山形発のダンスが世界と繋がる アメリカンミュージックとダンスへの情熱から生まれた日本流のソウル&ワッキング

2月1日、アメリカ人の友人から「楽しんで!」というメッセージとともに、画像が送られてきた。それを見ると、MOGAというアジア人の女性ダンサーを中心に、女性たちがジェームス・ブラウンの『Gonna Have a Funky Good Time』に合わせて楽しそうに踊っていた。そのエネルギーに満ちたダンスに心揺さぶられ、彼女のことを調べてみるとソウル&ワッキングというジャンルのダンサーで数々のショーに参加しており、山形県天童市にあるstudio BEAT SURF天童のインストラクターとして子ども達にダンスを教えていることがわかった。翌日、彼女のTwitterを見ると「私のレッスン動画がなぜかTwitterやTikTokにも出現している件」とつぶやかれていて、件の動画がリンクされていた。本人の知らぬ間に、Instagramの投稿だけでも約6万回レビューされ、リール動画は46万再生を突破。TikTokでも「最高にかっこいい」と賞賛するポジティヴなコメントが溢れていた。なぜアメリカ人がこんなにMOGAのダンスに反応したのか、それはアメリカ人のライター、コメディアン、女優のワンダ・サイクスが「旧正月とブラックヒストリー月間の初日が同じ日になったら」とツイートしたことが最大の理由だった。サイクスは今年のアカデミー賞授賞式のホストの一人であり、誰しもが知るスターのコメントに連なるようにして、「素晴らしい文化の融合」「互いのカルチャーを祝おう」というコメントが拡散された。

サイクスが投稿したように、アメリカの2月はブラック・ヒストリー月間であり、今年の2月1日は、中国や韓国、ベトナム等の国が祝日として定めている旧正月だった。一方で、日本も(他のアジアの国と同じように)旧正月を祝う習慣があると勘違いされて広まったわけだが、たまたまMOGAが投稿した動画が海外で異なる解釈をされて拡散したという事実は、多文化主義を推進するアメリカならではの素晴らしい出来事だった。国や人種、文化等あらゆる違いがあることを認めて尊重し、協力してよい社会を作りたいと行動する人々の賜物ともいえる。

日本とアメリカがダンスでつながる瞬間の存在は些細なことかもしれないが、重要な気付きを多くの人にもたらしたのではないだろうか。MOGAに届けられた多くのコメントの中には、全米規模で行なわれる人気アイドルオーディション番組からも出演依頼があったという。ダンスで人生を楽しく豊かなものにしたいと思い、踊り続けていると語るダンサー・MOGAの魅力に迫る。

Wanda Sykes公式Twitter「@Wanda Sykes」より

好きなスタイルは、アメリカのダンス音楽番組「ソウル・トレイン」のソウルと、ワッキングを掛け合わせたソウル&ワッキング

−−まずはダンスを始めたきっかけと、現在までの活動を教えてください。

MOGA:小学生の時に安室奈美恵さんが好きで、テレビを見ながらまねをして踊り始めたのがダンスとの出会いでした。ある時、姉にダンスを見せたら「すごく上手い!」と言われて自信がつき、ダンスにどんどんハマっていきました。当時はまだストリートダンスのカルチャーの存在を知らなかったのですが、地元の秋田でダンス活動をしているクルーがいると知り、その方達のスタジオへ行きました。そこでストリートダンスをたくさん教えてもらったのですが、当時はYouTubeなどはなかったので、先輩から東京のダンサーのビデオテープを借りたり、アーティストのPVを見て、ダンスのテクニックを磨きました。ヒップホップをずっと踊ってきて、ソウル&ワッキングというジャンルを知ってからはずっとそれを踊っています。日本でもこのジャンルの有名なダンサーの方々が多くいるのですが、その人たちをそばで見ることでも刺激を受けました。

−−知らないうちに動画が広まって驚いたのではないですか?

MOGA:毎月レッスンの動画を撮影してSNSにアップするのですが、何気ない投稿が予期せぬところでどんどん広まっていました。すごい数の「いいね!」と少しずつフォロワーが増えていることに気付き、検索すると誰かが私の動画をいろんなところに拡散していました。私自身、ソウルトレインが好きで、1970年代に流行ったソウルダンスとその当時生まれたワッキングを融合した踊りとしてソウル&ワッキングを踊っています。ソウル&ワッキングは、日本人が「ソウル・トレイン」を見て、その中でワッキングのような動きをしているダンサーのスタイルを取り入れたものなので、本来のワッキングのスタイルではないと日本国内では評価されてきました。アメリカのワッキングのオリジネーターのスタイルは素晴らしいと思いますが、私はそれに影響を受けて生み出された日本スタイルのワッキングが好きです。

日本でワッキングバトルが流行り出したときに、私のソウルダンスとワッキングを融合したスタイルは、ワッキングではないと言われることが多く、葛藤があり悩ましい日々が続きました。最近では、オリジナルのワッキングスタイル(ロサンゼルスで1970年代のディスコ全盛期にLGBTQ+のクラブで発祥したストリートダンス)や、ソウルダンスとワッキングを混ぜたスタイルなど、多種多様なワッキングダンサーが増えてきて、日本国内でもワッキングはどんどん広まり人気になっています。

国や年齢を問わず、ダンスの楽しさ、魅力を世界に発信していきたい

−−本場、アメリカで評価されたことは深い意義もあったのですね。

MOGA:日本では評価されたり、されなかったりという状況があったのですが、それでも続けてきた結果と動画をアップしたタイミングが運良く重なった。オリジナルに忠実かどうかよりも、そもそもストリートダンスというのは自分らしさがあることが大事です。自分が好きなことをやっているかどうかが重要で、そうやって多くのダンサーたちは独自のジャンルを作り上げてきたはず。好きなダンスのオリジネーターに敬意を払いながらも、それを自分なりに進化させて表現することに意味があると思っています。

−−この2年でどのような変化がありましたか?

MOGA:コロナ前は休む暇もなくいろいろな活動をしていて、常に何かに挑戦し続けていました。でも、コロナ禍でイベントが全部なくなって時間ができたので、自分の将来の事をたくさん考えることができました。

踊れないというストレスもありますが、いいダンサーが育ってきているので、教える側に専念してもいいかもしれないと思うようになりました。生徒が出たいというのでオンライン開催の子ども向けダンスイベント用にふりを作ったりしました。現在は、実際にスタジオに来た人のレッスンをオンラインでも配信をしながら同時進行でレッスンをやっています。

オンラインでの活動が活発になったので、ダンスの映像作品を作って発信していきたいです。そして私のダンスや作品を見た人が、心動かされ、楽しい気持ちになったり、いい時間を過ごしたなと感じたり、自分も踊ってみようと思ったり、明るい毎日を過ごすことに繋がるきっかけになるなど、これからのその人の人生の役に立つ事ができたら、私は最高に幸せです。

−−今後は、山形から世界中とダンスで繋がれるんですね。考えるだけでもワクワクしますね。

MOGA:

BEAT SURF天童には、全国的に有名なダンサーが多く所属しているのですが、みんな地元を大事にしているので、山形を拠点にいろいろな場所へ挑戦し結果を残しています。それを見て感化される生徒がたくさんいて、積極的に挑戦するいいダンサーが育っています。

ダンス・カルチャーを盛り上げて、人生を楽しく生きていこうと考えてくれる仲間が日本中にいます。自由に移動ができるようになったら、日本国内だけでなく、海外にも行きたいです。これからも、国や年齢を問わず、ダンスの楽しさ、魅力を世界に発信していきたいです。見る人がパワーをもらえるようなショーを作れるようにこれからも頑張ります。

MOGA
studio BEAT SURF天童に所属するダンサー。現在は「アルストロメリア」「アンテイアス」を結成、リーダーとして活動している。18歳の頃にストリートダンスと出会い、ストリートダンスカルチャーのパワーと魅力に引き込まれていく。ソウル&ワッキングというダンスのジャンルを確立し、さまざまなダンスバトルで結果を残す。世界最高峰のストリートダンスコンテスト「JAPAN DANCE DELIGHT Vol.24、Vol.26」の東京予選で決勝進出。その他、全国各地でショーや審査員も務め、コレオグラファーとしても活動する。「自分らしくあること、自分だからこそ」をモットーにダンサーの育成にも力を注いでいる。
studio BEAT SURF天童オフィシャルサイト
Instagram:@moga_almeri

author:

NAO

スタイリスト、ライター、コーディネーター。スタイリスト・アシスタントを経て、独立。雑誌、広告、ミュージックビデオなどのスタイリング、コスチュームデザインを手掛ける。2006年にニューヨークに拠点を移し、翌年より米カルチャー誌FutureClawのコントリビューティング・エディター。2015年より企業のコーディネーター、リサーチャーとして東京とニューヨークを行き来しながら活動中。東京のクリエイティブ・エージェンシーS14所属。ライフワークは、縄文、江戸時代の研究。

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