連載「ジャパンブランドのトリビア」Vol.7 「イト スイム」が伝えたいメイド・イン・ジャパンの細やかさと私達の原点

デザインや機能性、トレンドやスタンダードという軸があるように、“メイド・イン・ジャパンであること”も、もの選びの基準の1つになっている。連載「ジャパンブランドのトリビア」では、最先端であり、ソーシャルフルネスというステートメントに沿った、“メイド・イン・ジャパン”のものを、さまざまなクリエイターが紹介。今回は、マリンスポーツを快適に楽しめる機能性と、洋服のように着られるデザイン性が魅力のメイド・イン・ジャパンのスイムウェア「イト スイム」のクリエイター、風間アリスと万歳まさよがセレクター。水着というアイテムを通して彼女達が伝えたいこと。それはメイド・イン・ジャパンのものづくりの素晴らしさはもちろんのこと、私達が生きていくために守らなければならないことにも通じている。

−−オールメイド・イン・ジャパンでスイムウェアを作っている「イト スイム」ですが、ものづくりを通して改めてメイド・イン・ジャパンの価値や魅力をどのように感じていますか?

風間アリス(以下、風間):コロナ禍もあって自分の衣食住や日本のもの、場所に着目し、改めてその良さを再発見する機会が増えました。ものづくりにおいてはもちろんのこと、文化や風習においても伝統的に伝わってきたモノがいかに環境に優しいか。原点に立ち返るような感覚というか、シンプルさと美しさの共存、自然に寄り添う方法や素材が浮き彫りになり、それこそが日本の魅力だと気 付かされました。クラフトマンシップにおいても、実体験として工場とのやりとり1つに感じる細やかさに感動することもしばしば。そのおかげで繊細で妥協のないものづくりがかない、100%満足のいく製品が生み出せると思っています。

万歳まさよ(以下、万歳):日本の良いものを応援したい気持ちも、より強くなりました。小さなことかもしれませんが、選択肢がある場合は日本のモノを選ぶようにするとか。モノづくりでは、すごく繊細で丁寧なモノ作りを得意とする工場がたくさんあるけれど、さまざまな事情で継続できない現状もある。日本の良さを絶やさないようにするには、どうしたらいいかも今まで以上に考えるようになりました。

−−ものづくりにおいて海外と日本の違い、またそのおもしろさはどんなところにあると思いますか?

風間:日本のものづくりにおいては、そこまで計算して作っているんだとか、やはり緻密さや細やかさを感じます。世界各国その土地の素晴らしいクラフトはあり、比べてしまうと少しざっくりとした印象を受けます。一方でそれが良さでもあると思うんですけどね。

万歳:センスにおいても感じます。水着を作っているので、海外のブランドもたくさん見てきましたが、日本のブランドは、ちゃんとおしゃれで機能面でも作り手の気配りが感じられる。もちろん海外のブランドも高品質ですし、使い勝手をきちんと計算して作られているけど、どこか見た目を重要視している印象があります。見た目のおしゃれさと機能面。どちらも同じクオリティーを保っていて、イコールであるところに日本人の完璧さを感じます。

海と街をつなぐメイド・イン・ジャパンのスイムウェア

マリンスポーツといったアウトドアのシーンで思いっきりアクティブに動いてもずれなくて、おしゃれな水着が欲しいという思いから始まった「イト スイム」。ただ水着を作るというよりも水着という媒体を通して自然環境のことや、日本のものづくりの価値などを伝えることで、生活や思考の原点に立ち返ってみようという思いも込めています。今季から日本ならではの技術や伝統を取り入れたシリーズをスタートし、藍染めプリントのアイテムを作りました。藍染めは、日本最古と言われる染色法。国内有数の産地である徳島県の海陽町にあるin Between Bluesの永原レキさんを訪ね、自分達の手で染めて水着の柄を作りました。染色した後は、工房の目の前にある海で藍を洗い流します。化学染料だと汚染になってしまうのでできませんが、藍は天然染料だからこそできる。永原レキさんは藍師であるだけでなく、サーファー仲間でもあり、地域の自然や魅力を伝える活動にも取り組んでいます。藍のことだけでなく、土地の歴史や文化など知識豊富な彼の話を聞いているうちにすっかり暗くなってしまい、陽が沈んだ月明かりの下で海に入り洗い流しの作業をしました。それもまた幻想的でいい思い出です。

生活をより豊かにしてくれる器

現在、私達の生活の拠点が海に近い田舎町ということもあって、食事は基本的に家で作って食べています。自然豊かな恵まれた環境なので周りには農家さんも多く、購入する食材のほとんどが地元産のもの。地産のものであることや無農薬野菜など、食材選びにもこだわるようになりました。食にこだわり始めると、器にも自然と目が向くように。写真右の2つは、ちょうど1年前陶芸体験をしようと、長柄町の六地蔵という地域にある備前焼作家さんのところへ行った際に購入したもの。ここでは素材である土づくりから、薪集め、轆轤、窯焼きまでを一貫して行っていて、ここまで一貫している陶芸家は日本でも1%程度だとか。釉薬を使っていないからこそ出せる自然の土の色、登り窯の入れる場所によって変わる風合いや柄も気に入っています。左側は藍染めのために訪れた徳島で、ふらっと立ち寄った工房で購入したもの。意図せず好みの陶器と出会ってしまい、2人で大量に購入しました。拠点や、選ぶ食や暮らし方が変わりましたが、生活はどんどん豊かになっている実感があります。自分の生活の中に起きる小さな変化をこれからも楽しんでいきたいですね。

自然の循環を目の当たりにした滝

徳島で永原レキさんに連れて行ってもらった轟の滝。ここは轟神社の御神体として祭られている場所で、滝壺への立ち入りは禁止されています。八百万の神への信仰が昔から言い伝えられている通り、こういう場所にいくと自然と手を合わせ、祈りを捧げてしまう。そういう日本人ならではの不思議な感覚になったのを鮮明に覚えています。ここまでの道中、彼が話してくれたのは“海は山の恋人”の話。海の水が蒸発して水蒸気となり雲を作る。そしてその雲が雨を降らし、山に降り注ぎ滝となり、森を通って川になり、海に流れる。そうやって自然は循環しているから、山を守れないことには海も守れない。もちろんその逆も然り。1つが狂えば、全部がダメになる。だから人間は非循環なことをしてはいけない。自然界における話ですが、話を聞いていてすべてに通じる話だなと思いましたし、都会で生活しているとすっかり忘れてしまっている自然の循環や人と自然の暮らしのこと。あたりまえのことだけど、絶対忘れてはいけない。そして未来のために1人ひとりが考えていかなければいけないことを「イト スイム」を通して伝えていけたらと思っています。

「イト スイム」
“The City and The Sea”がコンセプトのメイド・イン・ジャパンのスイムウエアブランド。サーファーでもあるデザイナー達の理想を形にしたアイテムは、日本人の体型を考慮したラインの他に、マリンスポーツを快適に楽しめる機能性と街中でも違和感なく着られるデザインが特徴。

author:

奥原 麻衣

編集者・ライター。「M girl」、「QUOTATION」などを手掛けるMATOI PUBLISHINGを経て独立。現在は編集を基点に、取材執筆、ファッションブランドや企業のコンテンツ企画制作、コピーライティング、CM制作を行う他、コミュニケーションプランニングや場所づくりなども編集・メディアの1つと捉え幅広く活動中。 Instagram:@maiokuhara39

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