ジーク・ヘミによる「コンスタント・プラクティス」 「Y2K」のトレンドと進化し続ける洋服・デザインへの視線

現在の若者が注目している未来には驚くほどの過去が存在している。2021年にアメリカで最も興行収入が大きかった映画は、新『スパイダーマン』で、日本では『エヴァンゲリオン』だった。昔から存在する作品であるものの、若い客層からは斬新な作品として捉えられている。ファッションでも、20年ルールのように、1990年代から2000年初期のスタイルがZ世代の格好のインスピレーション源となっている。自然と多くのブランドがその流れに乗り、ニューヨークの街中でも、フレアパンツや厚底シューズが席巻している。さらに元ネタであるオリジナルアイテムがメインストリームになっていることにも気付かされる。カニエ・ウェストも最新のアルバムで、「ディオール」のジャケットではなく、ジュンヤ・ワタナベがデザインした昔のレアな腕時計についてラップしている。

そんな中、ジーク・ヘミが率いる「コンスタント・プラクティス」のInstagramは、ディテールアディクトなファッションファン(セレブリティー、インフルエンサー)による12万人強のフォロワーを得ている。投稿は、販売している洋服のモデルをヘミ本人がほとんど行っているが、アヴァンギャルドなファッションとヴィンテージ・アウトドアギアのエキスパートならではのユーモアを感じ取ることができる。彼の世界観やそれを象徴する数々のアイテムをさらに詳しく知るためにこれまでの経歴や、ショップ、そしてファッションに対する考えについて話を聞いた。

チャレンジのためのファッションと空間

−−今はバージニア州のリッチモンドに店舗を構えていますが、以前はフィラデルフィアにあったんですよね?

ジーク・ヘミ(以下、ヘミ):そうです。以前はフィリー(フィラデルフィア)にあって、その前はニュージャージー州のホーボーケンにありました。1人目の娘が生まれるタイミングで、家賃も安いし、フィリーに場所を移したんです。ニューヨークあたりは生活費が高いですからね。フィリーのあとは親族が多く住んでいることもあって、リッチモンドに引っ越したんです。もう1年が経つけど、今の場所に満足していますよ。ダウンタウンにオフィスも構えています。ここを見つけるのに6〜7ヵ月くらいかかったと思います。おそらく、狭いと感じるまでここで過ごすと思いますね。ただ、たくさん洋服があるし……46.5㎡しかないので、広い場所とは言えないですし、すべての洋服をハンギングするには狭すぎます。今は工夫して場所を確保しているところです。

−−以前はホーボーケンを拠点にお仕事をしていたとのことですが、ホーボーケン出身なんでしょうか?

ヘミ:幼少期はケンタッキー州のルイビルに住んでいて、大学からホーボーケンに引っ越したんです。昔からなんとなくファッションに興味はあったんですけど、大学を卒業してから自由な時間が増えたせいで、さらにのめり込みました。在学中はずっとサッカーをやっていて、チャレンジすることを楽しんでました。ビジネスもチャレンジの連続ですしね。2016年頃にアーカイヴストアが増え始めたんですが、当時も今もとても意識しています。どこにもないユニークなアイテムを取りそろえていて、誰もが行きたいと思えるようなショップにしたいですから。

−−初めて扱ったアイテムは「アンダーカバー」だったそうですが、ブランドのどういったところに惹かれたんですか?

ヘミ:当時「アンダーカバー」はとても人気があったんです。もちろん、今でもすごく人気ですけど、リユースにおいて、ほとんどのショップがアーカイヴのアイテムを押している中、「アンダーカバー」はメインブランドの1つでした。2015〜2016年頃は「アンダーカバー」「ラフ・シモンズ」「ヘルムート・ラング」が最も人気でした。この3ブランドが、アーカイヴ・ブームの火付け役。「アンダーカバー」は、見慣れたものに一捻り加えたようなデザインを展開していますよね。残念なのは、僕の身体が大きかったせいでどのアイテムもサイズが合わずに、着られなかったこと。アスリートのような体型なんです。それから他のブランドで自分が着られるアイテムを探すようになって、「C.E」「ヨウジヤマモト」「イッセイ ミヤケ」や「コム デ ギャルソン・オム」は、比較的大きいサイズ感のアイテムも多いので着られたんです。特に「ヨウジヤマモト」のサイズ感は気に入っています。

ショップでは、最初「アンダーカバー」をメインに扱って、徐々に「C.E」を販売するようになって、2016年にグレイルドに「C.E」を卸し始めたんです。その半年後に、一度ショップの方向性を考えて販売を止めてしまったんですけど。自分でもなぜ止めたのかわかりません。そのまま続ければよかったのに、何か新しいことをしなければいけないと追いかけられていたのかもしれません。でも、さらに半年経って、事業を再開して、「ヨウジヤマモト」「イッセイ ミヤケ」「コム デ ギャルソン」のみを販売するようになったんです。当時のマーケットでは「ラフ・シモンズ」「ヘルムート・ラング」「アンダーカバー」の3強でした。ただ、いつかピークは過ぎるものと考えていたし、3ブランドが個人的に大好きだったので、特に気にしていませんでしたね。今でもたくさん集めていますよ。自分用のコレクションと販売するためのものの両方あります。

「コム デ ギャルソン」に関しては、比較的集めやすい価格だったのと、「イッセイ ミヤケ」も当時は、そこまで売買される数量が多くなかったんです。「ヨウジヤマモト」はすでに人気でしたし、価格も高かったですね。「アンダーカバー」のジャケットはだいたい450とか500ドルで売れるけど、「ヨウジヤマモト」のジャケットはその価格で仕入れとなる。ビジネスで考えるとリスキーですけど、もし、売れなければ僕が着ればいいというくらいに考えていました。

レアなブランドのアイテムを集めて売る意味

−−ショップの運営をストップした期間で、仕入れた洋服のアーカイヴを販売すること以外に活用しようと思ったことはありましたか?

ヘミ:ブランドの歴史や背景を人に伝えたりという意味ですか?

−−はい。

ヘミ:そうですね。やりたいと思うんですけど、今はとにかく時間がないんです。最近で言うと、「マンダリナダック」が挙げられるかな。他のブランドのアイテムも集め出したんです。だから、今後取り扱うブランドに関してはパッケージ化して、よりそのブランドの世界観を組み込んで展開していくことを検討しています。「マンダリナダック」はブランドの情報があまり出回っていないので、ブランドの全体像が伝わるようにしたいですね。店頭では1つのブランドのアイテムを集約した売場を作る予定です。ブランドのイメージがそこまでネットに掲載されていなくても、店内で100点以上のアイテムを目にすれば、世界観を理解しやすいですよね。

僕の仕事は、質の良いヴィンテージブランドの世界観を伝えることであるとも思っています。昨日も顧客と話していたんですけど、ブランドのどこに魅力を感じるかによってどの程度の対価を支払うかが変わってくる。「マンダリナダック」に関して言うと、クオリティーの高いアイテムを作り続けていること、生地や肌触り、特徴的な柄に対価を支払うことになる。典型的ではないパターンとカッティングにもです。でも、ブランドの洋服をInstagramの投稿で見ても、その点に気付くことはできないでしょう。この特徴を画像で感じることはできないんです。生地を手に取って感じる必要があるし、カッティングやパネルを見せる必要があります。細かいディテールにブランドの魅力があるんです。しかも、これは機能性の話にもなってくる。意味が通じますかね?

−−コンスタント・プラクティス」はプロダクトのデザインや機能性、その他のディテールでアイテムの特徴を際立たせて、さらに重要視しているように見えます。

ヘミ:そう捉えてくれているんですね。正直、最終的に自分がやりたいことを追求していますが、常に目標としていることは、今、言ってくれたことです。毎日、着られるような便利で機能的なデザインでありながら、少し変わったディテールの洋服を探しています。自分のスタンスを言葉にしたことがなかったので、感謝します。

−−これから洋服以外のビジネスを手掛けようと思いますか?

ヘミ:ざっくり言うとデザインとかですね。おそらく、洋服に関することだと思います。僕は洋服持ちですし、それが今の自分の仕事なので、洋服が関係してくるはず。家具等、洋服以外にも興味はあるんですけど、のめり込むことはないですね。

すでに持っているブランドの他のアイテムを探したり、自分の世界観に合った新しいブランドを探したりすることに時間をかけています。最近だと「シーイング レッド」「ブライアン・ヒメネス」「パー・ギョーテソン」とか、ショップに合う新鋭のデザイナーやブランドを探しています……すごく時間のかかる作業です。1日8〜12時間くらいかけて探していますね。

未来に向けた“完成された”アイテム

−−シーイング レッド」や「パー・ギョーテソン」等のアイテムを売る時、今までリサーチしてきたブランドと一緒に売っていますが、新しいアイテムを取り扱う時に、将来性需要が高まるクオリティーなのかをどう見極めていますか?

ヘミ:取り扱っているブランドはすべて、コンセプトがしっかり定まっていて、それに忠実なんです。ブランドの精神を見出して、それに沿った商品を作り続けることはデザイナーにとってすごく難しいこと。「ブライアン・ヒメネス」は「リック・オウエンス」を思い出させます。「リック」よりもミリタリーの要素が強く、もう少しインダストリアルなデザインに仕上げたような感じかな……(笑)。カラーリングも素晴らしいですし、シルエットが本当に好きなんです。あと、ミリタリーに影響を受けたデザインのアイテムが多いので、「ブライアン・ヒメネス」はいつもミリタリーアイテムをリサーチして、参考にしているから個人的に共感できます。

「シーイング レッド」はユニークでグロテスクなデザインを展開しています。コアとなる定番アイテムが10パターンあって、使用する色や素材、表現が一貫しているんです。すごく難しいことですよね。カラーリングは1つのアイテムに5つの異なる色を混ぜ合わせていて、一般的にはうまくいかないように思えるけど、ブランドの世界観には似合うんですよ。色をよく理解しているからなんですよね。だって、フーディーのボディーの色を決めて、コントラストとなる色の糸で縫製して、さらに別の色の糸でも縫製するとうるさくなると思いませんか? でも、全体的にまとまりがある。「シーイング レッド」は新しいデザイナーのブランドですが、完成度の高さに気付かされました。特にグローブは最近のデザイナーのアイテムで完璧な商品の1つでした。もう1つは2019-20FWの「パー・ギョーテソン」のデジトワール・ジャケットですね。

−−ヘミさんが育ったのは1990年代ですよね? 最近の「Y2K」を懐かしむ感じやその時代からくるトレンドに関してはどう思いますか?

ヘミ:僕は1991年生まれなので2001年で10歳。「オークリー」はクールだと思うしたくさん持っていますよ。あと、(「オークリー」の腕時計“タイムボブ”を見せながら)これも「オークリー」だしね!

僕はトレンドを気にする時もあれば、気にしない時もある。キュレーションする形態のショップである以上、両方をそろえる必要があるんです。でも、常にトレンドを追うことはしたくない、こだわりを持てないことになりますからね。もし、アヴァンギャルドな路線を貫けば、コアな顧客基盤を築くことはできますが、それ以上の広がりを見出すことは難しい。でも、トレンドの両方を取り扱うことで、その中間層を見出すことができますし、後に、顧客の好みのスタイルが変わっても、別のブランドやアイテムに興味を持ってくれるかもしれないですから。

−−最後に、「マンダリナダック」のコレクションをリリースしたばかりですが、2022年のプランは何ですか?

ヘミ:ここ1年半の間に集めているブランドが他にもあるので、一部を今後リリースするかもしれません。少し秘密にしておきたいのですが。次にピックアップするブランドは、これまでよりもアイテムの情報をしっかり盛り込んで、計画的な発表をしたいと考えています。僕にとって新しい取り組みになるはず。この6〜7年間、別の仕事もしていたので、洋服の写真を撮って投稿する時間しかなかった。サブ的な位置づけでしたが、今はフルタイムの仕事になったので、ブランディングを考えたり、スケジュールを組んだり、より計画を立てられるようになってきました。突発的なアイデアも取り入れたいですがね(笑)。その方が真剣に取り組むことができると思っています。

ジーク・ヘミ
バージニア州・リッチモンドに拠点を置く、ヴィンテージや機能性、アヴァンギャルド、そしてアーカイヴ・ファッションのショップ「コンスタント・プラクティス」のオーナー。6年前から、自身のウェブサイトとInstagram、そしてユーズドのメンズ服の買い取りと販売を行うオンラインプラットフォームの「グレイルド」で洋服をコレクションし販売する。
https://Constant Practice.com/
Instagram:@constant_practice

Translation Ai Kaneda

author:

トビー レノルズ

ニューヨーク出身のライター。音楽や映画、アート、ファッション、そしてそれらが交錯する可能性等、幅広い分野に興味を持つ。現在、東京に在住。

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