2021年のSpotifyのデータから読み解く「日本の音楽シーン」と「海外で聴かれる日本の音楽」

世界で4億600万人以上のユーザーが利用するオーディオ ストリーミングサービス Spotify。そのSpotify Japanが2021年12月に発表したさまざまな年間ランキングをもとに、今の日本の音楽シーンの傾向を多角的に検証していく。さらに海外で日本の楽曲がヒットする可能性はあるのか。 Spotify Japanの音楽部門担当・芦澤紀子に話を聞いた。

日本国内ではBTSとYOASOBI の強さが目立つ

——まずは全体のお話からお聞きできればと思います。Spotifyとして2021年はどのような年となりましたか?

芦澤紀子(以下、芦澤):コロナ禍の状況となって1年以上が経過し、1周分回った年というのがスタートでした。2020年はコロナ禍に入ったことでライブやフェスティバルなどのイベントも中止となり、アーティストの活動が制限されることも多く、ユーザー側もステイホームの流れになって自宅で新たなエンターテイメントを探す機会が増え、これまでライブやフェスに行かれるような層にもストリーミングや動画配信サービスを楽しむ方が増えたと思います。Spotifyではコロナ禍の初期にはチル系の音楽、ローファイ、インスト系のプレイリストや楽曲が支持されるようになりました。

——それが2021年に入ってどのように変わったのでしょう?

芦澤:2021年にはチル系やノスタルジーを感じさせるような音楽が極端に聴かれることはなくなって、日常を取り戻すように少し落ち着いていった感じです。代わりに「良い音楽がずっと繰り返し聴かれる」というような形で、ロングタームで同じ曲がずっと聴かれ続けるということがありました。「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」ランキングを見れば、日本では2021年はBTSとYOASOBIが占拠していた年だと思います。

「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」
1. ドライフラワー / 優里
2. Dynamite / BTS
3. 夜に駆ける / YOASOBI
4. 怪物 / YOASOBI
5. 群青 / YOASOBI
6. 勿忘 / Awesome City Club
7. Butter / BTS
8. うっせぇわ / Ado
9. Stand by me, Stand by you. / 平井 大
10. 炎 / LiSA

「2021年に日本国内で最も再生されたアーティスト」
1. BTS
2. YOASOBI
3. Official髭男dism
4. 平井 大
5. back number
6. TWICE
7. 嵐
8. 優里
9. 米津玄師
10. あいみょん

——「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」では10曲中5曲が、BTSとYOASOBI の2組で、その強さがハッキリと分かります。「ドライフラワー」「Dynamite」「群青」「うっせぇわ」「Stand by me, Stand by you.」は2020年に、「夜に駆ける」は2019年にリリース。YOASOBIの「怪物」は2021年1月、Awesome City Clubの「勿忘」は2021年2月、BTSの「Butter」が2021年5月にそれぞれリリースされています

芦澤:単曲で最も再生された楽曲は優里の「ドライフラワー」でした。2020年秋にリリースされたのち、「THE FIRST TAKE」で本人が歌ったのをきっかけに、TikTokでもこの楽曲を使った動画がいくつもバズを起こし、YouTubeなどで「歌ってみた」動画の題材にもなったりするなど、ユーザーからの支持を集めた楽曲でした。そこから2021年になると多くのユーザーから「良い曲」という認識で長く聴かれる楽曲へと成長したというのは、面白い傾向だと思います。

——リリース日順に考えれば2020年以前に発表された曲が6曲も「2021年に日本国内で最も再生された楽曲トップ10」を占めているという不思議な状況ですよね。例えば1990年代のオリコンヒットチャートなどではこのような状況は一切なかったわけで、海外のヒットチャートなどではこういったロングテールなヒット傾向は当たり前にある中、先ほどの話を踏まえてロングタームでヒットする楽曲が日本国内でここまで増えたのは特筆すべきだと思います。2020年から2021年にかけてユーザーが増えたのはもちろんだと思うのですが、男女比率や年齢比率は変わったんでしょうか?

芦澤:大きく変わったわけではないですが、いま現在では若干女性ユーザーのほうが多いですね。年齢層だと20代から30代前半の年齢がコアユーザーとなっていますが、その前後にあたる年齢層、ティーンエイジャーと40代以上の利用者が増えています。ストリーミングサイトへの認知が深まって市場全体が伸びていることの影響もありますね。

——日本国内のユーザー全体では、日本国内/国外のアーティストをどのくらいの比率で聴いているのでしょうかコロナ禍で変化はありましたか?

芦澤:日本国内ユーザーの6〜7割は日本国内のアーティストを主に聴いている印象です。他の諸外国でここまで圧倒的にローカルコンテンツ(自国のアーティスト)を聴いている国はほとんどなく、日本と似た傾向の国というとアメリカになるんです。とは言え、アメリカでのローカルコンテンツというとそれはグローバルヒットに繋がると言っても差し支えないわけですし、やはりここまで特殊で顕著な国はほとんどないです。

——そこまでハッキリとしているんですね。

芦澤:逆に日本人が海外の音楽を聴く中で、ハッキリとした伸びを見せているのがK-POPです。BTSやTWICEはもちろんですが、最近ですとIVEやkep1erといった新しいガールズユニットもチャート上位に入ってきますし、加えてENHYPENやTOMORROW X TOGETHERといった男性ユニットも日本のチャートに入っていますね。それも韓国語版や日本語版といった言語の違いもあまり関係なくチャートインしている状況です。

——以前ですと「日本語ヴァージョンをリリースしないとヒットに繋がらない」というレーベルの考えがあったんでしょうけれども、現在では「新曲が出るのであればすぐにでも聴きたい!」という気持ちが先立っていて、言語の違いなど関係なく新曲を聴かれているわけですね。

芦澤:そうですね。この流れは日本だけではなく、アメリカやヨーロッパのチャートを踏まえてみても、世界全体で「K-POPがヒットしている」というように見えてくると思います。韓国という人口のそれほど多くないマーケットにあるからこそ、産業に関わる多くの方々が「世界で勝負しなくてはいけない」という気持ちを持っていたと思います。厳しいトレーニングを重ねたことで歌もダンスもグローバルスタンダードのレベルまであがった。コロナ禍においてストリーミングサイトや動画サイトが浸透していくことによって、人気が落ちることなくK-POPの魅力を知る人が増えたとも言えますね。

「音楽において言語の壁が問題にならなくなってきている」

——なるほど。ここで「世界で最も再生されたアーティスト」に目を移すと、BTSやテイラー・スウィフトを抑えてバッド・バニーが1位になっています。実は2020年から2年連続でバッド・バニーが1位を獲得していて、日本のリスナーやユーザーにはにわかに信じがたいだろうなと思います。

2021年 Spotifyグローバルランキング
「世界で最も再生されたアーティスト」
1. バッド・バニー 
2. テイラー・スウィフト
3. BTS
4. ドレイク
5. ジャスティン・ビーバー

「世界で最も再生された楽曲」
1. drivers license / Olivia Rodrigo
2. MONTERO (Call Me By Your Name) / リル・ナズ・X
3. STAY (with Justin Bieber) / The Kid LAROI, ジャスティン・ビーバー
4. good 4 u / Olivia Rodrigo
5. Levitating (feat. DaBaby) / デュア・リパ, DaBaby

「世界で最も再生されたアルバム」
1. SOUR / Olivia Rodrigo
2. Future Nostalgia / デュア・リパ
3. Justice / ジャスティン・ビーバー
4. = / エド・シーラン
5. Planet Her / ドージャ・キャット

芦澤:確かにそうかもしれないですが、その意外な感覚こそ、日本と世界との距離感と言ってもいいでしょうね。

——彼のほかにも、上の世代ではLuis Fonsi、J.Balvin、Daddy Yankee、新しい世代だとRauw Alejandro、Farruko、Ozunaといったアーティストがレゲトンシーンから出てきました。コロナ禍以前から彼らはグローバルヒットの中でフューチャリングされることが多かったわけですが、「リラックスできて、長い時間流していられるような」音楽というコロナ禍中にあった需要に加えて、「ほどよく楽しくて踊れる」という本来の魅力も失うことなく楽曲をリリースしていた印象があります。

芦澤:K-POPの話にもつながりますが、言語の壁が問題にならなくなったというのはあると思います。K-POPは韓国語で、彼らはラテン語やスペイン語圏で活動していて、ひと昔前までなら「英語で歌わないと世界に打って出られない」という風に思われていたと思うんですが、コロナ禍を通してインターネットやストリーミングサイトがより浸透し、そのハードルが下がった。リスナーはより感覚的に、カジュアルに音楽を楽しんでいる、言葉が100%わからなくても音楽を楽しむことができるという認識が強くなってきているんだと思います。

また、ジャンルのハイブリッド化も現在進んでいると思います。昔のCDショップならばジャンル別に分けられていたり、専門書もきっちりと分けられていた状況で、「邦楽」と「洋楽」を分けて聴いているカルチャーでしたよね。いまではプレイリストの中で世代・国境・ジャンルを飛び越えて聴くことができますし、アルゴリズムでおすすめされたりする。リスナーも、そういったハードルを意識せず、感覚的に楽しんで聴ける環境に徐々に慣れてきた中で、アーティスト側もそれに反応し、ジャンルのハイブリッド化の拍車をかけたのかなと思います。

——プレイリストの話に移るのですが、「国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」というランキングでは「Tokyo Super Hits!」「Hot Hits Japan」「Today’sTop Hits」「Spotify Japan 急上昇チャート」と、上位5つのうち4つが直近でヒットしている楽曲で固めたプレイリストになっています。これが「世界で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」になると、「Sleep」「Peaceful Piano」「lofi beats」「Deep Sleep」と、トップヒッツ系なプレイリストではなく、シチュエーションに合わせた4つのプレイリストが上位に来ています。コロナ禍になる以前と変わらぬ傾向とも言えますが、どのように捉えていますか?

「国内で最も再生されたSpotify公式プレイリスト」
1. Tokyo Super Hits!
2. This Is BTS
3. Hot Hits Japan
4. Today’s Top Hits
5. Spotify Japan 急上昇チャート

芦澤:もともとチル系やスリープ系が強かったのはその通りで、文化風習の違いとしか言えないかなと。日本では1980年代や1990年代のテレビ番組などで「ザ・ベストテン」「ベストヒットUSA」などが人気でしたし、国内外の音楽に関わらず「今、何がヒットしているのか?」を知りたいという欲求がすごく強い。日本人はランキングやヒットチャートを見て音楽を聴いていると言えますね。

海外ではアニソン強し

——話を変えて、「2021年に海外で最も再生された日本のアーティスト」「2021年に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」では、アニソンヒットの影響が目に見えてわかる状態になっています。KANA-BOONの「シルエット」といきものがかりの「ブルーバード」はアニメ『NARUTO』の主題歌になっていますが、「シルエット」は2014年、「ブルーバード」は2008年と、10年以上前の楽曲にも関わらずランクインしています。

「2021年 海外で最も再生された日本のアーティスト」
1.YOASOBI
2.Lisa
3.Eve
4.澤野弘之
5.Linked Horizon
6.久石 譲
7.RADWIMPS
8.ONE OK ROCK
9.たかやん
10.米津玄師

「2021年 海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」
1.廻廻奇譚 / Eve
2.紅蓮華 / LiSA
3.夜に駆ける / YOASOBI
4.unravel / TK from 凛として時雨
5.心臓を捧げよ! / Linked Horizon
6.Tokyo Drift (Fast & Furious) – From “The Fast And The Furious: Tokyo Drift” Soundtrack   / Teriyaki Boyz
7.Black Catcher / ビッケブランカ
8.シルエット / KANA-BOON
9.ブルーバード / いきものがかり
10. 怪物 / YOASOBI

芦澤:2016年秋にSpotifyが日本にローンチして5年ほど経ちましたが、この傾向はずっと続いてきましたね。むしろ顕著になってきているとすら思えます。ここ5年の間で最新のアニメも古いアニメもストリーミング配信を通して見られるようになったというのが大きいと思います。

——「過去5年間に海外でもっとも再生された日本のアーティストの楽曲」でもこの2曲はランクインしていて、LiSA「紅蓮華」とTK from 凛として時雨「unravel」も数えれば、過去5年間で最も再生された日本人の楽曲はアニメソングで独占されている。正直申し上げれば、あまりにも強すぎるし一方的すぎないか? とも思えます。

「過去 5年間(2016〜2021年)に海外で最も再生された日本のアーティストの楽曲」
1.unravel/TK from 凛として時雨
2.Tokyo Drift (Fast & Furious) – From “The Fast And The Furious: Tokyo Drift” Soundtrack/Teriyaki Boyz
3.紅蓮華/LiSA
4.シルエット/KANA-BOON
5.ブルーバード/いきものがかり
6.廻廻奇譚/Eve
7.ピースサイン/米津玄師
8.夜に駆ける/YOASOBI
9.狂乱 Hey Kids!!/THE ORAL CIGARETTES
10.crossing field/LiSA

芦澤:「日本のカルチャーはアニメにまつわるもの」という認識がかなり根強いんだと思います。「2021年に海外で最も再生された日本のアーティスト」にYOASOBIが入っていますが、こちらも「夜に駆ける」のMVでアニメーションだったりしていて、海外では「アニメを主体とするポップカルチャーの象徴」のように受け取られているんじゃないのかなと思います。

——確かにそのような面はありますね。動画のコメント欄でも海外コメントが多いですし。

芦澤:インドネシアのYouTuberであるRainych(レイニッチ)はインフルエンサー的な役割を担っているんですけど、彼女は主に日本のシティポップやアニソンを歌っているんです。日本人からすれば「どうしてそれとそれが一緒になるんだ?」と思われそうですが、最近Night Tempoが「日本ではアニメは一部の熱心なファンのものだと思われているかもしれないけれども、僕らはアニメをオシャレなものとして見ています」と話されていたのが印象的ですね。オシャレなものだからこそ、年代や音楽性はあまり問わずにヒットしていくのだろうと思います。

日本と海外での受け止め方の違い

——これらのランキングを見て気づくのが、海外ではアニソンを専業で歌われている人や、声優さんの楽曲がランキングに入っていないということです。日本で「アニソン」という時は、声優さんやキャラクターソングへの人気がよりグっと強い存在感を放っているところですが。

芦澤:その目線の違いが、やはり日本のファンと海外のファンの違いになるんでしょうね。社内でよく「カリフォルニアロール」を例に挙げることがあるんです。日本人から見ると「カリフォルニアロール」はとても邪道なものに見えるけども、現地では高い評価を受けている。逆に日本人が「寿司というのはこれ!」というものを出すと、あまり理解がされないという。受け止め方の違いは顕著にあるのかなと。

——同じようなお話は、現状のシティポップ人気にも繋がるようなお話じゃないのかなと思います。フューチャーファンクやヴェイパー・ウェイヴが流行った中で、サンプリング元にアニメソングや1980年代のシティポップが使われることが多く、ここにTikTokなどでのバズも加わって徐々に日の目を見るようになったと思います。それとは別にして、日本では2015年前後から現在にかけてネオ・シティポップとも言われたアーティストが続々と登場しましたよね。数多くのバンドやアーティストがフックアップされて大きく人気を得たり、現在に至るまで日本国内でしっかりとしたファンダムを築きましたが1980年代のシティポップのように海外で徐々に受け入れられている、または海外リスナーが発見しているとは言いづらい状況ですよね。

芦澤:やはり日本と海外では受け止め方が違うのだと思います。海外ではよりビートやグルーヴが強く出た楽曲が好まれる傾向があって、例えばキリンジの「エイリアンズ」などがシティポップとして挙げられても、海外ではシティポップとしては認識されにくいんです。ディスコらしいアレンジやR&Bに寄せた楽曲が海外では支持されやすいかなと思います。Night Tempoが制作したシティポップのプレイリスト「Japanese City Pop 100, selected by Night Tempo」があるのですが、そちらを聴いてみるとよりわかりやすいかなと思います。

——ここまでのお話をお聞きしていると、日本人アーティストが海外進出する難しさをとても感じます。「日本人が海外でヒットする」という点について、ここまでの活動を通じてどのように捉えていますか?

芦澤:「狙ってやったものが必ずヒットする」とは限らないんですよね。松原みきの「真夜中のドア」や竹内まりやの「Plastic Love」が40年近く経過してここまでヒットするなんて想定していなかったはずです。ストリーミングサイト側の立ち位置でいうならば、「何が起きているのか?」というのをモニターしつつ、何かしらの反響が起きたならば、すぐにそこに合わせて動いていくことが重要になるのではないかなと思います。先ほどお話に挙がった「ドライフラワー」や「夜に駆ける」などは、バイラルヒットから国民的なヒットへと繋がっていきましたし。

——「うっせぇわ」もまさにそうですし、最近ですとChinozoの「グッバイ宣言」でしょうか。

芦澤:そうですね。SpotifyのバイラルチャートはUser Generated(ユーザー主導)の側面が強く、確かにランキングは移り変わりが激しいわけですが、川崎鷹也やTani Yuukiのようにロングヒットにつながった方もいますしね。TikTokの中では話題は作れても、ロングヒットになりにくいというのは、アーティスト側からも話を伺っています。最近で言うと東南アジア、インドネシアやフィリピンでバズが顕著に起きやすい状況です。インターネットを使っている人口も多く、マーケットが若いということもあり、ソーシャルからの影響がダイレクトにストリーミングに反映しやすいんです。

——アニメ人気もシティポップ人気も東南アジアが支えている部分は大いにありますよね。

芦澤:そうですね。東南アジアで大きくバズを起こした後、アメリカや英語圏のマーケットに繋がっていくというヒットパターンが目につくようになりました。

継続的な海外アーティストとのコラボが鍵

——とても素朴なお話になるかと思いますが、例えば星野源やKing Gnuのように日本国内で圧倒的にファンがいるアーティストが少しずつ海外にアクションをかけているような形になっていて、このまま海外ファンを増やすという道筋はあるのでしょうか?

芦澤:海外アーティストとのコラボレーションなどを通じて、プレイリストやアルゴリズムでおすすめされる面を広げていくというのは1つの手段かと思いますね。

——もしくは、日本のランキングやプレイリストなどにBTSが入り続けるのと同じように、海外アーティストがメインになっているプレイリストやチャートの中にずっとリストインして、海外リスナーの目に止まりやすい状況になることも1つありますよね。

芦澤:少し前にプレイリスト「Hyperpop」に4s4kiやTohjiの楽曲が入っていたことがありますし、可能性としては十二分にあり得るのではないかなと思えます。どのようにして公式プレイリストに入るのかというと、テーマに合った楽曲群の中から、Spotify上でどのように聴かれているか? というデータの分析と、エディターによる判断を加味して選曲しています。

——なるほど。日本のJ-POPにまで話を伸ばしたいのですが、J-POPというとイントロがまずあって、Aメロ・Bメロ・サビと繋がり、間奏が入って再びAメロBメロサビが入り、最後に大サビを入れてみるというような曲構造の楽曲が多く、海外のヒット曲とはかなり違った形になっていて、もはや1つの音楽形態・ジャンルのように思えます。J-POPという形で海外にそのまま打って出ても、もしかすると海外でヒットが残せるのでは? などと思うのですが、雑感としてどう思いますか?

芦澤:今後海外でヒットするのかはやはりわからないですね。ただ、日本国内の新世代アーティストの中には、そういった典型的なフォーミュラをかなり崩した音楽を作られる方も多く、J-POPならではの曲作りをしている人が減っているように感じることもあります。とは言え、時代と共に変化していくのもJ-POPだと思いますし、また新しい世代によって変わっていくのかもしれないですね。

——ありがとうございます。2022年が始まって3ヵ月というところですが、Spotify Japanの今後のプランについて教えてください

芦澤:まず期待の新進アーティストをサポートする「RADAR:Early Noise」についてはこの5年間やり続けてきて、過去にはあいみょん、Official髭男dism、King Gnu、Vaundy、藤井風らをピックアップしてきて、実績のあるシリーズになったと思っています。今年も年初に10組のアーティストを選ばせてもらっていて、年間通して彼らを次の段階へと進めていくお手伝いができればと思っています。今年は、アーティストの魅力を伝えるパフォーマンスや過去のドキュメンタリーといった映像も発信していきたいと考えています。The Kid LAROIなどが海外の「RADAR」アーティストとしてフックアップされていた時に、同じような取り組みを行い、大きなアーティストへと成長しています。加えて海外で展開している「RADAR」プログラムと連携して、海外アーティストとのコラボレーションできるチャンスを狙っているところです。

——昨年からは音声とトークを楽しめる「Music+Talk(ミュージックアンドトーク)」を利用できるようになりましたよね。

芦澤:配信アプリのAnchorを利用して、スマホ1つあれば簡単にトークを録音・編集ができ、これをSpotify上で公開されている音楽と合わせることで1つの音楽番組のようなコンテンツが作れます。アーティストやレーベルが公開したり、Spotifyがオフィシャルとして制作したものなど、多くのコンテンツが生まれています。また、アーティスト本人が最新アルバムの収録曲について深く語り、そのまま楽曲も聴いて楽しめるという「Liner Voice+」にも注力しています。aiko、RADWIMPS、クリープハイプ、年初にはマカロニえんぴつに宇多田ヒカルと、注目作品がリリースされるタイミングでは「Liner Voice+」を通して、音楽の魅力を多くの人に届けていければと思ってます。

芦澤紀子
Spotify Japan 音楽企画推進統括。ソニーミュージックで洋楽・邦楽の制作やマーケティング、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)で「PlayStation Music」の立ち上げに関わった後、2018年にSpotify Japan入社。

Photography Mayumi Hosokura

author:

草野虹

ライター。福島、いわき、ロックの育ち。「Real Sound」「KAI-YOU.net」「SPICE」「indiegrab」などで音楽〜アニメ系のライター/インタビュアーとして参加。音楽プレイリストメディアPlutoのプレイリストセレクターとしても活動中。 Twitter @kkkkssssnnnn Illustration by ヤマグチジロウ

この記事を共有