NYで開催される北米最大の日本映画祭「ジャパン・カッツ」プログラマーが日本映画の独自性を問う

映画は、観客に全く新しい考えや感性を与えてくれる。映画祭は世界中で数え切れないほど開催されているが、ニューヨークで開催される「ジャパン・カッツ」は、アメリカ国内における現代日本映画を特集する代表的な映画祭の1つとして知られている。今回で15周年となる今年は、オンラインと劇場での上映となり、日本国内で評価の高かった映画も多くラインナップされている。本映画祭のプログラマーの1人であり、全米随一の規模を誇る日米交流団体、ジャパン・ソサエティーの映画部門副部長K・F・ワタナベに映画祭の意義とニューヨークにおける日本映画の評価や独自性を聞いた。

映画とグローバル・コミュニティの祭典「ジャパン・カッツ」

−−今年の「ジャパン・カッツ」のテーマと見どころを教えてください。

K・F・ワタナベ(以下、ワタナベ):大作、インディペンデント、ドキュメンタリー、ショートフィルム、実験、クラシックなど、バランスの良いラインアップを目指してセレクトしているため、テーマは特に設けていません。年間を通しさまざまな作品をリストアップし、吟味して、関連性を探します。今年は、ほとんどの作品をオンラインで上映しますが、いくつかの作品は劇場で上映します。劇場での上映は、約1年半ぶりになります。劇場で上映する作品は、観客が親しみやすく、大きなスクリーンで観ることの楽しさを感じられるものを選びましたが、偶然にもどの作品にも共通して“映画の楽しさ”というテーマがあることに気付きました。周防正行監督の『カツベン!』や松本壮史監督の『サマーフィルムにのって』など、映画制作や映画鑑賞の経験を描いた作品がいくつかありますし、劇場で映画を観るのに適したテーマだと思います。

−−具体的にどのように作品を選び、ラインアップを決めているのですか?

ワタナベ:年間を通して作品の選定をしています。映画祭は通常7月に開催され、8月は休み、10月には配給会社やフィルムメーカーから次の上映作品の募集が始まるので、作品選びは9カ月間行っています。秋には東京国際映画祭と釜山国際映画祭が開催されますが、どちらも日本の映画関係者が多く参加しているアジアの重要な映画祭です。この2つの映画祭に出品された作品を確認し、翌年2月以降はさらに忙しくなります。私は2014年からジャパン・ソサエティーで働いており、それ以来「ジャパン・カッツ」のプログラムは3人体制で行っています。私ともう1人の映画部門のスタッフ、そして外部のプログラマー、ジョエル・ネビル・アンダーソンと協働しています。

−−今回の映画祭で観客に伝えたいことは何でしょうか?

ワタナベ:毎回感じていることですが、観客の皆さんに映画を楽しんでもらいたいです。映画を観ることで何かを学んだり、挑戦したり、新しいお気に入りの映画監督を見つけたり、新しいことに触れて興味を持ってほしいです。

今年は特に、この映画祭が映画とグローバル・コミュニティの祭典になることを願っています。私達の映画への愛と興味を称えたいです。観客の皆さんには、オンラインか劇場上映かに関わらず、日本の映画を愛するコミュニティの一員であることを感じてもらえれば嬉しいですね。

日本のメインストリームで人気のジャンルは、ニューヨークでも評価が高い

−−ジャパン・ソサエティーでは映画祭だけでなく、年間を通じてさまざまな日本映画を上映していますが、先日は原一男監督の映画を1ヵ月にわたってストリーミング配信していました。 ニューヨークやアメリカの観客にとって原監督の作品の魅力は何でしょうか?

ワタナベ:映画監督の作品が、国ごとにどのように受け入れられているか、特に自国と海外との比較はいつも興味深いものです。日本の映画関係者の中には、自国よりも海外で高く評価されていたり、より重要な監督として認識されている方もいます。原監督が日本でどのように評価されているのかあまり知らないので直接的な比較はできませんが、原監督はアメリカの映画ファンが名前を挙げられる数少ない日本のドキュメンタリー映画の監督の1人です。原監督が注目され始めたのは、アメリカの映画祭で『ゆきゆきて、神軍』が大成功を収め、マイケル・ムーア監督とエロール・モリス監督というアメリカで最も有名なドキュメンタリー映画監督達に支持されたことも関係していると思います。

原監督の作品は大変魅力的で取り組み方も独特です。個人的なものと政治的なもの、観察的なものと直接行動的なものを混ぜ合わせています。1つの視点を提示しておらず、常にさまざまなものが絡み合っているため、鑑賞者は作品と対峙する必要があります。そういう意味では映画ファンにとっても専門家にとっても興味深い作品だと思います。原監督の作品について書かれた素晴らしい英語の書籍もありますが、作品を英語で紹介しているという点も海外での評価に影響していると思います。

−−日本映画の魅力や特異性は何ですか?

ワタナベ:日本映画の独特の魅力を言葉で表現するのは難しいですが、観た時に手応えがあります。日本の映画業界は非常に閉鎖的で、映画は主に国内向けに作られており全体的なアプローチが内向きなので、海外の観客が日本映画にアクセスしづらい現状があります。

日本映画らしいストーリーは、例えば、Jホラーやヤクザなどのジャンルですが、何度も観ていると日本映画特有の言語のようなものを意識するようになります。日本映画には独自の作業体系があり、特定の方法で制作する撮影班や監督らがいて、それが視覚的に表現されています。例外もありますが、日本映画の魅力や特異性をあげるとすればこのようなことがあげられます。

−−近年ニューヨークでは、伝統的なものだけでなく若い世代の日本文化も多く広まっています。これらの人気は、映画祭の作品選びに影響を与えていますか?

ワタナベ:時代劇や侍、食やかわいらしい猫をテーマにした作品は、根強い人気があります。日本のメインストリームで人気のあるユニークなジャンルは、ニューヨークにもファンが多いんです。ですので、先に述べたように、映画祭のラインアップは全体的なバランスを保ちつつ、そういった人気のあるジャンルの作品も積極的に取り入れていきたいと考えています。

例えば、時代劇は常に注目していて、観客が楽しんでくれることはわかっていますが、良い作品を見つけるのは難しいですね。2014年に北村一輝さん主演の『猫侍』という、ゆるいコメディを上映しましたが、圧倒的な人気がありました。また海外で人気があり、多分一番評価されている日本文化は、アニメです。米国ではすごく人気があります。私たちが、アニメ作品を上映するのはとても難しいです。米国ではアニメの配給権には別のルートがあり、良い作品は、ほとんどの場合、独自の上映計画を持っている米国内の配給会社が配給権を獲得します。ですから、映画祭とは関連性を持ちません。私たちは常にアニメに注目をしていますが、映画祭で上映をするのは難しいです。

観客は、自宅やシネコンではできない体験を求めて映画祭に来る

−−これまでの「ジャパン・カッツ」を振り返り、上映が実現しなかった作品はありますか?

ワタナベ:樋口真嗣監督と庵野秀明監督の大ファンなので、『シン・ゴジラ』の試写会と監督達の登壇を合わせて開催したかったです。それと一緒に、監督達が好きな怪獣・特撮映画を選んでもらい、映画祭のサイドバーのような形で過去の作品を上映できたらいいですね。東宝が許可を出さないと思うのでもう諦めています。『シン・ウルトラマン』も上映したいのですが、残念ながら実現していません……。

−−最近では動画配信サービスも普及し、劇場で開催する映画祭の集客は簡単ではないと思います。今後のプログラミングの課題は何ですか?

ワタナベ:最大の課題は資金の確保です。私は、世界で最も豊かな映画文化を持つニューヨークで、非営利団体として上映会を開催した経験しかありませんが、採算に合うほどの観客を集めるのは困難です。アメリカ政府から助成金を得る機会が少ないため、私達のような組織は、企業のスポンサーや個人の寄付に頼らざるを得ません。その結果、プログラムの整合性が損なわれることもあり、決して健全とは言えない状況です。また他に、Netflix、Amazon、Disneyといった巨大企業との競争があります。このような企業は、映画を深く掘り下げず、簡単に消費できるコンテンツと捉え、価値を低下させています。最悪の場合、家でインスタグラムを見ながらストリーミングするのと、映画館で映画を見るのは一緒だという誤った考え方を示していますが、それは全く違います。

その反面、良いニュースもあります。ニューヨークでは、オリジナルの映画プログラムに興味を持っている人が多く、アメリカの映画評論サイト、「ロッテントマト」に選出されていない作品も積極的に鑑賞します。2019年に開催した「ジャパン・カッツ」では、10日間で30作品を上映しましたが、観客の平均座席専有率は約70%と驚きの結果でした。観客は、自宅やシネコンではできない体験を求めて「ジャパン・カッツ」に来ていることを確信しました。滅多に見られない映画を鑑賞するために、同じ理由で集まってきた見知らぬ人たちと、空間を共有する。そのことには深い意味があると思います。このような観客がいる限り、映画を選定するという仕事は存在し続けるでしょう。しかし、それが当たり前だと考えるべきではありません。多くのミニシアターがパンデミックの影響で生き残れませんでした。何十年も地域社会に貢献してきた象徴的なスペースさえもです。先週も、サンフランシスコ近代美術館が、映画プログラムの閉鎖を決定したというニュースを耳にしました。私たちは、自分たちが大切にしているものに投資しなければなりません。そして、映画プログラマーは、価値ある上映、プログラム、イベントを生み出すための努力が必要です。

K・ F・ ワタナベ
2014年からニューヨークの日米交流団体、ジャパン・ソサエティーの映画部門のスタッフとして勤務。2018年、同部門の副部長に就任。日々のオペレーションを管理し、現代日本映画の北米最大の映画祭、「ジャパン・カッツ」を含む同団体の年間の映画プログラムを統括。2009年にモントクレア州立大学で英語の学士号取得。2011年にニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・アーツで映画研究の修士号取得。前職は、フィルム・アット・リンカーン・センターのハウスマネージャー。アメリカの著名な映画専門誌『フィルムコメント』、『ザ・ブルックリンレール』、『ザ・カレント』(クライテリオン・コレクション)、『ノートブック 』(MUBI)などに多数寄稿。

Photography Mike Nogami

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NAO

スタイリスト、ライター、コーディネーター。スタイリスト・アシスタントを経て、独立。雑誌、広告、ミュージックビデオなどのスタイリング、コスチュームデザインを手掛ける。2006年にニューヨークに拠点を移し、翌年より米カルチャー誌FutureClawのコントリビューティング・エディター。2015年より企業のコーディネーター、リサーチャーとして東京とニューヨークを行き来しながら活動中。東京のクリエイティブ・エージェンシーS14所属。ライフワークは、縄文、江戸時代の研究。

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