くなり過ぎて、本番前日に時間を削るのが大変だったとラジオで話されていましたが、どういうところを削ったんですか?

かたまり:それは単純に物理的な問題で、着替えがこの時間内では間に合わないとかそういうことだったんです。

もぐら:ネタとネタの合間が長かったんですよね。単純にテーブルはいらないなとか、洗濯機は何個もいらないなとかセッティングにかかる時間を削っていきました。

かたまり:リハーサルをやってみたら長くてびっくりしました。ほんとはリハをする前に確認をしないといけなかったんでしょうけど。逆に、笑いどころの修正みたいなものは、初日の反応を見て変えたところはありました。

——かたまりさんは、単独の前に、テレビドラマ『でっけぇ風呂場で待ってます』で脚本も手掛けられて、その経験が「anna」に役立ったと聞きました。

かたまり:確かに聞かれて「活かされた」って答えたんですけど……。

もぐら:嘘ついたってこと?

かたまり:コントに影響ありますかって言われて、そうですねって……。でも、ドラマの脚本を書いてる時に、ドラマのスタッフの人達に意見を聞いたら「ここはお芝居を深掘ったほうが全体のストーリーも見やすいし、笑いどころも映えますよ」とかそういう風に教えてもらったので、確かに活かされてますね。

ラジオ愛が詰まった「anna」

——タイトルでもあり、最後にやっていた「anna」のネタですが、このネタを軸にしようと思ったのは?

もぐら:これはけっこう早めに案が出てたんですよ。それに僕らがラジオ好きなので、最後に持っていったところもありますね。あと、展開を考えても長くなるのはわかっていたので、最後にしか持っていけないということもありました。

——いろんなネタが最後に向かってつながるように作ったことはどういう意図がありましたか?

かたまり:単純に生きていて、後で考えたら、これとこれがこうなってつながってたなってわかるってことあるじゃないですか。僕自身がそういうことが好きなので入れたいなと思いました。日常でどうしようもないこと、自分のせいじゃないことが重なってるという感じが好きなので。全体を見ると、がっつり絡んでないこともあるんですけど、やっぱりそういうのって見てる側だとしても好きなので。

もぐら:でも無理やりつながる感じは変なので、基本的には全部のコントは、つながりとかを考えないで1本ずつ完結するように作って、出来上がった時に、「こことここをつなげたらおもしろいよね」ってアイデアを出し合って、何かつなげられる部分を見つけていくという感じですかね。

——さきほど、もぐらさんも「ラジオが好きなので」と言われてましたが、コントを見ててもやっぱりそれが伝わりました。お2人にとってラジオってどういうものですか?

かたまり:ラジオって人との距離が近いなというのはありますよね。僕も『爆笑問題カーボーイ』を聴いてきて、やっぱりテレビでは話さない思いについてラジオだとがんがん話してくれる。聴いている側として考えても、すごい距離が近いなって。自分にだけしゃべってくれている感覚はありますよね。

もぐら:テレビは開かれてるから「公園」みたいな感じがあるんですよね。でもラジオは「秘密基地」的というか。「電波」っていう見えないものが飛んでいて、チューニングで合わせることでその「電波」を見つけたら、大人の人が表には出せないような話をしているということにワクワクして、そういうところからラジオに入っていったと思います。

——実際に自分がそのラジオのパーソナリティーになってからはいかがですか?

かたまり:なんとか一日でも長く続けられるようにということで必死です!

——でも、『空気階段の踊り場』は4月から月曜日24時から1時間の放送になったりと、順調ですよね。

かたまり:本当にありがたいですね。放送時間も30分から1時間になったので、いろいろと話せるようになってうれしいです。自分達の好きな曲をかけられるようにもなりましたし。

良い面は誰でも持っているはずだから見た目だけで判断しない

——「anna」のコントの中のラジオDJチャールズ宮城にしても、コントに出てくる人、みんな少し変わっているけど、その一方で、どこか憎めない愛らしいところがありますよね。

かたまり:そうですね。全く理解できないことってやってないと思うので。自分達の中で、どっか共感できたり、そうだよなっていう感覚があるからネタにしてます。まあヤバい人はヤバい人ではあるんですけど、完全に受け取る側をシャットダウンさせるような感じではないのかなと。もしも、こういう人がいたら、こういう対応をしてしまうのかなという感覚を描いてます。

——ギリギリの境界を見せるネタの中でも、空気階段さんのコントって、ハッピーエンドに向かってたりすると思うんですが。

かたまり:ギリギリをうまく見せられたらめっちゃおもしろいですけど、悪意みたいなものを、みんながおもしろいと思えるようにするのはすごく難しいので、その技術がないからというのはあるかもしれません。

——とはいえ、ギリギリの人間のせつない感じはけっこう伝わってきて、「anna」の中で、最初のほうにあった「27歳」というネタに出てくる、もぐらさんが演じる「カメちゃん」にしても、「コインランドリー」でかたまりさんが演じた「マキムラ」にしても、やっぱりどっか良いところもありますよね。空気階段の笑いの根底には人への優しさが感じられます。

かたまり:マキムラもああ見えて実は普段はちゃんと仕事してますからね(笑)。

もぐら:良い面って誰でも持ってると思うんですよね。それを見た目だけで「この人近寄っちゃだめよ」って遮断してしまったりして。もちろん、そっちのほうが危険は少ないのかもしれないけど、その人達だって本当に危険な人なわけじゃない。それは、実際に僕の地元にそういう人がいて、先生とかに「ああいう人に関わっちゃだめ」って言われたことがあるので。

かたまり:それに、自分がそっちの側じゃないとは言い切れないしね。誰しも、表面にそっちが出てきたら「関わっちゃだめ」って言われる側になるかもしれない。そういうことって絶対あると思うんで。

もぐら:うまく隠してるだけってこともありますからね。

——コント「メガトンパンチマンカフェ」の中で、「ミスターアイホープ」が言っていた「こちらから見たら正義だけど、もう一方から見たらそれは悪だ」というセリフが印象的で、空気階段さんはそういう見方を意識しているのかなって思ったんですが。

もぐら:立場と状況で変わったりするということですよね。正解はこれだって決めるほうが難しいということをミスターアイホープが……。

かたまり:教えたかったのかもしれないですね。

もぐら:世の中の人、全員が変だと言えば変ですからね。

「漫才は照れる」

——「anna」を見て、コントの良さを再認識したんですが、お2人にとって「コント」とは?

もぐら:「コント」は「コント」なんですけど、その中で1個の物語が作れるところですかね、僕が好きなのは。

かたまり:難しいんですよね。良さを語るのって。実はNSCの時に漫才をやって怒られて、それでコントをやってるところもあるので……。

——漫才をするのが照れるというのも聞きましたが。

かたまり:はい。照れます。

もぐら:それもコントばっかりやってるからなんでしょうね。ずっと醤油ラーメンでやってるのに、急に味噌ラーメン出しますというのは照れるってことなのかもしれないですね。

かたまり:それと、単純にお客さんの顔が見えている状況ってのがコントにはないので。

もぐら:技術もありますよね。最初から客席も含めての世界なので。

かたまり:漫才が、舞台に出ていく時にお客さんを惹きつけて「さあ見てください」って感じなのと、コントはひっそり始まって「よかったら見てください」という感じというか。

——それで思ったんですが、お2人って前説とかやられたりは?

もぐら:何回かあります。

かたまり:お客さんより僕らが緊張していて。

もぐら:お客さんはこの番組を楽しみにしていて、このために休み取って来てる人もいるだろうし、スタッフさんもいろんなこと考えて番組作ってて、それを照れて声が出せないなんてことじゃいけないと思ってやってました。でも、そこまで考えてやんないとできないくらい照れちゃうというのはあるかもしれません(笑)。

——最後に、「anna」のDVDが発売されるということで、DVDについても一言いただけたら。

もぐら:僕らはDVD世代だし、芸人としては、やっぱりDVDを出したいという、憧れがあるんですよね。

かたまり:僕も大学やめてからなんもしてない時にレンタルDVDを観まくって、それに救われました。今回の特典でいうと、ラジオのディレクター(越崎恭平)さんが勝手にビデオを回してくれていた記録映像が、けっこうなボリュームで特典としてつきます。

もぐら:なのでそれを楽しんでもらえたらと。あとは、DVDになると、カメラ割り、カット割りも入ってくるので、劇場で観た人も楽しめると思います。

■『空気階段 単独ライブ「anna」』
第4回単独ライブ「anna」の公演を初めてDVD化。
発売日:2021年5月19日
本体価格:¥3,850
https://www.tbsradio.jp/562457

空気階段 単独LIVE「anna」
@kuki_tandoku

『空気階段の踊り場』
Twitter:@kuki_odoriba

Photography Takahiro Otsuji(go relax E more)

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author:

西森路代

1972年、愛媛県生まれ。 ライター。 大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。 派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。 Twitter:@mijiyooon

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