広島のビーズとインドの刺繍が融合 伝統技術を現代的に再解釈するベルリン発「マナカ プロジェクト」

“サステナビリティ”は昨今のファッション業界で避けては通れないワードとなった。ブランドはより倫理的な生産方法に取り組み、消費活動も再考されている。もちろん、ファッションであれば独自のスタイルを追求したデザイン性がブランドに求められる。双方を両立させるため、80年という歴史を誇る広島の老舗ガラスビーズ「ミユキ」をメインビジューに、伝統技術と持続可能性を提唱しているベルリン発の「マナカ プロジェクト」。ドイツ人デザイナー、ステファニー・ブランクとヴァレリー・ティースマイヤが2019年にスタートさせたブランド。

殺虫剤や農薬を一切使用していない草木の中で育てられた蚕から採取される100%オーガニックのシルクをはじめ、生産から製造・販売まで、全工程の取り扱いについて定めた世界基準GOTS(The Global Organic Textile Standard)認証の生地を85%使用している。また、デザインの要となる「ミユキ」のガラスビーズは、インドの職人によって手作業で1針ずつ縫われ、複雑なグラフィックパターンの刺繍としてウェアを彩る。クラフトマンシップ、サステナビリティ、ファッションを融合させる「マナカ プロジェクト」。ブランドの理念や“サステナビリティ”への想い、日本のガラスビーズとの出会いについて聞いた。

コード化された複雑なグラフィックのパターンを実現する「ミユキ」のビーズ

−−ブランド名「マナカ プロジェクト」の由来は?

ステファニー・ブランク(以下、ステファニー):“Manakaa”はヒンドゥー語で“真珠”という意味を持ち、ブランドのメインビジューであるビーズを特徴付ける名称です。「マナカ プロジェクト」は単なるファッションブランドではないため“Project”を付け加えました。私達が目指しているのは公平性、透明性、環境保護を融合させたブランドなのです。

−−どのようなファッションを提唱していますか?

ステファニー:社会的責任を持ったラグジュアリーなスローファッション。豪華なビーズの刺繍とシンプルなカットのコントラストで、時代を超越したスタイルを生み出しています。

−−メインビジューである「ミユキ」のガラスビーズとの出会いとは?

ステファニー:ブランド創設前、世界中の装飾素材をリサーチしている時に知りました。GOTS認定のビーズは入手できないため、良好な作業環境と生産背景、伝統的な手法で製造されるビーズを探していたのです。「ミユキ」は4代目が経営する歴史ある家族経営の会社で、優れた品質と幅広い品揃えに特に惹かれました。

−−「ミユキ」の品質が他のビーズよりも優れている点とは何ですか?

ステファニー:正確に加工できる品質が伴っていること。私達が描くパターンはコード化された複雑なグラフィックのため、ビーズ1粒ずつのサイズ、質感、色などが非常に正確でなければなりません。さまざまなビーズを試して、満足のいく結果が得られたのは「ミユキ」だけでした。さらに、形や色の種類、特にマットビーズの選択肢は私達にとってデザインの幅を広げられる魅力的な点だったのです。

消費者が批判的な目を持ち、持続可能な側面について知識を深めること

−−ビーズの刺繍を施すのはインドの男性職人。クラフトマンシップにこだわった理由は?

ステファニー:「マナカ プロジェクト」の目的の1つは、伝統的な手工芸品の芸術を現代的に再解釈することです。私達は、インドの伝統衣装であるサリーに刺繍を施す職人に出会った時、この工芸品を全く新しいデザインとして取り入れることで素晴らしい作品を生むことができると興奮しました! 歴史に裏打ちされた技術によって、私達の理想とするパターンが緻密に正確に具現化されます。インドの刺繍でよく見られるような、花柄のカラフルなデザインではなく、シンプルでありながら精巧で、「ミユキ」のビーズとの組み合わせにより繊細なタッチに仕上がります。刺繍技術とビーズという、何世紀も前の工芸品とタイムレスなデザインの間に架け橋を築きたいと思って制作しているのです。現在メインビジューに使用しているガラスビーズはマットと光沢のある2種類で、ミニマルな配置の“CODE”、波打った“WAVE”、下に流れ落ちるような“RAY”の3つのデザインで構成しています。

−−環境に配慮した生地を使用したり、職人による手作業の刺繍を施したりする場合、コストが上がってしまうのが通例。品質に対して「マナカ プロジェクト」の製品はリーズナブルだと思いますが、価格帯についてはどのように決めているのですか?

ステファニー:ブランドの品質基準と理念は、製造プロセスに関与するすべての人々に、公正に支払いを行うことです。したがって、製品の販売価格は、通常の小売マージン率には基づいておらず、独自に算定しています。

−−現在の販売経路は?

ステファニー:2019年のブランド創設とともに自社ECを立ち上げました。サステナビリティに注力するハイエンドなプラットフォームからオファーがありましたが、パンデミックが起きて、B2CとB2Bの展開を保留せざるを得なくなりました。現在は各国の小売パートナーと話し合いを始めていて、ドイツ国内外でポップアップを開催する予定です。

−−ベストセラー製品はどれですか?

ステファニー:ピースシルク(成虫になる前の生きた蚕を茹でてしまうことがないよう配慮を加えて製造されるシルク)から作られたワインサイズのドレスです。着心地が良く、さまざまな組み合わせによって着用方法を変えられる、本物のオールラウンダーなドレス。私達は体のサイズを問わないシルエットやカットを探求しています。長く着られるという意味でサステナブルであり、「マナカ プロジェクト」のような小規模なブランドの場合、経済的にも利点があります。

−−昨今は環境に配慮したブランドが増える一方、グリーンウォッシングも問題となっています。このような市場の変化についてはどのように感じていますか?

ステファニー:ますます多くのブランドがサステナビリティに注力することは、とても喜ばしいことです。これは消費者の需要と意識が高まっている証明なのでしょう。ファストファッションの現象を止めて、品質と持続可能性への意識を再び高める時が来ています。サステナブルファッションは、高品質で洗練されたデザインと矛盾していないからです。

確かに、サステナビリティというワードは差別化されておらず、マーケティングの手法として使用されることがあります。ブランドはサステナビリティが市場で優位にあることを認識しているのでしょう。ファッション市場でのサステナビリティは生産または調達における持続可能な側面に焦点が当てられていますが、こういった生産背景はブランド全体の文脈でごくわずかな役割しか果たしていません。そのため、グリーンウォッシングを見分けるのは簡単ではないのです。唯一の方法は、消費者が批判的な目を持ち、実際の持続可能な側面について知識を深めることではないでしょうか。

−−最後に「マナカ プロジェクト」の今後の取り組みについて教えてください。

ステファニー:目標は、ECでの販売を促進し、次の半年間でいくつかのポップアップイベントを開催することです。もちろん、新しいコレクション、より多くのシルクプリント、そして「ミユキ」ビーズの新しい刺繍デザインにも取り組んでいます。嬉しいことにとても忙しいです!来年は、活動の幅をインターナショナルに広げていく予定です。

「マナカ プロジェクト」
ステファニー・ブランクとヴァレリー・ティースマイヤが共同創設者。ともに情報科学、心理学、ジャーナリズムを学んだ後、広告会社に勤めマーケティングと戦略的プランニングに携わってきた。ヴァレリー・ティースマイヤは法律を学び、NGO団体や文化管理機関でキャリアを積む。2019年に社会的責任と環境保護、そしてファッションという2人の共通する情熱を組み合わせた「マナカ プロジェクト」をスタートした。

author:

井上エリ

1989年大阪府出身、パリ在住ジャーナリスト。12歳の時に母親と行ったヨーロッパ旅行で海外生活に憧れを抱き、武庫川女子大学卒業後に渡米。ニューヨークでファッションジャーナリスト、コーディネーターとして経験を積む。ファッションに携わるほどにヨーロッパの服飾文化や歴史に強く惹かれ、2016年から拠点をパリに移す。現在は各都市のコレクション取材やデザイナーのインタビューの他、ライフスタイルやカルチャー、政治に関する執筆を手掛ける。

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